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そうだ、ダブルデートしよう。

「作戦会議をしよう」



 時は放課後、俺と恋花れんか五里ごりの三人は皆が教室を後にする中、未だに居座っていた。

 何故か。それは恋するゴリラこと五里絢斗ごりけんとの為、恋愛成就のサポーターとなったからだ。


 恋花は分かりやすく面倒くさそうに溜め息を吐く。



「はあ。私帰っていい?」


「なぜだ。俺達が面倒を見ると決めた迷いゴリラじゃないか。飼育員が見放してどうする」


「私、部活あるんだけど」


「冗談言うなよ。今日は良い天気だろ」



 そう言って俺は教室の窓を指差す。

 朝は天気が文字通りの意味ですこぶる良く、雲一つない晴天であった。が、昼を過ぎたあたりから急に雲行きが怪しくなってきた。

 今日朝一の天気予報では、画面越しの綺麗なお姉さんが確かこう言っていた筈だ。『今日は洗濯日和でしょう』と。

 


 きっと気象予報士のお姉さんは、雨水で衣類を洗う生活をしているのだろう。

 窓の先を見やれば、生徒達が鞄を傘代わりにして頭上で抱え、大雨の中勇んで帰る姿が見られる。



「それが何。体育館でだって部活は出来るんだけど」


「雨の日は陸上部は休みだ。去年そう言ってなかったか」


「うぐ…。そ、そうだったかしら」


「忘れる訳ないだろ。去年の恋花は雨の日になれば機嫌が良かったからな。清継きよつぐ君と一緒に帰れるーって言って同じ傘の下で…」


「うあああああ!黙れえええ!」



 恋花が雄叫びをあげて俺の顔面を握り潰そうとしてくる。

 眼球が破裂しそうだ。


 殺されかけている俺を傍目はために、五里が妙に納得したような表情をしてみせる。



「なんだ、あんたらそういう関係だったのか。どうりでただのクラスメイトの雰囲気じゃない筈だ」


「違うから!汐森君とはもう何の関係もないから」


「てことはつまり、もう別れちまってるのか…?」



 俺は恋花に顔面を鷲掴みにされたままで、五里に親指を突き立てる。

 

 

「なんだよ、今でも仲良さそうなのに一体何があったってんだ」


「恋花は束縛と浮気癖のあるDVヒモ男がタイプなんだとよ」


「マジか…、向崎こうざき。何ていうかその、気の毒な趣味だな」



 恋花の俺の顔面を掴む力がより一層強くなる。



「ねえ、汐森君。誰がいつそんな事言ったのかしら。私を異常趣向者にしないでくれる?」


「れれれ恋花!マジで目玉飛び出るから!」



 俺が何度も恋花の腕を叩いてギブアップのサインを送る。

 その思い通じてか、やがて恋花は俺の頭から手を離すとそのまま机に突っ伏した。



「今となっては黒歴史みたいなものよ。人目をはばからずあんなにくっついて。ああ、過去の自分を変えてしまいたい」

 

「あの時の恋花は素直で可愛かったぞ」


「何よ」


「いや別に」



 俺は口笛を吹いてそっぽを向く。

 実際、当時の恋花は素直極まりなくて、俺以外の男子がカボチャにでも見えてるのかというくらい、興味を示さず会話も単調だった。

 元々一途な性格なのだろう。それが今となっては…、どうしてこうなった。


 話を戻そう。


 俺は時計を見る。

 今日はバイトは無いが、委員会活動がある日だ。同じ図書委員の後輩、水上みなかみには少し迷惑を掛けるが、どうせ暇な委員会だ。少し遅れたくらい大目に見てくれるだろう。



「話を戻すがちえりの件だ。大前提として五里、お前に話しておかねばならない事がある」


「何だよ今更、おっかねえなあ」


「俺と恋花は最近、ちえりからある相談を受けていたんだ。内容は『ずっと誰かに見られている気がする』だ」



 五里は眉間にしわを刻ませ、さらに冷や汗を浮かべる。その相談が何を意味しているのかすぐに理解したらしい



「五里、恐らくお前の想像通りだよ。ちえりはここ数日ストーカーに付けられているんじゃないかと怯えていたんだ。その正体は多分、お前だ」


「そんな…。いやでも、確かに初めて古谷ふるたにを見掛けた時は声を掛けようとはしたけどよ、執拗に追ったりはしてないぜ」


「それはお前の物差しでの話だろ。恋に盲目なってれば、ちょっとのつもりが、実際は毎日目で追ってたなんてこともあるだろ」


「じゃあ、古谷は俺の事なんて…」



 五里は急にしおらしくなってうつむいてしまう。見てくれはいかつい大男なのだからしっかりして欲しい。

 俺は語気を強める。



「そこに勝機があると見た!」


「ど、どういう事だ清継さん」


「気色悪い呼び方をするな。ちえりはストーカー被害を訴えていると言ったよな。だが、その正体が五里だとは気付いていないだろう。それを逆手に取るんだ。お前の体格と雰囲気は武器になる。ちえりには『お前の事を守ってくれる用心棒を連れてきた』と言って五里を紹介しようと思う」



 恋花が机に身体を預けたまま、顔だけこちらに向ける。



「なるほどね。確かにちえりちゃんの味方として紹介すれば、普通に知り合うよりも気を許しやすくするかもね。例えその相手がストーカー相談の元凶だったとしても」


「ああ。それに五里が犯人と分かった以上、五里自身が今後ちえりに付きまとったりしない限り、ちえりのストーカー被害は自然と起こりえなくなる。つまり、結果的に五里が側で守っていてくれたから問題は解決した、と話をすり替える事が出来る訳だ」



 それを聞いた五里は感嘆したような息を漏らした。


 

 「はっはあ。さすが愛の伝道者清継さんだ。古谷との接点が持てるだけでなく、俺に相談を解決した功績まで作ってしまう訳だ。末恐ろしい男だぜ」



 言葉だけなら簡単に言えてしまうが、実際の所そう容易い話ではない。

 このプランには欠点とまではいかないが、完璧とは言い切れない点がある。


 俺は釘を刺すような口調に変える。



「ただ、一つ注意点がある」


「注意点?俺には指摘箇所のない最高の作戦だと思えるが」


「タイムリミットだ。繰り返すが、ちえりには五里をストーカー被害から守ってくれる用心棒として紹介するんだ。では問題が解決したならどうなる?」


「俺の、存在価値は…無くなるのか」




 いやそこまでは言ってねえよ。



「まあ、ある意味そう捉えても良いかもな。あくまでちえりと接点を持っていられるのは、この問題が解決するまでと思って良いだろう。この作戦はちえりの抱えるストーカー問題が解決するまでという制限時間を持った短期決戦。数日の内でちえりの気を引けるか、はたまた玉砕するかの言ってしまえば諸刃の剣だ。」


「そ、そうか。短期決戦か…。でもやるしかねえよな。それで清継さん、古谷との距離を手早く縮めるにはどうしたら良い?」


「…。」



 どうしたら良いんでしょうね。

 ここまでさしずめ愛の伝道者の如くベラベラと得意気に計画を語って聞かせたが、肝心のポイントがなーんにも思い浮かんで来なかったや。


 ちえりと手早く距離を縮めるには、か。これはちえりの相談を解決させる口実を持たせつつ、という前提の上でだ。


 ふむ。

 ここは助手の意見を伺うとしよう。



「恋花、どうしたら良い」


「ノープランだったんでしょ」


「そういう訳ではないんだが、いや、しかしある側面から見ればそうかも知れんな」


「どの側面から見ても明白でしょ。もう、勢いだけで話すんだから。デートすれば良いんじゃないの?」


「「デート!?」」



 俺と五里はまるで女子と関わった事のない思春期中学生男子のように興奮して声を揃えた。


 俺は声を大にする。


「いきなりデートなんてハードルが高すぎだろ!なんの口実もなければ、初対面の男と遊び行くなんて、ビッチじゃなきゃできんわ!」


「口実があれば良いんでしょ?例えばそうね…。ちえりちゃんのストーカーに彼氏がいるって事を見せつける為、とか?」



 なるほどさすが俺の選んだ女子だ。よくもその口実をノータイムで返答出来たものだ。惚れ直しちゃう。



「恋花、それだ!五里とちえりで仮のカップルを演じて貰ってデートに行く。理由はストーカーにその様子を見せつけて諦めさせる為。これならちえりの相談に協力するという名目を保ったまま五里との距離を縮められる!完璧だよ恋花」


「でしょ?向崎さん凄いと褒めなさい」


「向崎さん凄い!」



 ピースは揃った。いよいよ行動に移せるぞ。そう喜ぶ俺と恋花を見ながら、五里は水を差すことを申し訳なさそうに言う。



「なあ、二人とも悪いんだが、1個良いか」


「何だよ五里。俺達の方向性は決まった。お前も喜べ」


「喜びたいのは山々なんだがな。いくら口実が出来たと言っても、清継さんや向崎がいなきゃ、さすがにデートまで約束出来ないんじゃないか。用心棒として紹介されたと言っても初対面で二人きりのデートは気が引けるだろ、普通」


「「あ」」



 俺と恋花は石像になったように硬直した。至極真っ当な常識的意見を述べられたので、そんなことさえ考えられなかった俺達は恥ずかしくなる。


 いくら五里が守ってくれると言った所で、面識のない奴とデートなんて行きたくないだろう。これは相談とか口実とか関係なく、人間心理の話だ。


 見た目が高校生の常識から外れた五里のくせに、一般常識で物を語りやがる。ちょっと悔しいぞ。



「じゃあどうすれば良いんだ?俺達がここまで立てた計画も全部水の泡か」


「そうは言ってないぜ。すげえ単純な話だと思うんだ」



 俺と恋花が小首を傾げる。


 五里はさも当然だろうというような口調で



 「ダブルデートって事にすれば良いだろ」



 「「は?」」



 気が付けば誰もいなくなった教室で、俺と恋花の間の抜けた声が残る。


 僅かとも言える時間、時計が秒針を進めていく音がやけにうるさく聞こえた。

 外の雨は未だ止む気配がなく、湿った空気が俺達のいる教室を満たしていくのだった。



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 宜しくお願いします!


また、小説投稿サイト「カクヨム」でも公開しておりますのでそちらもフォロー頂ければ嬉しいです。

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