テーマパークは楽しみ方が一致する友人とだけ行くようにしたほうが良い。
人の性格はテーマパークの楽しみ方に表れる。例えば、遊園地であればどのアトラクションから回るか。
最初からボルテージを上げて大人気の絶叫系に行きたがるのか、テンションの準備運動を兼ねて動きの緩いものから攻めるか。
序盤の内にギフトショップから見て回ろうとする者もいるかも知れない。
小腹を満たすところから始める者もいるかも知れない。
また、それら一日の計画を前日にスケジュール帳にまとめて率先して同行者を先導するのか。はたまた行き当たりばったりのその瞬間に思い付いた行動を楽しむのか、それもそれぞれ違うだろう。
テーマパークの楽しみ方とはその人が持つ、生来の性格を炙り出す。何か特別な魔法でも掛けられているのかも。
勿論、過ごし方に正解なんてない。ただ一つ言える事は、テーマパークは楽しみ方が一致する友人とだけ行くようにしたほうが良い。
「古谷、あのてっぺんから落ちる時の落差凄かったよな!心臓が浮き上がるようだったぜ」
「はい!その後の血の気が引くような感覚もたまりませんでした」
「分かるわー。あ、生きてる…みたいな感覚な!」
「はい」
何でこいつらは嬉しそうに死にかけた事話してるの?
苦しみを踏み越えた先にしか喜びを感じられない気の毒な連中なのか。
五里が興奮した熱量のまま、俺にきらきらとした目を向けてくる。
「清継さん、ここは子供向けのアトラクションが多いと勝手に思ってたんだが、中々過激な物もあるんだなあ」
「そうだな、お前らのように生と死の狭間でしか快楽を得られない過激派にはぴったりの施設だ…、ここで二人仲良く暮らすと良い」
「き、清継さあん、二人で暮らせなんて気が早すぎますよお」
そんな意味合いで言ってない。
ドーパミンの出し過ぎで思考回路まで花畑になって詰まっているようだ。
俺達は臨海パークに着いてから、まずは多数のアトラクションがある遊園地コーナーを訪れた。ある程度の計画を恋花と事前に立ててはいたが、五里とちえり、この二人の趣味嗜好までは加味していない。
少し周りを見て回ったくらいで、予想外にもこの施設の人気アトラクションである『フライング・サイクロン』なる絶叫系ジェットコースターの待ち時間が短かった為、乗ってみる事に。
それが地獄の始まりだった。
どこかの株価チャートのように急上昇と急降下を繰り返すこのアトラクション。元々、こういった物が得意でない俺と恋花は一回乗っただけで、虫の息だった。
が、五里とちえりはおかしな琴線に触れてしまったらしく、大変お気に召したようでこれがなんと3度目の周回となる。
元々この二人を仲良くさせる為の一日なので、俺と恋花は身体に鞭を打ってどうにか付き合ってみたがさすがに限界だ。
「恋花…、生きてるか」
「おえ」
駄目だ、死んでいる。
「さ、さすがにそろそろ他のも見て回らないか?フライング・サイクロンもそう言っているぞ」
「確かに並びの列がだいぶ増えて来ましたね、では次はどの絶叫系が良いでしょう?」
ん?
「清継さん、俺はこの水流に乗って急降下するのが気になるんだが」
「あ、五里先輩、私も次はそれが良いと思ってました。汐森先輩はどうですか」
俺は今日この二人に殺されるのかも知れない。
恐らく、こいつらの一般常識と好奇心は既にフライングしてサイクロンした結果空中でねじ切れてしまったのだろう。
次の絶叫系も一度の体験では済まないに決まっている。
であれば、ここは一つ、良いきっかけだ。
「確かにそれも良いんだが、ここから先は別行動にしないか?恋花を見てくれ、もう干した大根と区別がつかない」
「「あ…」」
言われてようやく我に返ったのか、二人はとても気まずそうだった。
だが、せっかく楽しめているのだ。そんな事は気にしないで欲しい。
「すみません恋花先輩、私ちょっとはしゃいでしまって」
「…、ぴぃ」
恋花が応答出来なさそうなので、代わりに応える。
「大丈夫だ、ちえり。この後また酔い止めでも飲ませてどこかで休ませるさ。お前は五里と二人で楽しんでこい」
「え、でも」
「というか俺もちょうど休みたかったところだったからな、五里とちえりのペースには付いて行けそうにないや」
「汐森先輩は、来ないんですか?」
「まあな。つっても元々は例の相談の件もあったし、丁度良いだろ。ちえりが五里と一緒に自然と楽しんでいれば、ついでにお前の心配事も無くなる。五里はこんな体格だし何かあれば、守ってくれるし頼りになる良い男だぞ、それにお前の趣味に付き合えるのもこいつだけだ」
俺が五里に視線を向ける事で、ちえりもそれに次ぐ。
それに身体をぴくりとさせた五里は、慌てて言葉を探してみるが見つからず、ただ照れ臭そうに頭を掻いた。
「な?後でまた合流しようぜ」
ちえりは少し考えるように困り眉を作ってから、少し曇った表情ではにかんで見せる。
俺はそれに妙な違和感を覚えた。
「分かりました。じゃあまた後で連絡下さい。それじゃあ五里先輩!次行きましょう、次!」
「あ、ああ…ちょっと待ってくれよ古谷」
五里を置き去りにするようにして、ちえりは張り切って歩き出す。
離されないようその背を駆け足気味に追いかける五里は、一人で不安に思ってか、ちらちらと俺の方を見てくる。
突然二人きりにされるのだ。無理もない。
しかし盤面は整えたつもりだ。遅かれ早かれ、こんな状況にはなった筈。後はあいつ次第だ。
俺は親指を突き立てる事で、その背を押してやることにした。
「…!」
五里は目を丸めた後、やがて男らしい顔付きに変えて、親指を送り返してくれた。
二人の姿が離れていく。
良い顔になったな。さて、
「恋花、立てるか?」
「起こして…」
「はいよ、この先水族館側と繋がる裏道あったよな、どこのコーナーに出たっけ」
「クラゲ…」
「あそこか。でかい水槽に椅子もあったし丁度良いだろ。そこで休憩しよう」
「うん」
俺は恋花の手を抱えて、ゆっくりと歩いて行く。傍目に見れば、酔っ払いを介抱するような痛々しい光景かも知れない。
でもこんな事初めてではない。
ジェットコースターで体調を崩したのも初めてではない。
久しぶりなのだ。
ここには、去年の恋花と付き合う以前から何度も訪れているから。
「清継君、良くこのルート覚えてるね」
「そりゃ、誰かをスマートに案内出来るようマップを頭に叩き込んだからな」
「誰かしら、沢山考えて貰えてその人は幸せものね」
「幸せに出来てたら、こうなってないんじゃないか」
「…。」
「なあ恋花、もう一度聞いてもいいか?」
「駄目」
「俺の何が良くなかったんだ?」
「顔」
「嘘吐けえ!前と言ってること違うじゃねえか!」
「覚えてるなら聞かないでよ」
「良い人っていうのはそんなに悪い事か」
「…。私の趣味じゃなくなったの」
「他に好きな奴でも出来たのか」
「どっちでも良いでしょ。私達はもう終わったんだし」
「また、お前に告白するよ。ここで」
「…!清継君、やっぱり変だよ」
「そうだろうとも。でも俺達いっぱい話してさ、それだけじゃないって知れただろ?」
「うん、そうかも。あの時、何て言って告白したんだっけ」
「さあ。もう、忘れたよ」