7
舞踏会の翌日から、カーティスの溺愛はとどまることを知らない。
プレゼントを贈り、評判の菓子を取り寄せ、執務室でもリザベルは常にカーティスの隣が定位置だった。
なのに当のリザベルは、婚約者期間の延長だと考えていた。
ーーーーカーティス様ったら、まだ婚約者にしたい令嬢が見つかっていないのね。
どれくらい婚約期間が延長されるのかしら。
周囲に、正式な婚約者として紹介されたから、周囲の目も気にしてプレゼントの量も多くなってしまったけれど、いつかお返しする品だから大切に保管しておかなくては。
十八歳の誕生日から半年後、カーティスは立太子の儀を行い ファネスト王国王太子となった。
以前より、仕事量が増えるも優秀な側近とリザベルの助力もあり、問題なく捌いていく。
そんな中、カーティス王太子の結婚式の日程が決定した。
日程が決まったと知らされたリザベルは困惑する。
「カーティス様、結婚式のお日にちが決まったとのことですけれど」
「ああ。ようやくだよ、リザ」
「カーティス様、本当に結婚したい令嬢が現れたのですね?
おめでとうございます」
リザベルは、にこやかにカーティスにお祝いの言葉をかけた。
心の内では、泣きそうになっていた。
ーーーーこれで、私の役目も終わるのね。
「リザ? 何を言っているの?」
カーティスが胡乱な目をリザベルに向ける。
「何って・・・カーティス様に愛する令嬢が現れたのですよね?」
カーティスは、右手で己の額を支え指の隙間からリザベルを見た。
「愛する令嬢はいるよ」
「それは、大変喜ばしいことです。差し支えなければ令嬢のお名前を伺っても?」
リザベルの言葉の直後、カーティスは彼女の身を攫うように抱きしめた。
「リザベル ジェスカード伯爵令嬢というのが愛する人の名だよ・・・あれだけ毎日君といて、他の令嬢と親しくなる機会があったと思う?」
「ええと・・・」
リザベルは戸惑う。
「だいたい、毎日毒味をしてくれて、あの襲撃の時命懸けで僕を庇って、あれで愛さずにいられると思う?
リザ、僕の心を奪った責任、とってくれるよね?」
リザベルはカーティスの言葉に混乱し、己が思考を小声でぶつぶつ呟く。
「えーっと、仮の婚約ではなくなったということは、任期満了ってことで伯爵家に成功報酬は支払われるのよね。
それなら安心だけれど・・・私は傷モノと呼ばれるようになってしまった身なのに、本当にこれからもカーティス様の隣にいていいの?
でも、そんなの私にとってご褒美でしかないわ。
そうだわ、きっとこれは夢よ、私ったら自分に都合のいい夢を見ているのね」
「夢じゃないよ。フフッ。リザにとって僕の隣はご褒美なんだ・・・嬉しいよ。
リザの隣は僕にとってもご褒美だよ・・・ということは僕たちは愛し合って結婚する、ということだよね?」
リザベルはカーティスの言葉で現実なのだと認識して、やがて彼の腕の中で頷く。
「はい、末長くよろしくお願いします」
リザベルの頬は真っ赤に染まっていた。
カーティスも負けず劣らず赤い。
カーティスはリザベルの顎に手を添え、ぎこちなく上向かせると優しく口付けをした。
カーティスはジェスカード伯爵家の兄弟を城での晩餐に招待した。
食事は全て運ばせて、人払いをした。
部屋にはカーティス、リザベル、ジェイド、ルイスの四人。
カーティスが先に挨拶をする。
「本日は時間を作ってもらい感謝する。
本来なら、こちらからジェスカード伯爵家に挨拶に出向くのが筋なのだが、許可がでなくてね。
わざわざ城に来てもらってすまない」
「いえ、恐れ多いことでございます」
「リザベル嬢と結婚するにあたってご家族に挨拶をと思ってね」
カーティスは珍しく緊張している。
「ジェスカード伯爵、ルイス君、リザベル嬢のことは生涯大切にします。
リザベル嬢の夫として私を認めてくれますか?」
ジェイドとルイスは驚く。
カーティス王太子殿下が頭を下げているのだ。
しかも言葉遣いも臣下に対する物ではない。
そこにいるのは、相手の家族に真摯に結婚の申し込みをする一青年だった。
ジェイドは、カーティスに返事をする前に、リザベルに問いかけた。
王太子殿下に対して不敬かとも思うが、兄として妹の意思を確認したかったのだ。
「リザベルの気持ちは?」
まさか自分の気持ちを聞かれるとは思っていなかったリザベルは、真っ直ぐに兄の瞳を見た。
「私も、カーティス様と結婚したいです」
ジェイドは頷き、隣のルイスを見ると彼も頷いた。
「王太子殿下。もちろんです。
リザベルが望んでいるのなら我ら兄弟は祝福します。
リザベルのことをどうかよろしくお願いいたします。
幼い頃から私と弟を支えてくれた、大事な妹です。
どうか幸せに・・・」
後半は、兄の涙腺が崩壊して言葉にならなかった。
ルイスが大きな兄の背中をバシバシ叩いた。
二人の結婚式の打ち合わせ。
兄と弟でどちらが教会で花嫁と共に歩くか揉めた。
「ここは当然、兄である俺だろう」
「僕は、姉上と過ごした思い出も少ないので、ここは僕に譲るべきです」
「兄弟でそんなに揉めるなら、新郎新婦で揃って入場しよう」
真剣に睨み合う兄弟に、新郎であるカーティスも加わる。
「カーティス様は教会の中でお待ちください。
お兄様、ルイス、二人にエスコートをお願いしたいわ」
リザベルの微笑みには誰も逆らえなかった。
長身の兄と弟にエスコートされ祭壇へと歩むリザベルは、いつもよりもさらに小さく見えた。
三人で歩くことが嬉しいらしく、リザベルは頬が緩んでしまっている。
兄と弟はそんなリザベルを見て、微笑ましいやら呆れるやら。
そうして、リザベルは花婿であるカーティスの元まで歩みを進めた。
二人の手から、カーティスの手へと渡される。
幸せそうに微笑むリザベルを見て兄弟は涙目だ。
神前で誓いの言葉を交わし、カーティスの元へと巣立つ妹をジェイドは号泣して見送った。
数年後、リザベルは三児の母となり、ジェイドもルイスもそれぞれ幸せになった。
リザベルは、子供達の顔を見てふと思う。
婚約破棄されるはずだったのにこんなに幸せになっていいのかしら。
そんなことを考えていると、いつの間にか近づいてきたカーティスがそっとリザベルを抱きしめ甘い言葉をくれるのだ。
「今日も、リザと一緒にいられて幸せだ・・・」
と。
最後までお読みいただきありがとうございました。
喜ばしいことに、
9月15〜18日 [日間] 異世界〔恋愛〕ランキング - 完結済 1位
9月17日 [日間] 総合ランキング 5位
に入りました。
[日間]総合ランキング5位・・・『ランキング』のもっと見るを押さなくても自分の作品名が表示されてるなんて、私は夢を見ているんでしょうか。
いえ、ここまで読んでくださったお一人お一人のおかげです。
ありったけの感謝を捧げます。
本当に多くの方に読んでいただき、とても嬉しいです。
ありがとうございます。
誤字脱字のご報告もありがとうございます。