プロローグ
ポタッ、ポタッ…
天井から滴り落ちる水滴で目を覚ました。
ここはどこだろう、というか私は誰?
何も思い出せないまま
頭だけ動かして辺りを見回すと自分がいるのは洞窟で、何やら外で戦闘が行われているらしい。吶喊の声や剣戟の音が風に乗って流れてくる。
もちろん、誰と誰が戦っているのかすらわからない。
頭を支えるのに疲れて再び上を向くと洞窟は上に抜けており、その開口部から赤く染まった満月が見える。
その満月から降り注いでくる光も怪しい赤色でありまるで血のようである。
その光に含まれる魔力が全身に回り出す。
星辰の刻は満ちたのだ。私は無意識のうちに腕を振り上げ、戦っている方に指先を向ける。
と、指先から赤い閃光が迸り、戦闘していたものはその姿を消した。
私の意識はぼやけて薄れてゆく。
「な、何事が起こったんだ?敵が全部消えたぞ!」
「姫様、助かりましたね。けれどもまだここにいてください。私はあの魔法の素を調べてきます」
洞窟の前で戦っていたローブの男は不意に魔法が飛んできて追手が一瞬にして消滅したことに驚いていた。とにかく姫君は安全な場所に置いてから魔法の発生源を調べに行くことにした。魔法が飛んできたらしい洞窟の中を覗いてみるとそこにはまだ5〜6歳にしか見えない男の子が倒れていた。
明らかに赤い月の魔力が大量に体内を巡っていることは感じ取れる。
「魔力の暴走かな?十人以上の敵を一瞬で消滅させたのだからそれにしてもすごい力だ」
とにかく、魔力の暴走を止めるために赤の魔術には封印をほどこそう。
そうして彼を抱え上げて姫君の元に戻ったマーリンは「では姫君、安全な隠れ家にお連れしましょう」と意識のない子供を抱えながら自分の塔に連れて帰ることにした。