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6.5

6話のヒーロー視点です。

多分、読まなくても話は繋がります。




デイヴィッドside



 彼女と対面した私は、案の定、決定的な拒絶の言葉を恐れて何も言えなくなってしまっていた。


 無言が重く横たわる部屋で、紅茶の入ったカップの音だけが、カチャカチャとやけに大きく聞こえる。

 一切何の動きも見せないまま、10分ほど過ぎた頃。


「デイヴィッド様、話したいことがないのでしたら、お引き取り願えますか」


 芯まで凍り付いてしまうような冷たい視線と声で、彼女は言った。

 冷え切った視線や声で対応されると思っていても、心の準備が足りなかったのだろう。彼女の一言で、私は蛇に睨まれたネズミのように動けなくなる。

 …いや、私はネズミにすらなれていないし、彼女は蛇に喩えて良いような女性ではない。

 彼女の存在は何にも喩え難いものだ。彼女の持ち合わせる全ての素晴らしい要素を兼ね備えた存在を、私は知らない。少なくとも、蛇如きでは表せられない。


 現実逃避も含めて頭の片隅でそう考えていると、彼女はため息と共に持っていた空になったカップを置く。そしてそのまま席から立つと、部屋から出ようと扉に向かって歩き始める。

 条件反射的に、椅子が音を立てるのにも構わず席を立ち、彼女の腕を掴んでしまった。


「ま、待ってくれ!」


 思っていた以上の自身の声量に驚いていると、彼女も私の行動に驚いているのか、美しいハシバミ色の瞳を瞬かせている。

 思わず見惚れてしまいそうになったが、なんとか正気を保つ為に視線を逸らす。すると、咄嗟に掴んでしまっていた彼女の左腕が目に入った。


「…あ。す、すまない。私に触られたくはないよな。すまない」


 慌てて彼女から距離を取る。再び、室内が瞬間的な無音に包まれた。


「……」


 こちらを探るような彼女の視線から逃れたくて、まとまらない考えを絞るようにして口を動かす。


「君に、たくさん話したい事があった。でも、何から話していいのか分からなくて…。

 いろいろ考えているうちに君が出ていってしまうのが、君ともう会えなくなってしまうのが嫌で、慌てて引き止めてしまったんだ。

 ……かなり長い話になるし、所々おかしくなってしまうかもしれないけれど、私の話に付き合ってもらえないか?

 君が『もういい』と思ったら、そう言ってこの屋敷から私を追い出してくれて構わない。だから、お願いだ。私の話を聞いてくれ」


 話している内に、これが終わったらもう会えないんだ、と思い出して涙目になってしまった。でも、情けないからといって視線を逸らすようなことはせずに、彼女の澄んだ瞳を見つめる。


「……はぁ」


 彼女のため息に、ビクリと肩が跳ねる。が、彼女が私の言葉に呆れて部屋から出て行ってしまうことはなかった。

 席に戻り、冷え切ってしまったであろう紅茶をカップに注ぐ彼女。


「………」


 ノロノロと席に戻った私のカップを見つめた後、こちらを伺うように彼女が見遣る。「気を遣わないでほしい」という意味を込めて、ぎこちないながらに笑みを浮かべると、彼女は徐に立ち上がった。

 慌てて後を終えるように立ち上がろうとすると、彼女にジロリと睨まれてしまった。

 何かしてしまっただろうか、今の笑みが不味かっただろうか、と混乱する私を他所に、彼女は部屋の外に控えていたメイドへ声をかける。


「ねえ、新しい紅茶をお願いできる?」


 普段の彼女とはかけ離れている声音なのだろう。初めて顔を合わせた時に比べて明らかに低い彼女の声に、メイドは萎縮した様子で「ひゃい!」と応えると、足音を立てながら廊下を走り去って行った。


「…流石に、仮にもお客様である貴方に、冷え切った渋い紅茶を飲ませるわけにはいきませんので」


 つん、とそっぽを向く彼女が、かつて些細な喧嘩をしていた時のエヴィが拗ねる様子に重なる。


「あ、ああ。ありがとう」


 自分でもよく分かるくらいに心ここに在らずな返答を返すと、浮かせたままだった腰をゆっくりと下す。

 そして、何から話すべきか、と思案した私を急かすように、


「で、お話とはなんでしょう。メイドが紅茶をお持ちする間ではありますが、長話となると時間も惜しいので」


 と彼女が言う。それにも、


「あ、ああ。そうだな」


 と返し、簡単に考えをまとめてから話し始めた。




ありがとうございました。

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