プロローグ『一発逆転』とは
一発逆転。人生に”一発逆転”なんてものはあるのだろうか?
思うに、答えはノーだ。
世の中にある一発逆転の物語には、お決まりのパターンがある。
「努力」「才能」大抵、このどちらかが絡んでいるのだ。
「努力を重ねる」「才能を発揮する」当然、どちらも素晴らしいことだ。
ただ、積み重ねたものが花開くことが”一発逆転”と呼べるだろうか。
ーーいや、言い訳はやめよう。
結局俺は、そのどちらも持ち得なかったという自虐がしたいだけなのだ。
両親は俺が中2の時に死んだ。
祖父母も既に鬼籍に入っていた俺は、親戚中をたらい回しにされた。
高校にも通えず、昼夜問わずバイト三昧の日々が続いた。
だが、そのバイト代も、剰え両親からの遺産すらも、俺の手には残らない。
生活費だの迷惑料だのと言われ、親戚連中に根こそぎ持っていかれたからだ。
あの時の俺がもう少し賢ければ、そんなことにはならなかったのかもしれない。
ただ、それを両親を失ったばかりの未成年に期待するのは酷な話だろう。
そしてそれから4年後…18歳の誕生日に、俺は家から追い出された。
最後の情けとして、ワンルームのボロマンションへの入居費と2か月分の家賃は渡された。
もっとも、奪われた物に比べればほんの端金だろう。
こんなものが誕生日プレゼントだとしたら、それはあまりに残酷だ。
それから20年の月日が流れた。
つまり現在38歳のオッサンこそがこの俺、月島 幸助だ。
”ツキ”だの”幸”だの、完全に名前負けしている人生だったな。
これまでの職歴は、もはや書き出すのも面倒なほど多岐に渡る。
俺が誇れることといえば、その職歴の多さだけだ。
しかしどれだけ休みなく働いても、同年代の平均年収には遠く及ばない。
夢も希望もあったもんじゃないよな。
おっと、今日はとことん愚痴ってやろうと思ったが、どうやらそれも時間切れらしい。
こんなつまらない人生とも、今日を持っておさらばだ。
なにを隠そう、俺はついさっき車に轢かれて絶賛虫の息なのだ。
仕事が終わって自転車で帰宅途中、めちゃくちゃな運転をしていた車からの強烈な一撃を喰らった。
体が宙を舞い、容赦なくアスファルトの上に叩きつけられた。
酔ってたのかなんだか知らんが、酷い話だ。運命って奴は最後まで俺の敵なんだな。
ちなみにさっきの中学時代からの回想だが、あれは実は俺が見た”走馬灯”ってやつだ。
どうせ見るなら、もっと楽しい思い出のところがよかったな。
いや、楽しい思い出なんてもうほとんど掠れてしまったか。
青春なんて、最初から存在していなかった。
ないものは見せられないってか。クソ…本当になんだったんだろうなぁ、俺の人生って。
”一発逆転”か……はは、ありえない与太話だよな……
ーー俺は静かに、目を閉じた。




