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カーティスが十七歳になると、高位貴族の令嬢達は舞踏会以外でも彼に近づこうと城を訪れるようになった。


十八歳の生誕祭で、歴代の王太子妃の指名が行われてきたので、カーティスに見初められるために令嬢もその家族も必死なのだ。




しかし、いつもカーティスの隣にはリザベルがいる。


令嬢が近づくと、カーティスは見せつけるようにリザベルを引き寄せ頭頂部にキスする。


「カーティス様、私の頭に触りました?」


「ああ、ゴミを取り払うのにね」


と近くにいる令嬢に見せつけるようにうっとりとした瞳でリザベルを見詰める。


「あ、ありがとうございます」


にこやかに微笑み合う二人。


カーティスに擦り寄ろうとする令嬢は、二人の仲を見せつけられことごとく追い払われる。


それでも食い下がろうとする令嬢には、カーティスの絶対零度の鋭い眼光が浴びせられその場で凍りつかせられるのだった。








やがてリザベルが婚約者としての契約満了の日がくる。


それはカーティスの十八歳の誕生日で生誕祭の舞踏会の開催日だった。


その日も、リザベルはカーティスに贈られたドレスを着用して彼にエスコートされ 会場に現れた。


通常はこの場で婚約者の交代が行われる。



ーーーーカーティス様の婚約者はもう来ているのかしら。



国王陛下がカーティスの誕生日を言祝ぐ。


カーティスの立太子の儀が決まった事も報告した。


それに応えるよう、カーティスも参加者に礼の言葉を述べた。


「本日は、私の十八歳の誕生日を祝う場にお集まりいただき感謝します。

立太子の日取りも決定しましたことを嬉しく思うとともに、気が引き締まる思いです。

ここで、私と共に重責を担ってくれる正式な婚約者を紹介したいと思います」


会場全体が息を呑む。


リザベルも、とうとう長年の婚約者生活の終わりを知り、ふぅーと息をつく。


カーティスは、片手でリザベルの手をとりもう片方の手でリザベルの腰を抱き引き寄せた。



「えっ・・・」



リザベルは驚き、カーティスを見上げる。


彼は、優しい微笑みを浮かべリザベルを蕩けるような瞳で見つめた。


そして、周囲の人々に視線を移し宣言する。



「リザベル ジェスカード伯爵令嬢です」



リザベルは頭が真っ白になった。


自分が指名されるとは思っていなかった。


周囲も、戸惑っているようでざわついていた。


カーティスは続ける。


「リザベル嬢とは、幼き頃より共に学び語らい合ってきました。

私が襲撃を受けた際には、その身を挺して私を守ってくれた。

私の伴侶は、彼女以外あり得ない」


パチパチパチと、最初は小さかった拍手の音が次第に大きくなろうといていた時、水を差す声がその場を制した。



「お待ちくださいませ!」



一人の令嬢が、カーティスとリザベルの前に進み出る。


エレオノア グロウリア公爵令嬢であった。



「国王陛下、発言をお許しいただけますか?」



「許可しよう」


陛下が頷く。


「王子殿下のご意志はわかりました。

しかし、リザベル嬢は殿下の伴侶に相応しい女性でしょうか?

デビュタントの事件の時、肩に深傷を負われ傷モノ令嬢と呼ばれている方でしてよ。

しかも聞くところによると、積年毒見役を務められた身だとか。

そのような女性が果たして健康な世継ぎをお生みになれますでしょうか?

伴侶は、高度な教育を受けてきた高位貴族の令嬢からお選びになり、リザベル嬢は側妃・・・いいえ家格的には愛妾として殿下を支えるのがよろしいのではないでしょうか」



周囲はどよめく。


『確かにそうだな』

『何も傷モノを選ばなくとも』

『身分も低いのだし、側妃か愛妾でよくないか』


などの声がそこかしこで囁かれた。



リザベルは居た堪れなくなり、カーティスから離れようとするも叶わなかった。


反対に引き寄せられ、ほぼ抱きしめられるかたちになった。



「言いたいことはそれだけか?」


カーティスが低い声で問いかける。


「えっ?」


グロウリア公爵令嬢は、自分の提案が受け入れられると思っていたらしい。


カーティスの低い、侮蔑の籠った声に驚きを禁じえないようだった。


「それだけかと聞いている」


「は、はい・・・」


カーティスは、一呼吸して冷静に言葉を口にする。


「実は隣国ガロード王国から、我が国の姫を『側妃』に迎えたいとの話が来ているんだ。

あちらの正妃との間に子が成せないらしくてね。

しかし我が王家には王女はいない。

そこで、次に家格の高い公爵家の令嬢をという話になってね」


グロウリア公爵令嬢は、ゴクリと息を呑んだ。


「高度な教育を受けてきた君なら、側妃として立派に世継ぎを産んでくれるだろうからガロード王国も安泰だね。

我が国との友好関係のためにもよろしく頼む」


有無を言わせず、決定事項として伝えるカーティス。


グロウリア公爵令嬢は、助けを求めるように国王陛下と自分の父親であるグロウリア公爵を見るが二人とも首を横に振った。


該当する公爵令嬢は三名いたが、エレオノア グロウリア公爵令嬢に決定した。


残る公爵令嬢二名とも舞踏会に参加していたが沈黙を貫いた。



ーーーー雉も鳴かずば撃たれまい・・・。


同じく会場に来ていたリザベルの弟のルイスは、エレオノア グロウリア公爵令嬢に心の中でその言葉を贈った。




カーティスは、静まった会場で声を発した。


「他に、私達の婚約に異議のある者はいませんね?」


問いかける形をとっているが、反論を許さない視線で周囲を牽制していた。


やがて小さくパチパチとやがて大きな拍手へと変わり、今度は誰に邪魔される事なく祝福された。


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