モリガンの求婚
僕たちはマーリンの塔を辞して、キャメロットに向かって順調に旅路を進めていた。
もう少しでキャメロットにつくよねってところで急に道の前に女の人が走り出てきた。
びっくりして僕は馬を止め、馬車にも止まれと命令した。よく見ると黒髪に緑の瞳をした娘でどこか見覚えのある人だった。
僕たちの前で彼女が止まったので僕が「どうしたのですか?」と聞いて見ると彼女はいきなり「クラッド、私と結婚して!」と言った。
訳がわからないので「一体どういうことですか?」と聞いたら彼女は覚えていない?あなたは私のものなのよとこちらに近づいてきた。
とその後ろから赤毛で金の瞳をした女性が「クラッド、お前を殺してやる!」と言ってきたので(あ、これはヴィヴィアンだ、ということはこの娘はモリガンか)と気がつく事ができた。
馬車から顔を出してヤシンタが「クラッド,一体どうしたの?」と聞いてきたが、僕は「危ないから馬車の中に隠れて」と叫んだ。
モリガンは「あのおじゃま虫、いけすかない女はそこにいたのね!」と嬉しそうに声を上げた。
とりあえず魔法攻撃を防ぐために馬車にグレータープロテクションをかけた。モリガンは氷の呪文,アイシクルランスを馬車にかけてきたが、何とか防ぐ事ができた。と、その隙をついてヴィヴィアンが僕にウィンドブレイドの魔法をかけてきた。一瞬早くゼフィルスが避けてくれたのでなんとか無事に回避できた。
これは大変と僕はゼフィルスを馬車のそばに寄せて馬車と馬ごとグレータープロテクションをかけた。
もう二人でこっちに遠慮容赦なく魔法をかけてくるのでプロテクションの魔法が壊れるたびに掛け直すという耐久レースの様相を呈してきた。一人で二人の魔法を避け続けるのは大変なのでヤシンタにもプロテクションを手伝ってもらう。
前方のプロテクションは向こうからの魔法攻撃で破られるので僕が素早く掛け直し続け,それ以外の方向はヤシンタにプロテクションをかけてもらって隙間のないように防護して結界を作り出した。
結界が確立するとプロテクションの相互作用で防御能力が格段に向上する。
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それに気づいたモリガンとヴィヴィアンは魔法攻撃をやめた。
モリガンは「どうして私の話を聞いてくれないの?」と言ってくる。
「どうしてってそりゃあれだけ魔法攻撃を仕掛けられたら話もできないじゃないか」と返事する。
モリガンは「私はクラッド様には攻撃なんてしていないわ。あの邪魔者女を弾き飛ばしたいだけよ。アーサー王のところに行ってクラッド様と私との結婚のお許しをもらいにいきましょう」というものだからヤシンタはブチ切れている。
「誰が邪魔者女よ!クラッドと結婚するのはこの私なのよ!あんたみたいなぽっと出の新人みたいなのにあれこれ指図される謂れはないわ!」と叫ぶとヴィヴィアンが「そうそう、王女様を殺すなんてよくないことです。殺すのは平民のクラッドだけでよい。クラッドだけ出てきたら私の電撃で殺してあげましょう。さあいらっしゃい。勇者なんでしょう?勇気を持って出てくればいいのよ。それとも臆病者かしら」とか言い出す。
そんなあからさまな誘導に誰が乗るものか。
向こうではモリガンが「『クラッド様を殺してしまったら元も子もないでしょう』って何度言ったらわかるのよ!」ってヴィヴィアンに怒鳴りつけている。
とりあえず二人で意見を統一してから話して欲しいものである。
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解除魔術を向こうが連発してくることを考えてこちらでは向こうが喧嘩している間に結界を多重化して防御力を増強しておく。
果たして向こうからは解除魔術がたくさん飛んでくる。しかし、五重に張り巡らした結界では普通の解除魔術程度は寄せ付けなくなっている。
大量の解除魔術を投擲しても無効であるということでモリガン側からの魔法射出はまた一旦止まった。
こちらから攻撃魔法をかけると中から結界を壊すことになるのでこちらからも魔法はかけられず、膠着状態である。
そもそもこちらからモリガンとヴィヴィアンを傷つけるつもりはさらさらない。
いや無理だろうとは百も承知なのだが、このまま諦めてアヴァロンの自分の住処に帰ってくれという気持ちで一杯である。
モリガンはまた僕に出てきてって言っているけれど、その横ではヴィヴィアンが攻撃魔法を打つ気マンマンで待機しているのである。そんなの出て行けるわけない。なのでこちらからの返事は「NO」しかない。仮にヤシンタが出ていったらモリガンが攻撃魔法を打ち込むことは間違いない。
残る方法は肉弾戦になるのだが、いくら結界を敷いていても物理的攻撃は止めきれない。けれどもモリガンもヴィヴィアンもヤシンタ程ではないにしても肉体的にはか弱い女の子という範疇である。もし物理的攻撃を試みても多分それは僕一人で二人分の攻撃を受け止められるレベルになるだろう。
つまりはこう着状態である。
我慢比べになるわけだが、これは先に焦れた方が負けになる。
僕はもう仕方がないので馬車の方に移ってヤシンタとキスでもしようかとイチャイチャしていたのだが、運悪くそれがモリガンにもヴィヴィアンにも見えてしまったらしい。
「なんで破廉恥なの!あいつらにはお仕置きが必要よ!」というモリガンの声が聞こえ、「そうですわ、おひいさま」というヴィヴィアンの返事があって、どうやら「異界の門」の呪文を二人で別々に唱え出したらしい。
思わず「詠唱をやめろ!」って叫んだのだけれど、彼女らは全く詠唱をやめようとはしない。
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「異界の門」の呪文はダノター城でアークデーモンが生贄を放り込むために開けたような外世界への門を開けるものである。
多分優等生的な彼女たちは僕たちバカップルを異界の門からアウタースペースに送り出して「反省するのだわ」と言いたいのだろうと思う。
実際には五重結界であればアウタースペースであっても防御可能なので何の問題もないわけであるが。アークデーモンを異界の門に送り込んだバインドの呪文を使えば彼女らが僕たちを異界の門に放り込もうとしても結構抵抗できるから異界の門に入るかどうかもまだわからないわけである。
問題は、異界の門を二重詠唱したときである。この時は呪文同士が干渉しあって門ではなく異界との裂け目ができてしまう。「門」であればまだコントロール可能であるが、アウタースペースと繋がる次元の裂け目になるとどこに連結するかはわからない。完全にランダムに結合してしまう。それでも僕たちのように結界を構成して防御していれば良いが、なんの防御もしていない術者が次元の裂け目に落ちてしまえば台風の時に吹き飛ばされる紙のようにどこに向かうかわからずに押し流されて迷子になったりひどい時にはロストしてしまうこともあり得るわけである。
そういうことで「異界の門」の二重詠唱が行われていることで僕はもう生きた心地もせずに詠唱が終わるのを待っていたのである。
先にモリガンの詠唱が終わり、異界の門が形成され始めた。その後すぐにヴィヴィアンの詠唱が終わると形成され始めていた異界の門が白く輝き,光が広がるとともに風景が帯のように裂け始めた。
(ああ、言わんこっちゃない)
と、こちらにも激しい衝撃が襲った。結界ごと僕らは浮き上がり、下ではモリガンとヴィヴィアンは別々に次元の裂け目に落ち込んでいく様子が見えた。反対側ではキアンが呆然と立ち尽くしていたが、幸い次元の裂け目はキアンのところまでは来ずに彼は助かったようだった。と、ヴィヴィアンの落ち込んだ次元の裂け目には一筋の光芒が見え、多分その光はヴィヴィアンを追いかけていたようだった。
次元の裂け目がはっきりしていたのは十数秒くらいで、結界がゆっくりと地面に降り立つ頃には裂け目はすでに閉じてしまっていてあたりは普段と変わらぬ姿に戻ってしまっていた。




