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後編

〇空夢堂ライトノベルフェス

 神田神保町古本まつりについての説明は最低限にしておきたい心は実物を成功させようと日夜準備し努力されたる方々にご迷惑をかけたくないのもあるがなにより本作において関連し影響の軽微の要素を除くなら残るのは「人出がとんでもない」が筆頭となるだろう。さくら通りやすずらん通りにて行われる各種のイベント屋台出し物やワゴンに並んだ掘り出し物の途方もない古本古書の数々たるや筆舌に尽くしがたい価値を放ちたるものであるのは重々承知の上でまあもの凄い人で混雑してまともに歩けないよねというこの一点をまずはお伝えせねばなるまい。その人出人混みに乗じて既存の一書店が一念発起しライトノベルの威を借りて古本でもないのにイベントスペースでライトノベルフェスと銘打ちコスプレやら生朗読やらサイン会などを固めて開催し販売促進に打って出たるは腑に落ちることである。書店の名は空夢堂といい勝山マキの母親である兎子の勤め先である。普段は大人しく奥ゆかしいしかし巨乳ぶりは隠せない兎子はコスプレ朗読要員に抜擢され断りきれず服装の案もどんどんとセクシーに傾きたれば秘められ抑圧していた兎子本来の露出癖という性的嗜好は大いに刺激され熟女は興奮し発情した。今こうしてイベントスペース裏の待機場にいる兎子はしかし昨夜念入りに竜太郎にチェックされた逆バニーマイクロビキニと乳首ステッカーではなく熟女セーラー服である。着替えてきた兎子を見るなり小次郎とマキは何だい昨夜の散々のお楽しみは単なる余興であり前戯であって本当はスーパーミニとはいえセーラー服ですかまんまと一杯食わされ前戯に付き合わされたと舌打ちするが付き添いの竜太郎が兎子の横に立ち兎子の尻を撫でながら「昨日のを店長に見せたら即NGが出たんで仕方なくB装備なんだわ」と言うので二人はしぶしぶ納得した。「でも上はノーブラだし下は昨日のローレグだからむしろエロいとも言える」と竜太郎は誇らしげに言うと兎子へスカートを捲って下のマイクロローレグビキニを二人に見せろと高圧的に命令し兎子は恥ずかしそうにしながらも喜びに打ち震え小次郎とマキはまたかよと舌打ちした。おずおずと兎子は自分の手と意思でスカートの前を持ち上げていくとツルツル無毛の恥骨部分が待機場のボンヤリとした灯に照らされ妖しく輝く。マキの後ろを通る何人かが物珍しそうに覗き込むと兎子は見られる興奮と歓びにまた打ち震えた。後ろから尻はずっと竜太郎に揉まれたままである。充分に見せつけられ当てつけられ食傷となり鼻白んだ小次郎とマキであるので兎子の生朗読ステージ登場までにはまだ一時間以上あることから先にこのビルの二階にあるカフェを見に行って白灰がいないか確認してみようということになった。竜太郎がそのカフェでよく似た格好の人物を目撃したという情報によるものである。少しずつ大オニに近づいているような気がして小次郎の心中は複雑であった。せめて竜太郎が浦島太郎となって共闘してくれるのではと期待したのも束の間であり彼はアッサリとオニ退治を拒否したので俺だって戦いたくないし何で俺だけいきなり小さくさせられて大オニを退治しないと戻さないなんてペナルティーを課せられるのか竜太郎は竜の珠とやらを取り返さなくても何の不都合もなく今ものうのうと熟女の尻を撫でたり揉んだりしているではないか俺だってマキちゃんのオッパイを撫でたり揉んだりしたいのに不公平ではないか、しかしながらオッパイを揉むか尻を撫でるかそれが問題だなどと言っている場合ではなくそもそもオニ退治といえば桃太郎や金太郎なのではないか一寸法師はアベンジャーズで言ったらまんまアントマンだしエックスメンならせいぜいトードくらいだし水星の魔女だとヌーノかオジェロであろうからキャプテンアメリカやウルヴァリンやスレッタマーキュリーのような活躍は求められていないはずであるしむしろ活躍してしまったら邪魔になるだろう。そんな卑屈な考えに囚われたまま再びのおくるみさんペンダントチャーム状態でマキの胸で揺れている小次郎なのであるがそのマキといえばもう十月末なのにも関わらず半袖ニットの中ではノーブラの乳房が元気よく縦にプルンプルンと歩くたびに踊るように揺れミニスカートから伸びる生の太ももは行き交う男たちの視線を独り占めしている。エスカレーターを二階で降りて文芸コーナーを抜ければカフェ「コンフリクト」が見えたのだが遠目に見るだけでも店の外に並べられた椅子にすら座れぬ行列が出来ておりマキは「さすが古本まつり中だね」と苦笑した。このカフェ以外にも休憩できそうな場所や店舗はどこも溢れるほどに満員満席であろう。もちろん二人は休憩をするために来たのではないから店の外からさり気なく混雑ぶりを確認する風を装い店内に白灰が来ていないか見ようとした。何という偶然か僥倖、小次郎にとっては不運か皮肉なことに割合いに店舗入り口に近い席に白灰の姿を認めた。更に輝美と斧熊も同席しておりマキはクラスメイトの照美がなぜ白灰と一緒なのか彼らの関係性を知らぬので不思議がった。輝美もマキのことはもちろん知っているのであるから顔を合わせる訳にはいかず輝美が気がつく前にマキは小走りでオッパイをプリンプリンしてカフェを後にした。「ほいじゃ出番だよ一寸ぼーや君」とマキに囁かれれば本来アベンジャーズなどでも偵察とか潜入とかで活躍すべきよなアントマンなどはと思案しながらおくるみを脱ぎ解きタイミングをピタリ合わせ飛んできたお椀の船に飛び乗ってお馴染み一寸法師の形態でポーズを取った。読者諸賢におかれては如何に小ささが売りの一寸法師とはいえ全長は三センチほどあるのだからお椀に乗って飛んでいる様子はカブトムシやセミなどが飛んでいるくらいの存在感を放つものとご高察なさるかもしれぬが小次郎もそこまで阿呆ではなく昨夜マキの部屋で隠密行動の限界を二人で試行錯誤したところによればお椀による空中移動は想像するよりも遥かに速いスピードを出せるものでどこまで速くなるか小次郎本人でも分からず怖いくらいであり止まる時も何のショックもGも受けずにファンネルかガンビットのようにピタッと止まることができた。マキの目の前でまあまあのスピードで部屋を往復しても「速すぎて見えない」ということが証明されているので小次郎は自信を付けておりカフェ店内への潜入も人間の目では追いきれない超高速で移動し物陰に入れば見つからずに諜報できるのではと企てたのである。但し斧熊という男は輝美の付き人らしく対オオオベニドゲザの場でもメタルヒーローや装着バトルスーツもの風で金太郎的なものを感じたので油断できずなるべく彼の死角に入るように見計らっていたがその斧熊が「ウッ」とうめいてテーブルに突っ伏するのでチャンスとばかりに自慢のお椀を走らせ目にも止まらぬスピードで白灰輝美斧熊三名の席の隣テーブルの下に入りピッタアっと止まって三名の様子をそっと見上げれば可憐な見た目の輝美の右踵がローリングソバットのごとく斧熊の股間にクリーンヒットしていたのである。「痛そう! あ、それよりどんな状況?」と小次郎はテーブル下で起きている暴力沙汰バイオレンスに釘付けとなり叫び声も上げず二発三発と受け続け避けも防ぎもせずただ黙って耐え忍んでいる斧熊を尊敬もした。どうしてこうなったのか知りたかったがどうやら輝美の硬いブーツの踵による金的蹴り攻撃は会合の終焉を知らせる鐘の音でもあったようで白灰は「じゃあアッシはこれにて失礼つかまつる。ごゆっくり楽しんで」と嫌味を含んだ物言いで席を立った。ここでの小次郎の逡巡をご想像いただきたい。手筈通り真っ当に白灰を尾行しまずはアジトを突き止めるべきなのは百も承知しているのだが、お嬢さま系JKに衆人環視の中テーブルの下で靴のまま股間をガンガンにやられているマッチョ大男への興味をそう簡単に断ち切れるものであろうか。もしここで白灰を見失ってしまったら自分は一生を一寸法師のままで過ごすかもしれないのだが、それでも、なぜあの大男は股間を蹴られているのか、なぜあのJKは股間を蹴っているのか、いつから蹴っているのか、いつ蹴り終わるのか、と疑問は尽きることは無かったが歯を食いしばって葛藤したのち、後ろ髪を引かれながら泣く泣くカフェを後にして白灰の白衣の背中を追った。

階段で一階に降り、スタッフルームの脇をずんずん進み、通用門のような裏手のドアから外に出たかと思えば暗いアーケードのような倉庫へ続く通路になっていて部外者はまず入れないしこのような暗い小道が神保町の路地裏になるなどとは知る者はほとんどいないであろう。しかもかなり古い構造物で地下へと続く階段があり僅かな非常灯の光も届かないような暗がりを白灰は慣れた様子で迷わずに進んでいく。お椀で天井付近を蜘蛛の巣を避けながら浮いて後をつける小次郎には何のための地下施設か分からなかったがずいぶんと贅沢な空間の使い方であり昭和くらいに金持ちが倉庫かあるいは防空壕などとして使用したのかもと根拠もなく想像した。降りも降りたり地下三階まで来て白灰がある扉の前で止まりボロボロの郵便受けに偽装されていたコンソールボックスを開き指紋認証などを操作すれば古びて表面はひび割れとても人力では動かせようもないような外見の両開きの扉がスーっとスムースな挙動で自動で開いたのを見て小次郎は廃墟のような見た目はフェイクで実際には近代的な改装が施されていることに驚いた。もちろん入室した白灰に扉を閉められてしまってはいくら一寸法師の小ささといえど潜入には苦労しそうな近代的な設備のようであるから今度はお椀の船のスピードを緩め白灰の頭のすぐ後ろにまで距離を詰め口の中で「忍法、影隠れの術」と呟けば気配を感じたのか白灰パッと振り返り「……気のせいか」と何者も空間に認めなかったのは小次郎が猛スピードで白灰の振り返る頭の動きに合わせて真後ろの位置をキープし得たからでありこの術は尾行対象が複数名いるケースでは使用できないものであった。なおお椀の船が浮かび飛ぶ際には全くの無音であることも驚くべき怪異であり霊験である。さて室内といえば廃ビルのうち捨てられた地下施設のような外観からは想像もつかない程に明るく衛生的でありその実態は白灰の人体実験施設であるため多種多様な薬品がそこかしこに整然と並べられ実験や測定をするための機械装置の類が自我を持った研究員のごとく無言で蠢く様はさながらネオ東京でアキラ君他少年少女を実験にかけたラボやドクターマシリトのサイボーグ実験やデロリアンを完成させたドクの研究施設のようなある種のいかがわしさと仄暗い好奇心を呼び起こすことを小次郎は否定できなかった。うら若い女性が囚われて淫らでいかがわしい実験にかけられているとなれば尚更であろう。囚われているのはもちろん吉備野桃であり今まさにいかがわしい人体実験の被験体となっている。桃の若々しく鍛え上げられた体育大学の女子大生的なボディからは和彫の入れ墨の形態であったイヌサルキジ三体のオニが踊るくべきことであるが桃から分離されイヌサルキジそれぞれが実体化しているのである。それだけでも出色の実験成果であろうが小次郎が目の当たりにしているのは単なる実験ではない凌辱である。謎のいかがわしい装置に跨がされて桃は縛られた両手を高く吊られ刺青状のオニ模様が綺麗に除去された小麦色の肌は快感により朱に染まり玉のような汗が止めどなく伝わり落ちる。全身素裸であるが特に小次郎の目を引いたのは両の乳房で昨日の教室にて颯爽と現れた末の返り討ち快楽堕ちした時に見た刺青オッパイより巨大化しており三倍ではきかないほどに膨れ上がっていてよくある人体改造もののような身長の倍以上あるような極端な大きさではないもののシリコンを入れすぎたアメリカの大物ポルノ女優のようにパツンパツンでバインバインでありJカップかKカップくらいありそうであった。ショートカットでもあるので全盛期のMEGUMI氏を思い出す同好の士もおられよう。小次郎としてはマキのナチュラル巨乳が何よりも大好物であるのはもちろんであるが日によっては特に満月近くなどはやりすぎているくらいの極端なハードコアを求めて海外サイトを彷徨ってしまうことも少なくはなかったのである。その右の乳首を熱心にペロペロと舐めしゃぶるものがいる。名を「ポメグルマン」といい見た目はポメラニアンを二足歩行にしたような可愛らしさとあざとさを曲解したような邪悪な存在であるが実態は桃に取り憑いていたイヌのオニであり名付け親は白灰である。左の乳首は鳥類のフォルムをしたオニであり当然キジであるが大きさはムクドリくらいであり本物のキジを見た際のような恐ろしさや迫力はまるで無くスカイランドのプニバード族を少し細く小さくしたような緩い外見で名は「ぶっ飛びくん」という。こちらのセンスももちろん白灰由来のものである。左の乳首をさっきから盛んに鳥の硬いクチバシで突かれついばまれ桃は否が応でも性感を刺激され呻いて身をよじっている。最後にサルのオニはといえば謎の実験装置の前に設えたる座席に座りモニターを睨みながらマウスやキーボードを軽やかに操作する一匹のメガネザルが見えこれが名を「ちょうメガネ」といい桃への人体実験のプロジェクトリーダーも兼務するサルのオニであった。桃は鋼鉄でできた機械仕掛けの三角木馬に跨り太ももや足を固定されておりサルは桃の頭部に取り付けられたセンサーから性感や発情度合いを読み取り木馬の角度や振動を微調整している。白灰もモニターを覗き込むとニヤニヤと嫌らしく笑いながら何やら指示を出し桃に嬌声を上げさせてはグヘヘへと笑った。小次郎としては桃にも白灰にも性的興味はそれほど感じてはいないのであるがそこは年ごろの男子であるのだからエロはいくらあっても困らないのであって可能な限り女体改造実験もののエッセンスを吸収しておきたいのではあるが桃がようやく苦しげに口を開いたかと思えばその内容が「くっ、殺せ」だったのでこの続きは別に見なくても良いのではと首を傾げた。ついでに第一優先であるところの「打出の小槌を探す」に行動を移したかったのだが軽く見回してもそれらしいものや貴重品を仕舞うような設備は見当たらないのでやはりこのスペースは純粋に人体実験を愉しむためのものだろうと小次郎は結論した。白灰が愉快であるのは自分がカフェで休憩している間に桃のメンタルが「くっ、殺せ」を言えるくらい回復したかららしく先ほどまで「ぶっ飛びくん(キジ)」につつかれていた乳首を指で揉み親指の腹でグリグリ按摩しながら桃の耳元で「ほらほら、どうした? もっと強がってよ」と囁けば桃も甘ったるい声で「ああん、ダメェ〜、乳首は感じすぎちゃうのぉ〜」と早すぎる屈服を見せそれを聞いた白灰は興奮するのか桃と唇を重ね情熱的なキスを始めた。白灰がキスの間に乳首から手を離せばまた少しメンタル回復するらしくキスでウットリした顔を根性でキッと引き締めまた「くっ、殺せ」と繰り返す。白灰がギラギラした顔でまた乳首を捏ねくり始めると「乳首だけはあ〜、かんにんしてぇ〜、後生でございますん〜」という感じに豹変し身をクナクナさせその落差と堕ちるスピードによって興奮が増すらしい白灰はいよいよ服を脱ぎ出し華奢で幼女体型の上半身と小次郎の位置からは影になって見えないが自らえげつない改造を施したらしい下半身とで三角木馬から桃を降ろして覆い被さっていくようで桃の甘くあられも無い喘ぎ声が聞こえ出すとこんな形で咲く百合もあるのだと小次郎は感心した。「ポメグルマン(イヌ)」と「ぶっ飛びくん(キジ)」は引き続きプレイに参加しているのに対し「ちょうメガネ(サル)」は仲間はずれなのか椅子に座ってモニターを監視しているのであるが白灰による桃への責めが本格化しようとするタイミングでモニターの向こうに異変あったらしくお楽しみ中に水を差すのを大変に恐縮しているようでオズオズと白灰にキャッキャッと声を掛ければ白灰は気だるげに面倒くさそうに体を起こし「これからって時に……」と毒づきながらモニターを覗き「ありゃ、もう始まっちまいやがった」と独り言ちた。「つっても、桃っち実験が完成するのにあと二日は掛かりそうだし、今回はパスっすね、タップリ楽しみましょ」と桃に上から声を掛けるが床に寝かされているらしい桃の声は「ああ〜、もっと〜、白灰さまぁ〜、もっとしてぇぇ〜〜!」のようなまるで理性が失われた調子なので小次郎も桃個人が幸せなら精一杯の祝福をするしかないよなと肩をすくめた。さてモニターに何が映ったのか気になりそっとサルの後ろから覗き見たればラノベフェスの会場に灰色のヌラヌラした触手状のものが大量に発生し来場者を追いかけ回している。出入り口を塞がれているらしくそれほど広くもないイベントホールは地獄のような様相で言うなればネトネト触手地獄だろうか。この中には兎子や竜太郎もいただろうし、何よりも二階のカフェで別れたマキも戻っているかもしれない。小次郎は冷水を浴びせられたように青くなり大慌てで白灰の実験施設を後にした。


○カチカチ山にはカチカチ鳥

 斧熊は眼前に広がる地獄のような光景を「ヌタウナギの踊り食い」と評した。ただし食われるのはウナギではなく人間であり、もっと言うなら人間のオスだけである。ヌタウナギ状のオニは空中を自在に飛び回り逃げ惑う男性の口から入り込み内蔵を食い荒らしてまた口や眼窩から顔を覗かせその身体を乗っ取り次にすることは女体への陵辱である。目や口からヌタウナギをニョロニョロさせた元人間男性はヨタヨタとゾンビのように歩き回り女を求め追いかけ回す。もっと言うならヌタウナギと呼ばれるものの生物分類学上はウナギの仲間ではないことはご存じであろう、ヤツメウナギなどと近縁の極めて原始的な生物でありその見た目は人間に根源的な恐怖と嫌気を催させる不快なものである。体長は一メートルほどでありそんなものが空中を飛び回って人間に襲いかかっているのだから斧熊ですら顔をしかめ目を背けた。マキと兎子の親娘、そして竜太郎は三人一組となりその不快生物の襲来に翻弄され続け恐怖に慄いていた。四方八方、上から下から、何処から襲ってくるか分からない空飛ぶ怪物にマキは乳房の谷間に下から入り込まれネトネトする粘液を擦り付けられては身をよじって叫び声をあげながら振り落とし、兎子の尻の割れ目も同様に一匹のヌタウナギオニが割入って粘液で股間をベトベトにすれば必死の形相の竜太郎はこれを引っ掴んでなるだけ遠くへ投げ飛ばす。程なくして女二人は顔と言わず乳と言わず尻と言わずどこもかしこも白いトロトロの粘液まみれとなった様は片栗粉を解いたものでバスタブいっぱいにするようなやりすぎたぶっかけもののようであった。そんなマキの粘液が鼻ちょうちんみたいに空気で膨らむような状況の顔を竜太郎が素手で手荒くグイッと拭ってやるとようやくマキも目が開き呼吸ができるようになり「すまんす」と言いかけるもまた新たなヌタウナギに頭をグルグル巻きにされ粘液をなすりつけられ苦しげに呻いている。「どういう訳か、亀割クンには襲ってこないのね」と兎子が乳首に吸い付くヌタウナギを引っ張りながら訝しむと「確かに、何でだろう。他の男性はみんな内蔵とか脳みそを食べ尽くされてるのに」と竜太郎も兎子の股間を狙うヌタウナギを掴みながら答えるが竜太郎に掴まれたヌタウナギは「キュー」とか「キャー」みたいな鳴き声を出すだけで全く無抵抗で投げ捨てられていく。「やっぱ浦島太郎系だから魚介類に強いんじゃないガモガ」と軽口の途中でマキはまたヌタウナギに顔面をネットリさせられ黙らされ言われた竜太郎は「一か八かやってみるか」と掴んだ一匹のヌタウナギの頭部を自分の方に向けさせ話し合おうとしてみたがヌタウナギの顔とはザ・原生動物というような奇怪さで目は退化し顎は無く口が丸く開く周りに口髭というか触手みたいなのが六本生えているのでエイリアンや宇宙生物の如くでありとても直視できないとやはり投げ捨てるしかなく何でも話し合いで解決できるものではないという気づきを得た。「でも、やっぱり亀割っちはお母さんが選んだだけあって優しい人だったね。もう少し勇気があるともっとよかったけど」とマキは決意を込めた言葉で言えば「今言う?」という顔を兎子は一瞬したが娘の乳首にぶら下がるヌタウナギを引っ張りながら「何言ってるの、大人をからかうもんじゃありません」みたいなテンプレートなリアクションを思い出したように示せば「お似合いのカップルだよ。きっとお父さんも天国で喜んでると思う」と寂しげな目で粘液まみれだが呟くとマキのこの機を逃さず母親の弱みに付け込もうという意地悪の決心は兎子にも伝わるものがあるらしく「マキが成人するまではお母さん彼氏は作らないって決めているのよ、だからマキも……」とマキに恋愛を解禁したらセフレをいったい何人作るのかあるいはパパ活やら援交やらでこいつもう家に帰ってくるかさえ分かったものじゃないという思い込みからで本人は心配しているつもりなのであるが「お母さんの幸せは! どうなるの?!」と声を荒げ「お母さんも彼氏を作って幸せになってもいいんだよ? あたしはあたしで好きにやるから」と本音を覗かせれば兎子も「いつまでも子供だと思っていたのに……、あなた、マキは立派に成長しているんですよ」と斜め上を向いて涙ぐみ竜太郎は「元の旦那さんって亡くなったんでしたっけ?」と前に聞いていた話との相違を指摘するも二人は答えなかった。急な親娘の和解に更に涙目で横から入ってきたのは巫女姿の金髪の女児であり正体は大黒天の写身である。親娘和解して今後は適度な距離感で自由恋愛に移行という茶番を本当の親娘愛の修復だと真に受け感激したようで急に出てきて無言でマキには小さな薪が数本束になったもの、兎子には火打石を、それぞれ無理やり押し付けてまた去っていった。親娘は「何コレ?」と顔を見合わせたが勝山の血統がそうさせたのか不思議な法力により二人同時にピンと来た。貰ったアイテムをそれぞれ胸の前に掲げてポーズを取れば兎子はウサギ、マキはタヌキ、それぞれのコスチュームに変身する。どちらも乳房や腰回りを過剰に強調するデザインで頭には耳のついたカチューシャ、手足はモフモフなのでファンシーとも言えなくはないが見る者によっては単なる卑猥なケモナー向けコスプレと見られるだろう。兎子が火打石をマキの背中に向けてカチカチと鳴らしマキはとぼけた調子で「このカチカチという音は何ですか?」と聞けば兎子は「あれはカチカチ山のカチカチ鳥が鳴いているんです。薄汚いオニどもを正義の炎で焼き尽くしてやると!」と言いながら一歩前に出てアイテムを頭上に掲げ「フォマルハウトよりクトゥグァよ来たれ!」と怒鳴るのに続いてマキも「お前らを骨まで焼き尽くす地獄の業火!」とこちらもアイテムを掲げ叫び更に二人手を取り声を合わせて「カチカチ! メギドフレア・インフェルノ!」と技名はいつどこで示し合わせたのか不明ながらプリキュア神の合体必殺技(公式には浄化技)のバンクフィルムのような独特のノリで発動されると閉鎖されたイベントスペース内に半透明のオレンジ色をした爆炎が爆発的に広がり辺りを我が物顔で飛び回っていたヌタウナギどもは炎に焼かれ断末魔の叫びと共に生きたまま焼かれる地獄の苦しみにのたうち回り数十秒後にはホール内が蒲焼きの香ばしい臭いで満たされた。ちょうど天窓の換気口からホールに入るところだった小次郎はマキと兎子の合体必殺技を目撃し目を丸くし竜太郎は気色悪いヌタウナギで対話は放棄したものの深海よりの者としてどこか胸が痛むようでありせめて美味しく蒲焼き状のヌタウナギを食べなければと思うもののマキと兎子が「意外とイケる」などと言いパクついている様を見れば食欲が減退していった。プリキュア的に浄化されたのか内蔵を食い尽くされた男性たちも一様に回復し立ち上がり首を傾げる者や同じようにヌタウナギの丸焼きをパクつく者もいたのである。


○一寸法師 VS 金太郎

 マキ、兎子、竜太郎の三人は自分たちだけでヌタウナギオニを退治できたと得意となり一寸法師が戻る前に片付いてしまった、あいつはいつも来るのが遅い、きっとあたしらがピンチになっているところをエロい目で見て楽しんでいるのに違いない、などと噂話が収まらないので小次郎も出るに出られず天井付近の照明の傘の上で気配を殺していたがご明察の通りヌタウナギオニ問題は解決された訳ではないのはその元凶原因であり談笑する三人の元へゆっくりと歩み寄る二つの影があって輝美と斧熊である。輝美の手にはドラゴンボール(初期)ほどの大きさの金色に輝く球が握られておりこれは件の『竜の首の珠』であった。珠を中心としてヌタウナギ、ヤツメウナギ、リュウグウノツカイなどの長細くグロテスクな水棲生物がユラユラと回遊していてそれを握る輝美の決意に満ちた眼差しから只事ではないと悟ったマキは「輝美ん!? どうして?」と驚きの声をあげ竜太郎もクラスメイトであり顔はよく知っているので目を見開き驚愕している。「マキっぺ……、いや、くそ乳でかタヌキ!」と吐き捨てるように言う輝美は鼻に皺を寄せ怒りに顔を紅潮させ手にした竜の珠をガッとマキへと突き出すと「女の恥をかいて竜サマに見捨てられな!」とヌタウナギたちをけしかける姿勢を取るので兎子は慌ててマキの手を握り「仕方ないわ、もう一回行きましょう」と先ほどの合体必殺技(浄化技)の準備に入り「生ける炎よクトゥグァよ外宇宙より召喚に応じよ」とポーズを取ればマキも覚悟を決めて「我らに仇なす敵を悉く焼き尽くせ」と調子を合わせ更に再びの「カチカチ・メギドストーム・アポカリプス!」とエフェクトはほぼ一緒ながら名前だけでも強化版にしたようであるがこのような必殺技は二度目には大抵破られがちなもので輝美はニヤリと笑い横から斧熊が黒いレザー状のマントのようなものをはためかせればいかにカチカチ山の豪炎なれど忽ちの内に雲散霧消しこれは『火鼠の皮の衣』であって火属性の攻撃を全く無効とするものであった。必殺技をこうも簡単に破られマキも兎子も「なっ、なにぃ?」という顔になるのも当然である。更に斧熊が皮衣を振ると黒いロープ状に変化しマキと兎子の体にスルスルと巻きつきケモナーのコスプレを弾くように脱がせ瞬く間に亀甲縛りに縛り上げた。黒いロープによってマキの乳はプリプリと兎子の乳はムチムチとより引き立たされキリキリと柔肌に食い込んでまさに縄化粧である。二人とも芋虫のように床に転がり「ああ……」とか「んん〜……」などと呻いて顔を赤くする。股にガッチリ食い込んでいる縄は絶妙な位置で結び目が施されており女の急所を嫌というほど苛んでいた。「どう? 竜サマ、じゃなかった、亀割君。緊縛プレイでこんなに感じちゃうような嫌らしくて淫らなタヌキなんかより……、え?」と輝美が怪訝な顔で言葉を止めたのは竜太郎のエロい視線が全力でタヌキこと娘のマキではなく母親の縛られた熟れた肉体の方を文字通り食い入るように前のめりで見入っているからであった。それはさすがにいくら輝美でも気づかざるを得ないくらいのエロい目だったのである。「……え? ……えっ?」と輝美は転がっているマキや兎子を見て、更に竜太郎を二度見三度見とするが疑念は確信へと変わっていくばかりであった。女主人輝美の狼狽ぶりは従者斧熊にも十分すぎるほど伝わり彼も勘の鋭い方ではないものの特殊部隊のエースを務めたほどであるから「あ、これ、やっちゃったな」くらいには人並みに察せられたのであるがあからさまな反応を示せば輝美の恥を上塗りすることにもなりかねないので見て見ぬふりを通す他はなかった。だから竜太郎が二人を振り返り「なんでこんな事をするんだ?」という至極真っ当な問いかけにもしどろもどろである。

 そこに一人、場の空気を読めぬ者が飛び出してきたのは一寸法師こと小次郎であった。お椀の船で空を飛び「まかり出たるは一寸法師でござるー!」とお馴染み前口上でポーズを決めれば斧熊も想定内であったのは言うまでもなく「やはり来たか、一寸法師! 今日こそ決着をつけてやる!」と用意していた台詞を吐いて気を取り直し、懐から取り出したベーターカプセルくらいの大きさのミニ斧を右手に掲げ「変身! 金太郎、高機動フォーム!」と唱えれば斧熊のマッシブな身体は聖闘士が聖衣を装着していくバンクフィルムのように左足、右足、左肩、右肩、左腕、右腕、胸、腰、と金色のメタルパーツが次々とガシーン、ガシーンと体を回転させながら纏われていって最後に頭部が金色の兜と前立に覆われると斧熊の目鼻や眉が不死鳥座の聖闘士のようにキリリと引き締まった。事前に何か言われていた訳ではないが小次郎も変身中に手出しをするのは暗黙のルールを違反するものと心得て黙して見守っていて竜太郎はZ世代だけあって「何でずっと見てるの?」という顔をしていたが謎の圧力を感じたのかやはり何も言わないでいた。高機動フォームと名乗るだけあって金太郎の変身後は攻撃力防御力よりもスピードを重視しているらしく武器は手にしたハンドアックスのみ装甲も薄く関節などは機構が剥き出しであるが背中や腰や脚にはジェット噴出のバーニアがあちこちに装備されており「行くぞ!」と気合い一閃、斧熊がアックスを振り上げ一寸法師へと飛びかかればその速さたるや新幹線が走り行くのを通過駅のホームから見たような迫力と問答無用なスピードである。だが小次郎は「……」と冷ややかな目で斧熊の第一撃を見つめ振り下ろされるハンドアックスの白刃を目の前に来るまでゆっくり見物し当たる瞬間でヒョイっと横にかわした。「!」と斧熊は勢いで斜め上にバーニアをふかしたまま小次郎の横を通り過ぎ今の一太刀で彼我の間に歴然と存在する圧倒的な「アジリティの差」を白日に晒されたのであるが斧熊一流の自負と必殺の斬撃がこうも簡単に避けられること俄かに受け入れること叶わず空中で機敏に方向を転換し二度三度と一寸法師へハンドアックスを振るうも標的は相変わらず「……」と無表情のままで難なく避け続けマヌーサをかけられたライアンくらい何もできない自分の体たらくに斧熊は愕然とした。「ある程度は予想していたが、まさこれほどの速さとはな」と顔中を汗だらけにして斧熊が毒づけば小次郎も調子に乗り「俺の本気はもっと速いぜぇ」と不意に姿が消えたかと思うと次の瞬間には斧熊の右目のまん前で針の剣を抜刀し今にも目玉に突き立ててやるとカッコよく決めて見せると斧熊はひいっと息を飲み仰け反ったのは瞬きもしていないのに一寸法師の移動する軌道がまるで見えないほどのスピードだったからであり目の前数センチで静止するのに何ら音も風圧も感じさせなかったからである。「一寸法師、侮り難し」と斧熊は完敗を認めざるを得ない決闘の結果となった。得意になり「もう降参するかい?」と煽る小次郎に対し斧熊はここまで自分の実力が通用しないことは認めたくはなかったが事前に予想はできていたことでもあったのでここはこれ以上は無駄な足掻きをしないことに決め苦虫を噛み潰したような表情で腰に付けていた皮袋から形勢逆転のアイテム『燕の子安貝』を取り出した。見た目は大ぶりの貝殻であるが裂け目が横長に走り女陰を模しているとして安産祈願の縁起物であるがツバメが産み落としたという伝説のアーティファクトであり安産や子孫繁栄を操るのはその大元となる性欲を支配する宝具にしてその割れ目を小次郎へと差し向ければびゅうと音を立て一寸法師の身体からエネルギーが流れ出し子安貝へと吸い込まれていく。「吸われてる! エロのパワーが?」と小次郎は脱兎のごとく逃げようとするも子安貝の吸引力は有無を言わさずあっという間に一寸法師エネルギーは底をつきお椀の船からポトリと床に落っこちで先ほどまでビンビンだったちょんまげがゆっくりと萎えて縮んでしまいアンチドートを食らったエアリアルの目が光を失っていく様を彷彿させた。「性的エネルギーさえ無くしてしまえば一寸法師などボール紙で作った指人形も同然」と斧熊は事前に白灰から授与された作戦が成功したことを苦々しく認め本当は実力で勝ちたかったとセミの死骸のように床に転がっている小次郎に一瞥をくれた。

「邪魔者が消えたみたいね、やっと」

 輝美は黒い髪をかきあげて勝ち誇ると竜太郎へと向き合い彼が好きなのはマキではなく熟女の兎子の方だと最初から知ってましたよという体裁を取ってそんな淫乱オバさんなんか止めておいて私にしなさいよと言おうと口を開きかけたその瞬間、頭上から何か水滴のようなものがポタポタっと髪に落ちてくるのを感じ何気なく手で拭えばそれは白濁した粘液でベットリと嫌らしく輝美の白く細い指を汚していた。「へ?」と輝美は思わず自らの上を首を捻って見上げるとそのキツめの顔にドチャっと落ちてきたのは一匹のヌタウナギであり水棲属性のオニは輝美がその手に握っている『竜の首の珠』によってコントロールされているはずであったがどうにか一匹だけそのヌタウナギは竜太郎に懐いて彼の意思を感得しこうして輝美の顔の上でとぐろを巻いているのは流石は浦島太郎の血統というべきであろう。たかがヌタウナギの一匹くらいと軽く見る御仁もおられようが例えば貴殿がショッピングモール散策中にヌタウナギが一匹と言えども天井から落ちてきて今の輝美のように顔面に巻きつき首筋から背中へとブピュブピュと粘液を吹き出しながら服の中へモゾモゾ潜り込もうとされれば如何であろうか。きっと今の輝美のように白濁した粘液まみれの顔でブラウスのボタンを引きちぎり「取って! 取って!」と絶叫しながら遮二無二に走り回るはずである。泡をくって斧熊も変身を解き女主人の背中から腰へと我が物顔で這い回る不遜なヌタウナギを取り捕まえようと手を伸ばすもまず輝美本人がガムシャラに走り回るのともちろん粘液の量が半端でないのとで指が滑り容易ではなかった。うなぎ小僧ツルベェーという懐かしい歌が聴こえてきませんか。

 半狂乱の輝美がヌタウナギへの対処に必死になり自然と床に取り落とした『竜の首の珠』を竜太郎は無意味にカッコよく側転の手を付かないタイプのエランケレス5号がプロスペラの不意を打って銃撃したときみたいな宙返りをしながらさっとさらって拾い上げ着地しながら胸の前に構えると「竜宮城へ来てみれば! 絵にも描けないおぞましさ!」と誰に教わった訳でもなくおそらく深海に封印されし邪神からのテレパシーで大体の感じを教わっていたのかもしれないが謎の呪文を唱えると竜の珠の周りには先ほど輝美が使役したものとは比較にならぬくらいの海洋深海生物、ギンダラ、キンメダイ、ソコボウズ、ユメザメ、ユメナマコ、チョウチンアンコウ、などが大群となり集結した。竜宮城が現実に存在すればこのような光景を見せられたのであろうか。竜太郎が命じるままに、まずはマキと兎子の『火鼠の皮衣』によるボンテージ衣装を器用にゴエモンコシオリエビやユノハナガニが協力し合ってその拘束を解き、逆に輝美と斧熊の二名にはご存知ダイオウイカの触腕にて雁字搦めに絡め取り捕縛すれば輝美は「いきなりイカだけデカすぎる」と素直な感想を述べ斧熊は「浦島太郎、なのか? 今ごろ出てくるなんて」と計画が頓挫したと憤った。勝利を確信した竜太郎はすぐさまに兎子へとかけよりその素っ裸の熟々ボディにホタテの貝殻を数枚でピンポイントに覆えば懐かしの武田久美子氏の貝殻ビキニの再現となり気づけば遠巻きに集まっていた野次馬たちの中からも「あったなー」や「当時はアレが最先端だったんだよ」との声も上がった。兎子はうっとりとした目で「ありがとう、助けてくれたのね、竜太郎サン」とネットリと甘い声で下の名前で呼び竜太郎は「へへ、これで少しはロバート・ダウニー・ジュニアに近づけたかな」と照れて見せた。一方のマキはといえば全裸の乳房を腕で隠し「なにやってんのアイツは」とキョロキョロと小次郎を探しすぐに床に転がっている干からびたハムスターの死骸のような変わり果てた姿を見つけ「あちゃー」と言いつつ駆け寄りそっとつまみあげ自らの乳房の間に挟んだ。「急速充電モード」とばかりにちょんまげがクルクルと高速で回転し始めげっそりとガリガリの骸骨のようだった小次郎の顔にみるみる生気が流れ込みあっという間にふくふくとした往時の小次郎へと復活し「ああ、マキちゃんのおっぱい……」と恍惚の表情で頬擦りする。

 イベントホール内に居合わせていた中の優しい女性から薄手の茶色いカーディガンを貸してもらいマキも衆人環視での素っ裸は免れたのでマキ(ノーパンノーブラ薄手カーディガンのみ)、兎子(ホタテ貝殻ビキニ)、竜太郎(なぜか褌一丁)、小次郎(マキオッパイ間)の四名はダイオウイカに捕縛されあちこち吸盤で痛いほど吸われながら項垂れる輝美と斧熊の二名へと向き直った。斧熊はお勃起を隠そうと腰を引いているが無意識では見て欲しくて仕方ないようでもある。輝美もたまにはMもいいなと思いつつもそんな素振りが斧熊に見られては女王様の威厳が失われ今後のプレイに支障が出ると考えたのか高まりつつある被虐の悦楽を理性で押し留めた。「輝美ん、ウチら、ダチンコ(友人の意)だっしょ? なんでこんなことすんの?」と乳房に挟んだ小次郎を両の二の腕でパフパフしながら意を決して問い掛ければ輝美キッと顔を上げ誰がアンタなんかと友達か、などと激しく反応しようと口を開きかけたとき、横から歩み寄る者があった。白灰である。


○桃太郎さん、桃太郎さん

「ちょいと邪魔するでえ」と右の口角を上げ肩で風を切るように入ってきた白灰だったが「邪魔するんやったら帰って」というような関西独特のお約束を誰も返してくれないので不機嫌そうに鼻を鳴らすと「一寸法師だけでも計画に多大なる障害だってのに浦島太郎まで出てきて? 竜の珠が持ち主に戻っちゃって? かぐや姫も金太郎も無力化されて? カチカチ山はウサギとタヌキが和解して? 火鼠の皮衣も、燕の子安貝も効かず? 仏のお鉢なんか一寸法師の乗り物のまんまで?」ともはや呆れ笑いで並べ立て輝美と斧熊の睨むのを受け流し「最後は『蓬莱の珠の枝』? あれはお二人のSMプレイで重宝されてまっか」と嫌らしい目で言えばマキや竜太郎は意外そうな目で輝美を見た。白灰は一呼吸置いて「アイテムで言うと、後は『打出の小槌』しか残ってねんだすぺ」と勿体ぶって言いマキとその乳房上の小次郎とを見てニヤリと笑いマキは「そうだった! 返してよ打出の小槌! 早く元の大きさに戻ってくんないと、あたし……」とそこで言葉を切ったが続きは「欲求不満で死んでしまう」の類であろうことは居合わせた者が大体想像のつくところであり余勢をかって小次郎も胸の谷間から顔を出し「そうだぞ!」と語気を荒げた。白灰は涼しい顔のまま「そして残りのヒーローと言えば……?」と言いながら頭上でパチンと指を鳴らすと天井からボガン、ドガン、と解体現場の重機が出すような爆音が響き天井をブチ破って粉塵を巻き上げながら野次馬が悲鳴をあげ逃げ惑う中、ミオリネ嬢ピンチに駆けつけたエアリアル改修型のように降下してくるはご賢察の通り桃太郎である。大きさはモビルスーツとは言わず精々五メートル程度であるがその禍々しい形状たるや殺戮の禍ツ神コーンのグレーターデーモン、ブラッドサースターのベラコールや獣の頭部にイカつい二足歩行、立派なツノ、背中にコウモリの羽ということならドラクエシリーズのアークデーモン的でもあるものの体型は逆三角形である。全体的に鮮血のような赤色で黒の差し色が映え、左肩から左前腕にかけてはオオカミの顎のような意匠であり「ポメグルマン」だった頃の可愛げは無い。反対に右腕はワシやコンドルのような猛禽の意匠でこちらも「ぶっ飛びくん」の面影は皆無である。意匠というのは百獣王ゴライオンやスーパー戦隊の合体ロボのように元は動物モチーフの個体が変形して合体し桃太郎の腕になっているという意味でご理解いただきたい。同様に頭部はオウガ(オーガ、モンスターの)や先ほど申し上げたグレーターデーモン風で牙が乱杭のように口から飛び出し目に黒目がないタイプの悪魔・邪鬼・悪鬼の顔でありこちらもサル的な意匠が変形して頭部を担当しており「ちょうメガネ」のメガネザルとはかけ離れた物騒さである。人間としての「吉備野桃」は胸部に取り込まれており永井豪師とそのインスパイア作品でよく見かけるような女性の乳房から上と両腕は肩辺りまで露出して後の体は化け物に取り込まれ顔は悲しげに涙を流しているというような悲壮な状態である。「何という邪悪な! 神をも恐れぬ悪魔の所業!」と陰惨な人体実験を小次郎が非難するのは先ほど白灰のラボに潜入した際に下見をしていたこともあるがその時はこのような大掛かりの怪物が出てくるとは想像もしておらずイヌサルキジの可愛らしくも間抜けな所作からいくばくかの油断があった為でもある。「キヒヒ、ここまであっしもコケにされちゃあ、最後の手段に打って出るしかないっしょ」と白灰が厳かに取り出したるは『打出の小槌』であった。右手に高く掲げれば小槌は光に包まれ桃太郎オニ(桃とイヌサルキジの集合体を以下こう記す)へと飛びつき頭頂部の頭飾りに収まれば「グオオオーー―!」と雄叫びを上げその身体は倍加し両腕を前に突き出すと両手の先から金色に迸る衝撃波を放ちマキや竜太郎ら並び立っていたヒーローたちはバタバタと吹き飛ばされ床に転がりその様は黄金聖闘士の一撃(片手)になす術なく上方向に吹っ飛ばされてから床に顔面からグシャと叩きつけられる青銅聖闘士のようであり皆一様にうつ伏せに這いつくばって「うう……」とか「何て力だ……」とか「これが桃太郎なのか……」とか言って呻いている。特に輝美と斧熊は白灰に裏切られたという意識が強いらしく「あの女やっぱり信用できなかった……」とか「今までいくら払ってると思っているんだ……」と床を叩いて悔しがった。そして何とか体勢を整え全員で協力しあって白灰と桃太郎オニへ対抗しようという空気が醸成されたのであるが終盤まで各勢力が入り乱れていたとしても卑劣な裏切り者が一人現ればヘイトをその身に集めバラバラだった人心が纏まりクライマックスへと雪崩れ込む流れを思わせた。

「もともとの桃太郎のチートなステータスな上にイヌサルキジのハイブリッドオニが合わさってそれを『打出の小槌』で増幅してるてわけ。好きでしょパワー増幅装置」と白灰勝ち誇り「もともとの性欲もハンパなくてそれも増幅されちゃうんですけどね……」とウンザリした調子で付け加えた。全員がノックダウンしている中、桃太郎オニは悠々と進み出てマキの前で止まる。ダメージは小次郎にも等しく入っておりロクに動けないがそれでも根性でマキの胸から這い出て「うう……、やめろ、マキちゃんに手を出すな……」とフラフラ立ち上がるも桃太郎オニの足で雑に払われ秋風に舞うイチョウの落ち葉のように飛ばされていった。小次郎が心配した通り桃太郎オニは白灰の命令に従いマキを目標にしておりその両腕を一纏めにして上方へと引き上げればマキのイキイキとした乳房がプルンプルンと力なく揺れマキは目を閉じたまま悩ましげに喘ぎその淫虐をそそる肉付きを白灰は嫌らしく横目でジロジロと舐め回すように見つめながら「やっぱ巨乳は良いなあ」と各方面に失礼な発言をしたがすぐに「一寸法師のせいだ。あと少しで計画が完璧になるはずだったのに、一寸法師が出てきてからおかしくなったのだぎゃ」と目を釣り上げ更に「そんなわけだから意趣返しね。アイツの女、めちゃくちゃにしてやっから」とマキに向かって指を差し「なんかコイツとんでもなくエロいからよお、酒呑童子のコアにしたらどうだろう、なんて思い付いたんだっぺっけっども」と言い一人で「んだんだ」と頷いている。針の剣を杖の代わりにしてヨタヨタとまた前進してくる小次郎が「そんなことはさせないぞ」とほとんど聞き取れないくらいの小さい声で叫ぶも白灰は一切構わないのか聞こえなかったのか「いでよ! 酒呑童子! の影!」と逆拍手をして唱えればその後方に半透明で二メートルくらいの細面がドッギャーーンと出現し独特の立ちポーズをしていた。「影、だと? どういう事だ?」と斧熊が這いつくばったまま苦しげに問いただせば「酒呑童子を復活させれば革命的なうねりになりエロのエネルギーを全て集中するから世界から女性蔑視も性犯罪もセクハラも無くなって各国の生産性が飛躍的に上昇しよるったい」と白灰は誇らしげに答え聞いた斧熊も内心ではその理想に賛同する人間はかなりの数になるのではと空恐ろしく感じた。「そんな高尚な理念があったなら正面から説明して協力を募ればいいのに隠して恋愛相談みたいにして近づいてきたのが気に入らない」という意味のことを輝美が恨みがましく言えば「最初から日本性欲オフ計画を説明していたら五種の神器を貸してくれました?」と逆質問してきたので「貸すわけねえだろうがこっちには色恋と性欲しか楽しみがねえんだ」という意味の回答を輝美が口汚く吐いた。それを聞く竜太郎は「気が合いそうだな」とエランケレス五号ばりのシニカルな笑みを人知れず浮かべ逆に兎子は若者の性の乱れに我が身を顧みず心配していた。

危うし、マキちゃんとマキちゃんのオッパイ。桃太郎オニに両腕をむんずと掴まれ引っ張られ吊り下げられているマキの乳房は今やフリーとなりマキの体の動きをダイレクトに伝え身をよじってはプルンプルン、首をのけ反らせてはプルンプルンとうるさいほどの自己主張ぶりである。なぜ身をよじり顔をのけ反らせるかというと酒呑童子がその姿が半透明にも関わらずその手にお箸を握ってぶら下げられたるマキの裸体の前にすすすっと回り込みさて何処から摘もうかとばかりにお箸をカチカチとちょうどベーカリーで買うパンを見定めている時のトングのように鳴らすからである。しかも酒呑童子が持つお箸は唯の木の棒にあらず、斧熊がよく見たところ『蓬莱の玉の枝』をミニサイズにしたものであるらしくそのお箸でマキの左脇腹をツンっ、ツンツンっ、と一〜二度突っついただけでマキはビクーっ、ビクビクビクーっ、と激しく体を硬直させ「いたっ! 痛ったい! やめれ! なにこれ!」と素っ裸で両脚をバタバタさせ乳房を上下左右縦横無尽にプルンプルンさせる。「巨乳だと動きが大きいし若いから反応がビビッドで見応えがありますな」と白灰は腕を組んで頷き「ちなみに蓬莱の枝の出力は初心者用にかなり弱めてありまして斧熊氏のようなエキストリーム仕様とは違いますんでご心配なく。あれはアフリカゾウも気絶するくらいですよってに」と付け加えたがその威力を身をもって知る者は斧熊以外になく心配なくなる者は皆無である。その痛みの想像がつく斧熊だけはもし自分の乳首や、まして陰茎や睾丸にミニ蓬莱の枝をツンツンされたらと考えれば忽ちの内に勃起状態となり目ざとく見つける輝美にトランクスの上からガシッと掴まれ上下に振られ「他の女でお勃起すんな!」と本気で怒られた。

「やめろー! それは俺のオッパイだー!」と小次郎は踊るマキ乳房から遠隔でパワーを得たのか一寸法師の底力をかき集めお椀の船を駆り果敢に突撃するも空中で見えない壁に阻まれ弾き返されるのはもはやラスボス戦には付きもののお馴染みとなったバリアであり桃太郎オニの頭頂部にそびえたる『打出の小槌』より発生されているのは一寸法師の法力抜きでも感覚的に伝わるところであった。口々に「あのバリアをどうにかしなければ……」とか「打出の小槌が向こうの手にある限り完全に手詰まりだ……」とか「早く助けなければ、マキが! マキが!」などと言っていれば自然に緊迫感が盛り上がってゆく。「そう、いつまで我慢できやすかな? 言い忘れったけんども、このオッパイちゃんが感極まって絶頂に達したら、即ちイッたら、酒呑童子さまと完全に同化し、そのコアとなり、酒呑童子さまご復活! とあいなりんす」と白灰涼しい顔でのうのうと言いたれば、見よ、素っ裸だったマキのピチピチムチムチした身体に黒い邪悪なレオタード状のスーツに蝕まれてゆく。このダークスーツに全身を包まれ酒呑童子(影)のテクニックにマキが絶頂させられた暁には酒呑童子が本格的に復活しマキの人格は飲み込まれ世界から性欲が消える、という流れであると居合わせた全員が認識し共有した。ダークスーツと急に言われ鼻白む御仁もおられようか例えるならプラグスーツを安直に黒くしたようなものでライダースのような光沢もあり悪のダークヒーローの女性版といった風合いでいつの世にも一定数は存在するニッチな層にリーチするカッコ良さげなデザインである。もちろん覆われていくスタート地点は指先であり足先でありこのまま進めば乳房や尻がダークスーツに覆われるのは最後の方になるであろう。乳が先か、尻が先か、そんなことは問題ではない、などと悠長な戯言に時間を使えぬのは明白でそれはマキの昂り具合にかかっている。マキの口からは熱い吐息と共に「アンっ……、痛―いぃ、アンアンっ……痛いのー、痛ぁーいん、んふん」みたいな声を恥ずかしげもなく漏らし男の身勝手な願望から言わせていただけば「ほんとは痛くないんだろう?」とか「痛いだけじゃないんだろう?」みたいなセクハラ全開質問で煽り立てたくなるものであった。ニョッキリかつプックリと勃起した乳首がピクンっ、ピクンっ、と脈打つのをお箸で横から摘まれる。触れるか触れないかくらいの絶妙なテクニックで屹立した乳首を根本から先端方向にスッ……、スッ……となぞれば蓬莱の枝からの淫らな神通力によりピリっ、ピリっ、と微弱な電気が乳首の中心を通って乳房の奥深くへと潜り込めばマキ本来のマグマのようにグツグツと煮立つ獣欲がヘソの下から腰を通って駆け上りズーンとマキを容赦なく高みに押し上げていく。マキからすればどうやらバリア状のものの向こうで小次郎をはじめ皆々がバリアを叩いて何やな怒鳴りかけているのでこのまま絶頂するのはマズいらしいと理性では理解できるものの若くピチピチでプリンプリンでイキたい盛りの文字通りのワガママボディが絶頂へ向けてひた走るのを止められる気がしなかったし止めようという発想がそもそも無いのであったが、そこは若いとはいえ女であるので知恵が回り酒呑童子へ言葉を武器に現状を打開しようとした。「あ、あたしを同意なしでイカせなんてしたら、彼ぴっぴが黙ってねーんだが!」などと絶頂寸前のアップアップした喘ぎ声混じりに言うと、南無三、酒呑童子(影)は箸を止め「彼ピって、あの小っちぇえ奴? ちょうウケる」とウェーブのかかったロン毛をなびかせて言うのでそんな話し方なんだと発見しながら更に「あ、あたしがピンチっちになったら、ぜってー助けにくんだし!」と返せば「マジダリィんだけど。実際来ねえじゃんね」と正論を吐くので「いっつも来んの遅めだし! ギリまであたしがエロいこと見続けてもうムリっぽいってとこでようやく出てくるんだし!」と聞こえた小次郎が「見抜かれてる……!」と女の勘の鋭さに慄然するようなことを言った。

その小次郎であるが先ほどから三回四回とお椀の船で体当たりして様子を探っていたところバリア自体はビクともしないが強めにぶつかれば桃太郎オニの頭上の『打出の小槌』の光もその都度に強くなりもっと強く当たれば打出の小槌ごとぶっ壊せるのではという感触を得たものの打出の小槌を破壊するということは小次郎本人が元の体に戻れなくなるという意味でもあり、果たして、マキを救出するため元の体に戻るのを諦めるか、それとも、マキの絶頂するを見守り大オニに取り込まれる様を見守りこの場は諦めて後日に打出の小槌を奪還する機会を探るか、というジレンマに直面したのである。読者にアンケートを取ればマキの絶頂シーンを見たい数が余裕で上回るであろうが小次郎個人からすればどうかということも我が身に引き換えて想像してみて頂きたい。我々にとってはマキもそこいらにいるエロい女の一人であるのでなるべくエロい姿を見せてくれればその後はどうなろうと別に気にしない向きもあるが小次郎にとってはかけがえの無い世界に一人の想い人であり見捨てられたら生きていけないくらいに依存しているので従来の器スーパーミニマムも合わさり「マキに嫌われないこと」が第一優先なのであるから先ほど提示されたジレンマなどは最初から成り立たないほどであった。意を決し大きく息を吐いた小次郎は「集合、一回、集合」と呼び掛ければ斧熊と竜太郎はソワソワしながら駆け寄り「何の用だ」みたいな顔をするがその実は二人ともマキを心配しているし酒呑童子が復活すればどうなるかと不安でいたので一寸法師のリーダーシップには積極的に乗っかるつもりであった。そこでの小次郎の提案は以下の通り。あのバリアにぶつかってみた感覚として一寸法師のパワー全開でぶち当れば『打出の小槌』ごとぶっ壊せそうである。打出の小槌は桃太郎オニの頭頂部に刺さっているがよく見ればグラついていてあちこち傷んでいる。最初の一撃が肝心だから力を貸して一緒にぶちかましてほしい。バリアに綻びができたら体の小さい一寸法師が内部に侵入して打出の小槌を破壊する。バリアが消えたら二人でいい感じに協力しあってマキを救出してほしい。そして小次郎は最後に「僕に何かあっても放っておいていいからマキちゃんの救出を優先してほしい」とキリリとした目付きで付け加えた。斧熊は「……ほう」と低い声を出しその覚悟や決意を受け止めたように深く頷くと「犠牲者が出るのを前提とした作戦には感心せんな」と言う目は少し笑っていたが「一寸法師は滅びぬ。何度でも甦るさ。マキちゃんのオッパイがあれば」と清々しく笑い今まで何度もあのプルンプルンのオッパイで復活してきたことを手短に説明した。次に竜太郎が困ったような笑顔で「打出の小槌が壊れちゃったら元の体に戻れなくなるんじゃ?」と当然の疑問を投げ掛けその決意の硬さを計れば小次郎は「そんなことよりマキちゃんのオッパイの方がずっと大事なんだよ!」と胸を張った。さて斧熊も竜太郎もそれぞれパートナーが存在しその意見も無視できずさらには自らの打撃力を最大化するにはパートナーそれぞれの応援や後押しが必須であることからマキが絶頂を迎えるまで時間が限られているものの手早く二手に別れ胸中を吐露することとなった。

まず竜太郎であるが彼のパートナーたる兎子にとってはマキは我が娘であり実質的かつ精神的にも自分を支配している竜太郎が危険を顧みずマキ救出作戦に参加する旨を聞かされ涙を流しで喜び感謝した。素っ裸のまま抱き付き、乳房をグイグイっと押し付け、舌で竜太郎の口をベロベロ舐めながら「絶対に帰ってきてね。帰ってきたら、わたし、なんでもしてあげるンだから」と淫乱発情熟女ぶり全開の赤ら顔で言えば竜太郎も彼女の後ろに回した手でだらしなく垂れ下がった尻肉をブルンブルンさせながら「帰ってくる頃にはロバート・ダウニー・ジュニアくらい渋みが付いてるかな」と浦島太郎ジョークを挟むと兎子は「んもう、またオバさんをからかってン」と上気した上目遣いで甘えながら最後は火打石をカチカチとしながら竜太郎を送り出し無事を祈った。

斧熊と輝美の方へ目をやればもう少し激しいことになっており斧熊が「あのタヌキ女ですが今から救出に向かうことをお許しください。男の友情に二言はありません」と硬い決意で暇乞いとも取れる表明をしたのを受け急にヒステリックに感極まり「なによ! どいつもこいつも! 勝手にすればいいじゃない! どうせみんな私を裏切って! 私を愛してくれる人間なんて地球に居ないのよ!」と泣き叫び斧熊は面食らいながらも「そんなことはありません。貴女を愛している人間なら、ここに居る!」と流れ上仕方なく言わされるも「私は月に帰ります! ついでに地球を焼け野原にしてやるんだから!」と輝美が同じようなテンションながら危険度にだいぶ違和感のあることを言い出したので斧熊は「何の話?」と驚き「えっと、地球を?」とキョドりながら聞き返すも「もう呼んだもん、月の使者」と天井を指差せば桃太郎オニがぶち抜いて入ってきた穴の向こうでは神保町の青空を覆い尽くすような宇宙船の船団がゆっくり降下を始めていた。ガミラス艦隊くらいの規模を想像していただきたい。映画版の竹取物語のような突然のSF展開に斧熊は頭の中が真っ白になりながらもマキには悪いがこれは地球の一大事と心得て輝美の肩を掴み「やめときましょう! 一回、落ち着きましょう!」とまずは輝美への説得に全力を注ごうとしたのに輝美は「じゃあキスしてよ」と拗ねたような口調で顔を赤くした輝美が言うので斧熊は「はい?」と真っ白な頭のままで聞き返すと「できないでしょ! わたしとキス! まだ奥さんのことが好きなんでしょ!」と掴まれた体をイヤイヤと左右に捻るので斧熊も覚悟を決め輝美の背中にそっと腕を回して抱き寄せ首を横に傾けハッとした輝美に唇を重ねると輝美からは「うっん、うっうーん」と鼻にかかった女の声がした。数秒し斧熊が唇を離すと輝美はポロポロと涙をこぼし無造作に右腕を頭上でぶんぶんと振ればそれが合図なのか宇宙船の夥しい数が逆再生のように上空へと帰っていく。「助かった……」と空を見上げていた斧熊だったが直ぐに我に返り「私はマキさんを救出に向かいます。竜太郎さんとの恋の三角関係はこちらの勘違いだったようですし、無事に再会できたら仲直りしてくださいましね」とニッコリと輝美に微笑みかければ輝美も涙に濡れた目でニヤっと笑い右膝で斧熊の股間を思い切り蹴り上げ息もできずに股間を押さえて転げ回る斧熊を見下ろし「行くなら行くで! さっさと行きなさいよ!」と怒鳴りつけた。

そんな二組のカップルを小次郎はヤキモキしながら「まだかな」と待ち続け白灰は「なにしてんの?」と呆れ笑っていたが竜太郎の全身が深海生物や甲殻類で覆われ見るみる巨大化し五メートルほどの桃太郎オニに匹敵する体躯で立ち塞がり「深海からの物体エックス! 浦島太郎!」と悪夢そのもののビジュアルで見栄を切ると白灰は口をあんぐりと開け震え上がり宇宙的恐怖コズミックホラーで正気度をごっそり持って行かれた。ちなみにそのビジュアルとは緑色のタコの触手や羽を持つもので名状しがたき冒涜的なものであるが貴殿らの精神をおもんぱかり詳細な説明は控えておく。一方の斧熊も気付けば桃太郎オニや浦島太郎に劣らぬ巨体となり黒地に金の差し色の禍々しい鎧兜に身を包み手には信じられぬほど巨大な両手持ち大斧を軽々と振り回す、正にケイオス・チョーズンのチャンピオンといった堂々たる佇まいでありこんな五月人形があったら見た子らは悉く禍つ神の寵愛と贈り物(混沌変異)を受け混沌の軍勢へとすぐさま引き入られるであろう。「血塗られし玉座の護り手! 金太郎!」と名乗りをあげる声は邪悪そのものにしわがれていて白灰は涙を流しながら頭を抱え己が運命を呪った。二体の、いや二柱の邪神そのものな形状を見て小次郎は肝を冷やし、世界から性差別や性犯罪をなくすという理想のもとシュッとしている細面の酒呑童子を交互に見れば「どっちが悪者?」と首を捻らずにはいられなかったが桃太郎オニもその身体をイヌサルキジが不定形に合一と離散を繰り返し一つとして同じ形状に留まらぬ不快な肉塊の集合体に見えてきて大体同じようなものかと諦め納得した。

いよいよ、金太郎は身の丈以上もある大斧を頭上で振り回すと鎧の下の暗黒から「ゴモォオオー!」と世にも恐ろしい雄叫びをあげ桃太郎バリアへとドカンとあまりにも重たすぎる一撃を喰らわし、タイミングを合わせるようにクトゥルフいや浦島太郎が触手まみれの触腕をムチのようにしならせて桃太郎バリアへと畳み掛ければミシミシと嫌な軋み音をあげバリアにヒビが入り打出の小槌にも亀裂が走った。恍惚の表情でウットリとしていたマキが衝撃に驚いて辺りを見渡せばヒビ割れたバリアの向こうに邪悪極まる二体の邪神のそびえ立っているを見上げ、黒目が小さくなる様式で目を見開き魂が消えるような叫び声を振り絞る。並の精神力の人間であれば邪神やグレーターを一目見ただけで正気度(SAN値)がゼロかマイナスになりたちどころに発狂し廃人になるというのも頷けよう。「今だ!」と小次郎は一瞬だが生じた桃太郎バリアのヒビの間をすり抜け光速に届きそうなスピードでバリア内部に侵入することに成功すると竦み上がっている酒呑童子の手から『蓬莱の玉の枝』のお箸を一本むしり取り超高速を維持したまま桃太郎オニの頭頂部まで躍り上がり蓬莱の枝を『打出の小槌』の根本に差し込むとテコの原理でスポンと小槌の柄を桃太郎オニの頭から引き抜いた。最初は迷わずに打出の小槌を破壊する心積りであったが一寸法師の圧倒的なスピードを活かせばだいぶ余裕を持って破壊せずに奪取することができそうだと考えが変わったのである。お椀の船に乗り両手で打出の小槌の柄を抱えて飛び去っていく様は金太郎や浦島太郎や桃太郎のような邪悪さはないが海岸でお弁当を食べようとしたら後ろからオニギリや唐揚げを猛スピードで掻っ攫っていくトビのような嫌な腹立たしさと不愉快さを感じさせるものであった。マキは腕を吊り上げられた状態から解放されたものの気を失い、白灰は「どっちがオニっすか! そんな見た目で!」と喚くも後の祭りである。『打出の小槌』を抜かれた桃太郎オニはバリア発生を維持できずそうやくバリアが消え失せれば床に横たわるマキの元に母親である兎子とクラスメイトで恋のライバルであった輝美が駆けつけ介抱しマキを包みつつあったダークスーツをペリペリと剥がしたればマキも目を覚まし「お母さん……、輝美ん……、あたし助かったん?」とぼんやりと言えば兎子は感涙に咽びながら我が子を掻き抱き輝美も涙を拭って「ごめんね、わたしのせいで」みたいなことを言い感動的な展開にしてこれまでの軋轢や摩擦を強引にチャラにしようとしマキもとぼけた顔をしながらも大体のことは把握しており「まあいいや。それにしても、もう少しでビッゲストなオーガズムが来るとこだったのに。小次郎さんに責任とってもらわなきゃ」と悔しそうな顔をした。

桃太郎オニと吉備野桃であるが不定形の肉塊のようなオニフォームからまた六神合体ゴットマーズ的なソリッドなフォームに戻り胸部の中心にいた桃も生来の若々しい女子大生ボディを取り戻しその鋭い目がゆっくりと開き始めれば「あかん! 最悪や! 桃太郎まで復活しよる!」と白灰もここに来て一番のパニックに陥る。そして「逃げて! 酒呑童子はん!」と叫べば邪神のような金太郎と浦島太郎に嬲られ恐慌状態でボンヤリしていた酒呑童子(影)はハッと我に返り半透明な姿のままフウワリと宙に飛び上がり逃亡を謀るも桃はしなやかな手付きで腰に付けていた巾着袋から白くて丸くモチモチしたものを三つ取り出せばそれはご存知の通り『きび団子』である。「やるまいぞ! やるまいぞ!」と宝塚男性役のようなセクシーな低音を響かせきび団子を空中に放り投げたがここでの「やるまいぞ」とは「逃がさないぞ」のような意味であり三体のお供に団子をやらないよと言っているのではなくイヌ(ポメグルマン)はメカ生体コマンドウルフ※のように、サル(ちょうメガネ)はメカ生体アイアンコングのように、キジ(ぶっ飛びちゃん)はメカ生体サラマンダーのように、『きび団子』の霊力てきめん、それぞれが口にした瞬間にカッコよく変身を完了し逃げていこうとする酒呑童子(影)を引きずり下ろす。(※註、当初シールドライガーであったが猫科であったためコマンドウルフのようだと訂正した)お供三体に取り押さえられ地面に押さえつけられた酒呑童子に桃が立ちはだかりその姿はむかし話でお馴染みの若武者に桃の刺繍の法被を羽織りたる堂々とした桃太郎スタイルで「邪鬼必滅! 破邪の桃から生まれた! 桃太郎!」と大見得を切りその両手を酒呑童子にかざせば半分に割れた大きな桃の実が出現し左右から酒呑童子を挟み込むように閉じてゆくと桃の実の中へと封印されていくことを悟ったのか観念したように項垂れ大人しく封印の儀式を受け入れ「ダリいっす、マジで」と呟き、白灰は「ああ、酒呑童子さまが……、未来への希望が……」とガックリ肩を落とし、小次郎と変身を解いた斧熊と竜太郎は三人並んで「やっぱり最後に決めるのは桃太郎なんだな……」と肩をすくめた。大オニを閉じ込めた大きな桃の実は空中をどんぶらこ、どんぶらこ、と漂いながら時空の裂け目へと流され消えてゆきそれを眺める小次郎らはいつかまたあの桃の実が我々の子孫の前に現れた時、人はそれを桃太郎と呼ぶのだろうと想いを馳せた。ちなみに神のごとき若き英雄らに平和を保たれ町として「神保町」の由来はこの故事に因むものという言説を記述した文献をこれから捜索する予定であるが時系列があまりにもおかしく成り立たないとする説も一部あることも謙虚に申し添えておく。


○めでたし、めでたし

 酒呑童子が封印され平和が保たれた神保町の某書店イベントスペースであるが残されたる数組カップルの行く末を少しだけ見てみよう。

 まず斧熊と輝美のドSドMカップルはいそいそと二人連れ立って帰路に付いている。「帰ったらお仕置きだからね、タップリと」と輝美が嬉々として言えば斧熊も想像しお馴染みお勃起を硬くしながら「どんな罰も折檻も喜んで受け入れます」と答えるので「じゃあ動画に撮ってあんたの昔の部下たちにばら撒くから」とイタズラっぽく輝美が笑えば恥辱の快感を想像し震えながら「ああ、それだけは勘弁してください」と心にも無いことをウットリとして言った。すでに斧熊は目隠しされ縄を打たれ後ろ手に縛られており散歩犬のリードのごとく例のお勃起をブリーフの上からではあるが輝美にしっかりと握られ引っ張られ神保町すずらん通りの往来をヨタヨタ歩き去っていった。

 桃と白灰もカップルであると言えよう。桃の身体に悪魔のような人体実験を施した白灰をまず何度も何度もビンタを食らわし泣いて謝る白灰の顎をガシッと掴むを口をこじ開け桃は自分の舌を無理矢理ねじ込んでベロベロちあチューをする。「顔はやめて、お願い、顔だけは」と白灰が泣いて懇願するも、すぐまた拳で白灰の腹をボスボスと殴り、泣きながら許しを乞う白灰の口にまた痛いくらいのディープキスをしてくる。ラフで暴力的で荒いセックスをする粗野なDVカップルであった。DVを肯定するものではないが二人にしか分からない世界もあるのだろう。キスやスパンキングだけでは我慢できなくなったのか桃は口笛で愛馬を呼ぶと白灰の髪の毛を鞍に無理矢理くくりつけ引き摺るように書店を後にしおそらく上野、鶯谷のラブホテル街あたりを目指してと消えていった。

 兎子と竜太郎はまだ書店にいる。唐突に時空の窓が開きドラゴンの被り物をした子供のような見た目の竜神が無言で投げ込んできたのは『玉手箱ミニ』であった。床にころんと転がった玉手箱を拾い上げ竜太郎が「これは?」と尋ねると竜神はテレパシーで『竜の首の珠』を取り返してくれた礼であり効果は一週間程度であるという。兎子が「玉手箱とは開けるとお爺さんになる謎のペナルティボックスでは」と開けることに反対するも竜太郎にはある予感があり「たぶん大丈夫」と無造作に玉手箱ミニを開ければ白い煙が少しだけ立ち昇りその向こうから頭が禿げ上がったイケメンミドルに加齢した竜太郎が現れ「ロバート・ダウニー・ジュニアみたいになれると思ったのに禿げちゃった」と顔中に皺を作ってクリント・イーストウッドのような笑顔を見せれば「男性ホルモンが濃そうで濃そうで! 私、ハゲを見るとたまらなくなっちゃうのぉーーん!」と涎を垂らし目玉をハートマークにして抱きついていった。変身後の竜太郎もほとんど素っ裸であり兎子も衣服を破られ念の為にと持ってきていた昨夜の逆バニーコスプレ姿となり二人腕を組んで地下鉄の駅へと向かうようでマキは「その格好で半蔵門線に乗る気?」と言いかけたが二人の甘い世界に水さすこと憚られ「あたしダチンコンチ(友人宅の意)に泊まるかもだから、ごゆっくり」とだけ言えば兎子も嫌らしく笑みを返し「そっちこそ、楽しんで」とウインクした。

 三組の熱々カップルを見送り小次郎はお椀の船の上で頭の後ろに手を組み「いやあ、良かった、皆さん幸せそうで。めでたしめでたし、ってやつかな?」と白々しく纏めようとしたがその体長三センチ程の頭部をマキは指二本でヒョイっと摘み上げ「オメーいつまでちっちぇえままだんだいアアァン?」と恫喝してくるもマキの格好といえばラノベイベントが大騒ぎの内に中止お開きとなったため使われずにいたコスプレ衣装の中からお借りしたもので餓狼シリーズの不知火舞のような極端に布の少ない和服である。上半分以上がまろび出る乳房の上を心許なく吊り下げられながら小次郎は「いやあ、『打出の小槌』は取り返したんだけどねぇ〜」と頭をポリポリしたかったが手が届かないのでふくふくのほっぺあたりをポリポリして地面に置いてある内での小槌を逆の手で指差すとボロボロにひび割れ今にも崩れそうなみすぼらしい風体を晒していた。マキは「ヤヴァンゲリオン(ヤバいの意)」と口走りながら拾い上げ「やるだけやってみる?」と右片手上段に構えると小次郎の回答を待たず振り下ろす様はさながらワニワニパニックにて力加減を知らず思いっきりぶっ叩く系女子のようであり小次郎は地面をバキバキと叩く小槌をモンスターハンターのように緊急回避しながら「使い方が違うと思う! 当たったら潰れちゃいます!」とスピードには自信ありとて少し余裕の笑みを浮かべ避け続ける。ふと見上げればマキの方が本物のオニの形相になりつつあるを気づき流石に小次郎も危機感を覚えマキが欲求不満で浮気など考える前に何とかしなければと「うちらの神様もー! そろそろ出てきてー! 約束が違うよぉ〜〜!」と大声を発したれば割と直ぐに時空の窓が開き面倒くさそうに金髪で巫女さんコスプレ童子が顔を出す。「パワー消費され尽くすこと甚だしくレプリカ小槌を相殺することすら叶わぬ」などブーたれて言うので小次郎よりマキの反応激しく「なんで被害者ヅラ? 笑止千万ブンブン丸! ヤクルトの方!」とファミ通の方ではないことと憤怒の情を余すことなく表現すれば童神(大黒天)も「こっちも死ぬほど疲れてっから」と暗に先ほどの桃太郎はじめ各々英雄らに霊力法力を授けてきたと仄めかすも「知らねえし!」とだんんだん怒り方に余裕が無くなってきたマキを童神も怖くなってきたのか「このパワースカスカ丸状態から、精々頑張れば、まあ、十時間くらいなら、元の大きさに戻せるかも……」「早くしろ!」と言い終わる前に被せてくるマキに「ただし、条件がある」と童神は指を立ててマキを制した。その条件とは簡単に申せばこれからも童神の指示の元にオニ退治を手伝う、打出の小槌のパワーが戻るまではしばらくかかりそうだが、月に一回、十時間程度なら一時的に小次郎を元の体に戻してやる、というもので、小次郎が「どうしようかマキちゃん」の「ど」の音が口から出る前にマキは「やるから! 何匹でも退治ったるから! 早く戻して早く!」と勝手に条件を飲むので小次郎には「僕の体が一寸法師じゃなくなっても嫌いにならずにいてくれる?」みたいな器の小さいところを見せずに済んだのである。では契約成立なりと童神が目からビームを出し打出の小槌にパワーをごく僅かだが注ぎ入れマキがいそいそと小次郎の頭上に「大きくなあれ! 大きくなあれ!」と目を輝かせて振るほどに、ずん! ずん! と小次郎の身長や胴回りが増大してゆき、見る間に身長百九十センチくらいの長身イケメンが、なぜか煌びやかな大衆演劇の衣装のような和服を着て現れたのでマキは黄色い声を上げぴょんぴょん跳ねて乳房をプルンプルン振るわせ大喜びに喜んだ。小次郎の元の身長は百七十センチに届かないくらいだったが「少しサービスしといた。服も」と童神は眠そうに二本指で敬礼しまた時空の窓の向こうに消えていく。

小次郎は「これから、どうしようか」とマキに今後を委ねたかったがこれまで見てきたカップルの様子から男らしさや甲斐性のようなものの大切さを学んでいたのでここは年上の俺がリードしなければと「マキちゃん、えっと、お腹すいてない?」とジェントルマンっぷりを見せつけようとするとマキは間髪入れず「ペコペコ!」と言ってニヤニヤしていて「あ、じゃあ、神保町だし、カレーでも……」と言いかけるのを「コンビニで何か買ってさあ! 小次郎さんちで食べようよ!」とグイグイと前に出るマキの目に「やったるでえ」という圧力に気圧され「え、うち、来る、の……?」とあの汚いボロアパートを思い出し弱気が差し込んでくるもマキの真っ直ぐな瞳を見れば何処からか「小さな体にでっかい勇気! まかり出たるは一寸法師でござる!」と聞こえたような気がした。小次郎はマキの手を取ると「急がなきゃね! 十時間しかやれないんだから!」とその手を引っ張り走り出せばマキも「もう! 小次郎さんたら、強引〜」としかし嫌がる様子はなくむしろ嬉しそうに強く手を握り返し連れ立って走り出し、某書店を飛び出し靖国通りを渡って神田神保町古本まつりで大混雑のすずらん通りを雑踏を縫うように駆けてゆけば遂にその二人の後ろ姿は誰の目にも見失われてしまったのである。その後二人きり愛の部屋での顛末は読者諸賢のご想像にお任せするほか無く汗顔の至りであるがご容赦頂け給うや。(了)


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