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燃え盛る神殿

「今日はとにかく、岩戸へ行っても無駄だと思いますよ……」


アメノウズメは眉を寄せてため息を吐いた。


「そんなにお怒りなのか?アマテラスさんは」


「元々お怒りですから、さらにお怒りになられているということは、最悪殺されてもおかしくありません」


その言葉に初めてゾッとした。

いや、神の中の神が人殺しなんて、にわかには信じ難い。


「神が人を殺すの?」


俺がたった今思っていた疑問を和巳が言った。


「何言ってんだお前?神だからこそ、人を殺すんだろ」


虎太郎がハッと鼻で笑って言い、続けてサイラスもさぞ当たり前のように声を出した。


「確かに。イエスキリストも、大量の人間を殺していると言われているからな。」


初めの頃、彦が、

"人間は神というものを勘違いしている"と言っていたことを思い出す。

人間は誰でも神頼みをしてしまう生き物だ。

そして叶わなければ、勝手に神に裏切られただの見捨てられただのと失望したり憤慨したりする。

神達が人間をよく、儚く愚かで自分勝手だと喩えるが、まさにその通りだと思う。

殺されてもおかしくないかもな……

そもそもアマテラスさんは神にまで神頼みされて疲れきって引きこもりになっちゃったわけだしな。



「う、うわ……!」

「これが……例の岩戸?」


ついに岩戸に到着した。

が、どう見ても簡単には開けられないと確信した。


それは天を貫くほど高くて大きく、頑丈なまじないが掛けられている、強力なオーラを滾らせている岩戸だった。

まさに、"次元が違う"

この言葉が今までで一番当てはまる存在と言えるほど、圧倒的な存在感を醸し出している。


「で、でも……怒ってる感じはしないけど?」


「中に閉じこもっているわけでしょう?

実際に開けてもらってお会いしないと何も分からないよね」


駒子がそう言いながらゆっくりと近づいて行った。

しかし、岩戸に手を伸ばした瞬間、ビリ!!と勢いよく弾かれてしまった。

まぁここらへんまでは想像の範疇だ。


「怒りが大きいと、結界も強力になります。普段はここまででは無いのですが。」


「そうだな。私が今まで2度訪れたときとは確かに違う。」


アメノウズメとサイラスが眉をひそめた。



「それと、私が先程申した、近寄れないというのはここではありません…」


「へ?どういうこと?」


確かに、今日やめた方がいい理由は、近寄れないからだとアメノウズメは言ったが、実際今こうして普通に来ることが出来た。



「この先が……問題なのです…」


「え?この先にまだなんかあんの?」


「私には分かるのです。この岩戸を開けられたとしても、アマテラス様には近寄ることができないと…」



アメノウズメが言いにくそうに言葉を濁した。


意味がわからないが、行ってみないことには何も始まらないし、分からないまま引き返すことは出来ない。

ここまで来たんだ。



「はぁ…じゃーどぉするよ?リーダー」


虎太郎の言葉に、俺は初めから考えていたことを言った。


「強行突破だ」


「「「?!?!?!」」」


案の定、全員が目を見開いた。

が、神だろうがなんだろうが関係ない。

自分たちの大切な人たちが危ない、仲間が危ない、住む世界が危ない。

向こうから出てきてくれるのを待ってたんじゃ何も変わらない。

手遅れになってからじゃ遅いんだ。



「三種の神器でここを一気に叩き割る」


「っ!!そっ、そんな無茶なっ……!」


「無茶でもやるんだ。

この世に不可能なことなんて……ないからな」


俺は、八尺瓊勾玉を持っている和巳と、八咫鏡を持っているユーゴの背を押した。

トラの背の上で、まだ体調が戻らないらしい葎が、草薙剣をそっと俺に渡してきた。


和巳は当然不安そうな面持ちで突っ立っていて、ユーゴはやる気に満ち溢れた正反対の表情をしている。

俺は草薙剣にグッと力を入れ、

「いくぞ」

そう一言言った。

和巳もユーゴも力を入れたのがわかるほど、空気が一気に揺れるのがわかった。


「いち、に、さんでいくぞ!」


2人が頷いたのと同時に、1から数える。

大丈夫だ。

死にはしないだろ。

いや、死んでも神をここから引きづり出す!


「いち……にぃ……さん!!!!!」



ガゴン!!!

思わず耳を塞ぎたくなるくらいに、それは嫌な音を立てて脳裏に何度も響いた。

頭がかち割れそうなくらいに嫌な音すぎて、俺らは一瞬気を失いそうになった。

跳ね飛ばされて尻もちを着いてしまったため、3人で支え合って起き上がると、駒子と虎太郎が手助けしてくれた。

そして……


「皆でやろう。三明の剣も他の剣も全部使って。」

「その方がパワーが数倍になるはずだろ」


俺たちは各々の持つ剣、駒子の大通連、虎太郎の小通連、和巳の鬼切丸、サイラスのエクスカリバー、そして俺のソハヤの剣。

それら全ても駆使して同時に立ち向かうことにした。


「いいか、皆。めいっぱいだ!本気で叩き割る気持ちで行くぞ!ビビらずに!」


「はっ、誰に言ってんだよ。本当はお前が一番ビビってんじゃねぇのかぁ?」


「っ!あぁ?ビビってねっつの!」


年下のくせにほんっとーに可愛げの欠けらも無い奴、虎太郎って!


「せーーーの!!!」


バリリリリリリリリー……!!!


「えっ?!?!」


少しだけヒビが入った。

それに1番驚いているのはやはりアメノウズメだ。


「し、信じられない……っ」


「おし!もーいっちょいくぞ!せーのっ!!」


ドガガガガー……!!!


俺らは何度も何度もこれを繰り返した。

ついに、人一人分くらいは辛うじてくぐれる穴を開けられた頃には、俺らはハァハァと息を切らし、両手を地についていた。


「つ……ついに……」


俺は肩で呼吸をしながら、その穴にゆっくりと近づいた。

恐る恐る覗いてみる。

そして、目を見開いた。


そこは完全に、文字通りの異次元だったからだ。


1人ずつくぐり、中に入る。


辺り一面には色とりどりの花が咲き誇り、所々に草木や美しい川がある。

鳥のさえずりや風の音が甘美な音を立てて鼓膜を揺すり、相当な気合いをいれていないと一瞬で眠ってしまいそうだと誰もが思った。


「危険だな、ここは……」


皆が言葉を失っている中、デンだけがそう呟いた。


確かに……と誰もが思う。

この心地良さに酔いしれて、きっと1度入ったら出たくなくなるその気持ちはわかるし、ここは本当に、かなり危険な場所だと感じた。



俺たちは特殊なせいか、強靭な精神力を持ち合わせているのかなんなのか、とにかく何とかして進んでいくことはできた。

そして目的に近づいているのがすぐに分かった。


なぜなら、凄まじい圧と、呼吸を妨げるような空気の揺れを身をもって実感したからだ。


そしてなにより……


「異様にあっつい…なんなんだこれ…真夏の気温だ」


セミの鳴き声が聞こえそうなくらい暑く、俺らは全員上着を脱いだ。



「まさか…っ…アレか…!?」



見えてきたのは、想像とは全く違うもの。

それは、燃え盛る神殿だった。


凄まじい熱風がこちらに飛んでくる。


「これはっ…思ってたよりヤバいよっ!どうするの?!」


じんわりと汗を浮かべながら和巳が叫んだ。


「だから近付けない状況だと言ったではありませんか!」


アメノウズメも裾で口を覆いながら後ずさった。


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