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「お化け屋敷」の探索

あの神官に言われた場所に行ってみることになった。高級住宅街の外れでもう少し進むと貧民街につながっている辺りである。

一見した感じでは静かな住宅街の変哲もない屋敷という感じである。

けれども、ヤシンタも「いるわね」と言うように屋敷の周りには目つきの悪い連中が目立たぬようにうろついていた。

「ヤシンタ、ここからは少し離れて誘拐された子供達の方も調べよう」

「そうね。そちらの方も何か手がかりがあるかしら」

ということで貧民街の方に向かう。

暇そうなオヤジが道端の空き箱に座っていたので誘拐事件について聞いてみると、最初は「そんな聖騎士様に喋るようなことはないですよ」なんていっていたが、銅貨を何枚か握らせると、色々と喋り出した。

どうやら、ここ数週間に子供たちが十数人は誘拐されている様子である。男女の区別はないようで、無差別に誘拐されている様子である。

実行犯はどうやら例の屋敷を警護しているらしい連中のようであった。彼は貧民街の出身ではなく街の外から最近やってきた新参者らしい。

あの屋敷についても夜になると明かりをつけて何か怪しい祈りの声が聞こえたりすると言うことである。

元々は古くからこの街に住んでいる一族の末裔がその家の所有者で、1人で住んでいたらしいけれど、その人はこの数ヶ月前から顔を見せなくなっているということである。

貧民街の人達はそのため、あの家をお化け屋敷と呼ぶようになっているそうである。

念のため他の人にも聞いてみたけれど、だいたい同じような話が返ってきた。

ヤシンタが「じゃあ一旦帰りましょう。明日また調べればいいわ」と言うのでじゃあそうしようとまだ日は高かったけれど一旦帰ることにした。

神殿まで送ろうかと言ったけれどヤシンタは大丈夫よと言うので宿の前で別れることにした。

部屋に戻ってどうやって神殿を攻略しようかと考えているともう夕刻である。

夕食を食べに行こうと宿の食堂にゆくとそこにはヤシンタが座っていた。

「えっ?どうしたの?」と聞くと、あの神官に腹が立ったから神殿を引き払ってこちらに世話になることにしたということである。

宿の女主人のエレナさんは「クラッドさんも隅におけないねえ。いや、毎朝ここでラブラブだったのは知っているけれど、もう婚約したのね。大丈夫、ヤシンタさんの部屋は隣にしておいたからね」とウインクしてくる。

ヤシンタは「一緒にご飯、食べましょうね」とニコニコしている。

朝と違って良かったのは並んで食べるために見つめられる時間が減ったことだ。距離はその分近くなったけれど。

夕食後は僕の部屋で2人でベットの端に座ってとりとめもない話をしていたけれど、もう遅くなるから寝る時間だよといったらヤシンタは「おやすみのキスが欲しい」とせがんできた。

仕方ないよね、とキスしたらそのままパタンとベッドに寝転んで「一緒に寝たい」とか言い出した。まあ、ヤシンタが鎧を着ているからいいかと思って黙って頷いたら耳元で「クラッド、いつでも鎧を脱いでって命令してくれたらすぐに脱ぐからね」って囁かれた。ゾクゾクってしたけれど必死で耐える。

「いや、それはダメ。もし完全防御の魔法が破れたらモンスターの攻撃でヤシンタが怪我したら困る」

「じゃあキスだけね」

と言ってヤシンタはキスをしてくる。

ひとしきりキスの雨を降らした後はヤシンタも疲れていたみたいで、いつのまにかクークーと寝息を立てていた。

はあ、これからこんな蛇の生殺し状態、いつまで耐えられるんだろうと思いながら僕も眠ったみたいだ。


♢♢♢♢♢♢


翌朝、僕はヤシンタの「朝ですよ、クラッド、起きて」という声で目が覚めた。まだ眠かったので寝たふりしていたら「クラッド、起きないなら朝のキスよ」といっていきなりキスされたので起きざるを得なくなってしまった。

なんだかもうキスだらけって感じである。

彼女にしてみれば全身鎧なので生身のスキンシップができるのは顔だけと言うことはあるのだろう。例え手を繋いだとしてもそこには鎧が直接の接触を阻んでいるのである。

けれども、僕が蛇の生殺し状態であるということには特に変わりはない。


朝食を摂ったあと、身支度をしてあの「お化け屋敷」に挑むことにした。

まずはヤシンタに呼びかけてもらうことにした。

ヤシンタが「すいませーん、門を開けてくださーい」って叫ぶとすぐに人相の悪いにいちゃんがバラバラっと出てきて「はあ?ここは空き家だよ。さっさと帰れ」とか口々に言い出した。

ヤシンタが「それはおかしいなあ、私はここのご主人と知り合いだよ」と適当に言うと、男たちは「帰らないと聖騎士様といえどもボコボコにしてやるぞ」とか脅しにかかる。

そろそろ頃合いかと思って僕が一気に前に出て、剣の柄で殴って男たちを次々に気絶させた。こんなチンピラどもには殺す価値もない。

懐を探ると1人の男が鍵束を持っていた。通行の邪魔にならないように道の隅に男たちの気絶した体を隠すと鍵束を試して門の鍵を開けることができた。門の内側にはやはり数人のごろつきどもがいたけれど、同じように気絶してもらった。彼らの持つ鍵は玄関の扉は開けられなかったが、横の勝手口の鍵を開くことができた。

勝手口からは正面のホールに出ることができたが、ホールの中央には大きな銅像が建てられており、横から見るとその像の後ろに秘密の地下への階段があることが丸見えだった。

とりあえずそこは置いておいて先に二階を調べた。いくつかの部屋を回ると結構荒らされていた。おそらく、部屋にあった金目のものは略奪されているようだった。

中央の部屋だけは鍵がかけられていた。外のごろつきが持っていた鍵束の鍵では開かなかったので力任せに体当たりするとドアが吹っ飛んで部屋に入ることができた。

部屋は執務室らしく、立派なデスクやソファがあった。中には初老の男が座ったままデスクに倒れていた。出血のあとはもう干からびていて、随分前に殺されていたのではないかと思われた。デスクの引き出しは乱雑に開けられ、書類は床に散乱していたのでここも略奪にあったらしかった。

軽く黙祷して問題が解決したらちゃんとしてあげようと考えて階下に降りた。

先ほどの像の後ろの階段を降りようとすると階段は見当たらなかった。

おかしいと思って像の後ろを色々調べてみるとスイッチを見つけ他のでとにかく押してみるとからくりが始動したみたいでどこかでカラカラと歯車の動く音がしたら今まで床だった部分に再び階段が現れた。

「誰かが動かしたってことかな」と呟いて見るとヤシンタがうんうんと頷いてくれた。

「でも下に降りなきゃ始まらないよね」と言って僕は階段を降り始めた。ヤシンタは後からついてきた。階段を降りると手彫りしたらしい地下室があった。

地下室を奥に進むと奥に金ピカの蛇の像が置いてあって、そこに1人のローブを着た痩せた男が両手にスクロールを持って何かを探していた。彼は僕たちが来たことに気がついてこちらを振り向いた。彼の頭には蛇の冠があった。

男は「この神聖な蛇神アングラ・マイニュ様の宸襟を乱す不敬なものどもは蛇の餌となって永久に闇を彷徨うがよい」といって杖を振ると蛇の神官の前に人頭蛇身の怪物が現れた。

「ナーガだ!」

ヤシンタが言った。「あいつの目を見てはダメです!魅了の呪いが掛かりますわ!」

視線を逸らして攻撃するのは大変である。なかなか当たらない。

ふと気がついて「ヤシンタ、鏡を持っていない?」と聞いてみた。

彼女は「手鏡ならあります。こんな時に身だしなみを整えるなんて余裕ですね」と冗談とも本気ともつかないことを言って、それでも手鏡をこちらに投げ渡してくれた。鏡で見る限りナーガの目を見ても魅了の呪いは掛からない。

手鏡なので小さくて、それでナーガの姿を見るのは大変だったが、それでも何も見ずに攻撃するよりはマシである。魅了の呪いを鏡で防がれたナーガが焦って僕を蛇身で締め付けにくるところを逆に一刀両断することで仕留めることができた。

ヤシンタは「さすがは私の旦那様ですわ!あんな恐ろしい蛇を倒すなんて!」とキスしにきたが、神官は「な、なんと、蛇神様が倒されるとは!こうしてはいられない!」と叫んで蛇の像に回り込んで消えた。

僕はヤシンタとラブラブしていたかったが「神官が逃げた!追いかけよう!」といって像の後ろを覗き込んだ。

そこには怪しげな魔法陣が描かれていた。多分、あの神官が起動したのだろう。まだ魔力が残っていて魔法陣の文字が輝いている。

「よし行くぞ」と僕はヤシンタと手を繋いで魔法陣に飛び込んだ。


♢♢♢♢♢♢


そこはビュービューと風が吹いている湿地帯だった。向こうにお城が見えている。目の前にはさっきの神官と他に6人の神官がいて、あわせて七人の蛇の神官がいた。

「早くせぬと奴らがくるぞ」

「もう来たではないか!早く準備を!」

そう言い合って彼らは円陣を組み、何かの呪文を唱えたのだった。

とにかくあの呪文を邪魔しなければ、と思った時には遠くから何か黒い影がやってくる。

遠目にもわかる。黒いドラゴン(ブラック・ドラゴン)だった。

神官たちは「はっはっは!ザマアミロ!ドラゴン様にナーガの仇を取ってもらおう!」ともう勝った気になって笑いさざめいている。

と、その時、ドラゴンがブレスを吐いて神官たちは皆倒れた。ブレスは神官たちを直撃したのだ。

酸のブレスが直撃した神官たちは見る間に体が溶けていき、叫ぶ間もなくドロドロになって生命のないスライムのようになってしまった。

ブラックドラゴンは次にこちらの方を睨みつけたようである。

「ヤシンタは後ろに下がって!」

魔法で防御されているとは思うが、ブラックドラゴンの酸のブレスでヤシンタの鎧が溶けるのは嫌である。

その時、僕の剣が涼やかに鳴っていることに気がついた。鞘から抜いてみると剣は強い光を放って微かに振動しており、それが鞘の中で音を出していたらしい。

「お、お前、ドラゴンスレイヤーだったのか」

初心者ダンジョンの地下三階でリビングアーマーが持っていた剣である。そりゃ初心者がドラゴンと戦うことは滅多にないからドラゴンスレイヤーの剣は宝の持ち腐れになると言うのはわからないでもないが、それにしてもめちゃくちゃではないか。一体あの初心者ダンジョンの運営はどうなっているんだ?

まあ、そんなことはどうでもいい。自分がドラゴンスレイヤーを掴み取った幸運に感謝しよう。

と考えている間にドラゴンはブレスを再び放った。慌てて横っ飛びに飛んでブレスの直撃を避けたが、わずかに当たっただけで皮の防具はじゅうじゅうと音を立てて溶けていっている。

(そりゃこんな酸のブレスをまともに食らったら溶けてスライムになるよね)

と考えながらもこのブレスを撃たれた好きに間合いを詰めてドラゴンの腹にドラゴンスレイヤーを叩き込む。

剣は明らかに嬉しそうにうなりをあげてドラゴンの腹を深く切り裂いた。ドラゴンは痛みで苦悶し、その腕で僕を横に払う。

僕は脇腹をざっくりと引っかかれて泥の地面に這いつくばった。ヤシンタが慌てて走ってきてキュアの呪文をかけてくれた。出血や痛みはおさまり、僕はまた剣を構えてドラゴンと対峙する。ドラゴンは傷口から明らかに酸の体液を流し続けており、もしかしたらブレスはもう吐けないんじゃないかと思ったところにブレスが来た。

自分でキュアを唱えるが痛みはおさまらない。右足が激痛でもう足は棒だと思わなきゃ立っていられない。ヤシンタがもう一度キュアをかけてくれると痛みは次第におさまった。

多分ブラックドラゴンもかなり無理してブレスを吐いたようで、明らかに動きが鈍っている。

(足よ、動いてくれ!)

必死でダッシュして間合いを詰めてドラゴンの逆側の腹に剣を突き立てる。ドラゴンスレイヤーはその持ち手の苦しみなど知らないように楽しそうに唸っている。

ドラゴンの傷口からは酸性の体液がドロドロと出ていて周りの草を焼いている。ドラゴンの動きは完全に鈍っている。

もう一度攻撃すれば止めをさせるだろう。けれども急所をやれるかどうかは難しい。なにしろドラゴンの急所は喉である。喉からまっすぐ頭の方に突き刺せばドラゴンの脳を破壊することができる。けれどもドラゴンの大きさでは人が剣を使う場合には喉には届かないのである。

(やはりドラゴンランスが必要だよな)

いくらなんでもここでドラゴンが出てくるなんて反則ではないか。そんなランスは最初から準備すらしていないのである。

仕方がないのでもう一度腹を攻撃である。

年を経たドラゴンは魔法も使える。恐らくドラゴンは攻撃せずに自分にキュアをかけたのではないか。腹の傷が一部塞がりかけていて体液の流出も止まりかけている。

今度は腹を横一文字に抉ってみた。

新しい傷口から体液がドッと流れだし、さすがのドラゴンも痛みのためだろう、頭を下げて転がり出した。

暴れまくっているのでちょっと手が出せないが、かなり弱ってきているのだろう、だんだんと動きが緩慢になっている。

と、首を地面におろしてちょっと静かになった。

(チャンス到来)

もう最後の力を振り絞ってダッシュしてドラゴンの喉元から脳天に向かって全力で剣を突き刺す。こっちの苦労も知らない剣はもう虹のように輝いてドラゴンに致命傷を与えた。

ドラゴンは一度大きくのけぞるとバタンと倒れて動かなくなった。

僕はドラゴンの断末魔に巻き込まれないためには剣を手放して後ろに転がって逃げるしかなかった。

そうしてドラゴンが完全に死んだことを確かめてから剣のところに近寄った。ドラゴンが死んだためか剣はうなりをやめて大人しくなっていた。

僕がドラゴンスレイヤーの剣を引き抜くとそこからは黒い血のようなものがドロドロと流れてきた。

もう僕は疲れ果てていて、後ろで座っているヤシンタのところに行ってなんだか子供みたいに「膝枕して」と口走ってしまった。

案に相違してヤシンタは「いいですよ」と膝枕してくれた。そして「私の旦那様は英雄になったよ。竜殺しの英雄。ランスロット卿と同じ龍殺しの英雄よ」と節をつけて子守唄みたいに歌ってくれたのでもうすぐに眠ってしまった。

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