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やがて歳月が過ぎリザベルがデビュタントを迎える年齢になると、カーティスがドレスを贈らせて欲しいと言ってきた。



「ですがカーティス様、デビュタントの準備は本来家族がするものです。

なので兄と後見のランバルト公爵に相談してからでも?

了承がもらえましたらカーティス様にお願いしますから」



わかったと、リザベルに返事をしたカーティス。


カーティスはその後すぐに、ジェスカード伯爵とランバルト公爵宛に手紙を書くと急ぎ届けさせた。


リザベルが手紙を出すより早くに彼等を買収したのだ。



数日後、兄ジェスカード伯爵からリザベルに、デビュタントのドレスを殿下に贈ってもらうようにと、返事が届いた。


リザベルが、カーティスに本当にドレスを用意していただいてもよろしいのですか?と遠慮がちに確認してくる。


「もちろんだよ。

ねえリザ、デビュタントは一生に一度だよ。

君のお兄さんもドレスを用意したかったと思うけれど、僕としても譲れなくてわがままを言った。

二人で納得のいく衣装を作ろう。

婚約者としてもちろん当日もエスコートはまかせて」



「ありがとうございます、カーティス様。

お言葉に甘えさせていただきます」




「ああ、いっぱい甘えてくれていいからね」

カーティスは甘い微笑みを浮かべ、自分の胸を拳でトンと叩いた。



二人の衣装選びは、なんとも和やかに進められた。



「リザはどんな形のドレスも似合うね。何か希望はある?」


リザベルは三種類のドレスを選んだ。


「この中から選びたいのですが、客観的な意見を聞きたいです」


「どれも捨て難いよね。専門家の意見も取り入れたらどうだろう」


カーティスはそう言うと、周囲のデザイナーやお針子さん、はたまた城の侍女やメイドにまで声をかけて意見を求めた。


本人も周囲も納得のいくドレスを決めることができた。


ドレスが決まれば、エスコートの王子の衣装も決めなければならないが、それについてはデザイナーが任せて欲しいとのことだったのでお願いすることにした。







デビュタント当日。


この日は家族が城に招待されていた。


未成年であっても、家族のデビュタントの場合は舞踏会の会場に入ることができるのだ。




弟のルイスとは、彼が五歳の時に城に上がって以来だ。


今年、王立学院に入学するのだという。


兄と弟が、支度を終えたリザベルの元を訪れた。


「お兄様、ルイス来てくれてありがとう。

まあルイス大きくなって・・・私が伯爵家を出た頃のお兄様によく似ているわ。

懐かしい」


リザベルは身支度を整えたのに、二人を見て思わず抱きついてしまった。


ルイスは、姉に抱きつかれたのも驚きだったが、彼女の背後に立ち笑顔なのに目が笑っていないカーティスを見てギョッとした。


「あ、姉上、お久しゅうございます。せっかくのドレスが皺になったらいけません」


そっと、姉を引き剥がした。

するとカーティスは満面の笑みを浮かべ頷く。





ルイスは、兄のジェイドにリザベルの話をいつも聞いていたので姉に感謝していた。


何事もなく婚約者の役目が終わることを願っている。


だが、今のカーティスを見て、姉には現実王太子妃になる未来しかないように思えた。


弟のみならずジェイドにも同じ未来が見える。


兄弟は知らず顔を見合わせ苦笑いした。


「ジェスカード伯爵、ルイス君、リザベル嬢の晴れ姿はどうだろう。

リザベル嬢は伯爵家でドレスを用意してもらうと言っていたのだが、私がどうしても彼女に贈りたくてね」




「王子殿下に感謝申し上げます。

正直、我が家ではこのように素晴らしい装いを用意することはできません。

妹の晴れ姿を見ることができ感無量です」




「私も同じ思いです。

幼少に離れて以来ですが、お元気な姉上を拝見でき嬉しく思います。

姉上の手紙にあったよう、王立学院に入学し期待に応えられるよう努力します」



リザベルは二人の言葉を聞き瞳をうるませる。


そんなリザベルを愛おし気に見つめるカーティス。




俺たちは何を見せられているんだろう。


ジェイドとルイスは虚ろな目で立ち尽くした。




それにしても・・・。


まるで結婚式のような装いの二人。


本来エスコート役の男性は、黒の衣装でデビュタントの女性の白の衣装を引き立たせるのだ。


しかし、今回王子が纏っているのはリザベルの衣装と共布で作られている白の衣装だった。




兄弟が、王子の衣装を見つめていると、気づいたリザベルが説明する。



「デザイナーの希望で、カーティス様の衣装はお任せしたの。

発表はしないけれど婚約者であることを示すために同じ生地を使って、対になるよう仕上げてくださったそうよ」



なるほど、確かに婚約発表の衣装のようにも見える。

初々しい二人に似合いの衣装だ。




リザベルが嬉しそうに語るさまにジェイドは微笑ましくも心配になった。


あと、二年。


リザベルが無事に過ごせることを祈った。







デビュタントの女性達がエスコートされて広いホールに現れる。


家族や婚約者に対する祝福の視線と、初々しい女性を品定めする眼光鋭い男達の視線が交錯し、どよめきも起こった。




カーティスとリザベルは、最後の登場である。


登場した二人は、空けられていた中央の通路を上座に向かって歩む。


その姿に、感嘆のため息をつく者もあれば、歯軋りする者もいる。




やがて、王子とその婚約者が上座に到着すると、上座上方に設られたバルコニーから国王と王妃が現れ祝辞を述べた。



音楽が始まり、ダンスをする人々でデビュタント会場は盛り上がりを見せた。


カーティスとリザベルも微笑み見つめ合いながら静かに踊る。


その姿は一幅の絵画のようであった。




歓談の時間が始まると、ホールは人々でごった返した。


王子の周りにも、人々が近づいてくる。


リザベルは、遠慮して離れようとするも、カーティスにしっかりと腰をホールドされてしまい動けなかった。





ーーーーこれでは、カーティス様が令嬢方とお話できないわ。

カーティス様には是非とも伴侶となる令嬢を見つけていただかなくてはならない。




「王子殿下、私ちょっと喉が渇きましたの。

失礼してもよろしいでしょうか?」


「ああ、気が利かなくて悪かったね。

私も一緒に行こう。

それでは、我々はこれで失礼する」



後半部分は二人、いや王子に群がる人々に向け断りを入れた。




「王子殿下、令嬢方とお話しされるよい機会だと。

私は一人で大丈夫ですから」


「いや、私も何か飲みたくてね。一緒に退出しよう」


ーーーーそうね。カーティス様が飲食するには私の毒味が必要・・・会場では召し上がれないもの。

控室に向かいましょう。





カーティスとリザベルは人混みを外れ、王族専用口からホールを出ようとしたその時、ふっと会場の照明が消えた。


今宵は、月も曇り空に隠れ会場は暗闇に包まれる。


周囲は、突然の暗闇にパニックになる。



リザベルは、違和感を感じた。


暗いはずなのに、リザベルとカーティスの周りは暗くない。


「なんで、ここだけ・・・」



ポツリと呟く。


どうして・・・。




リザベルは周囲に目を配った。


上方で何かが光ったのが見える。


咄嗟にリザベルは、王子の体とその光の間に自分の身を滑り込ませる。




ドスッ!




リザベルの体を衝撃が走った。


しかし、痛みを感じながらも、リザベルは王子の体に覆い被さるようにして彼を掴み離さなかった。


追撃に備えリザベルは周囲を見る。


しかし、痛みのためか目が涙で潤みよく見えない。


しっかりしなくちゃ!


二波に備えたが、追撃はくることなく周囲に明かりが灯った。


明かりが点いた時にはリザベルの意識は失われた。


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