プロローグ『一発逆転』とは
一発逆転。人生に一発逆転はあるのだろうか?
俺の考えでは、きっと、ない。
あって欲しいと考えるのが人情ってもんだが、人生ってのはいつだって非情だ。
世の中にある一発逆転のストーリーってのは大抵、なにかしらの地盤があるもんだ。
生まれ持っての才能だとか、親や先祖から遺された物だとか、積み重ねてきた努力だったりだ。
才能とか財産とか、そういうものを持っている時点でそれはもう正しい意味での『逆転』ではないだろう。
……じゃあ自分でしてきた努力が実を結んでの成功なら、それは一発逆転に入るんじゃないかって?
果たしてそうだろうか?こつこつ積み重ねてきたことが実を結ぶことが、果たして『一発』逆転と言えるのだろうか?
別に努力を否定してるわけじゃない。むしろ努力している人間は素直に尊敬している。当然だ。
しかし、努力をするのにも地盤がいる。
時間。環境。物によっては、お金を持っていないと努力の土俵にすら立てない事だってあるだろう。
ストーリーの積み重ねでこそ、成功は起こりうる。
さっきも言ったが、別に悪いことではない。ただ、一発逆転という観点で見た場合での話をしているだけだ。
そして「俺は何も持っていない」という自虐がしたいだけの、情けない話である。
両親は俺が中学生の時に死んだ。
祖父母も既に鬼籍に入っていた俺は、親戚中をたらい回しにされた。
高校にも通えず、バイト三昧の日々が続いた。
そのバイト代も、あまつさえ両親からの遺産も、親戚連中に生活費だの迷惑料だのと言われてほとんど持っていかれた。
あの時の俺がもう少し賢ければそんなことにはならなかったのかもしれない。
ただ、両親を失ったばかりの未成年に期待するには酷な話だろう。
そして18歳の誕生日、俺は家から追い出された。
最後の情けで、ワンルームのボロマンションへの入居費と2か月分の家賃は払ってもらえた。
……払ってもらえた?いや、こんなもん俺から奪っていった金のほんの極々一部にしか過ぎない金額だろ。
とにかくこれで天涯孤独の中卒男のいっちょ上がりだ。
と、ここまでが俺の中学時代から18歳までの成長の記録である。
あんまり長くなってしまっても申し訳ないのでバッサリ行くが、ここから時は流れて20年……
つまり38歳の俺こそが、現在の俺…名乗って無かったな、月島 幸助だ。
うーん。改めてツキだの幸だの、完全に名前負けしている人生だったな。
やってきたバイトはコンビニ・スーパー・ガソスタ・ファミレス・カラオケ店えとせとらえとせとら
現在はその中でも長く勤めていたコンビニが2号店を出すことになって、そこで雇われ店長をしている。
何も持ってないことないじゃないかって?
身寄りのない38歳のおっさん(中卒)。彼女いない歴=年齢の独身。正社員とはいえ年収は同世代の平均の半分以下。
そのくせ人手不足&無責任なバイト連中が欠勤しまくるせいで、休みは週1回あるかないか…先月は2日しか休んでないな。
これで愚痴の一つも許されないというのなら、一体どれだけ過酷な人生を歩めば愚痴をこぼすことが許されるのだろうか。
……八つ当たりしてしまって申し訳ないが、まぁただ自虐がしたかったんだ。本当に。
青春というものもなく、なにかを学ぶ時間も金も、とにかく余裕がなかった。
ただ生きるためにバイトし続けて、それがそのまま仕事になった。やりたかったことをやってるわけでもない。
そもそも、なにがやりたいかということを想像する前に、こうなっちまった。この道を進むしかなかった。
……今日はとことん愚痴ろうと思ったが、それもここでお終いらしい。そんなこんなな人生も今日を持ってお終いだ。
俺はついさっき、車に轢かれた。
仕事が終わって自転車での帰宅途中、酔ってんのかなんだか知らんがめちゃくちゃな運転をしていた車に轢かれた。
さっきの中学時代からの思い出話、あれ実は走馬灯ね。見えるんだね、本当に。
どうせ見るならもっと楽しい思い出のとこ見せてくれればいいのに…って、物心ついてからあんまり楽しい思い出なかったわ。
ない物は見せられないってか。あーもう…ほんとに…なんだったんだろうなぁ俺の人生って……
『一発逆転』…できたらなぁ……
………
俺は静かに目を閉じた