中編
〇地獄のカンニング作戦
置かれた状況を天国とみるか地獄とみるかは個人差が大きくその人間が地獄と悲観したるを別の者は喜び天国とみるは別に取り立てて奇異なることではないことは事後に振り返って「地獄のカンニング作戦」だの「神保高校の不埒なる金曜日」だの「あの日を境にモラルハザード」などと過分に誇張され言い継がれているこの日の出来事も人によっては天国と感じられるのである。三センチ程に縮んでいる小次郎は勝山マキの高校へ登校するに同行しカンニング罪の道を共に歩む定めであるがスケール違い甚だしく連れ立って歩くこと叶わず必然マキの付属物携帯品としての性質を帯びるに至りいわゆる「おくるみさん」状態でネックレスブローチ様にてマキの豊満な胸元に揺れていた。たらこスパゲティの喧伝に際し偉大なるキューピー神のたらこ房に扮しその尊顔のみを着ぐるみから拝謁賜るがごとき茶色のフェルトに包まれた小次郎は顔だけ丸くくり抜かれた穴から覗かせ本当にバレないつもりなのかと不安げに揺れている。マキ曰くジッとして動かなければクレーンゲーム景品にしか見えないとの判断であり茶色のフェルトはマキの好みでありシンボルカラーのタヌキ色であるらしい。首の後ろあたりにキーホルダーのチェーンを引っ掛けられネックレスチェーンに連結させられて、視線を下げれば手が届く距離でマキのオッパイが歩を進める度に縦方向にプルンプルンと揺れる。マキ本人は普通に通学のため歩いているだけのつもりだろうが全くけしからん胸のセックスアピールである。芯にサスペンションでも入っているかのようにキビキビした揺れ方なのである。
「ま、マキっぺ、ご機嫌よう……」
そう後ろから呼びかける者あり、苦竹輝美である。道路の途中で黒ベンツから降車してマキを追いかけたと見え黒ベンツの運転席からは坂田斧熊の抜け目ない眼差しが光っている。マキは弾かれるようにその場でジャンプし半回転し「おおー! 輝美ん! 無事だった!」と屈託のない笑顔で走り寄りハグをした。輝美が身を固くするのを二人の肉体に挟まれる形の小次郎は間近に感じ、多少の距離感に違和感を覚えた。その時のおくるみさん小次郎を見る「……なにこれ……」という輝美のなんとも言えない視線が今でも忘れられない。マキは昨日の事件を振り返りそう言えば輝美を連れ帰ったゴツい男は何者かと問えばボディガード兼付き人兼運転手であり半グレなどではないと説明し昨夜は休息が必要と思い電話しなかった旨を詫びれば確かに昨日の夜は立て込んでいたから気にすることはないと徐々に輝美も打ち解けてくる。因みに立て込んでいたのは斧熊への折檻プレイ故であった。輝美の方からもかまをかけてくることには自分は気を失ってから後のことは知らないのだがあのモンスターからは如何にして逃げ出したのかと問うことに後からの調査報告でも一寸法師の小ささ素早さ故動画にても判然としないものでマキっぺも空惚けヒーロー的なコスプレをした女性が来てやっつけてくれたんだよと朗らかに答えたれば輝美も違を唱えるわけにもいかずへえ、そーなんだーと返すより他は無かった。ヒーローコスプレ女こと吉備野桃については輝美も正体は知らず行き先も無事であるのかも不明である。
ここにもう一人、加わりたる男子生徒あり名を亀割 竜太郎という。エランケレスを名乗りし強化人士四号の佇まいに似た物憂げ物静か寡黙クール系男子であり輝美の思い人であった。「おはよう勝山さん、……苦竹さんも」と苦しそうにしかし勇気をもって話しかけたるは彼の目的はマキの母親兎子に夢中であるのを輝美は勘違いしマキ本人に気があると思い込み憎しみを募らせているのである。マキにとってはあっけらかんと預かり知らぬことであるが亀割が自分の母親の熟れた爛熟の食べごろ熟女の肉体に首ったけなことは承知しておりそれが母親との微妙な距離感へと繋がっている。こうして読者諸氏に予め開示するはサスペンスを消し興を削ぐと思われる向きもあろうが本作が試みるはキャラクターの変化であり反応であり成長であるので物語上の事実を伏せ後出しに安上がりのサプライズに意義を見出さぬもののであることご了承いただきたい。
亀割が「頼んでたラノベ、持ってきてくれた?」と聞けばマキは「うおーー! 忘れたーー!」と道ゆく人々が振り返るような音量で叫ぶ。亀割が狙っている兎子は神保町の書店にてラノベコーナーを担当しており、クラスメイトのマキにラノベを頼むにかこつけて何とか接近しようという淫らで嫌らしい考えであったが、輝美はマキに向けた憎悪の炎をさらに燃やし亀割はマキが頭を抱えた際にプルンプルンする乳房上のおくるみさん小次郎を「……なにこれ……」という顔で見た。小次郎は虚な目で無表情のまま揺れているしかなかった。亀割が頼んでいたラノベはガチガチのエロラノベであった。『熟女エルフと若王子の三泊四日寝取られ温泉旅行』といった類のタイトルが五冊ほどでありマキとしては学校に持って行くのは無理と判断したものである。
「ほいじゃあ、明日でも、ウチに取りにおいでなさいな」
おどけた調子で提案したマキを亀割は頬を赤らめ「え、いいの? 明日ってウサぴょんシフト非番だよね?」と食い入り輝美は憎悪が強すぎてウサぴょん関係の言葉は耳に入らないほどのもの凄い形相でマキを睨みつけている。小次郎は無表情で揺れながら「ウサぴょんって……」と心で呟きマキは笑顔を引き攣らせ「ウサぴょんて……」と呟いた。普段クラスではクールで寡黙な王子様然とした亀割が兎子のこととなると途端にポンコツとなり誠に矛盾を孕んだ複雑なキャラクターなのである。
数学のテストが始まり小次郎はようやくおくるみさん状態から開放され今はマキの髪の毛の中、首の後ろ襟縁に手をかけ張り付いている。シャンプーとうなじから耳の後ろからのJKフェロモンとで咽せ返るようである。エロパワーリザーブインジケータとしてのちょんまげもビンビンでミニスマホのバッテリー残量もはち切れそうであった。カリカリと生徒たちが答案を書く音のみが漂う空気の中、そろそろ動いても見つかりにくかろうと襟縁を回ってマキの左肩に降り立ちヤレヤレと腰を伸ばしてマキの回答用紙を見下ろせば一問目から躓いているようで「?」マークをシャーペンで書いては消しゴムで消している。早く教えろという意思表示らしい。問題を見ればどうやら指数関数のようである。もちろん小次郎には全く分からない。慌ててスマホで検索しようとしたが検索フィールドに謎の記号をどうやって打ち込めばいいのかすら見当もつかなかった。それは本当に「謎の記号」としか言い表せないものだったのである。耳元でマキにそっと「何て読むのか分かんないから検索できないよう」と囁けばマキはシャーペで「マジンガー?」と書く。「マジで?」の意味だろう。続いてマキは「がぞーけんさくは?」とひらがなで書きなるほどその手があったかグーグルで検索だどれまずは撮影をとカメラを起動しシャッターボタンを押せばご想像の通り馬鹿でかいシャター音がテスト中の教室の静寂を切り裂いてエロパワービンビンたるが仇となり申した。マキは思わず顔を伏せ「ヤバタンゴー」と呟きたるがいつになっても試験監督である女教師に動きがないのを不審がりさては聞こえなかったのかラッキーと顔を上げれば左後方からひそひそとテスト中なるも男女の会話が聞こえ小次郎髪の毛をカーテンを開くようにしそっと覗くと三十代後半と見える女教師と男子生徒と机を挟んで何やら話している。女教師の名は真知子先生である。ずっと女教師は困った様子で男子生徒をたしなめ続け男子生徒は折れずに女教師へ無理な要求を繰り返している雰囲気である。テスト中のしんと静謐な空気と、弱りきった女教師の囁きと、男子生徒が諦めず食い下がる小さいながらも芯の強い懇願に小次郎は唯ならぬエロスの萌芽を感じずにはいられなかった。ごめん、あいつらが気になっちゃってとマキに詫びを一度入れ筋を通した上でタップリと訳あり歳の差カップルを見物しようとしたのであるが、マキの描く答案上にタヌキのイラストの泣いているを見てギョッとした。「わかんないよう」と吹き出しのセリフを読むに至り小次郎は自らの至らなさを大いに悔いたのである。手が届くなら両手で己が頭をガンガンと叩いたであろう。手が届かないのでふくふくしたほっぺを下からペシペシし「本当にごめん、一緒に考えよう」とマキの耳へと語りかけた。まずは公式だろうとミニスマホで検索しマキにまずは何が何でも公式を暗記してきたアピールすべしと結果回答に誤りありとて経過も評価されるはずだと励まし挫けそうなマキを激励する。答えをそのまま教えれば即ちカンニングであり悪事であり全く申し開きできぬものだが小次郎は思うに公式もマキはそらんじていたようであるし今も自力で公式に代入しこねくり回しているのを見えれば例え小次郎の存在がバレたにしても回答は自力で到達した価値ある頂であると胸を張り弁明し得ると考え身の保身をはかった。気が楽になれば入り込んでくる雑念は件の歳の差カップルである。二人の囁きは徐々に熱を帯びているようでテスト中の教室内にも動揺の輪が拡がりつつあった。そして、その囁き合いは、はっきりと小次郎の耳にも聞こえる大きさとなっていた。「ダメだって言ってるでしょ。テスト中なのよ」との女教師の声は女声だけあってよく聞こえている。何がダメなの? 彼氏は何を欲しているの? と耳をそばだてていたのだが時間の経過と共に一段と熱っぽくハッキリと聞こえたるは「お願いですからおっぱいを揉ませてください」である。声が大きくなるにつれ隣の机の生徒らは男女問わず「マジかよ」「どうしちゃったんだタケシ君」のというようなザワメキも小次郎には伝わってきた。意識がカップル不条理劇場に持って行かれるその度にマキがシャーペンで机を叩くコツコツという音に我に返る。「マキちゃん何ともないかい? なんかもう、テストどころじゃなくなりつつあるよ」と小次郎が軽く振ってもマキは集中力を持続させ更に先の問題に取り組んでいる。このままマキの数学を応援するか、それとも何か始まりそうな禁断の教師と生徒のラブロマンスに耽溺するか、小次郎に突きつけられたはジレンマであった。小次郎は再びふくふくほっぺを下ペシペシするとマキの耳元へ舞い戻り「いいよ、いいね、その調子だ」と応援を再開した。小次郎が選択したのはもちろんその後のマキからのご褒美を期待したのもあるが、マキから嫌われたくないという、やはり器の小ささからくる保身とリスクヘッジと利益確定主義からくるものであった。さらに言えば、何がなんぼでも教師がテスト中に何かしでかすとは信じられずそんなにエロくならないまま期待はずれに終わるだろうという防衛戦を張ったということでもある。だが後に「あの後からモラルハザード事件」と語り継がれるほど淫猥で猥雑な事態になるとは当時の小次郎には知る由も無かった。
「もう、分かったから、揉ませてあげるから、テストが終わったら指導室に二人で行きましょ?」
小次郎は耳を疑った。女教師が妥協案を出してきたのは想定の範囲内ではあったが、はっきりと「揉ませてあげる」と言ってのけたのである。クラス内の雰囲気も誰も声こそあげぬが「マジか!」もしくは「マジンガー?」であった。そうなるとテスト後の指導室とやらを見物したいものだがそれは叶わぬであろう、勇気を出して女教師にオッパイトライしたタカシ氏を褒めるべきと小次郎は器小さく諦めため息をついた刹那、「後じゃイヤです! 今ここで先生のオッパイを揉みたいんです!」と宣った。そして「お願いします!」と元気よく椅子に座ったままだが頭を下げた。これには小次郎もすっかり参ってしまい、ジレンマを乗り越えた末に誓ったマキへの忠心もどこへやら、続きが気になって気になって往生極まってしまった。そのマキはと言えば未だ真剣に数学問題に取り組んでおり女教師のオッパイピンチも小次郎の浮気性とエロスへの貪欲さとには意識が向かないようである。小次郎の励ましの効果だということに当の小次郎が気づかないのだから誠に男女の仲とは奇異なるものであった。夜通しマキ姫の夜伽として耳元である時は通りすがりの王子、ある時は魔法で野獣に姿を変えられたタフガイなど演じ愛の言葉を囁き喜ばせる術を身につけるのは少し先の話である。
「じゃあ、服の上から、ちょっとだけ、ね?」
もう一段階の妥協案を女教師が提示すればいよいよクラスも熱気を増加させ「行くのか?」「行けるのか?」「今ここで?」と男女問わずエロスへの情熱がモクモクと入道雲のように沸き立ってくる。「ブラジャーの上からで、お願いします!」とタケシ殿はまた頭を勢いよく下げ、「もうそのお辞儀やめて! そんなに一生懸命お願いされたら、あふん、断れなくなっちゃう」とナヨナヨと困り出した。お辞儀に効果ありと認めるようなものでタケシ様はしめたとばかりに図に乗り調子に乗りついに椅子から立ち上がると「ずっと前から先生のことが好きでした! 先生に褒められたくで頑張って勉強もしました! だからブラジャーの上からオッパイを揉ませてください!」とテスト中なのも忘れたような結構な声量で告白し、これでも喰らえとばかりに思い切り力強く頭を下げた。風圧で女教師は仰け反るほどのお辞儀であり小次郎も女性はお辞儀に弱いのかこれは良いことを知ったと浮気の虫を密かに震わせた。
女教師が、ブラウスのボタンを外し始めた。上から下へ、ジャケットははだけて白いブラウスの両肩を剥き出し、ぼうっと上気したような虚な表情を浮かべ、クラス中の視線が一身に注がれているのを知ってか知らずか、ボタンの外れたブラウスもはだけるとついにはブラジャー一枚、双肌を晒した。「そんなに揉みたいなら、うふん、勝手に、あはん、好きなだけ揉めばいいじゃない」と蕩け切った甘ったるい声を女教師が出したのを文字通り合図としてタケシさんは椅子を離れ女教師の後ろに回り込み、右手で右乳を、左手はもちろん左乳を、むんずと、グイッと、下から掬い上げるように揉みに揉んだ。右手と左手を交互に上下させるリズムで、いささか強すぎるくらいの握力であったが女教師は厭わず逆に燃えたぎるのかタケシ君の両手に自分から手を添えるような向きも見せた。小次郎も見ていたしクラス中の生徒も見ている。タケシ氏より前の席の子らも振り返って凝視している。何と見ていないのは数学に没頭しているマキ一人だけという奇跡であった。乳としては弾力も縦方向の意欲もマキの十分勝ちと小次郎の見立てであるが教員がテスト中に断り切れずに揉まれてしまっているという異常性と衆人環視というシチュエーションとが小次郎を一層興奮させた。今のうちに目に焼き付けておこうと身を乗り出しマキの肩上から落ちそうになるほどであった。
「先生! 僕は先生と、キス、がしたいです! お願いします!」
ファーストペンギンは偉大であり、それに続くものは幸いである。新たに二人目の勇士が揉まれている最中の女教師の前に躍り出た。タケシ君は後ろから揉んでいるのでなるほど前は空いてサンドイッチの様相を醸そうという魂胆であろう。「あんあん、ダメよ、うっううん、そんな便乗」と女教師は後ろから男子生徒に激しく両乳を揉まれ喘ぎながらも拒否する。「そこを何とかお願いします! 僕も前から先生のことが好きでした! キスさせてください!」と二人目も食い下がりお辞儀する。何回か拒否られるけどお辞儀を繰り返し繰り出せば最終的に落ちる、という前例を見せつけられ若い男子は一瞬でレギュレーションを理解したようで元気よく思い切りよくお辞儀を繰り返せば「そんなにキスしたいなら、おおう、勝手にすればいいじゃない」と言わしめることに成功した。Okayが出るや否や二人目は顔面から女教師に突っ込んでいき、その頭をしっかと両手で挟んで掴みグリグリと互いの唇を擦り付けあいベロベロと舌を突き入れ女教師の舌を吸った。女教師は最初は目を瞑り暴力的な口吸いに耐えようとするばかりであったがやがて自分からも舌を出し激しく荒い呼吸の中で「ンっ、まっ、おふうん、もっ」みたいな声を出すタイプのディープキスを繰り広げる。もちろん乳揉みも更に強くエスカレートしてこねくり回すような円運動も取り入れつつ揉みに揉みしだき、二匹のオスに挟まれた女教師のキスから漏れる熱い吐息と乳を揉まれる衣擦れの音とぴちゃぴちゃと舌同士を絡める水音とが、テスト中だったはずのしんとしたクラス内に小さく聞こえている。目を閉じ耳をすませば読者諸賢にも聞こえてくるだろう。
ガタガタ音を立てて何人かの男子生徒が立ち上がってそれぞれに歩き出した様はもはやテスト中でも何でもなくもはや学級崩壊の見本ですらある。彼らはめいめいに意中の女子生徒の席へと向かったのは心を込めて熱い想いを告白しダイナミックにお辞儀をすればエロいことを受け入れてもらえるという算段であり女教師から他の女子生徒への応用発展であろう。見れば女教師には更に二人がまとわりつきお尻を揉む方と順番にキスを待つ方を分担していた。女教師は忙しげに首を左右に振り交互にディープキスを受け入れている。その顔は蕩けきって理性などとうに吹き飛んでいるに違いない。ガタガタという音にようやっとマキが首を上げ怪訝な顔をしたのが肩の上の小次郎に見えた。そして女教師の有り様が目に入るやその目を見開き愕然と口を開けた。
「ちょっちょっちょっ、何してんの何してんの?」
マキの(゜Д゜)の形の下唇で発せられた新鮮なリアクションに小次郎は彼女が未だ正常な判断力を保持し得ていることに安堵感を覚えた。マキとすれば自分が無心でテスト数学に取り組んでいるあいだに普段厳しく凛々しい女教師がテスト中に乳を揉まれ尻も揉まれキスを二人チュパチュパ交互に繰り広げられているのだからその動転はいかほどであろうか。これはテストどころではないと判断したマキは素早く隣の女子生徒の机をコンコンと小突き「あれ見れ、やばいっぺ」と囁くも、囁かれたマキの友人たる女子生徒は期待したような反応を返さなかった。「はいぃぃぃ!」と息を吸うタイプの悲鳴をマキが上げたのは友人がスカートの中に男子生徒の頭をスッポリ招き入れていたからである。男子生徒は四つん這いとなり椅子に座る女子生徒のスカートの中に頭を突っ込み外からは見えないが恐らく恍惚の表情で呼吸を繰り返しているのであろう。
「恥ずかしいけど『君は美しい瞳をしている』って言われて、お辞儀されて、断れなくて」
マキの友人女子生徒はずいぶん地味な顔立ちで清楚そのものであるがその頬は赤く染まり時折ピクピクと腰をもじつかせていて、マキは「瞳は関係ないじゃん、スカート内世界では」と呆れ驚きながらも冷静にツッコミをいれようとしていた。
さて、お気づきの通り教室内の状況の原因といえばココ白灰がもたらした陰謀によるものでその目的は輝美の片思い相手の亀割竜太郎にマキの痴態を見せつけ恋心を挫くことであるから白灰の用意したスーパーナチュラルなパワーは詳細は後述するが、その効果を及ぼさない人間が二人いる。当の輝美と亀割である。効果が及ばないよう白灰が事前にチューンしていたからであるが、先に亀割の状態を述べれば、ほとんどマキと同じく数学テスト中にいきなり女教師が乳を揉まれ尻を揉まれ二人交互のディープキスを始めたのを見せられたことになり驚き仰天したが年頃の男子として激しく興奮もした。輝美は知らないが亀割の好みタイプは熟女であり女教師はストライクゾーンで言えば低めのボール球であったが現実目の前でラッキースケベ目撃とあっては見送ることはできずテスト問題を解いているフリをしながら横目でチラチラ見つつ目に焼き付け家に思い出を持って帰ろうとしていた。もう一人、輝美についてはポジティブなドキドキであり今に何人もの発情オスがマキ目掛けて殺到し告白しお辞儀をするだろう、それに対しマキの淫乱スケベわがままボディが我慢できるはずもなく直ぐに女教師も顔負けの好色色情狂の本性を晒しそれを見た亀割がドン引きする予想を楽しんでいた。その期待は現実とのギャップを生み出し輝美の前に立ちふさがることになる。マキの元に三人の発情男子生徒が駆けつけ次々と告白を始めたまでは予想の通りであったが「せっかくそんな立派なパイオツなんだから揉ませてください」「オッパイを揉んであげるので感謝してください」「お前なんかオッパイしか価値がないんだから黙って揉ませてください」というような録音データが残ったら一発セクハラ懲戒解雇な告白しかしてこないので「ふざけんなテメエこの野郎」とマキが声を荒らげるのも無理はなく、彼らが何度お辞儀をしてもマキは煙たそうに手を顔の前でパタパタと仰ぎながら「何かわかんないけどムダですー。ムダムダー」とにべもない様子なのである。これには輝美はギョッとして「なんで効かない?」と怪訝な表情を浮かべ、小次郎はそのマキのきっぱりと断る姿勢に安心したし、しかしマキが数人の男子とくんずほぐれつ揉まれたり吸われたりする様を少し期待しいわゆるNTRの怪しい快感の扉を開けそうにもなっていた。なぜマキには不思議なお辞儀が効かないのか、端的に言えば彼女もまた能力者であり小次郎や亀割のように耐性を持っているということである。この時はまだマキ自身の能力は開花していなかったがその素質体質の上で並の生徒教員らよりもオニ要素に対する下地があったのである。もとよりタヌキ顔であることは再三指摘してきたので勘の良い諸君であればどんな能力かは察しも既に付いておられよう。
どんなにしつこく告白されお辞儀をされても全く動じないマキに安心していた小次郎であるが、地獄の底まで突き落とされることになったのはマキの次の発言からであった。
「あたし好きな人いるから、その人にしか揉ませないし、キスしないから、きっぱりすっぱり諦めて」
そっと小次郎が乗る方の肩に手を添えながらの発言であり、そのsubtextを読み解けば好きな人とは小次郎のことと断じて差し支えあるまいが、何と正に小次郎本人が「ええ~、そんな~、マキちゃん他に好きな人がいたんだ~」と油断状態から直撃を受け大いにショックに襲われたのである。思わず頭を抱えようとして阻まれていたふくふくのほっぺはもう存在せず代わりにあるのは骨に皮が張り付いたようなガリガリの頭蓋骨でありガサガサの手指の感触であった。一気に五十歳は老け込んで、さながら電脳戦記に記録の残る憎悪の悪魔機スペシネフのようであり、またエクシター島は死者の宮殿最奥に佇むという不死の王ブラックモアのようなガイコツっぽさでもある。パワーが抜けきってカラカラに乾いた甲虫のごとくマキの肩から後ろ向きに床にぽとっと落ちれば、もう指一本も動かすこともできぬ、鬱とはこんなものかしら、と一切の意欲やる気のない風情で不貞寝を決め込んだ。彼のパワーの根源はエロでありマキとの恋慕であることがここに証明されいかに天下無双の一寸法師といえども愛の力なくしては干からびた昆虫標本にも劣る価値しか見いだし得ないのである。
マキに男子生徒らのお辞儀が効かないのは輝美の想定外であったが、輪をかけて喫緊の事態となる現象が生じたのは輝美当人にまで男子生徒が群がったことである。その数なんと四名、見た目ビッチなマキよりも多いことに喜んでよいのか輝美は困惑したが元より自分がモテるはずがなく一人も告白してこないだろうという悲しい予想の上に策定された計画であった。「厳しさの中にふっと寂しげな表情をするのが素敵でした」「実家の資産家ぶりを鼻に掛けない素直さに惹かれました」「一見クールに見えるのに勉強が苦手そうなのがチャーミングで一緒に勉強しましょう」「一人のお弁当でも美味しそうに食べてるときの可愛らしさを知っています」などとマキと比較すればずいぶんマシな告白を受けたじろいでモジモジしている。そしてお辞儀を繰り出される度に「うっ」と呻いてのけ反った。一寸法師がその法力を以って見つめれば彼らの頭頂部には赤に白斑点のキノコがにょっきりと生えお辞儀されるほどに悪辣な胞子を女子に向け放出していることを見抜いたであろう。今は床の片隅に転がっているセミの死骸のようであるが一寸法師のここからの復活をご期待願いたい。顔を真っ赤にして俯きモジモジしながら「どうしよう、そんなに言われるなら、キスだけなら……、ううん、ダメダメ!」などとやっている輝美を遠く窓の向こうから覗く者がいた。斧熊である。校庭の植木の枝に陣を構え望遠鏡で計画の進捗と女主人の安否を見張っていたのだが四名の男子に取り囲まれ四方から毒胞子のお辞儀を食らい続ける事態は想定をはるかに超えた急場でありピンチである。もしも輝美が彼らの切なる要求を受け入れほぼない乳をつままれナイスな尻を撫でられあまつさえディープキスされたらと想像すると斧熊の股間はNTR直射により勃起状態となった。心のどこかで斧熊はそうなることを期待すらしておりそれは本人も自覚するところである。斧熊はNTRで勃起する感覚を持っているということになる。読者諸君の中にはNTRは勘弁という向きもあろうが他人の性的嗜好を覗き見る一種実験としてご容赦いただきたい。ご自分の愛する人が寝取られるなんてことは考えたくもないが他人が寝取られて身悶えしている様を楽しむ分にはNTRも立派な見世物であろうと愚考いたす。さて状況は残念ながらNTR発動ならず、輝美が「こいつらに私のファーストキスを渡しちゃうのかも」と絶望的に呟けばそれをスピーカー越しに聞いた斧熊は弾かれるように植木の上から飛び出した。空中で黄色スーツの内ポケットからミニ斧を取り出したればそれこそが彼の変身アイテムであり「金太郎チェンジ!」とダサめに叫べば空中から金色の鎧兜が現れ斧熊の全身を覆い、さながら義の鎧伝の金剛トルーパーの如き無骨さと迫力、そしてサイバトロンの黄色き戦士バンブルビーの如き黄色さを持つ戦闘特化型の戦士タイプへと変身した。その加速推進力たるや全盛期のレクサスを彷彿とさせるほどで一瞬で高校の校庭を縦断し校舎まで到着すると窓枠や雨どいを手掛かり足掛かりにするすると壁を登り輝美の教室窓をぶち破って突入した。窓をぶち破って突入と聞けば腕を顔の前でクロスにして片膝を上げた体勢を思い浮かべられるかもしれぬが斧熊はまず窓枠の上側を掴み逆さになるまで勢いをつけ反動キックで脚から行くタイプでありイーアルカンフーの飛び蹴りかお好きなライダーキックをイメージして頂ければ問題ないであろう。けたたましい音を上げて突入してきた黄色い鎧武者を、輝美はソフトフォーカスの中、スローモーションで三回、きゅんとしながら振り返った。ガラスの破片で生徒教員に怪我が無かったのが幸いである。教室に降り立った斧熊はガシャンガシャンと足音を立てて輝美と男子生徒らの間に割って入り二メートル近い巨体で見下ろされた男子らは腰を抜かして退散した。
「あ、えっと……、お、遅いじゃない! 後でお仕置きだからね!」
後ろから照れ隠しに怒鳴る輝美の「お仕置き」というワードに斧熊は鎧の下で密かに勃起したのは言うまでもないだろう。三階の窓からぶち込まれてきた斧熊とは対照的にガラガラと引き戸を開け普通に入室してきたのはココ白灰である。「ウシャシャシャ、なかなか上手く行かないっすな」と下品に笑いながら身長は百五十センチにも満たないので変身後の斧熊とはかなり身長差あるも態度だけは横柄にして譲らなかった。ダブダブの白衣にメガネのボサボサ頭で小学生にも見えるし大学生にこういう人がいてもおかしくない謎のオーラを放っている。白灰の正体は復活を間近にした大オニ酒吞童子の現身であり輝美の持つ能力を悪用する目的で近づいているのであるがここでは子細を語るまい。彼女が黒幕であるという事実のみを伝えておく。
「しかし、これだけベニドゲザダケオニの胞子を食らっても平気なヤツがいるとは驚きでごんす」
白灰の視線の先には侵入者二人を前にポカンとするマキがいる。窓から鬼のような機械兵が突っ込んで来ても誰もリアクションをせず揉んだり吸ったりに夢中なのはさすがにおかしいとマキも気づいていて「あんたが犯人ね! 何が楽しくてこんなことすんの?」とビシッと白灰に指さした。この強気の背景にはいざとなれば一寸法師が助けてくれるという安心があってのものだったがご存じの通り頼みの一寸法師は干からびたままそのうちアリさんの行列にヨットのように運ばれていくのを待っているかの如くに静かである。
「どうやらマルタイは並の邪気では効かぬらしい。レベルを上げますんでよろしゅう頼んますさかいに」
白灰が迂闊にも輝美へと話しかけ輝美は急に来た白衣のマッドサイエンティストとグルでしかも自分が発注元なのがマキにバレては堪らんとソッポを向いた。マキが「輝美んの知り合い?」とキョトンとして見ているのを斧熊が遮断するように歩み出て輝美を庇うように腕を広げ「無辜の高校生徒及び教員を邪悪の人体実験台にしようとしてもそうはさせんぞ! オニに魂を売った哀れなる科学者め! お嬢さまには指一本触れさせん!」とカッコよくポーズをとって大見得を切りそのポーズとはお好きなスーパー戦隊の名乗りシーンをイメージして頂ければ幸甚に存ず。見栄を切られた方の白灰も「あ、じゃあ、そういうことで」と余計な独り言を呟くと「そこの乳でかギャルタヌキ、あんたは正気みたいだからもっともっと邪悪で邪で嫌らしい実験をさせてもらうでやー」とビシッとマキへ向け指差し返した。「テスト中にいきなりやって来て実験させろなんて意味わかんない、あんな奴やっつけちゃって! 一寸法師!」とマキは小次郎に指令を下したが反応がなく「あれ? どこ行った?」と肩の上や髪の毛の中を探り当の小次郎は床に伏せって起き上がれないまま「命短し〜」と志村喬の真似しわがれた声をほとんど聞こえない声量で歌い輝美斧熊二人は一寸法師の存在を知らぬ故に「何のこと?」という顔をし白灰だけが一人「一寸法師だと?!」と血相を変えた。先ほど触れたように白灰の正体は大オニの分身であり代々に渡り一寸法師には煮湯を飲まされてきた口であるから恐れ慄くのも無理はない。「いや、でも『打出の小槌』はあっしが持ってるでやんすから今の世に一寸法師いるはずねえっす。桃太郎の末裔もアレしたからウチに敵は居ない前提っす」とかぶりを振った。小次郎を探してブラジャーの中などをゴソゴソしているマキを尻目に白灰は何処からともなく竹籠を取り出す。中には白い粉末状の灰はこんもりと盛られていてこれが白灰のユニークアイテム「裏の畑でシロが鳴く」である。某サイババ師のビブーティを懐かしく思い出される方も一人や二人ではあるまい。その白い粉をひとつまみ白灰は摘むと空中へ振り撒き「カモン! オオベニドゲザダケオニ!」とプリキュアの敵役よろしく唱えたれば摩訶不思議、空中漂いたる粉の集合し成形し更にはそこにクラス内男子生徒の頭頂部ににょきと屹立する赤い一本キノコから淫らなる胞子が目に見える濃度で次々放出され合流し見る見る内に一本の立派な二メートル近い大きさと八十センチはある胴回りの猛々しいキノコがそびえ立った。エラが凶悪に張り出し胴には青筋のようなものを浮かべビクンビクンと脈動している。女教師はじめクラス内の女子がその見事な反り返り逸物に目を奪われ腰を振るわせた。
「さあ、エレクチョン完了ずら、このオオベニドゲザの特濃胞子を食らっても正気でいられますかね、その嫌らしい肉置き(ししおき)で」
嫌らしく舌なめずりをして色灰がキノコの胴を撫でればマキは怒張を見上げながら「小牧の豊年まつりで見たことあるかも」と呑気な顔で言う。巨大な男根崇拝は国家繁栄のシンボルであり異次元の少子化に際し今こそ全国的に催されるべきと憂うは余ばかりではあるまい。日本には日本のアイデンティティに根ざした少子化対策でなければ効果は見込めないであろう。閑話休題。生まれたてのオオベニドゲザには笠の頂点に切れ込みがありそこから奇妙な鳴き声を発した。野太く低い唸り声のようないわば威嚇である。反対に床に接地するあたりを見れば奇怪なことに脚が四本生えており節足動物や昆虫のような赤い外骨格の脚で見た目に反し俊敏な移動を可能にしていた。言うなれば自走式の砲台である。反り返ったカーブをさらに反らせ頂上の口をゆっくりマキへと向け照準を合わせようとしてくるとマキは「ヤバめ」と漏らし小次郎の捜索を打ち切ってオオベニドゲザと距離を取ろうと身構えた。「逃がさんくさ」と白灰がパチンと指を鳴らせばマキを取り囲むように集たるはキノコを頭に生やした男子生徒らであり彼らは冬虫夏草よろしく意識を寄生キノコにラストオブアス的に乗っ取られ白灰の意のままに操られていた。男子生徒の群れに退路を絶たれ前からはバケモノ級の肉柱がジリジリ迫ってくるのだからマキにとって絶体絶命であり昨日に引き続きのピンチである。さらに一寸法師は干からびているのだから昨日の触手よりも危機の度合い甚大なり。危うしマキの運命や如何に。
ヒロインピンチに駆けつける者がいる。それはヒーローである。如何にして駆けつけるかと移動手段を問えばそれは馬である。馬の蹄が学校の廊下を鳴り響くが音を読者諸賢は聞き給うや。学校中が「暴れ馬だー!」と騒然とするのを置き去りに吉備野桃は文字通り馳せ参じた。ボーイッシュな凛々しいショートカットは昨日と変わらずマキらの教室の前で暴れまくる馬を乗り捨てると飛び降りパルクールのように前転しながら着地する。馬はかなり怯え怒っているらしくそのまま廊下を駆け続けやがて見えなくなっった。
「白灰ィィィ!!」
その憎悪爆発し歯を剥き出したる桃は全霊で吠えた。昨日の登場時のクールさとはかけ離れて感情を露わにし怒りに震えている。睨まれるも白灰は全く怯むことなく「おやお久でありんす」と余裕で流しマキは「無事だったんだ」と頬をほころばせるもあまり期待しておらず助かったと安心する様子は見られない。
「今すぐに! この体を元に戻してもらうぞ! さもなくば……」
桃の迫力にも涼しい顔で白灰が「さもなくば、なんすか?」と余裕しゃくしゃくと問えば桃は背中の直刀グラディウスをゆっくりと抜き構え「……斬る!」とたっぷり間を取って言い放った。
「おお怖い。でもね桃っち、あんさんはアチキに逆らえない定めなんじゃが」
白灰は不敵に笑みを浮かべると指をまたパチンと鳴らし三本の指を立てた。そのゼスチャーに呼応するように三名の男子生徒がユラユラと桃の前に進み出る。「何の咎もない生徒を盾とするか! 下劣な!」と桃が憤れば「盾で済めばいいっすけどね」と白灰はせせら笑う。「ショートカットってだけで何でも許せます。キスさせてください」「ピチピチのラバースーツフェチでした。胸を揉ませてください」「退魔忍シリーズファンです、尻を揉ませてください」と三名の男子生徒は嫌々という風情で告白しやる気なくお辞儀した。「ふっ、その程度の、邪気で、うっ、私をどうこう好きにできると、ふう、思うなよ……」と、お辞儀される度に顔を背けながら桃は気丈に耐えた。実はこの時、桃の肉体は元々体育会系で性欲が底なしなことに加え昨日のモウセンオニに嫌というほど強力媚薬入り粘液を飲まされた影響の残留するところ大であり立っているのがやっとというほど発情まっ盛りであり若い男を見かけようものなら素っ裸になって飛びつきたいくらいである。目の前の男子高校生を物色するように目移りさせ舌なめずりを無意識にしていれば横から忍び寄った斧熊に直刀グラディウスをヒョイと奪われ「あっ」と情けない声を出してしまった。既に金太郎チェンジは解いていた斧熊は「ここは退きましょう」と輝美に言えば「そんなにお仕置きが待ちきれないの?」と応えまた勃起するも斧熊にすればこれ以上輝美に胞子を吸われ発情し他の男子生徒とキスやペッティングを始められるのは耐えられず一刻も早く輝美を連れてこの場を去りたかったのである。「アッシに任せて、ごゆっくり」と嫌らしく笑う白灰に見送られ密かに発情しきりの輝美とグラディウスを持ち鎧の下で勃起したままの斧熊の二人はそそくさと教室を後にした。「輝美ん、テストはいいの?」とマキが後ろから声を掛けたがそこに返事は無かった。
「武器は止む方なく奪われたが、白灰! ここで会ったが百年目、私の体をこんなにも勝手に好き放題に人体実験し人体改造してくれたこと、死んで後悔させてやる!」
桃は発情し紅潮した頬で白灰をキッと睨み待ち望んだ復讐がようやく果たされる予感に喜び胸を震わせた。白灰は不敵にメガネをクイと上げ「何を仰るおサルさん、おまはんはアチキの最高傑作でんがな」とまるで桃の憤怒もヴェンジャンスも一顧だにする風は無かった。「せっかくやさかいに、見てもろうたら? そのみっともない体、男子らも女の裸は見たいやろ」と白灰の邪な提案に桃はラバースーツの体を抱きしめ身を固くするが取り囲んだ三名の男子生徒が口々に「お姉さんのオッパイを見せてください「僕はお臍が見たいです」「脱ぎたてのラバーの匂いを嗅がせてください」と頼み込みもはや得意となったスピードお辞儀を連射すれば元よりじゅくじゅくに発情している桃なのだから表向きは「見なきゃよかったと悔やむことになるぞ……」などと一応の抗弁するもそこへ先ほどから控えていたオオベニドゲザが先端から無造作に白い胞子をバフっと浴びせ掛ければ吸う呼吸にタイミング合わされたかモロに吸い込んでしまったらしく桃は激しくむせ返った。咳き込み苦しげに息を吸おうとするその隙間にも抜け目なくオオベニドゲザは濃い胞子をまぶしてくるのだから流石の体力自慢の桃も下を向き膝に両手を突いて喘いでいるしかない。その喘ぐ吐息には少しながらしかしはっきりと官能とセクシーの響きが追加されていた。
「なんだい、皆んなで寄ってたかって、こんなのイジメじゃないか。そんなに白い粉を吸わされたら断るもんも断れないよ」
見かねたマキが割って入り冷静な言葉と愛嬌ある怒り顔で桃を援護したれば言われた白灰も「確かにこれでは準強姦と言われても否定できないだら。白い粉で酩酊状態にされたとて同意なかったと」とうそぶき、尚お断りするが白い粉とは魔法のキノコの胞子であり決して違法薬物の濫用を欠片も肯定するものではい。準強姦の件はマキにはピンと来ていないことも併せて申し添える。桃はマキの勇気ある加勢に対し「ありがとうオッパイちゃん。だが他人の心配をしている暇があるのかな?」と空元気を見せると「オッパイちゃんてあたしのこと? セクハラで訴えたげようか」とマキは反論し白灰は「固いこと言うなよオッパイちゃん」と嘲笑するがその時すでに桃の瞳は虚ろに曇り発情に潤みゆるゆると自らのラバースーツの肩紐を手繰り脱ぎ出す体勢に入っていた。
「そんなに見たいというなら見せてやろう私の柔肌を。その代わり! 何を見せられても目を逸らすなよ!」
ギャラリーはいつの間にか男子生徒三名から増員すること十数名となりちゃっかりとカップル成立し腕を組み乳を揉みながら見物するものまで現れ桃の教室内発情ストリップをとり囲み冷ややかにせせら笑いながら蔑視しているのである。「誰か止めてよ! 何でみんなおかしくなってんの? ていうか逆になんであたしだけマトモなの?」とマキが孤軍奮闘するも焼け石に水でありいやさらに桃の羞恥と興奮を煽るだけのスパイスとしてしか機能しない。ラバー材質が桃の素肌と擦れる嫌な音が一際大きく教室を巡ったかと思えばそれは桃の上半身がひいては両の生乳が衆人環視に晒される号砲であった。
桃の半裸を嫌らしく鑑賞しようと腑抜けた間抜けヅラで取り囲んでいた凡俗ともは一目見るなりアッと息を呑んだのはその色彩の鮮やかである。赤青黒と色とりどりの色彩のコントラストが桃の肉体を飾り立て周囲を威圧しピリッと気合を入れる気配を四方に放射している。そう、入れ墨である。右の乳房から肩にかけてはイヌの刺青、左乳は対照的にサルの刺青が鮮やかな朱色黒色藍色の発色豊かに生々しく艶やかなしなやかさを見せれば鳩尾からヘソを経由し股間へと下向きにクチバシを伸ばすのがキジの刺青である。生徒の誰かが「すげえ、和彫だ」と感嘆の声を上げ誰もが黙って見入るほどに実に見事な彫り物が、鍛えられ引き締まった桃の上半身を粋に怪しく装い彩っていた。下半身のスーツの下はTバックの紐パンとなっており流石にパンティまでは脱がない理性がかろうじて残っているようであるが両脚からスーツを抜き床に投げ捨て真っ赤な顔で桃は教室中の視線が自分に向けられていることを確認しさらに興奮し発情すると「どうだ! これがあの白灰に私がされたことだ。言っておくが只のジャパニーズ・タトゥーじゃないぞ。よく見てみろ!」と胸を張る。マキに比べるとだいぶ小ぶりで何か物足りなさを感じようが数名の生徒はそれが只の刺青オッパイでないことに気付き「動いてる!」「何だあれ!」と嫌悪の悲鳴を上げた。右のイヌは舌でペロペロと右乳首を舐めるようにゆっくりと、左のサルは両手で捻り回すようにこねり、下腹部のキジはパンティにクチバシを突っ込んで外から見えないのをいいことになにやらチョンチョンとついばんでいるようである。桃に課せられた呪いの三重殺トリプルプレイとは普段からジクジクと肉体をさいなみ体育会系二十代の性欲まっ盛りやりたい盛りの官能を弱火のトロ火に延々とかけ続けるような地獄の責苦なのであった。
「言う通り、こいつは単なる刺青なんかではなく、人間とけものオニとの合体実験でやんして、一人の体にオニがなんと三匹も共存してるっつう、傑作中の傑作だべし。すごかろ?」
白灰がマッドサイエンティストの面目躍如とばかりに得意がれば「信じらんない、どうすんのこれ、消せるのレーザーとかで? あ、でもダサいってことじゃないよ、和彫は気合い入りまくりでイカしてるけど」とマキは何とか桃のメンタルをケアしながらも白灰を問い詰めようとする。桃太郎の血統を受け継ぐ桃にオニの封印を施しその鬼退治力を封じるのが酒呑童子の算段であるがそのオニのモチーフがよりにもよってイヌ、サル、キジという意地の悪さであった。平静時でも所構わず両の乳首や局部を弄ばれその斬撃にせよ銃撃にせよ一切の精彩を欠くは当然の帰結であろう。だが桃にしてもむざむざと返り討ちにされ入れ墨セミヌードを高校生に見せびらかしに来た訳ではなく、オニ三体に女体をいいようにいたぶられているとはいえその素体は人並み外れた運動能力に加え百戦錬磨の経験に培われた智慧と根性とメンタリティがある。最後の手段としてオニを三体同時に解放し肉体と魂とを引き換えに大暴れさせる覚悟はとうに完了していたのである。だがいよいよとばかりに大きく息を吸い口を開きかけた機先を制した白灰は『仏の御石の鉢』という謎アイテムを懐から取り出すとひっくり返して桃の頭に被せた。黒光りする漆塗りのような鉢は取り出された瞬間は華奢な白灰の掌にも収まるほどであったのが何の魔法か桃の頭上に至る数瞬の間にみるみる大きさを変えスッポリとベレー帽のようにあるいはカリメロ卵殻のようにジャストフィットしたのである。「てるみ……じゃなかった、さるお方からお借りしたアーティファクトでやんしてどうやらオニ避けに効くみたいなんで」と白灰が勝ち誇るとそれまで桃の素肌の上を淫らに蠢いていたイヌサルキジの紋様はピタリとその蠕動を停止した。桃が「なぜだ? こんな時に」と悔しがりほぞを噛むも三体は知らぬ顔でそのくせ桃の性欲の火照りは引く兆候すらなく桃の精神を蝕み続ける。ちなみに酒呑童子の現し身たる白灰が仏のお鉢を保持していても影響を受けなかったのは完全に人間に化けおおせていたからであり、そこにはオニとしての力を解放せずとも計画を完遂できるという慢心があったのである。
「さて、静かになったところでゲームでもしまひょか?」
最終手段を封じられ項垂れている桃に白灰は嫌らしく笑いかけ邪悪な取引を持ちかけてきた。そのゲームに桃が勝てばオニから解放してやる、と甘く囁けば「そんなうまい話に乗るものか。私が負けたらどうするつもりだ」とここに及んでも桃の強気のポーズは崩れない。「もちろん、あんさんが負けたら、その時は、もっと素敵でもっとアチアチな実験にかけられてもらおうかな」と白灰は頷く。教室内の告白からのキスやぺっティングと同様、あくまでも本人の同意の上で人体実験に取り掛かろうという白灰独自の矜持がそこに現れていた。
「やっちゃいなよ、そんなゲーム、どんなルールかは分かんないけど」
マキは無責任に焚き付けるがそもそも桃も事情も白灰の正体も知らぬのであり甚だ感覚的に言った「やっちゃいなよ」であったがそれでも桃は刺青乳を誇らしげに反らせて「オッパイちゃんのお陰で思い出した。私は誰の挑戦でも受けて立つ!」と言い切れば白灰は満足そうに嫌らしく頷きマキは「あたしの呼び方オッパイちゃんでフィックスなの?」と鼻白んだ。勝負のルールとは至極単純なもので男子生徒三名の愛撫を制限時間三分の間に声を出さずに耐えきれたら桃の勝利、堪えきれずに桃が嬌声をあげてしまえば白灰の勝利となる。マキは余裕で「勝てる勝てる、だいたい喘ぎ声なんて男を喜ばす演技でしょ」とたかを括ったが桃は絶望的な顔付きで「それはお前が本当のペッティングをされたことがないからだ」と呟いた。事実、マキは見た目の巨乳ギャル風であるもペッティングはおろかファーストキスも未経験であること各位におかれてはご確認の上ご安心いただきたい。愛撫担当の男子生徒三名も簡単に紹介しておくと桃の右乳担当は有働、左乳担当は佐藤といい共に吹奏楽部の金管楽器トランペット要員であり桃には不利なことにタンギングと呼ばれるトランペットの基礎技法を特に自信のあるものだった。細かい音符を連続で鳴らす場合にマウスピースに当てた唇を舌で塞ぐようなイメージで「トゥトゥトゥトゥ」と高速で動かすため常に舌を動かす筋肉を鍛えているのが金管楽器の常識である。そんな彼らにこれから桃は乳首を舐められ責められると心得ていただきたい。桃の背後に周り後ろから背中や腋の下を刺激する担当は安間という鍼灸師志望の男子生徒であり生来の手先の器用さに加え年上の彼女から仕込まれた数々の性的テクニックを持つ技巧派であった。指圧、ツボ押し、くすぐりの技法で女性の肉体を歓ばす手段を極めているといっても過言ではないだろう。公平を期すため桃が発声したかどうかの判定はマキが任じられることとなったのは桃に味方しがちなマキでも言い逃れできないくらい声が出てしまえば桃の敗北は避けられぬという事実を成り立たせるのが白灰の目論見であった。桃とすればこれまで散々に白灰には騙され裏切られてきたので向こうが指定するルールで勝負して勝てる見込みはほぼ無いと弁えてはいるもここで勝負を避け逃走したところで己が身を苛む三匹のオニはそのまま解決されず敢えてわざと負けて新たな人体実験を受けてでも現状に変化を求めたのである。もちろんこのゲームに勝てるならそれに越したことはなく絶対に声など出してなるものか、年下の男子高校生の愛撫など今までに受けた屈辱恥辱官能性感に比べればなんということもない、と強い決意と気持ちで臨んだのであるが両方の乳首を同時にチュポンと吸い付かれれば「んふっ」と口は閉じたままでも鼻から甘い声が漏れた。バッチリ聞こえてしまったマキは慌てて「まだスタートって言ってないよね」と白灰に問えば「イヒヒヒ」と嫌らしく笑って「君たち、始めの内は少しは手加減してあげなはれや」と余裕を見せるもいざマキがスタートと言いスマホタイマーを三分にセットし始動すれば有働くんも佐藤くんも痛々しいほど勃起したピンク乳首に勢いよく吸い付き舌でグルングルンにこねくり回し甘噛みしバキュームしながら変形した乳首を得意の高速タンギングで連打すればたちまちのうちに桃はおとがいを仰け反らし全身を硬直させビクンビクンと痙攣を見せる。背後の安間くんの出番が来ないうちに桃の口からは快感を我慢できない時に女性が発するやや低音の「おおおん!」という声がなかなかのボリュームで漏れ聞こえた。「まだ一分経ってないからセーフ」とマキが謎の理論で弁明すれば白灰は苦笑して「君たちどんどん上げていこう。オッパイちゃんも呆れて助け立ちする気が無くなるくらい感じさせてちょー」と気勢をあげた。満を持して後ろから安間くんが腋の下をサワサワと撫で背筋をスーッとなぞれば桃はそれだけで官能の局地へとあっさりと登り詰め乳首を甘く噛まれるほどに「あっは! んんんあっ!」と口まで大きく開いて絶頂を極めた。一度や二度ではなく断続的に気をやらさせ女の生き恥をかかされているのである。
「ううう、イッてないからセーフ、って言おうとしたのに。イキまくりなんですけど」
マキの目にも桃が男子生徒三名に恥辱の連続絶頂を喰らわされ続けているのは明らかであった。桃はもう立っていられないらしく背後の安間くんに体をもたれかせ両乳を吸う有働くん佐藤くんペアの頭を愛おしげに撫で回している体たらくであり完全に勝負はつき桃の敗北が決していたのである。白灰がマキに桃が負けたるを認めるか問えば「こんなの最初から勝てるはず無かったじゃん」とマキは興醒めしてそれを認めた。
「さて前座の茶番はこれくらいにすっぺっけっども。次はいよいよお前さんだぎゃ」
白灰は計画の主目標を忘れることはなく目標は輝美のお目当て亀割にマキの痴態を見せつけ幻滅させることである。即ちこれまで見てきたような女教師、女子生徒、そして桃のような恥ずかしい展開をマキにもたらそうということである。マキが「なんで?」とストレートに訊けば白灰は「それは秘密です」と人差し指を自らの唇の前で立てて獣神官ゼロスよろしくニヤリ微笑んだ。もう一人のターゲット亀割もオオオベニドゲザの毒胞子を少なからず吸い込んでおり効かぬよう手配されているとはいえ散々に級友たちのセクシーなくんずほぐれつの光景を見せられているので顔を赤くし若者らしく股間を膨らませている。白灰が指を鳴らすと件のオオオベニドゲザがのっしのっしとマキの方へ歩み出した。「ちょちょちょ、なんであたしなの?」と逃げようとするマキを十数人の男女が取り囲み、逃がさない。マキがちょっと通してと懇願しても聞き入れない。迫るオオオベニドゲザ、危うしオッパイちゃん。
そんなマキの狼狽する様子を小次郎は干からびた骸骨のような面持ちで体育座りで教室の隅からボンヤリと見ていた。マキには好きな人がいると聞いて素直に祝福できるような人間の器の大きさは持ち合わせておらずさて好きな人とはクラスの中にいるのだろうか、朝の登校時に話していた亀割とやらが一周回ってそうなのか、など一人孤独にブツブツと世迷言を繰り返していたのである。いよいよ具体的現実的にマキが危うしとなろうともどうやら女性側の同意が無ければ接触お触りはNGのようだし、男子生徒(むろん女子であっても何ら問題なし)の中に意中の人間があるのならむしろ好都合の怪我の功名、背中を押してくれるイベント発生とならんと虚ろにしてシニカルな瞳を曇らせている。そもそもマキを助けに行きたくとも立ち上がるどころか指一本も持ち上げる気力やる気が湧かないのだから小次郎本人としてもいかんともしようがなく、マキの幸せを願い、体や心にダメージが残らないよう祈ることしかできなかったのである。その状況を受け入れ諦めてしまえることこそ小次郎の器の小ささを如実に表すものと言えよう。なんとか声は出せるのだからマキに面と向かってハッキリ好きな人とはどんな人か、自分のことはどう思っているのか、確かめようなどという考えは初めから微塵も芽生えなかった。そのことを恥じる自覚すら無かったのである。「やる気\無気力」という価値要素で表せるならマイナス方向の極限まで落ちに落ちたと言い切ってよいだろう。
オオオベニドゲザが頭頂部の裂け目から毒の胞子を噴出し、顔面にまともに吹き付けられたマキは激しくむせ返る。男子生徒は更に増え実に十名がマキの御前にズラリと整列し、一斉に「オッパイ見せてください」と唱え一糸乱れずお辞儀を繰り出すと、「げほんげほん。ええと、見せるだけなら、いいかも……」とモジモジと狼狽えながらも自らブラウスのボタンを一つ一つと外し始めた。「フフフ、ここまで強力な邪気であればレジストできないようでやんすね」と白灰は満足し、小次郎は我知らず身を乗り出し、マキは恥じらいながら、もったいつけるように、見せつけるように、ブラジャーのホックを外すと、それはそれは見事な神々しいほどの生のオッパイがプルンと音をたてまろび出た。先ほどの桃の入れ墨乳も善戦はしたが教室中に満たされる「おお〜〜!」という感動と目が覚めるようなという表現がそのまま当てはまる衝撃とは比べるべくもない。小次郎のちょんまげも僅かにヒクヒクと動いたが表面的なエロスに反応したまでであり一寸法師の神通力を取り戻すには圧倒的に不足ではあった。しかし見事で美しいオッパイであることには間違いはない。白灰ですら「迫力! 生の!」とたじろぎ手を口に当て言葉を失っている。なんというか見る者の体の芯に充足感というか「やった!」とか「生きてて良かった!」と理屈を超えて思わせるのがマキの生オッパイなのである。もちろん人によりけりで男子生徒の中には単なる性欲の対象としか考えないものもいようが、例えば小次郎などは骸骨のように落ち窪んだ眼底に清らかな涙をたたえ、死ぬ前に素晴らしいものを拝謁賜り恐悦至極、思い残すことはもはや何もない、という感慨にまで耽っていた。調子に乗った男子生徒たちは生オッパイ閲覧のみに飽き足らず、次は「そのパイ揉ませてください!」だの「キスさせてください!」など言いだした。マキは困ったように眉根を寄せ形だけの抵抗をするのかと小次郎はボンヤリ見ていたので、その後に発せられたマキの言葉は痛烈であり人生全てと行っても大袈裟でない程の内容であった。その言葉は以下の通りである。
「ダメ! ぜったいダメ! あたしの初キッスは、小次郎さんにあげるんだから!」
ソフトフォーカスの靄の中で小次郎はスローモーションで三回くらい繰り返して顔を上げマキを見上げた。嗚呼、マキの言った「好きな人ができた」とは自分のことだったのだ、そう気が付いた瞬間の小次郎の感動と嬉しさとを貴公らは想像し給うや。ポンっと音がしたかと思えば骸骨顔は一瞬で元のふくふくした血色良好なる若侍へと復活し、萎れていたちょんまげは百八十度に迫るかというほどに反り返り、ピョーンとひとっ飛びに飛び上がればマキの頭上にヒラリと降り立つ。
「小さい体にでっかい勇気! まかり出たるは一寸法師でござる!」
小次郎は口上と共に見よう見まねの歌舞伎のような大見得を切った。BGMは『burn』(WHITESNAKE版)か『guerrilla radio』(レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン)のようなイントロを脳内再生して頂ければこれ幸いである。ぼうっとしていたマキはハッと我に帰りブラウスで胸を隠し「もう! 遅いよ! どこ行ってたの!?」とプリプリと非難すれば、白灰は「げえっ! 一寸法師!?」と油断し切っていたところへの強烈なインパクトに舌をまき、内心で「『打出の小槌』は確かに一寸法師がこの時代に出現する前から確保しておいたはずなのに」と不審がり不思議がった。大黒天による使い捨て打出の小槌レプリカの仕業と知るのはしばらく後のこととなる。酒呑童子にとっての天敵といえば源頼光と金太郎を含めた頼光四天王であるがその金太郎の末裔は既に籠絡済みで今ごろは輝美女王様とのお仕置きプレイ真っ最中であろうし、他の四天王の末裔は別のオニとそれぞれ別世界で抗争中であるのは確認済みであり、最大の強敵たる桃太郎は何年も前から準備して淫靡な人体実験を繰り返し今や官能の沼に沈めつつあり、他は浦島太郎とかいるけどオニ退治とは関係ないし、正直、一寸法師のことは大した脅威にはならないだろうとたかを括り『打出の小槌』さえ抑えておけば問題なしとしていたというのに、後は輝美につけ入って酒呑童子の本体を復活させる儀式に悠々と着実にノンストレスで取り掛からんと見通しをつけていたところに、ここまで来ておいて急にまかり出てきた一寸法師であるので白灰そのフラストレーションは天井知らずであった。そして脳髄を目まぐるしく回転させ善後策を捻り出すべくウンウンと唸りだした。
「おりゃー!」という可愛らしく甲高いそれでいて気合いの込められた掛け声とともに繰り出されるのは一寸法師お得意の頭突きである。空飛ぶサイヤ人か界王拳のごとく全身に光を纏った体当たりと言って差し支えないだろう。違うのは一寸法師は空を自在に飛べる訳ではなく空中で方向転換などできずマキのおでこから発射されれば後は一直線に弾丸のごとく何かに当たるか慣性力が消えるまですっ飛んでいくのみであった。当たりに行ったのは言わずもがなオオオベニドゲザの屹立したる太い一本キノコである。小次郎にしてみればマキが男子生徒らのお願いを拒否してくれさえすればよいのであってそれこそ最優先目標であるのだからオオオベニドゲザの吐き出す濃い胞子の霧さえ絶ってしまえば後はマキの理性を信じ安心なのである。しかし小次郎の希望通りとはならずオオオベニドゲザは簡単には倒せなかった。起き上がり小法師か、あるいはボクササイズで殴ってストレス解消に有用なパンチングマシーン、または空気を入れるタイプのパンチングバルーンなどを想起して頂く程に、小次郎が何度も教室の壁や黒板、生徒の後頭部などからスーパー頭突きをぶちかまそうとも、のらりくらり、暖簾に腕押しのごとく頭突きの勢いを受け流されボヨーンと後ろに倒れてはまた何食わぬ顔で起き上がるばかりで一向効果を感じられない。油汗を流して見ていた白灰も少し余裕を取り戻し頬を緩め「一寸法師とかって焦ったけどまだまだ本調子には遠く及ばないようだなもし」と呟いた。
「親指ぼーや、剣は? 針の剣!」
マキの健気な援護に小次郎は腰に帯びていた武装を思い出し柄を握ってスラリと針の刀身を引き抜いた。刀というよりは刺突専用のレイピアといったところであり差し貫くことしかできず刃はなく要は唯の針である。それでもボヨンボヨンと打撃力を吸収され受け流される頭突きよりは痛みが大きいだろうと試してみるものの、教室の床に降り立ち根元部分をプスプスと刺してみるが菌糸の繊維の間に針が挟まるだけでしばらく無言でプスリプスリとやっている気まずい時間が流れたのみであった。マキが「それじゃないんじゃない?」と声を掛けてきたので「そっちが言ったんでしょ」と反論したかったが小次郎はグッと堪え「別に絶対に倒す必要もなさそうだし、一旦退却して体勢を立て直すのは……」などと器の甚だミニな案を口走れば「さっきまでの威勢の良さはどこ行ったの? 一寸法師なんだからオニ退治してよ」と至極真っ当な反対意見を言われてしまった。
「そんなシンプルな攻撃ではあっしのオオオベニドゲザは倒せまへんえ。一寸法師恐るるに足らずでんがな」
得意げに白灰が高笑いするのを小次郎は口惜しく歯を食いしばって聞いていたがマキから「挑発に乗っちゃダメ! 諦めないで! できることからやってみよう!」と先ほどまで数学のテスト中にカンニングとして小次郎がマキの耳元で囁いていた励ましを逆に受けることになり、そこで小次郎は一度大きく口から息を吐き鼻から大きく吸って深呼吸した。マキに「いいよ! その調子!」と褒められたが「まだ何もしてないって」と小次郎は照れ横目でマキに流し目を送った。予期して深呼吸した訳ではなかったがその効能てきめんにして小次郎の目には一寸法師の法力が漲り気付けば教室中に淀んでいるオニの胞子が邪気の流れとして視覚的に捉えられた。『片目で見える夢なんか〜』のカットのミオリネ嬢のような表情になり、昨日のモウセンオニの体内を流れる邪気を辿ってオニの弱点であるツノを発見した経験が小次郎の中で甦る。「弱点……、弱点……」と唱えながらキョロキョロと目を巡らし邪気の流れを指差しながら遡っていくと空中で収束したり枝分かれしたりを繰り返しながらオオオベニドゲザのキノコの笠の部分へ邪気が流れ込んでおり逆に源を探せば枝分かれし男子生徒の頭頂部にニョッキリと生えた赤いキノコに行き着いた。若いオスの性欲を糧に立派に勃起したオオオベニドゲザでありそのパワー供給源を遮断しなければいくら本体部分を攻撃しても無効であることが看破されたのである。ならば若いピンピンキノコよりどり狩り放題じゃいとばかりに一人の男子生徒の頭に飛び乗りそこに生えている若々しくプリプリと瑞々しいキノコの根本を針の剣でぶっ刺し引っこ抜くと案外アッサリと気持ちよくスッポンと抜ける。調子に乗って次の男子生徒の頭に乗り換えそのキノコを引き抜き、引き抜いたキノコは記念にとマキに投げてよこすなど気分よくキノコ狩りに勤しんでいるも、今度はマキの方より「また生えてきてるよ」と教えられ抜いた男子を見れば先ほど引き抜いたはずのキノコがまた可愛らしくピンク色の頭をのぞかせている。早速盛んにオス性欲パワーをオニへと供給する有様で、げに男子高校生の性欲の旺盛さは底なしであった。「すごい回復力だよ、若いから。もっとパッパとテンポよく狩らないと」とマキは順当なアドバイスを投げてくるがいくら小次郎が頑張ってペースを上げてもどうにも追いつかない。ジャンプして男子生徒の頭に着地し、針で刺して引き抜き、マキの方に嫌がらせのように大量の採れたてキノコを投げつけ、次のターゲットの男子を探し、その頭部目掛けてジャンプし、というような手順であるのでやっていていかにも効率が悪い、稲刈機やコンバインのような文明の利器はないものか、無ければあるまいと困ぱいした。
解決策は意外な方向からもたらされることになる。桃である。彼女は己が頭頂にパッカリと嵌め込まれた謎アイテム『仏の御石のお鉢』を力任せにメリメリ引き剥がすと苦悶の表情を浮かべたままフリスビーの要領で小次郎目掛けて投げよこし「これを使え!」と発言した。白灰が「バカな! どこにまだそんな力が?」と慟哭すれば「力を温存するため早目にギブアップしたのさ」と桃は自分の性欲と性感の強さを棚に上げグッタリしたまま不敵に微笑んだ。先に桃の入れ墨オッパイの様子を見ておこう。仏のお鉢による抑えが無くなると柔肌に彫られたイヌサルキジのオニたちは一斉に忙しなく蠢き出し乳首だの腋の下だの股だのの嫌らしい愛撫を再開するのだがそこに桃がどこからか取り出した白いキビ団子をイヌサルキジそれぞれの口元に押しやれば奇奇怪怪、三匹は立体的な三次元への扉を明け桃の肉体から湧き出でるかのように盛り上がる。極彩色に彩られた派手な和彫であるから肉塊が蠢く様も幻妖にして面妖なり。「喰らうがいい、これが奥の手、三神同体のキビ暴走だ……!」と言う桃は目を閉じて荒れ狂うイヌサルキジに身を任せるようであり初手から三匹を制御することなど諦めている様子であった。事実、これまで何度も己の肉体を蝕む卑しき獣らを飼い慣らす努力を試みるもその度にあえなく返り討ちとなり性欲盛りの女体は飽くことなく浅ましく恥をかかされ続けたのである。そして三体を同時に解放という試みは今回が初であり二体までなら何度か経験あるがイヌとサルはご存じの通り犬猿の仲であり桃の体が両断される寸前まで暴れ回り、キジはそれぞれにクチバシでついばみ気味の悪い声で鳴き桃の精神を追い詰め、街路樹やら公園の遊具やベンチ、駐車中の警察車両に至るまで鬼神のごとき攻撃性と暴力性で滅茶苦茶に破壊してまわったのである。「三体同時はさすがにヤバいでしかし」とその危険性は白灰も大いに認めるところであったらしく再び『仏の御石のお鉢』の霊力にてイヌサルキジオニを鎮めようと桃がフリスビー投げした先を目で追うがそこには一寸法師が待っていた。
「これを使え、と言われても?」
迫り来るチャクラムのようなお鉢を見ながら小次郎は首を傾げアルゴスの戦士のヨーヨー状の武器(ディスカーマ―)か天秤座の聖衣にもそれ系があったようなと思案していたがお鉢は空中でピタリと止まるとフワフワと小次郎の目の前へとゆっくり舞い降りる。大きさもみるみると小さくなり黒い艶やかな表面の仕上げも手伝って一杯の黒塗りの漆椀そのものとなった。更に金箔で模様の筋が伸びれば「高そう! 輪島塗かな」とマキすら驚きの声を上げる。確かに石川県のアンテナショップなどで買おうとすればペアで十万円は下るまい。
「乗れ、ってコト?」
小次郎は顎に人差し指を添えて可愛らしく小首を傾げた。一寸法師といえばお椀の船に箸の櫂が定番ではあるが空を飛ぶお椀とは、しかも仏のお鉢が変化したものとは想像だにしていなかったのである。「裏切るんすか! お鉢! てるみ……いやいやゴホン、貸し主に怒られちまうでがんしょ」など白灰声を荒げるもお鉢は知らぬ顔で一寸法師にかしづこうとして「乗っちゃえ親指ぼーや!」とマキに囃し立てられれば南無三、小次郎も覚悟を決めてピョーンと飛び乗った。小次郎が乗るや否やお鉢は高速で回転と始めた。ちょっとやそっとの回転数ではない、最初からいきなりフルスロットルのターボエンジンかはたまた遊園地ではしゃぎ過ぎて回しすぎて止まらなくなったティーカップを思い起こしていただきたい。余談であるがお椀の船にいきなり何の準備も展望もなく飛び乗ったのは小次郎にしては向こう見ずでリスク軽視のきらいはあれどそこに箸の櫂が加わればもう少し御し易かったのであるがそれについては追々触れることになるだろう。
一寸法師はしばらくお椀と共に回転しつづけると見た白灰の目下の心配事といえば桃の三神合体でありその末の暴走と大量破壊であるからひとまずはオニの天敵であるところの一寸法師であるがここは置いて桃の対処に注力せん、ひいては最大まで己が強度を上げ正体である酒呑童子の現し身たるを衆目に晒し一寸法師とその仲間に知られるリスクやむなしときっとかんばせを巡らしたるは無理からぬことであった。「やむを得ん!」と桃の肉体上で膨れ上がる三種の肉塊へ歩を進めると何処からか竹籠を取り出し「裏の畑でポチが鳴く!」と呪禁を唱えたれば白灰のか細く貧相な身体の向こうにユウラリとモヤのようなオーラのようなものが立ち上り一体の巨漢を形作る。正に酒呑童子の片鱗を垣間見せたのであるが読者に置かれ想像されたるはハイラルを跋扈するファントムガノンの赤黒く禍々しいシルエットはたまた金剛力士像の筋骨隆々たる巨躯であろうと拝察するも実際に白灰が呼び出したのはDIOのザ・ワールド(三部の)にも似た過剰に派手な装飾を纏った性別不詳の細面であり仮面まで装着したればかような面相かも窺い知ることはできない。手には餅つき大会で見られるような杵を持ちそれを大きく振り上げて桃だった肉塊へと踊りかかり「暴力やめれ!」とマキが牽制するも一切の効果を持たず酒呑童子(影)は杵をひょいと振り下ろせばイヌのキャンという悲鳴、続いてサルのキャっという声、最後はキジのケーンという鳴き声が三連続に教室に響くと逆再生のように桃の肉塊は縮んでいき元のボーイッシュな一人の女体となってパタリと床に伸びた。左乳、右乳、股間のイヌサルキジは以前の見事な和彫の入れ墨へと戻ったが良く見れば気絶状態を表す黄色いヒヨコがピヨピヨとそれぞれの頭上を輪を描いて飛んでいる。大元の桃は苦しげに呻くとゆっくりと目を開け自分の体を見回し最後の手段までも奪われ通用しなかった現実に直面し絶望的な表情を見せた。直ぐに酒呑童子(影)はまた引っ込んだが「なんだ今の?」とマキも回転しながらの小次郎もしっかり目撃し、さてはあれが巫女コスプレ少女神が退治するよう命じた大オニなのではないかと思い至り戦慄した。単なる巨大なだけなら対応法も考える気になろうものだが先ほどの派手で得体の知れない感じが恐怖と嫌気を起こさせたのである。「やっべ、見らった」と白灰が舌打ち混じりに悔しがり「一寸法師なんか急に出てきて、仏のお鉢も奪取された形で、あちきの正体まで見られて、ギャルタヌキの恥ずかしい動画も撮れないで、って、こりゃあもう完敗の上のポン敗っすわ」との長めの捨て台詞を吐き捨てると「まあでも桃っこ三神が校舎内で大暴れするよりはナンボかマシっしょ」とメンタルを素早く持ち直し「いつまで寝てるんだがや、はよ起きてちょー」とまだ起き上がれない桃の太ももを爪先で小突いたころには例のオーラのような大オニの像は掻き消えていた。何も言わずのろのろと半身を起こす桃に今度は「仕方ねえ、手ブラじゃ帰りにくいっすからお前は連れて帰るっす。そういえばゲームでは思いっきり負けくさったでやんすから約束通りもっともっとえげつない人体実験にかけてやるっちゅうの」と見下して言えば桃は鎮火しかけた官能の残り火が臍の奥で再び疼き出したのか悩ましげに眉根を寄せ「その節は生意気な口をきいて失礼いたしました。どうぞこの体でよければお好きなようにめちゃくちゃにしてタップリと嫌らしい人体実験を施してやってくださいまし」と見上げる目は発情しきりで頬を真っ赤にして応えると「なに期待してるじゃい、この性欲おばけ」と白灰はなじるも満更でもない様子であり「お願いする時はどんなポーズするんだっけ?」と嫌らしく水を向ければ桃うっとりとした表情を浮かべM字開脚で両手を後ろにつき紐パンしか履いていない腰を突き出すようなポーズを自主的にとって「後生でございます。後生でございます」とだらしなく舌を出しM字の下半身をクイクイ上下させ哀れを乞う様は登場時のクールでボーイッシュな戦うヒロイン像との落差を感じざるを得ずその多面的なキャラクターに小次郎もマキもキノコオニからしばし目を離してぽかんと見呆けた。「あんまり女をナメるなよと言いたいけど本人がきもちーなら何も言えねえ」とマキは親指の爪を噛んだ。聞こえているのかいないのか白灰は満足したのか何処からともなくまた竹籠を取り出すと中に盛ってある白い灰を一掴みし「ここ掘れワンワン! いじわるジジイ!」と唱えながら桃の周りに振り撒けば何の呪法か床に積もった灰の下よりジワジワとドス黒い汚水が沸き無数の不快な虫や甲殻類や無脊椎動物が溢れ出て桃の肉体を陵辱するかのように纏わりつき更に嫌らしい水溜りの奥から這い出たのはヌタウナギの大群で恍惚の顔の桃を大量のヌラつく触手のような塊の中へ飲み込むとまた水奥へとどっと一気に引き返し一瞬で桃もろとも跡形もなく消え去ってしまった。「キモー」とマキが顔をしかめた。貴兄は深海でヌタウナギが魚の死骸を貪る動画をご覧になったことはおありだろうか。いじわる爺さんの強欲をたしなめようとしてヌタウナギの大群をチョイスするセンスや如何に。
「あっしも一旦引き上げて体勢を整えるんでないかい。お相手はこのオオオベニドゲザが引き継ぎますんでご機嫌よう。ごめんなすって」
白灰が徒歩で去った後に教室内に残ったのはお椀と共に回転し続ける小次郎と落ち着かないマキ、そびえ立つオオオベニドゲザ、寸止め状態の女教師と生徒たち、密かに正気を保っているが何もできずエロシーンの記憶を新鮮なうちに早く持ち帰りたい亀割、ということになるだろう。「帰っちゃったよ、どうすんのコレ」と既にこの場にはいない白灰をマキがなじるのも道理であるが小次郎としては目の前にオニが立っているのに放っておいては一寸法師の名が廃るくらいの責任感を持ってみたい願望はあるもののそこはやはり人間の器がスーパーミニなのが実態であるからマキさえ無事なら後は他の生徒や教師はよろしくやってくださいと持ち場を放棄する気がまんまんとしているのである。が、もし正直にマキに伝えればきっと失望されバカにされてしまうだろうという一段上の小ささを発揮し「退治したいのはやまやまでござるが目が回る〜」とよもやのお椀のせいにして逃れようという手段に打って出てこの場を取り繕うとしたのであった。「あ、遊びで回ってるんじゃないんだ」とマキが驚けば「好きで回ってると思ってたの〜?」と回転しながら上目遣いで小次郎は見上げそのお椀をマキは無造作にはっしと掴み回転を止め手のひらにお椀に乗った小次郎を乗せて覗きこみ「でも上手く乗りこなしたら無敵なんじゃね?」と今度は鞄から自分の弁当箱を取り出した。もちろん食べるのではなく箸箱から箸を一本抜き出し小次郎に持たせ「キタコレ! 一寸法師スタイル!」と箸を櫂にしてお椀に乗る小次郎を興奮した様子で称賛すれば小次郎は照れながらも空中に箸の櫂を突く真似をしたところ不思議なことにお椀の船の回転を押さえされ更に左右交互に櫂を手繰ればスムーズに前へと漕ぎ出すことが出来ていやこのような複雑な制御を初見一発目でやりこなすような運動神経は持ち合わせていないはずだがと小次郎は一人訝しんだものの体重が極端に軽いのと一寸法師の法力、そしてさらにマキが見ている前で格好つけたいという願望により実力以上のバランス調整能力を成しているのであった。「私、飛んでるわ!」と沈没豪華客船映画より名シーンを再現してみたところ「そうだね」とマキは素っ気ない返事でどうやら彼女はその映画を未視聴のようである。ここで簡単にお椀の船の操舵について説明するならば箸の櫂を真後ろに保持すれば前進し左右に漕ぐ動作でそれぞれ方向転換ができ高度の上昇下降については大体のニュアンスで仏のお鉢が自分で考えてアジャストしてくれるので率直に言えば小次郎の運動神経は関係なくいかにお箸で生きたい方向や高度を伝達できるかというコミュニケーション能力が問われるものであり解りやすいゼスチャーが求められるのである。
「これなら行ける! スピード重視でキノコ狩りじゃあ~!」
オオオベニドゲザに邪気を供給している男子生徒頭上のキノコが刈っても刈ってもすぐ再生してしまう問題への小次郎なりの対応策は再生される前に全てのキノコを刈り取ってしまえというシンプルなもので、まずは一気に急上昇し教室の天井スレスレから見下ろして攻撃目標を目算すれば室内全生徒は三十人そのうち男子生徒はおよそ半分の十三名さらに亀割のみ邪気の影響を受けていないので頭に生えた若々しいプリプリのキノコは十二本ということになる。「いっくぞ〜〜! 急降下からの一筆書きキノコ収穫まつり!」とニュータイプよろしく眉間から白く煌めくフラッシュを迸らせ小次郎は脳内で攻撃の順番を組み立てると左の後ろ手に端の櫂を、右手には針の剣を抜き放ち、右足をお椀の縁に踏みかければイメージが共有できたのかお椀も意気に感じ勇んで手近な男子生徒の頭頂キノコ目掛けて飛びかかった。思っていたよりだいぶスピードが速くて小次郎は怯みそうになったがここでブレーキをかければ折角の奮い起こした勇敢が台無しとばかりに弱気を振り捨て目の前にグンと迫ったキノコの白い胴体目掛けて剣を刺突すれば「ヤー!」と叫んですれ違いざまにキノコそのものをつむじから引っこ抜く。スッポーンと気持ちよく抜けたればキノコをマキのいる方向へノールックで投げよこし顔は次のキノコに向かい同じ要領で二本目三本目と快調なペースでキノコを次々と収穫していった。「なんであたしに投げてくんの? いんないんだけど」とマキは苦情を言うがそれでも健気にキノコを拾いあげてはレジ袋に投げ込んでいく。「ほい! ほい! ほい!」とテンポよくやっている内に小次郎はこのままどんどんスピードを際限なく上げていけるかのような感覚に陥るもそこまで急ぐ必要はなくあまり調子に乗って速くなりすぎると自分がどうにかなってしまうような、実体を失ってしまうくらい速くなってしまいそうな恐怖を覚えたのである。この時の小次郎の感覚については詳しくは触れないがここではまだまだ一寸法師の法力に余力あり余り限界を知らぬこと甚だしとだけ記しておこう。「これで全部かな、コンプリートキノコ?」と小次郎はマキに問えばマキは椅子の上に立ってキョロキョロと見渡し「ざっとコンプ、けど最初のがまた生えかかってる」と急かすのでようやくとオオオベニドゲザ本体に向き合えば雄々しかった勃起力は見る方なく萎れ艶を失い表面シワシワとなり胴体の真ん中あたりで折れそうになっており見る者に哀れと盛者必衰とを思い起こさせていた。
「今がチャンス! 必殺! スーパー大回転アタック! かっこ仮!」
小次郎として(仮)を付けたかったのは必殺技につける恰好の名前がこの短い時間では思いつかなかったからであり技自体は先ほどお椀を制御できずに回転し続けていた際に「このまま回転しながら突っ込んでいったらカッコいいんじゃね」とイメージできていたもので技の名前など叫ばずに黙って繰り出してもよさそうなものだったがそこはかつてヒーローものに憧れた男の子であるのだからカッコいい必殺技名が必須であることは疑いの余地がないのであった。最初は針の剣をお椀の外に突き出して回転する超電磁ヨーヨーあるいは絶・天狼抜刀牙的な形態をする予定でいたがどうしてもお箸の櫂の方が剣より長いので先にお箸の先端がぶつかることになることに気がつくと素知らぬ顔で針の剣を鞘に納めるとお箸を両手で握って改めてお椀の縁に対して直角に構えれば以心伝心、お椀こと仏のお鉢も面目躍如とばかりにもの凄い勢いで回転し始めた。回転速度はとんでもなく速いものの移動速度はそうでもなくゆっくりとオオオベニドゲザに近づいていきお箸の先端が胴体に触れるとザリザリと小気味いい音を立ててほとんど抵抗なくザシュ! と両断してしまう。「え、グロ」とマキが引き気味なのは仕方ないものとして小次郎はさらに四往復ほどしてザシュッ! ザシュッ! とオオオベニドゲザを輪切りにしていきオオオベニドゲザも無言で何の反応もせずに自分の胴体が輪切りにされていくのを受け入れているようであった。八つ裂き光輪でバラバラにされていく怪獣の悲哀が思い起こされる。教室の床に散らばったキノコの輪切りはやがて白い煙をあげてみるみる霧散していけばお約束のように女教師も男子生徒も女子生徒も理性を取り戻しキスやペッティングを恥ずかしそうに中断したのであるがねっとりとした視線は絡み合ったままであり「テストは中止です、延期しましょう、今日は全員、早退で」と女教師が一方的に断定すれば皆いそいそと待ちかねたように教室を連れ立って出て行った。その女教師には四人の男子生徒がゾロゾロと追従しおそらく指導室とやらにしけこむのであろうし、他にもカップルが成立した男女や三人組なども学校を早退してどこぞに密室を求めて散っていくのである。理性を維持していたはずの亀割も「ごめん、お先に」とマキに告げそそくさと下校したのは目の前で見せられた女教師や級友のあられもない姿に興奮し居ても立っていられないからであろう。
一寸法師によりオニは見事に退治されたのではあるが後遺症はしばらく続き後にその界隈では「神保高校の女子生徒は熱心にお願いしたらBまではやらせてくれる」「休み時間に教室でキスやペッティングをするのが常識になっている」などと不名誉な噂が広まることになった。これが世に聞く「地獄のカンニング事件」の顛末であるがあながち根も葉もない流言飛語とも言い切れぬのは貴公も既知の通りである。
教室で二人きり残された小次郎とマキは顔を見合わせると「もうカンニングはこりごりだよ〜」と言って笑ったが、マキといえば自分ばかりがパートナーからあぶれていたという現実に直面し「早く大きくなってくれないと、あたし欲求不満で死んじゃうよ?」ともじもじと体を揺らしながら小次郎に上目遣いで訴えると言われた小次郎は生唾を飲み込み「うん、頑張って大オニというのを退治して元の体に戻してもらわなきゃ」と決意するが先ほど白灰の向こうに垣間見えた大オニらしき怪異のフォルムを思い出しあれを倒さないといけないのかと身震いした。
○熊に跨りお馬の稽古 折檻その2
金太郎こと坂田斧熊はその屈強な身体を仰向かせ大の字に縛り付けられ寝かされており一通りの折檻は済んだらしくお仕置き棒こと蓬莱の珠の枝で輝美女王様に散々に痛めつけられ荒い息を繰り返しているところである。目は黒いレザーの仮面に塞がれ口には黒いボールギャグを嵌められ筋肉隆々の身体は黒く布面積の著しく狭いボクサーブリーフのみで両手両脚は鎖の錠にて厳重に緊縛されていた。一発喰らえば悶絶し白目を剥くような蓬莱の枝をかれこれ二十発は撃ち込まれ斧熊の全身は脂汗でテラテラと濡れ薄暗い折檻部屋に吊るされたランタンの仄暗い灯にゆらゆらと怪しく照らされている。黒いボクサーブリーフは生地も薄く痛々しいほどの斧熊のお勃起を形が見えるくらいに浮かび上がらせているのだがその上から輝美が跨って腰を下ろしているのでビザールファッションの輝美の火鼠の皮衣製レザービキニの硬い生地と斧熊自らの鋼鉄のような腹筋に挟まれているお勃起は摩擦と圧迫とでもう爆発寸前であった。輝美の上半身は前回折檻ではビキニトップの上から高校制服を羽織っていて露出は無きに等しかったが今回は斧熊の目をレザーの仮面で覆っているので気を許したのか制服は着ていない。ビキニといってもほとんどが紐であり乳首のみを辛うじて三角形の黒いレザー生地で隠すばかりでその三角形も一辺が五センチ程度のものであるところ輝美の乳はボリュームはほとんど感じられないのがら諸肌を晒せばそこはお年頃のJKでありなだらかな隆起とその頂点のほんのりピンク色の乳輪は神聖清らかにして清々しいものであるが斧熊の苦悶に影響されたのか輝美も興奮の度が絶頂近くまで高まり切っておりびっしょりと水をかぶったように汗をかいた半裸を嫌らしくくねらせ腰を斧熊自身に擦り付けている。今、輝美の乳輪がピンクだとどうして分かったのかと問われるならばレザー面積があまりに小さいが故に少しの身の捩りでぽろんとビキニがずれ乳首がコンニチハと顔を覗かせるからである。
「分かってんの? ぜんぶあんたのせいなんだからね?」
輝美が目を吊り上げ斧熊の乳首に押し当てるのは蓬莱の珠の枝を逆手に持ったその切先でありチョンチョンと乳首に触れる度に斧熊は激痛でのたうち両手足の鎖がガシャンガシャンと鳴る。目を塞がれているので次にどこに激痛が走るのか予期できず斧熊の脳内は恐怖とエンドルフィンの過剰分泌により完全に思考停止し陶酔していた。ここに至って斧熊は輝美からの折檻でポジティブに興奮し性的な快感を享受していることを認めざるを得なかったのである。ここで斧熊の家族について紹介することになるのはこれから始まる陵辱への準備のためなる故詳しく語り説明するものではないが家族と呼べる者は細君ただ一人であり名を詩央里という。彼女とは先代会長からの押し付けられた政略結婚であり斧熊自身が望んだものではなかったがグループ内で権力に手を伸ばす基盤として受け入れざるを得なかったもので表面上は上手く行っている風を取り繕っていたものの話し相手としては凡庸すぎ何をするにも消極的で受動的であるので至極退屈を感じていた。性行為も嫌なのを必死で耐えているのが丸わかりであったためすっかり白けてここ数ヶ月は肌に触れることも完全になかった。見た目は清楚でいじましい小柄な女性であるので斧熊にとってはもはや飾りであり置物としての価値しか見出せないでいるのである。そんな細君を輝美は今からNTRにかけるのである。正確に言えば数日前からNTRする準備を続けており完成のお披露目が本日ということになる。本来であればもう少し泳がせて効果の最大になるタイミングを待ちたかった輝美であったが度重なる計画失敗にごうを煮やし憂さ晴らしとするため前倒ししたものでもある。輝美は斧熊の肉体に跨ったまま体を倒し顔を近づけると斧熊の髪を掴み上げ横を向かせて首をまた押し倒し上を向いた左耳へ「あんたの愛するお嫁ちゃんからビデオレター来てるってよ」と荒い息遣いで囁けば斧熊は全身をビクッと硬くしボールギャグに塞がれた口の中で「どうか家族だけは見逃してください」と己が身の哀れさに身悶えながらモゴモゴと言った。実を言えばこの五日ほど斧熊は帰宅できていない。急に輝美の対マキ作戦が本格化したからであり準備や白灰からのリクエストに翻弄され妻とは連絡もろくに取っておらず妻の方からも何も言ってこないのを僅かに不審に思っていたのだが忙しさにかまけて何の対応もせずにいたのである。その悔恨がこれから始まるNTRを引き立たせる香辛料となることを斧熊は無意識で感得しておりその無意識は期待で膨らみ戦慄いている。輝美は跨ったまま何やらリモコンを操作し「最初のビデオレター、五日前のだね」と言うが斧熊の目はレザーの仮面で塞がれたままであり、まずは音だけで楽しめという輝美の趣向であろう。
「斧熊さん、毎日お仕事お疲れ様です。会社の方がこうやってビデオレターを撮ってくださるって、少し緊張しちゃうけど、あなたが安心してお仕事に集中できるように、私も頑張ります。実は今日から、お料理教室に通うことになりました。会社の方の紹介で」
ここで斧熊は「待って! 罠だ!」とモゴモゴしながら暴れるが「うっさい、もう五日前の話だから」と輝美は底意地の悪い笑顔で馬鹿にした。
「会社の方の紹介で、すごく素敵な料理の先生に習えることになって、私、頑張ってあなたに美味しいお料理を作れるようになります」
薄暗い折檻部屋の壁にプロジェクターで投影されている画面の中で詩央里さんは可愛らしくガッツポーズをするのだが斧熊には当然見えなかった。動画は続いており詩央里さんは強張った面持ち「これでいいですか……、明日も? いえ……、はい……」と撮影者と不穏なやり取りをしていた。「はい、次、四日前〜」と輝美がリモコンを操作すると「こんにちは、斧熊さん……」とおずおずと詩央里さんが話し始め「今日もお仕事お忙しいんでしょうね……、全く何も連絡が無いので少し不安です」と恨みがましい目をした。
「昨日お話しした料理教室なんですけど、先生のご好意で、この家で教えて下さることになりました……。最初はそんなの申し訳ないですって断ろうとしたんですけど、会社の方からも、どうしてもって」
連絡を取らなかったのは斧熊にも引け目はあるがこんなことになっていようとは想像だにせず両腕を縛りつける鎖をガチャガチャ鳴らして悔しがるがその時不意に目を塞いでいた仮面が乱暴に外され斧熊の目が眩んだ。ボールギャグは外してもらえないようで、目の前には汗に濡れた輝美の火照った顔が直近であった。斧熊は細君のNTRも忘れその美しさ神々しさの向こうにある官能と生命力にしばし見惚れてしまったことを認め白状しなければならないだろう。
「こちらがお料理の先生のキモ中年さんです」
斧熊は耳を疑い慌ててプロジェクター画面の方に視線を向けるが、どうやら「きもつ・うねさん」と発音しているようでどんな漢字を当てているのかは不明であったし知りたくもなかった。画面に出てきて詩央里さんと並び嫌らしく舌なめずりしてその肉体を値踏みするように下から上へと舐め回す視線を見せつけられる。斧熊は口を塞がれたまま「時系列がおかしい、奴をスカウトしてタヌキ女にけしかけたのは二日前のはずだ」とモゴモゴと言った。そして全てが最初から仕組まれていたのではと空恐ろしくなった。画面のキモ中年は「これからボクが奥さんに手取り足取りタップリと仕込んであげますよドュフフ」と詩央里さんの手を握って笑っている。斧熊は輝美へと顔を戻し「どういうことですか」とボールギャグを嵌められたなりに問い詰めようとしてハッとなったのは輝美の上半身が目に入ったからである。左の乳首が見えてます。ビキニがズレてるんです。斧熊の脳内を八十パーセントほど占めていた細君とキモ中年の情景が脳外になす術なく弾き出された。ツンと尖ったピンク色の乳首は興奮し硬くなっているのがよく見て取れる。どうか自分の乳首が飛び出して露出していることを輝美本人が気がつかないでください、気が付けば乳首は隠されてしまうから、と心を込めて祈ったのであるが詩央里さんの無事を祈ることがまるで無かったことに気づくだけの余裕は斧熊には無かったのである。数日前の妻の貞操より目の前の乳首の方が大分と重要だったのである。画面では詩央里さんが「え、会社の方々は帰られましたのに、え、お泊まりになるんですか?」のようなやり取りも収録されていた。「知ってた? このキモ中年、最初から白灰が用意してたの、モウセンオニ? あの触手のやつ用に」と得意顔の輝美に斧熊は目を合わせ驚くように目を見開いたが本心では乳首に視線を向けているのがバレれば露出に気づいた輝美は隠してしまうだろうからあえて視線を外そうということである。「はい、じゃあ三日目〜」と驚いた風の斧熊に気を良くしリモコンを使う輝美の動作を確認しながらバレないように乳首を盗み見ることに全神経を投入する勢いであった。
「……ウフン、斧熊さん、お疲れ様。どこでなにしてるのかしら? 先生の差し入れて下さったお酒を飲み過ぎちゃって、……アン……、わたし、酔い潰れて……、寝ちゃったみたいで……、ウウン……」
昨日までとあからさまに様子が違うのであるが斧熊は聞き流すくらいのテンションである。内心、もう助からない、退屈だが暖かみも確かにあったあの日々にはもう戻れない、と諦めようとしてもいた。キモ中年は詩央里さんの肩を抱き「ボクが夜通し介抱してあげましたから安心してください旦那さんドゥッフフ」と笑い「朝から迎え酒といきましょうや」と画面に映した一升瓶には大きく「媚薬」と書いてあるのだが詩央里さんは「ください! 早く! 飲ませて!」と必死の形相で一升瓶に縋り付く。「あーあ、こりゃもうダメだね」と輝美がほくそ笑んだ。「四日目〜、おとといだね〜」と輝美は横を向かせていた斧熊の顔を両手で挟んで上向かせて正面から見据えて笑う。斧熊にしてみればほんの少し首を持ち上げればキスできてしまうくらいの距離なのでドッキドキなんです。輝美の熱い吐息が自分の鼻にかかり爽やかな香りの奥に薫る生命力を感じさせる生臭さや獣臭ささえ嗅ぎ分けられるので斧熊は一呼吸ごとに勃起したり緩んだりするのが分かった。レザーのビキニパンツ越しに輝美にもお勃起の硬さや熱さは伝わっているかもしれない、などと想像すると斧熊の興奮は更にその度合いを高めた。四日目のビデオレターは詩央里さんの顔面のどアップからで始まるやいなや全開の喘ぎ声とパンパンパンパンという肌同士がぶつかり合う音が詩央里さんの後方から聞こえてくるのとで画面からは分からないがおそらく後背位で男から激しく突かれながらの撮影のようである。「前の日から徹夜でぶっ続けでヤリまくってたらしいよ」と輝美が斧熊の前髪を撫でながら教えてくれるが細君にそんな体力があるはずはないから怪しげな薬物の影響で虚弱な詩央里さんの寿命が削られているのではと思案したが本気で心配するというよりはどれくらい彼女が耐えられるのか興味の方が先立った。
「あん! あん! お、おのくま、さん! あん! 今、私は! あん!」
後ろからガンガンに突かれながら詩央里さんは現状を実況しようとしているらしい。おそらくそうするようにキモ中年から命令されているのだろうし性感を高めるためのスパイスのような扱いであろうと斧熊は心中で嘆息した。
「わ、私の、嫌らしい『ピー』の中に! 逞しい先生の『ピー』で、ああん! 気持ちいい! 『ピー』さいこう!」
輝美はピー音を入れたのは自分だと言って嫌らしく笑うが斧熊は女主人がみてずからPCの前で詩央里さんのはしたないアヘ声を聞きながら動画を編集している姿を想像しもう一段興奮した。プロジェクターのスピーカーからは「太い『ピー』を『ピー』に『ピー』していただいくと私の『ピー』はすぐに『ピー』してしまって『ピー』がもっと『ピー』を……」のような調子をずっと続けていて大体の想像はつくものの何を言いたいのか正確なところはほとんど分からなかったが、合間合間に「おのくまは、こんな気持ちいいこと教えてくれませんでした」とか「あいつの『ピー』は硬いだけで痛いばっかりで全然面白くありませんでした」とか「おのくまは役立たずの生ゴミです」とか「先生の『ピー』に比べたら、おのくまのは、ひのきの棒です」のようなことは割り合いはっきり聞き取れて斧熊をイラっとさせた。俺だってあれだけふんだんに薬物を使えたら、と悔しく思わないでもなかったしスタミナも持続力もそれなりである自負もあったが思い返してみれば確かにずっと痛そうにしていて悪いことをしたと反省したがしかし輝美に罵られるのに比べれば詩央里さん一世一代のそれは羞恥も屈辱もまるで話にならないレベルでもあった。やはり輝美さまはドSの天才だと改めて思い知らされたのである。「いよいよ五日目〜、最終日〜」とイタズラっぽく輝美が告げるので最終的にどのくらいまで堕ちきったのか興味本意で見届けてやるかと斧熊も画面へと目を向けたがそこに映ったのは極めて平静にスンとして座るポカホンタスみたいなメイクをした詩央里さんであった。「依存性のない媚薬だったからね」と輝美は言うが前日の乱れよう錯乱ぶりを考えればそんな都合の良い話があるかとにわかに信じられなかったが深刻な後遺症や依存症は画面を見る限り無さそうなので斧熊は心密かに安堵した。
「今日、会社の方から聞きました。斧熊さん、あなたが無能なせいで、キモ中年さんがオニになった挙句、退治されてしまったそうですね」
昨日の話をしていて斧熊もよく覚えているが確かにキモ中年男性はモウセンオニと変化した後に何者かに退治されたのは事実である。画面に映る細君は心の底から憎悪を募らせているらしく目は吊り上がり、手にした書類をカメラに向けて突きつけると「離婚届です」と言い放ちすでに詩央里さんの署名捺印済みであることが示された。そして斧熊には不思議と驚きはなかった。
「私はこれから『ピー』スペシャリストの資格を取るためにスウェーデンに留学します」
何があるんだよスウェーデンに、と斧熊は思った。だが彼女の前向きな決断を応援しようとも思った。「離婚調停と財産分与は弁護士を通じて協議する」みたいなことを最後に言っていたのでこんな動画を残しておいて勝訴する気なんだろうかと呆れもした。
輝美が無言で斧熊の頭部に手を回し斧熊の口にガッチリと嵌っていたポールギャグを取り外してくれるにあたりどうやらNTRビデオレター鑑賞はお開きのようであった。最後まで見せられた斧熊の胸中に去来するのは、虚しさか、輝美への更なる服従心か。
「どう? するでしょ? 離婚」
そう問う輝美の表情が少し硬かったのだが斧熊には気づくだけの余裕は無くその目はやはりずれたビキニトップから顔をのぞかせているピンク色の乳首に吸い寄せられている。斧熊はその余裕のない精神の容量をやり繰りし特に深くは考えずに「一度、詩央里と、話をしてみませんと」と言ってしまったのは彼の中ではとっくに離婚することは決定事項であったのが最後に一度これまでの放置や思いやりの無さを謝罪し自分の罪悪感から逃れたいというくらいの身勝手なもので追加するなら財産分与などには応じないから適当なところで示談し裁判などに無駄な年月を費やしたくないというところである。しかるに輝美にとっては大恥もいいところであり斧熊に未だ不貞妻への未練ありと早合点すればオニの形相、跨っていた斧熊の勃起から飛び降りると手にした蓬莱の珠の枝でその勃起を強かに打ち付けた。斧熊の口からとんでもないボリュームの絶叫が弾けそれはまさに断末魔というべき叫び声であった。ストーリーテリングの技法的に言えば価値要素「信頼/不信」がマイナス方向に振り切ったこととなり、これはクライマックスで価値要素の逆転を極大化するための準備である。
「お楽しみでやんすね、相変わらず」
折悪く入室するのは白衣にメガネの白灰である。輝美はそっと目元を拭い、乳首が露出しているのに気づいて慌ててビキニを着直した。オオオベニドゲザが退治されたことは輝美にも伝わっており白灰はいわば計画失敗の報告に来たことになるのだがその表情は飄々としたものである。気に入らない輝美が「また失敗したんだって?」と嫌味な声をかければ「いやー、参った〜」と白灰は額をピシャリと叩いて笑う。「まさかこのタイミングで一寸法師が出て来やがるとは、いやー、読めなかった〜」と白灰続けて笑えば「そんなの踏んづけちゃえばいいじゃない。三センチくらいでしょ? 一寸って」と輝美は憮然とする。「いやいや、一寸法師は侮れませんぜ。全盛期のスピードが戻ってるならスタープラチナでも捕まえられやせん」と白灰は腕を組んで首を振った。先代の一寸法師などはオニの体内に入り込んで内側から攻撃してくるような奴であり苦悶しバタバタと斃されていく仲間の最期を思い出せば鳥肌がたつ。「で? 降参なわけ?」と輝美のかける圧に怯まず白灰は「悪い報せはまだあんだす。お借りしていた『仏の御石のお鉢』なんすけど、裏切ったっちゅうか、お鉢の意思で一寸法師の乗り物に成り下がりましてん」と宣う。報告を聞いた瞬間、カッとなった輝美は持っていた蓬莱の珠の枝を振り上げ力いっぱい斧熊の股間へ振り下ろした。先ほどの一撃で気を失いかけていた斧熊であったが再び声の限りの絶叫を轟かせた。
「もちろんこのまま引き下がるつもりなんざ毛頭ございやせんで。一寸法師を無力化して、あの憎っくきタヌキ女をボコって、愛しの亀割お坊ちゃんを振り向かせる、この目標は決してブレてません」
輝美がではどうするつもりか問えば白灰は次が最後の作戦という覚悟であるといい更に「もう少しお願いがありましてね。『竜の首の珠』と『燕の子安貝』、まとめてお貸しいただきたい」という。輝美がそれで本当に勝てるのかと念を押すと白灰はニヤリ笑って作戦の詳細を説明し始めた。竜の珠の法力を引き出し改造中の桃を大幅にパワーアップさせマキを襲わせ、おびき出された一寸法師を子安貝で無力化する、という。
「更に奥の手として、月からの使者も呼んでおいてもらえると心強いっす」
そこで輝美も流石に怯み「月の使者が来たら地上はタダでは済まない」と難色を示すがそれこそが白灰ひいては酒呑童子の最初からの狙いであるも今は隠し「あくまでも準備しておくだけで、計画が失敗しそうになったらその時に月の使者で場をメチャメチャにして逃げましょう」くらいの軽い提案を装えば輝美も覚悟を決めたのか「どっちに転んでもこれが最後なんだから」と承諾してしまった。朦朧とする意識で聞いていた斧熊はもし次も失敗すればどれほどのお仕置きを受けられるのだろうと我知らず胸を高鳴らせ、例えばドロンジョ様がボヤッキーたちの失敗の度ごとにこのような熾烈な折檻をしていたならばどんなに面白かろうと想像した。
○浦島太郎、竜宮城へ来てみれば
亀割竜太郎は勝山マキ及び苦竹輝美のクラスメイトであり恵まれた端正なる容姿ありながら普段は完全に無口寡黙にしてほとんど他人に興味を示さないのだがその実はライトノベル愛好者でありお色気の強めのものを大いに好みなかんずくは熟女に異常な執着心を持つ極端なマニアといってよかろうが学校行事でふとしたことからマキの母親である兎子を見かけ正に好みのどストライクと心臓を撃ち抜かれ何かにつけてマキに近づこうとせんのない用事を拵えるのは当然マキの向こうに理想のエロエロ熟女たる兎子を求めての彼なりの必死のストラグルなのであったから今日この日に兎子・マキ母娘の住まうマンションに招かれ呼び鈴を鳴らす彼の昂りやいかほどであったろうし玄関ドアが開き「らっしゃー」と出迎えたのが娘のマキのみであった時の失望はいかほどであったろうか。
「ごめんな、そんな露骨にガッカリすんなし。お母さん、今、お風呂入ってるから」
うさぴょん不在と勝手に早合点しお持たせのシュークリームを床に叩きつける寸前でニヘラっと笑ってマキがそんなことを言うので竜太郎の目には希望の輝きが戻った。そして外は暑く汗をかいたので何の気なしにシャワーを借りようとしたら憧れの女性が先に入っていて鉢合わせしてしまったのごときラッキースケベを夢想したがそれを現実で実行するほどの度胸は無くマキが「入ってるの気づかないフリして覗いてみる?」などと悪魔のような囁きをするも「入る前にぜったい気づくでしょ両方とも」と竜太郎は顔を赤らめながら固辞するのである。マキとすれば竜太郎が母親兎子を狙っているのは百も承知であり兎子も彼を憎からず思っていることは分かりきっていて余計な老婆心で二人を近づけラブラブチュッチュにしようとする意図があるのだがそれはマキ自身が母親から自由恋愛を禁じられているように認知しているからであり二人のラブ現場を押さえれば娘マキへの口うるささも緩和されるのではという期待と加えてマキ自身は自覚していないが無意識では離婚したという父親を巡る母娘間の微妙な関係性によるものでもあった。愛し合って結婚したはずの父親を捨て若いイケメン男に現を抜かす母親を軽蔑もし、その転落する様をぜひ見てみたいとも願っているのである。リビングに通された竜太郎は緊張しながらソファーに座ればマキはニヤニヤしながら向い側に座り「あっ! シュークリーム! 気が利くじゃん! 駅ナカのだよね?」とテンションを上げた。マキの格好といえばノーブラの上に水色の薄いタンクトップと下半身は部屋着のようなパイル地のホットパンツでありタンクトップの裾は絞ってヘソを晒すだけ晒そうとするような露出度の高さなのだが竜太郎は歯牙にもかけず先ほどから盛んにマキが若々しいノーブラ乳房を縦方向にプルンプルンさせても特段の反応は見せなかった。初手から熟女兎子狙いであることはマキも把握していたものの同年代の男子高校生とはまるで違う竜太郎の態度にそれでよしとも思ったし少しプライドを傷つけられもした。ローテーブルには以前に竜太郎が兎子に注文を頼んでいたライトノベルの文庫が三冊、キッチリ揃えて並べてありそれが目に入るや否や竜太郎はパッと顔を輝かせ「やった! ついに、手に入れられる!」と小躍りするように喜んだ。三冊のラノベ、タイトルはそれぞれ『人妻エルフ寝取られ温泉旅行』、『熟女セーラー服はもう寝取られている』『人妻エルフ寝取られ温泉旅行2 南米編』であり戸棚の上でお椀に乗って見守っている小次郎でさえ「熟女の寝取られ率!」と目を見張った。
「ねえ熟女マニア、お母さんがお風呂から上がってくるまでにぃ、ちょっち相談あんだけど」
マキがローテーブルの上で身を乗り出しその豊かなバストの谷間を見せつけるようにしながら持ちかけると竜太郎はエロラノベのページを捲る手を止め「お金なら少ししか……」と得意のエランケレス四号的な暗い声で応えるもマキは吹き出して笑いそんなんじゃねえわと言う。マキから竜太郎への要求は二つである。一つ、なるべく兎子と仲良くしてほしい。マキは良きところで退室し二人きりにするのでたっぷりと愛してやってほしい。そうすればマキへの束縛も緩むだろうから、とにかく口やかましくて彼氏も作られん、と手早く説明し竜太郎は顔を真っ赤にしながらも「そっ、そういうことならっ、協力は惜しまないよ?」と頷いた。彼はやる気なのである。マキ要求の二つめは間単に片がついた。細かい説明は省き一寸法師や倒すべき大オニ酒呑童子の仔細は語らぬまま、白灰について何か知らないかと問うたのはマキにすれば何とか小次郎に元の体長に戻ってもらい飢えた女体の性欲を満たしてもらうため手当たり次第に聞き込みをして白灰の居場所を突き止めようという魂胆なのであるが竜太郎はアッサリと「空夢堂のカフェでよく見かけるよ」などと言うではないか。空夢堂とは母親兎子が書店員として勤めている神保町の大型書店である。場所は明かせないが三省堂本店とも書泉グランデとも東京堂書店とも違う趣きの夢のような五階建てビル丸ごとの書店であり竜太郎が言ったカフェとはその二階の一角にある。取り壊される前の三省堂本店ビルを懐かしく思い出される諸賢もおられようか。「いつも白衣にメガネでカフェで何かずっと食べてて、何のコスプレなんだろうって思いながら見てたよ」と竜太郎が言えばマキは「やば、こんなに早く手がかりが」と驚き小次郎は戸棚の上で聞きながら「あのカフェいつか行こうと思っててずっと行ったことないんだよなあ」と独り言ちた。
リビングの入り口辺りから「キャっ」と小さな声が聞こえマキと竜太郎の若い二人がトキメキを胸に振り返ればそこに立っていたのは風呂上がりでバスローブ姿の兎子である。恥ずかしそうに白いバスローブの前を抑えその豊満で熟し切った隙だらけのボディを隠すようにして「亀割クン、もう来てたの? ずいぶん早いんじゃない?」と逃げ出そうという姿勢で言うのはもちろんマキがフェイク情報を教え兎子が風呂から上がってくるタイミングを狙って竜太郎を呼び入れたのであるしそのマキは「ちょうどよかった、あたし紅茶淹れてくるから相手してて」と強引にバスローブ姿のままの兎子をソファーの竜太郎の隣へ座らせた。竜太郎にすれば憧れの女性がいきなりバスローブいっちょうで湯上がりの湯気を漂わせたままに膝同士が触れ合う程の近さに来たのだから心臓は喉から飛び出そうなくらいに高鳴り手は震え視線は袂からこぼれ出そうな乳房に吸い付いていた。彼はガン見しているのである。「ごめんなさいね、こんな格好で」と鼻にかかったような甘い声で兎子が言うがすぐに席を立って着替えるのが普通であるところ立つような素振りは見せずむしろ「暑いわあ」などとバスローブの前を開いたり閉じたりして扇ぐようにすれば強烈な熟女フェロモンが竜太郎の鼻腔を直撃し兎子本人もグツグツとした性欲が下腹部から湧き上がってくるのを感じ慌てて理性で蓋をした。竜太郎の顔面がフラフラと我知らず兎子の肉体へと吸い寄せられ今にもバスローブの内側の両乳の狭間にめり込もうかというぐらいの距離まで来た頃合いで唐突に「紅茶が入りましたー、って、近い近い!」とおどけた調子でマキが二人の後ろから声を掛けると竜太郎はパッと体を起こし顔を離し兎子も体を捻って竜太郎に背を向けた。当初の目的は母親が若い男とイチャイチャするよう仕向けることであったがあまりにも簡単に行きそうだったのでもう少し焦らそうと無意識に意地悪してしまったのである。「私ったらこんな格好で何してるのかしら。着替えてくるわね」と何とか持ち直した理性で兎子がソファーから立ち上がろうとするのをマキは呼び止めて「どうせ着替えるなら、コスプレっしょ?」と竜太郎持参の大荷物を指差せばナイスアシストとばかりに竜太郎は熟女に向き直り「あ、明日の、イベントでコスプレするんですよね? 僕も衣装を作ってきたんで、その、もしよかったら、試着だけでもしてもらいたくって」みたいなことを言い出したので「作ったの? 衣装を?」と母娘で驚き「サイズ知ってるの?」とマキが不思議がれば「空夢堂のラノベコーナーでずっと見てたから」と誇らしげに竜太郎が答えると「それは何ていうんだろう、目分量?」と小次郎は戸棚の上で首を捻った。どんな感じのコスプレ? とマキが竜太郎の荷物をガサゴソと漁りだすと急に恥ずかしくなったのか竜太郎は困ったような顔になったがそんなマキの行動を敢えて止めるようなことはせず内心はせっかく作った衣装なのだからマキに少し強引にでも引っ張り出してもらえることは本望なのである。「いいじゃん、ここで着れば。ちょうど裸なんだし」とマキのアシスト発言を受けバスローブ姿で恥ずかしがっていた兎子も「わざわざ別室で着替えてくるのも効率悪いわね」などとファッションショー中のモデルのようなことを言ってソファーから立ち上がるとコスプレ衣装を受けとり「恥ずかしいから、亀割クン、こっち見ないでね」とねっとりとした声色で言えば竜太郎も彼にしてははっきりとした口調で「もちろん、分かりました」と答えるも少しも視線を逸らさずバスローブを脱ごうとした兎子が竜太郎を二度見して「こっち見ないでってば」と笑うも竜太郎は「分かりました」と笑顔のまま兎子を凝視し続けている。「衣装が大丈夫か見届けたいんでしょ? 責任感だ」とマキがここでも助け舟を出し着用を促すように手にした衣料を差し出せば「そうなの? じゃあ、しょうがないか」と兎子は腕で前を隠しながらバスローブを脱ぎ出した。「マジか?」と小次郎は戸棚の上からリビングで素っ裸になる熟女を見つめ、それは竜太郎同様いや数倍の情熱を込めた視線を兎子の腕から溢れる豊満で横方向にユッサユッサと揺れる乳房や熟し切って垂れ落ちそうな臀部に浴びせつけた。よく巷間言われるような「エロい目で見られる」とか「視姦」などというような生やさしい表現では追いつかないような質量を感じるような竜太郎の視線でありアイビームであり、それは当然兎子本人にも十分に伝わっていてイケメン男子高校生からそんなに見つめられれば永らく身体の奥底に仕舞い込んでいた「女」が目を覚まし臍の奥から股間にかけてをジクジクと熱く淫らに火照り始めるのを感じずにはいられないのである。どうしても生物学上遺伝学上の優先順位で兎子は股間を隠すのにい必死なのであるが竜太郎の視線はむしろ手薄となっている乳房とりわけ片腕では隠しきれず顔を覗かせる乳首に注がれる。タップリとネットリと嫌らしい目で熟女の黒みがかった濃いピンクの発情し勃起しつつある乳首を見つめる竜太郎の視線は薄めの和紙でもかざせば引火し燃え上がりそうなほどの熱量が込められているのである。そんな母親の焼けボックリ感を知っていてかマキはまず手袋を無慈悲に差し出し「ほれ、まずロング手袋から」と嫌らしく笑って言う。「手袋が一番先なの?」と兎子が訝しがりつつも受け取り竜太郎の視線に堪らず逃れるように背を向ければ今度は尻の肉から割れ目から合わせ目をなぞり上げるような熱く強烈な視線に晒されるのを嫌でも感じて腰を振るわせた。黒いベルベットのロング手袋は肘の腕まであり二の腕のだらしなくタプタプ揺れる脂肪までは隠さずむしろ強調するかのように締め上げる。すごいほんとにサイズぴったりとマキが感心し次に渡してきたのはロング手袋に呼応するかのような黒タイツであり尻を煽るように見られている竜太郎の視線を受けながら片脚をタイツに通せばこちらもオーダーメイドのごとく長さも太さもピッタリでだらしない太ももの肉を強調するようなニーソックスの趣きをたたえながらベルトでギュッと締め上げられ固定された。両腕と両脚を黒いベルベットで飾り立てられた熟女はようやくまた股間と胸を腕で隠しながらリビングに立っている。はい次はこれねとマキが渡してきたのは金髪セミロングのウィッグであり兎子は戸惑いながら「服は?」と訪ねるもマキは竜太郎のバッグを探りながら黒いウサギの耳がついたカチューシャを取り出しつつ「終わりかも」と言う。兎子は健気にも受け取った金髪ウィッグを被りカチューシャを取り付け「えっと、ほんとにこれで終わり?」とまさかそんなはずはあるまいと薄く笑いながら首だけを竜太郎に振り向け彼のギラギラと血走り獣欲そのものの視線を認めひっと息を飲んだ。竜太郎は座ったような目つきのまま「横のポケット」とボソリと言えばマキは「ここ? 服が入ってるの? どんな服?」と呆れ笑いながらバッグ横の小さいポケットを探り中から引っ張り出したのは大方の予想通り数条の黒い紐である。縮れながら絡み合う黒い紐を見て「服だ」と認識するは少数派であろう。マキ紐を解きながら「マイクロすぎるビキニ? しかも下だけ?」と笑い兎子は青ざめながらもこれから始まるであろう嫌らしく恥ずかしい陵辱の光景を想像し期待に胸を無意識にときめかせた。「上は、その反対のポケット」とまたボソリと竜太郎が言えばマキがポケットを開けてとりだしたのは半透明のビニール製の小さなポシェットのようなもので中にステッカーのような紙の束が見える。これにはマキも腹をかかえ大笑いし「ビキニの上? ステッカーなの? 乳首に貼るだけ?」と苦しそうに言う。兎子は手にした黒い紐を手にしたままモジモジしていたが「取り敢えず、せっかく亀割クンが準備してくれたんだから、一通り着けてみてから考えますね」とは発情で顔を赤らめながら紐を輪にしてビキニパンツとして脚を通そうとするも布地の面積がほとんど何も無いのでどちらが前かも分からないでいると竜太郎はスタスタと兎子の前へと周りこみ彼女が両手で紐持っていて身体を腕で隠せないのをいいことに不躾で嫌らしい目で上から下へとジロジロと見ながら「こっちが前で、こう履いてください」と努めてクールに言い放った。「でも、履くって言っても、何も隠せないような……」と困ったように上目遣いで兎子が訴えるが竜太郎は真剣な眼差しで両乳首を正面から見据え兎子の言葉にはまるで取り合わないので観念した熟女は内股で太ももを擦り合わせるようにして右脚を上げゆっくりと見せつけるように紐パンを履き出し、両脚を通し、両の熟れて垂れる豊かなオッパイをユッサユッサかつ竜太郎によく見えるようタプンタプンさせながら前かがみになり、上半身を起こしながらゆっくり両手で紐ビキニを引き上げてゆき、金髪ウィッグを被った兎子の顔面が再び前を向いた時にはもう「一匹の発情したメスウサギ」の顔になっていたのである。股間に張り付くようなビキニパンツの上端はあまりにも下すぎいわゆるローレグやローライズを極端にしたもので兎子の無毛の恥骨部分までオープンとなっており布部分の始まりといわゆる性器と呼ばれる部分の境界線がコンマ数ミリという精度でシンクロしてる。言うなれば兎子の性器を型どったような布だけであり性器だけをギリギリまで隠しているもので前から見ればツルツルの恥骨とその下の影、くらいにしか見えない、もはや何も履いていない、むしろ狙って露出しているので何も着ていないよりも恥ずかしいくらいである。「下は剃ってるんだね」とマキが無毛の鼠蹊部を指でツルツルと撫でるのは、兎子は脇毛は剃っていないことを目の当たりにしているからである。恥ずかしそうに「腋はサボっちゃって」と言う兎子に竜太郎は顎に手を当て「完璧です。脇毛はむしろアクセントになるからそのままにしましょう。陰毛は局部を隠すためのものですから剃って守りを薄くした方がそそられます」と論じ戸棚の上の小次郎も我が意を得たりと膝を打った。折角のスーパーマイクロビキニも陰毛に覆われ何も見えないようでは興醒めである。「よく分かんないけど竜のすけがド変態なのは分かった」とマキが言えば「竜太郎でしょ」と兎子はネットリとした口調で横目で訂正した。「後ろは大丈夫ですか? 見せてください」と竜太郎はお構いなしにクールに命令口調で言い兎子はぼうっとしたような顔で従順にゆっくりと後ろを向き竜太郎へと尻を突き出すと黒いタイツに締め上げられた太ももの上はバーンと横に張る骨盤と真っ白に熟れてだらしなく垂れ下がる尻肉が圧倒的な存在感を竜太郎に見せ彼はそんな兎子の尻に顔を近づけ臭いでも嗅ぐような勢いで「ちゃんと隠せてるか見たいので、開いてください」とあえて硬めな声質で命ずれば「開かなきゃ見えないんだからいいじゃん」とマキが無粋なことを言うのにもめげずに兎子は左右の手でそれぞれの尻肉を横から掴みグイッと嫌らしく開いて竜太郎へと見せる。戸棚の上の小次郎からはちょうど兎子の顔がこちらを向き、尻を割り開いている向こうに覗き込むすごい形相の竜太郎が並んで見えていて少し冷静になるとこの人たちは何をしているんだろうと可笑しくなった。竜太郎による無言の熟女股ぐらチェックはまあまあの時間をタップリとかけて行われ、暇を持て余したのかマキは先ほどの小ポシェットに入っていたステッカーを取り出し、何種類かある中から赤いハートマークのものを選び出すと前屈みになって尻を割って男に見せ臭いまで嗅がれている最中の母親の右乳首にペタリと貼り付けた。左の乳首にも同様にペタリとハートマークのステッカーを貼り付けた。両乳首と股間が完全に遮蔽された今この瞬間、まだ股ぐらチェックの途中ではあるが、竜太郎渾身のコスプレ『エキストリーム・ローライズ・逆バニー』が完成したのである。「後ろの方のもギリギリアナル皺が隠れてるんでオーケーとしましょう」と竜太郎はやれやれとばかりに顔を起こしマキは「すっげえ見るじゃん」と笑い兎子は尻肉からようやく手を離し自分の扮装を見下ろして「私、明日、この格好でステージに上がるの?」と興奮に震える声で言う。竜太郎は応えず無言でまた兎子の前に周り嫌らしい視線を乳房や股間に浴びせながら思案し「両腕を頭の後ろに組んでみてください」とはっきり命令と分かる口調で言えば兎子は何ら抵抗することなく寧ろ嬉々として従い乳房をユッサユッサ揺らしながら件の恥ずかしい脇毛を見せつける。竜太郎はしかし舌打ち混じりに「センスねえなあ」と毒づきおもむろに向かって右の乳首に貼られたステッカーを下から上へと乱暴な手つきでビリっと引き剥がした。不意を突かれたのと、敏感な乳首の激しい痛みと、乱暴に扱われる嬉しさとで、兎子はかなりの声量で悲鳴をあげた。兎子の左乳首は赤く腫れ痛いほどに勃起しビクビクと痙攣し震える。マキはムッとした顔で「ハートじゃないの?」と抗議するが竜太郎は無視するように今度は兎子の右乳首に貼られたステッカーに指をかけた。直ぐには剥がさずいたぶるように焦らすように兎子の表情を鑑賞してる竜太郎に向かい兎子は媚びるように見上げて「痛くしないでください」と甘い声で言うがどうにも「痛くしてください」としか聞こえないから不思議である。待ち構えているところに竜太郎は先ほどよりも強い勢いでバリっとステッカーを剥がせば兎子はまた嬌声をあげ体を上下に小刻みに震わせた。マキはまだ不機嫌にステッカーの束を竜太郎へと突き出し「ハートじゃなかったら何?」と問うも「明日の気分次第で」と吐き捨てて取り合わず、兎子の乳首は限界まで勃起させられたまま放置されることとなった。「じゃあ、明日の衣装は確認できたんで、朗読の方も最終確認しましょうか」と竜太郎は兎子の肩に手を回しやや強引に引き寄せソファーの方へ誘うのである。ここで簡単にイベントについて説明すれば古本まつりに日程を合わせた空夢堂独自のライトノベル販促イベントでありコスプレしてステージにてラノベを朗読するのも出し物の一つであり他にはグッズやラノベの展示即売や人気ラノベ作家のサイン会なども行われレーベルを越えて多数の出版社関係者も参加するのであるが詳細や実名はここでは伏せ置き書店員である兎子らが有志でコスプレし販売するイベント、の程度にて納めさせていただいたい。あくまでも神田神保町古本まつりオフィシャルのイベントではなく空夢堂も今となってはその所在地すら知る者がないのでありあえて言うなら我々一人一人の心中に存在した夢のラノベイベントと紹介して差し支えないだろう。実在する企業団体個人には一切の関係がないことは言うもでもない。
竜太郎はソファーに座り恥ずかしそうに胸を隠す兎子に向かって一冊の文庫本を差し出した。先ほどからローテーブルに置かれていた三冊の中の一冊、『人妻エルフ寝取られ温泉旅行』である。片手で胸を隠したまま片手でエロラノベを受け取る兎子に対し「六十八ページから、お願いします」と竜太郎は冷淡に告げる。すでに内容は元より兎子に朗読させたいシーンのページまで把握していることに小次郎は戸棚の上で感心し空恐ろしさも感じた。兎子は片手ではエロラノベのページを捲れないので仕方なく胸から手を離し両手で文庫を持てばもちろん生の乳首がまろび出て竜太郎は抜け目なく嫌らしい視線を両の乳首に浴びせかけ、マキもちゃっかりとソファーに座り小さく拍手しながら「聞かせて聞かせてー」と無邪気に言う。絵本の読み聞かせでもしてもらうかのようなテンションであるがもちろんマキも年頃であるし文庫本のタイトルから内容の想像はできているのである。指定されたページを開いた兎子はそこに記されている文章を目で追って固まっている。「黙読されてもしょうがないですよ」と竜太郎は笑って兎子の背中をそっとさり気なく摩るが手つきは妙に嫌らしく女のように細く華奢な彼の指先に背筋をなぞられ兎子はウフンと発情した喘ぎ声を漏らした。
「ええと、そうね、読むわね……、い、いくっ、いくっ、あなた以外の、ぺ、ペニスで、いくいく、あんあん、いくいく、う、ウサミ?の、嫌らしく濡れそぼった肉壺に遼太郎の、太く逞しい剛直が抽送され、リュップリュップ、ジュップジュップと音を立てると、ウサミは潮を噴きながら、ぜ、絶頂を迎えた。いきます、いっちゃいます、ウサミいかされちゃいます、あんあん、いくぅ、おおおう! おおおーん! いくいくいく! いっくうーーーー、……ってなにこれ」
最後の方では兎子は文庫本を投げ出すように閉じテーブルに置くとがっくりと首を垂れた。「ペニスをちゅーそーされただけでそんなすぐいくいくぅーー、になるの?」とマキが少し興奮した様子で聞くも答える者はない。「明日、これを、こんな格好で?」とがっくりしたままで兎子が絶望すれば「もちろん、しかも自主的にノリノリでやってもらわないと、こんなのが強制されたなんて表に出たらセクハラ案件ですから」と竜太郎は冷ややかに言う。マキは「明日、あたしらも見にいくから、応援してるから、もっとエロい声出してガンバ」と笑うと兎子は目ざとく「『あたしら』って言った? 他に誰かと? 彼氏じゃないでしょうね」と急に言うのでマキは小次郎をまたおくるみさん状態で連れて行く気でいたのをうっかりしてしまったのでしかし咄嗟に「あ、いや、竜のすけさんも行くでしょ」と取り繕い「俺はステージ裏までウサぴょんと一緒だけど」とさり気なく兎子の手を握れば「そうなの、じゃ、一人でいくいくだわ」とマキは白けた表情で言った。「それじゃ明日の準備はこんなところかな」とマキがソファーを立つ気配を見せると竜太郎は少し慌てて「あ、別件で、その、兎子さんに相談したいことがあって……」とあえてウサぴょん呼びを避ければマキも申し合わせたように「あ、急用を思い出した! あたし部屋に戻るから」と一方的に言い「ごゆっくり」と竜太郎にウインクした。そして戸棚の上にいるはずの小次郎の方をチラッと見てリビングを後にした。小次郎は軽く頷き手にしていたスマホのテレビ電話機能を機動すると一寸法師の法力か先ほどから見せられていたエロスのパワーかバッテリーは満タンであった。
うるさがたのマキが退室すればリビングは灯が消えたように静かになるのは残ったのがクールで寡黙な竜太郎と大人しく控えめな兎子の二人だからであり唐突に訪れた重苦しい沈黙に小次郎は戸棚の上で戸惑ってちょんまげのパワーリザーブインジケータも幾分萎れていくのはやはり小次郎一寸法師にとってのパワーの源はマキの明るさとオッパイなのであると分からされる。小次郎の予想としては竜太郎の相談というのは単にやらせて欲しいとか付き合ってほしいくらいのことだろうし兎子の発情ぶりエロエロ盛りぶりをみれば入れ食い状態でおっぱじまるのであろうからこのスマホである程度の進行状況を押さえればマキも納得するだろうし後は邪魔にならぬよう自分もマキの元に帰ろうむしろ早くマキに会いたいからさっさと始めてくれくらいの熱心さで見守っているのである。「……相談って、何かしら?」と先に口火を切ったのは兎子でそれをきっかけに竜太郎はバッと兎子に向き直り「最近、変な夢を見るんです」と打ち明けてきた。まさか真面目な相談とは想像だにしておらず小次郎は戸棚の上で「カウンセリング? 普通の? 乳首丸出しの逆バニー熟女に?」と逆に興味が湧いた。竜太郎の相談を要約する。毎日のオナニー後に気を失うとテレパシーのようなものを受信し夢か現実かの区別がつかない。何やら謎の人物が語りかけてきて何かしらを必死に伝えようとしている。子供のようでもあるが人間ではないようにも思える。特に兎子を題材にしたオナニーを激しく行って気を失うとテレパシーの受信状態や解像度が良好になるようである。そこで兎子は堪らず竜太郎の相談を遮って「男の子のオナニーって気を失うものなの?」と聞いたのは元夫との夜の営みでもそんなことはなかったのであるが竜太郎はキョトンとして毎日気を失うくらいオナニーをするのは普通ですと断言するので兎子もそういうものなのねとモヤモヤしつつも受け入れるので小次郎は戦慄した。相談に戻ると、竜太郎としてはテレパシーで誰がどんなことを伝えたがっているのか気になって仕方ないのでいっそ兎子の実物で最高潮まで登り詰めればもっとはっきりとテレパシーを受信できると思うので協力してほしい、ということであった。「早い話が、やらせろってこと?」と兎子が呆然としたまま水を向ければ竜太郎は「早い話が」と頷いた。「わたしでオナニーしてるってどんな感じで?」と兎子が顔を赤らめて聞くと隠し撮りした写真をAIでエロ画像に加工し自作のエロ小説と合わせて同人サイトで販売してなどと言い出すのでスマホでサンプルを見せられた兎子は逆に自分が気を失いそうになる。しかし年長者の矜持か気持ちを立て直しコホンと咳払いすると相談があると聞いてからずっと恋や性的な告白であろうと予想し準備していた断りの言い訳を語り始めた。曰く、自分は年上にしか興味がなくロバート・ダウニー・ジュニアのようなロマンスグレーしか愛せない、亀割クンがもう少し渋みを身につけそれくらい時が過ぎても自分のことを好きでいてくれるならその時また考えましょう、とのことだったが竜太郎はそんなにお股ビショビショで乳首ビンビンにして言っても説得力がゼロですと返し小次郎も全く同じことを思っていた。「いや、でも、いきなりやらせろって言いたかった訳じゃなくて、今日もこんなにしっかりコスプレも着てくれたので、どれくらいウサぴょんとエロいことをするとテレパシーがどれくらい強くなるのか試し試しさせてくれませんか」と竜太郎が真剣な眼差しでしかし言っていることは本番なしでいいからエロいことさせてという妥協案を出せば「ま、まあ、ちょっとだけなら」と兎子も性的欲求を抑えられない悲しさもあり「じゃ、じゃあ、キスしてもいいですか?」と勢い込んだ竜太郎に「ちょっとだけよ」と兎子が言い終わらない内に体ごと突っ込んでいくような激しさで抱きつき舌をベロンベロンと兎子の口へねじ込んでいく。小次郎は「始まった!」と身を乗り出してスマホを向けテレビ通話の向こうで見ているマキも「行ったー!」と興奮していた。ソファーに兎子を押し倒す形で舌を高速でベロベロしていた竜太郎も五分間以上経過し少し落ち着いてきたらしく唇を離し「最高だぜ兎子。お前はもう俺のものだ」と低い声で兎子の耳元で囁くと熟女はもう甘い声でだめーだのいやーんだのしか言わなくなった。兎子の蕩けっぷりに満足したのか竜太郎は無言で彼女の両肩を掴みまるで米袋でも扱うような雑な所作でソファーに抱き起しくったりと座る姿勢の兎子の後ろに回り込むようにして彼女の腰を股に挟むようにして座った。ソファーに座った状態でのバックハグのような体制で戸棚の上の小次郎からはちょうど二人が縦に並んで前に乳首丸出しトロトロ熟女、後ろにジゴロみたいな顔つきに豹変した竜太郎という並びで特等席といった状態で見えている。竜太郎は煩わし気に兎子に被せていたウサ耳カチューシャと金髪ウィッグをむしり取り、露わになった彼女のの左耳に後ろから口を寄せ「お前がエロすぎるせいで俺までおかしくなりそうだぜ。おい、兎子、なんでそんなエロい体してんだよ。恥ずかしくねえのかよ、ええ? 兎子、兎子よお」とやたら低い声で囁く。中性的でエランケレス的な顔立ちからは想像できないくらい低くてセクシーなボイスであった。囁かれている兎子の顔は見てる方が恥ずかしくなるくらいに発情し目尻は下がり鼻の下は伸び「ンフー、ンフー」と熱い吐息を繰り返している。「テレパシー云々の設定はどこいったんだ」とスマホにマキからメッセージが届いたが小次郎も同じことを考えいてこの後で竜太郎が気絶するほどのオナニーを始めるような気配がないがやはりエロいことするためだけの方便だったのだろうかと思案した。竜太郎はバックハグ体勢から兎子の前に左右それぞれの手を嫌らしく回しだらしなく垂れ下がる不埒な熟女の両乳房を、掬い上げるように持ち上げ卑猥な手つきでヤワヤワと揉みしがき手のひらを使って大きくこねくり回すかと思えば指三本で乳首をつまみ上げ繊細なタッチでクリクリと刺激し強弱をつけてつねるように捻りあげ熟女に嫌らしい声を上げさせまた大きく乳房全体を持ち上げ横方向に細かくブルブルと振り回す。「ああ、素敵、何で、こんな、職人さんみたいな手つきができるのぉ?」と息も絶え絶えな兎子が高い波低い波と翻弄されながら嫌らしく昇りつめつつ問いかければ「毎晩毎晩、お前でオナニーしてたんだ、イメージトレーニングは完璧なんだよ兎子」とまた耳元でセクシーな低音ボイスで竜太郎が答える。「そういえば、あはん、テレパシーのことは、うふん、どうなの、おおん、私ばっかり気持ちよくなっても、ううん、仕方ないんじゃないの」と兎子が小次郎とマキの疑問を代弁してくれれば「ああ、テレパシーならビンビンに聞こえてるぜ、さっきから、ずっとこっちを見てやがるんだ」と竜太郎が不敵に言うので小次郎もマキも「え?」となって不思議に思った。「兎子の、もっとエロいとこ見たいらしいぜ。俺を通して覗き見してやがったんだろう」と更に竜太郎は続け小次郎は慌ててリビングを見回し異変に気付いたことには不自然に空中に穴が開いている。直径は十センチほどであろうか、ユラユラといかにも「時空の綻び」というようなものが浮かんでいてその向こうから何者かが見たくて見たくて仕方ないと目玉をグイグイと押し付けるようにして見ている。兎子も穴とその向こうの存在に気が付いできゃっと叫んで手で乳房を隠すが竜太郎はその手首を掴むと無理矢理に引きはがし捻りあげ兎子の頭の後ろまで強引に引き上げ豊かに揺れる乳房と脇の下の恥ずかしいムダ毛を穴に向かって見せつければ十センチほどであったはずの穴がぐぐっと拡大し三十センチほどになった。ここで穴の向こうの正体を明かせばはるか遠き海洋の深海深くに沈む古代都市に封印された外宇宙からの邪神であり竜宮城の主でもある。見た目は人間の子どもに酷似しており頭にはドラゴンをかたどった被り物を乗せさながらドラゴン座の紫龍(テレビ版のヘルメット状のもの)あるいは竜騎士団長カイン・ハイウインドのような外見であった。目は被り物には隠れておらずぷっくりした男児の頭に折り紙で作ったようなドラゴンが乗っていると思っていただきたい。どのように地球に来てなぜ深海に封印されているのは本人でさえ忘却の彼方でありここでは簡単にどこか遠く深海にある竜宮城からテレパシーを浦島太郎の末裔に送りエロい熟女の映像を共有してもらっているおませさんな邪神なのである。以下、竜神と呼称する。ものすごい目つきで無言で兎子の乳房や脇や股間をねめつける様は先ほどコスプレ衣装を念入りにチェックしていた竜太郎と同様の熱量を放っている。ダダダダっと廊下から足音が響きリビングにマキが駆け込んで来て「なんじゃあこりゃあ!」と驚きに口をあんぐりと開けているのは小次郎のミニスマホ越しの映像を見て我慢できずに兎にも角にも見ずにはいられなかったのであろう。空中の穴に手をかけ身を乗り出しそうにして兎子の痴態を見つめる竜神は目の離さないままで人差し指を立てて唇に当て「しー」とした。まだ自分が見つかっていないと決めてかかっているようでありマキは「いやいやいや」と手を振って異議を唱えた。小次郎も後に続く形でお椀の船をヒュイーンとマキの傍らに降り兎子は乳を放り出したままの姿勢で「また何か来た! 結構な人数に見られてた!」と興奮した様子で驚いている。
「大オニ酒吞童子の復活が近い。そして何者かに秘宝『竜の首の珠』を奪われている。我は浦島の血を引くこの者にずっと念話を送っていたのだ。エロい熟女はこやつの趣味でそれがないと念力の呼応が一定の水準に届かないから、こちらが仕方なく合わせてやっているというのに」
竜神が弁明をしている間も竜太郎が兎子への愛撫を緩めると途端に時空を超える穴が縮みだすため実の娘や謎の一寸法師が同席している中だが兎子は乳首を舐められたり吸われたりして嬌声を漏らし続けているし竜神も食い入るように熟女の快感に溺れる様を鑑賞し続けている。以下はつぶさに記述しないが常に控えめに兎子が快感に打ち震える喘ぎ声が聞こえているものとしてお読みいただきたい。また、発話の全てを有体で表示するのは冗長であるからある程度要約させていただくことをお詫びする。
時空を超えてコンタクトしてきた竜神の論旨は以下の通りである。今は深海に封印されていて動くことができない。深海から兵器を送るから竜太郎に目となって操作し酒吞童子と対決して欲しい。例えるならミノフスキー粒子のせいでレーダーが効かないからモビルスーツに乗って目視で白兵戦で殴り合って欲しいということである。『竜の首の珠』を取り戻してくれたら褒美はなんでもやる。熟女のエロスからしかエネルギーをチャージできないようであるなら兎子に淫紋を施して常時発情させておくこともできる、なお、なぜ酒吞童子を倒さないといけないかは覚えてない。
竜太郎が反応する前にマキが割って入った。渡りに船、願ったりかなったり。小次郎が一寸法師にさせられた経緯と、戻るためには大オニこと酒吞童子を退治して『打出の小槌』を取り返す必要があること、酒呑童子は白灰というマッドサイエンティストが復活を画策していることなどを興奮気味に伝えた。竜太郎に対し一寸法師と協力して大オニを倒そうと申し出るも、小次郎に嫌な予感がよぎった。予感は的中、竜太郎は竜神の要請を断るのである。一寸法師がいるなら任せればいい。オニ退治は桃太郎や一寸法師の仕事であり浦島太郎にオニは出て来ない。熟女に淫紋もいらない、ロマンスグレーになって正面から攻略するから不要であるとキッパリ言い切れば竜神は「え? え?」とまさか断られるとは予想していなかったらしく信じられないという表情を浮かべ狼狽えた。マキも交えしばし押し問答が続いたが、じゃあ様子を見よう、一寸法師とかいうのが負けたら次お前な、という竜神の出した妥協案に落ち着いた。直接戦闘はしたくないながらも竜太郎はできる限り大オニ退治をサポートすることを受け合い、マキは退室間際に母親である兎子に向き合い「優しくて勇気のある彼氏ができてよかったね」と冷ややかに心にもなない言葉を投げかけたが快感の渦に身も心も翻弄され続ける兎子に届いただろうか。
-続く-