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百年あとには 2019

作者: 墨田ゆう

わたしは幸せだ。


屋根のある家があって、服を持ってて、食べ物だってスーパーで買えて、わたしは幸せな、はずだ。これ以上なにもいらない、はずだ。





『夢』

わたしは、わたしの身体から出ていきたい。

大きな箱を開けて、開けて開けて、最後に残ったいちばーんちいさな箱のなかで眠りたいの!

これがわたしの夢。



『解離』

忘れられない? ほんとうに?

簡単なことだよ。

なかったことにすればいい。

そしたら笑おう。



『恋』

わたしは町に、恋をしていた。

だから離れるのがおしかった。

離れたくないって……これは執着で依存できれいじゃないけど。いつか恋は終わるものだ。苦しみの波がひいて、地面が見えたら歩いていくしかできることがない。

好きだった面影を探しに季節をゆく。初恋は叶わなかった、ずっとふるさとで暮らせると思っていた、けどこれでいいのかもしれない。



『守る』

家を守る、価値はある?

家は入れ物でしかない。

墓を守る、意味はなに?

やっぱり入れ物なのに。



『虚』

あたしなんかがいなくても大丈夫なんだって胸に穴があいた気分で。



『神様は』

神様は超えられない試練を与えない、それ聞いたときあたしはハードルを思い浮かべる。そっから、ハードルを超えていくぞって助走つける時点でもうダメなわけ、人生豊かにできるニンゲンってのはハードルに目もくれず地面に絵を書いてたり、鉄棒にぶら下がって笑ってるの。つまり周りをみわたして楽しめることを探してる。



『わたしは書くことが』

わたしは書くことが怖い。そもそも話すことも怖かった。自分の心臓が声とダンスしながらどこかいっちゃう気がする。そのうちわたしの身体は空っぽになって、いまあるわたしが死んでしまいそう。だから押さえつけるの。死なないように。

それが目に見えるようにできるなんて恐ろしい。



『百年あとには』

百年後に生きている君へ

わたしの魂は君の傍らにある

君が手を伸ばしたとき

すぐ気づけるように



『魂』

こころなんてないんだ

魂をだいてくれ



『きみは簡単に』

きみは簡単に死ねると思ってるの?

ね、死ぬ意思があるひとが死ねるって思ってるの?

たぶん違うよ。死ねなかったひとはいっぱいいるじゃない。そもそも人間のいちばん強い部位は脳みそなんだから。こころがあの世に行きたがってもね、脳みそがだめだっていうの、行き止まり。腹を包丁で刺してやると決めてもね、冷や汗が出て手がぶるぶるして。自分の身体にはすでに死なせない装置があるんだ。それで命をだいじになんて教えられてもねぇ。

だから偶然と寿命をわたしは待ってるの。

昔ならすぐに死んでいた病気でも今はちがうね。ひとの身体は簡単に死ななくなった……そして道端の土になる時間を、いろんなひとがうばっていった。



『死体』

ね、死体を出さずに自殺する方法ってある?

誰かの身代わりに死んだとか、頑張って死ななきゃ、迷惑って呼ばれてしまうんだろう?

ちゃんとした死体になれないとかなしい。



『でもね』

死にたいよ、でもね、

あたしが死なない理由、それはね、あたしが死んだところで親は変わらないってわかるからだよ。あたしがいなくなって…泣いてくれると思う…でもあの人達は健康のためにちゃんとご飯を食べるだろうし、夜になれば寝るだろうし、そして朝、目覚まし時計がなる…直感がするから、ぜったいに確かめない、選ばない。こんなことで死んでやるか。

逆にあの人達を殺して得る価値もない。家出する意味もない。でもリスカはあたしがあたしの身体に捧げる幸福であってほしい。



『責任』

あの人に苦しめられたんだから、責任としてわたしは親を利用しつくしてやる。



『二十歳』

二十歳になれば死ぬと思ってた!



『生きてる心地が』

生きてる心地がしないとかいう人もいるね。

でも、

どうすればわたしは産まれるんです?

産まれたことになるんです?

わたしがわたしを産めたらいいのに。



『家』

家から学校や習い事に通って出会ったニンゲンを見ていて、わたしはニンゲンとはこんなにも静かないきものだったのかと感動したものだ。家にいる連中ときたらささいなことに叫ぶ。耳ざわりな高い声を繰り返しては物を壊したり投げたりする連中のそばにいると、わたしの頭はコンロにかけた鍋の中にいる心地になってくる。どうにか自分のちからでコンロの火を止めようと身を乗りだすお湯は、スイッチをひねることなく床に落ちていく。



『父』

このひとがお父さんだったらよかったのに。お父さんがいたら……真の親はいるけれど……あたしのざわざわした不安もマシになる気がするんだ……さみしくなくなると思うんだ。



『子どもって』

子どもって、どこにいたらいいの?社会とのつながりは学校にしかない。友だちも部活も。学校を辞めたら身体を収納できるのは家という箱だけになった。

ひんなか外に出ると不良少女だって噂されるから、おばあちゃんは家にいろって言う。老人たちは窓の隙間から見てるんだ。秩序を乱すと不審者になる。



『本』

本はいい。絵と違って、文字を眺めただけじゃなんの風景も浮かばない。だから、こんなもの見るなって言われる前にどこかへ行ってくれる。誰にも盗られない。わたしのそばにいてくれる。手より目より脳ミソに一番近くで。



『わたしには』

わたしにはなにも書けない。白紙は白紙のままでいい、文字はインクに入ったままが一番安らかなの。安置所。死んだふりしてる。



『人権』

わたしがただ生きててこの世にいてもいい誰に決められることのない権利



『わたしも君も』

わたしも君も、子どもだった。

もう誰も助けてくれないんだよ。



『子どもをね』

子どもをね、なんで生んだのかなぁって、口に出してもいいんだよ



『生と死』

生まれてこなければよかった、生まなければよかった、そう思う人間の真ん中にいる、わたしは生まれたのか生まれてないのか判断がつかないの。どうやったら生まれたことになるの。身体があれば生きているってことになるの。教えて。



『棺』

交通事故、痴漢、いじめ、

でもそれより辛いのは家のなかにいること。

家のなかにいるくらいなら、外でどんな目にあってもいい。嘘だよ。

でも家にいると身体を傷つけたくなるのは本当。家のなかにいることは安全じゃない、棺のなかにいるみたい。

わたしは恥ずかしいんだって。

わたしってイキモノがいることが恥ずかしいんだって。

家のなかでも恥ずかしいんだから、なおさら外に出すわけにいかなかった。

家のなかが一番あたしを差別する。

外ではみんな見ないふり。

それでいいの、だってなにも悪いことしてないじゃない。

だたいるだけだもん。



『恥』

恥ずかしいってなんだろう。

自分の持ち物が死ぬこと。

誰に持ち物が死んだ責任があるか調べること。

そう、死んでからもきっと自由になれないよ。

自分でした選択はなかったことにされるよ。

かわいそうな死んじゃった○ちゃんってね。



『入れ物』

わたしー家ー街ー空

どこの入れ物に行ってもそこに敵は現れる。

有る−居る−無い

居る生きていること。


体というわたしの入れ物があるのに、どうして家なんて建てるんだろう。家に入ったら最後、わたしはわたしじゃなくなってしまうのに。



『住みか』

ここに住む。

わたしは、屋根なんかほしくないんだ。雨が降ってもずぶ濡れでいいんだ。

扉みたいな板を立てて、これが家なんだっていうほうが気持ちいい。

なんでそんなに屋根がほしいんだよ。へんだよ。



『土』

わたしは地面のうえで死にたい。けど許してくれないね。



『秘密』

この秘密は墓までもっていくって、いいよね。生きていくことを信じられるってすごい。ひとが死後を管理してくれるというのも…わたしはイヤだけどね。

だから秘密なんか抱いてやらない。



『記憶を』

記憶を共有する装置だった家庭がつらい



『労働』

労働は建前なんだよ。

お金の裏側では、心って通貨が動いてる。

行動で心をしめそうとする。

わたしにはどうして気ばかり使うのか不明。

わたしには交換できるものがない。

わたしには心がないのかな。



『バイト』

自分の食い扶持をまかなうためにバイトするのに、どうして他人からシフト入れば?お金が増えるよとか心配されなきゃいけない?




不安−不満

安心−満足




『AND検索』

人間 コミュニケーションとりかた:

猫が出てきた。

自分は猫と同じ、人間ではないの?



『人間は』

人間は生まれてから人間になるの?

人間は人間からうまれるから人間という種類になるの?



『登戸』

あの人たちはね、言葉と言葉のあいだにすきまをつくらないように、歌っている。言葉を流している。

だから誰もそれは違うとか割り込んだりできないの、終わるまで待ってなきゃいけない。

時間稼ぎをしているように見える。だからこころはあっても信念はないようにみえる。している、じゃなく、させられているようにみえる。だから聞いていると腹が立つ。



『言語は』

言語は人間を管理するにはうってつけなんだ



『家族構成』

精神科ではじめに聞かれるのはね、お父さんはどんな人? お母さんは、きょうだいはって。

わたしは優しいひとだって答えた。わたしの記憶は昨日から始まってるから。

初めて家族の顔を見たのは今日で、みんな優しく笑ってた。だからそう答えた。

けど違ってた、あの人たちはやさしくなかった。どうして思い出せなかったんだろう。



『孤独』

孤独を治療する?人間は孤独なものなのに?

人といてうまく話せないほうが孤独だと思うの。



『心』

こころを治療する?

こころを治して元気になってねって、

治すってことばは、うまく忘れなよって聞こえるよ。

だから自分が消えちゃう気がする。

まったく別の人間が、わたしの身体でいきる。

みんな、治すというより、自分の感情や過去を書き換えなくていいんだって言ってもらうために来てる。

あなたもそうでしょう。



『子どものころ』

子どものころ死ねないまま大人になると、後悔するよ、あのとき、あのときって、どうして死んでおかなかったの



『精神科って』

精神科ってほんとうに心を診るところかな。わたしは心を直してるかんじがしない、わたしであることから逃げないようにふんばってる。


精神科は魂を肉体から離さないように診つづける場所なんじゃない?

死んでも魂は残るってことばがあるし。

身体のメンテナンスさえうまくいけば、中身があっても無くてもいいんじゃない。

ただ身体が有る、ってことが大切なんだ。



『みんなのもの』

精神科では自分らしく生きていこうと朗らかにいられるのに、家に帰るとあたしの身体はあたしだけのものじゃなくなるの。みんなのものに戻るの。



『カウンセラー』

友だちじゃないし、

ママでもないし、

神ですらない。



『精神科』

精神科にいれば楽になって救われるわけじゃない



『家から出て』

家から出て世の中の自由さにホットするのと、

世の中から家に引きこもるの繰り返し。

odで病院を裏切っている。



『帰り道』

病院から家に帰ると夢から現実に帰っている切なさがある



『習字』

字の書き方は教えてくれたけど、

文字をつなげると文章になることは知らなかった。

文字の使い方を理解したとき恐ろしかった。

文章を読んで頭のなかにイメージがうかぶのが、

声が目に見えることが恐ろしかった。



『思う』

思う、なんて言葉はなくなれ、なくなれ、そしたらなんも思わなくてよくなる、楽になれる。

そう思う裏ではどこにも行かないでほしいとすがりついてる



『本』

本をみるのはね作者の気配を感じるためだよ。わたしが本をみてると気配を感じてさ、ああいるなって思うの。そんなときわたしはどうするかって、まあどうもしないんだけれど。むこうも話しかけてこないしね。でももう行きなさいって感じでしっしされることやドヤ顔してる人とかいて笑えるよ。



『りんご』

色の本に載ってた目のしくみ。

そこではじめて理解したの、今までわたしの目が世界を見ていたんだって。

わたしの目はわたしだけのもので、わたしにしか感じることのできない世界があるんだ。

わたしはわたしだったんだ。



『生きる理由』

こころを身体に記録する

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