10話 お酒はハタチになってから(※異世界でも)
「ふぅ…失礼しました。次はどこに行くんですか」
「え、えぇ。そうですね、次は酒場に向かおうかと」
「酒場ですか。いいですね」
「コースケさんはお酒、お好きなんです?」
「それはもう」
前世での楽しみといえば、仕事終わりの晩酌ぐらいのものだった。
おかげで肝臓の数値は…待てよ?転生したということは、肝臓も健康に生まれ変わったのでは?
ラッキー、こいつは思わぬ副産物だ。
「そういえば、コースケさんっておいくつなんですか?」
「さ…25です」
いかんいかん、つい口が滑りそうになった。
さすがにこのナリで「38歳です」はちょっと違うだろう。
エリザの話では、今の俺の肉体年齢は20歳になっているらしい。
とはいえ、中身はアラフォーのおっさんだ。ちょっと逆サバしておくぐらいが違和感も少ないだろう。
「じゃあ私の4つ上ですね」
ということは、フィゼさんは21歳か。お若い。
…ん?でも肉体年齢でいえば、今の俺より1歳年上になるってことか。ややこしい話だな。
「フィゼさんはお酒、飲むんですか?」
「ま、まぁたまに?ですかね…あ!着きました。ここです」
「? はぁ」
なんかちょっと歯切れが悪いな。もしかして酒豪?それとも酒癖が悪いとか?
機会があれば是非一度、ご一緒してみたいものだ。
件の酒場はというと、先ほどの道具屋からそれほど離れていない場所に建っていた。
酒場と聞いて騒がしい場所なのかと思ったが、中から喧噪などは聞こえてこない。
まぁ外もまだ明るいし、そもそも準備中かもしれないな。
もっとも、俺達は飲みに来た客ではない。フィゼさんも躊躇いなくその扉に手をかける。
ギィィ…
鈍い音がする扉を開けると、店内はいかにも大衆居酒屋といった感じの佇まいだ。
簡素な木製の丸テーブルと椅子が、若干乱雑に配置されている。
奥にはカウンター席があり、男性客が2人、酒を楽しんでいるところだ。
店はもう開いてたのか。おっ、店の隅に柱時計置いてあるな。
ちらりと目をやると、時計の針は11時半を少し過ぎたところを指している。
昼前か。異世界でも、この時間から酒を飲んでいる人間は少ないんだな。まぁ2人いるけど。
「らっしゃーい!」
カウンターの中から、厳つい風貌のおっちゃんが声をかけてくる。
体付きもだいぶマッチョだ。
「おっ、フィゼちゃんじゃねーか!」
「こんにちは、ロイドさん。頼まれていた物をお持ちしましたよ」
「いやー、悪いなぁ買い出し頼んじまって。まったく、人手不足で困るわな」
「いえ、うちの買い出しのついででしたので」
「ところで、そっちの兄ちゃんは…見ない顔だな」
ロイドと呼ばれたそのおっちゃんは、眉間にしわを寄せジロジロと品定めをするようにこちらを見てくる。
まぁ顔見知りの女の子が突然知らない男と酒場に来たら、そりゃ警戒もしますよね。
とはいえ、怖すぎます。フィゼさんが隣に居なかったら、とっくに逃げてます。
「は、はじめまして、コースケといいます。この町には働き口を探しに来ました」
「なんだぁ?珍しいな、こんな田舎に」
サーシャさんと同じ反応だな。よっぽど俺みたいな若い移住者は珍しいのだろう。
「はは、ちょっと訳ありで…」
「あぁ?訳ありだぁ?」
ロイドさんの眉間のしわは更に深くなっていく。
それを見てカウンターにいた2人の客も、その場に代金を置いてそそくさと店を出て行ってしまった。
駄目です。俺はもうここで死ぬみたいです。
「ちょっと、ロイドさん!あんまりコースケさんを怖がらせないでください!」
「べ、別に怖がらせてるわけじゃねーんだが」
「怖がらせてます!ただでさえ顔が怖いんだから!」
「グハッ!!」
会心の一撃。
「あっ。ご、ごめんなさい!」
た、助かった。見かけによらず、意外と打たれ弱いらしい。
「それじゃロイドさん、これで失礼しますね」
「おう、今日はあんがとな!」
荷物の受け渡しも終わり、ロイドさんのメンタルもだいぶ回復したみたいだ。
打たれ弱いが回復も早いな。さすがマッチョ。
…マッチョは関係ないか。
「コースケっつったか、まぁまた飲みにでもこいや。酒はいける口か?」
「はい!是非またお邪魔します」
「おっ、いいねぇ!フィゼちゃんも…いや、悪い。なんでもねぇ」
「は、はい。それではまた」
ギィィ…
「じゃ、じゃあ行きましょうか!おつかいは次の場所で最後です」
「はい」
いや、この人絶対お酒に関する秘密かなんかあるだろ…気になるわ。
ーーしかし、ロイドさんが言い淀むほどだ。
これは、触らぬ神に祟りなしかもしれないな…くわばらくわばら。




