2
転生後のヒーローの名前:デイヴィッド・イェーガー(伯爵令息)
転生後のヒロインの名前:エヴァンジェリン・リカード(侯爵令嬢)
です。
ヒロインの今世の愛称はエヴァです。
よろしくお願いします。
早速ギスギス入ります。
私は、この世を儚んで死んだはずだった。
でも、何故か50年後の世界に、エヴァンジェリンという名前で転生していた。
10歳の時に記憶を取り戻してから色々と調べたが、アレは、両親に猫可愛がりされていた私の妹と結婚。おしどり夫婦として有名になったらしい。夫婦の死後10年経った今でも、憧れの夫婦像となるくらいに。
貴族名鑑に書いてあるのは『どこの家から嫁いできたのか』という情報のみで、ファーストネームは載っていないので、正確には分からない。だが、前世の両親は分家から男児を引き取って家を継がせたようなので、きっとそうなったのだろう。両親に私と妹以外の子供はいないし、母の年齢からもう1人女児を産むことは無理だろうから。
私の前世は伯爵令嬢だった。
今世は、より爵位が上の侯爵家に生まれた。
今世の両親も政略結婚らしいが、かなり良い関係を築いていて、子供にもしっかりと愛情を注いでくれている。私と年の離れた、王宮に住み込みで働いている兄も、きちんと家族を大切に思ってくれている。
毎日が、とても幸せだった。
ただ、それも、今日で終わりのようだ。
やっぱり私はツイてない。よりにもよって、こんな目に遭わないといけないだなんて。
ーーーーー
「エヴァ、イェーガー伯爵家から縁談が届いている。お相手は、次男のデイヴィッドだそうだ。彼の兄は子爵家の一人娘に恋愛結婚で婿入りして、繰り上がりで彼が次期当主になっている。デイヴィッドの年齢はお前の一つ上だ。条件も悪くないし、私はお前さえ良ければ受けたいと思っている」
14歳になって数ヶ月が経過したある日、父の執務室に呼び出され、そう言われた。うちには跡取りの兄がいる。私はそのうち他家に嫁がなければいけない。頭では理解していても、居心地の良いこの家から離れなければいけないのはとても寂しく感じた。
父に迷惑をかけるのは本意ではない。それに、絶対に結ばれたいと思う相手もいない。断る理由はなかった。
「私に異論はございません。お父様の決定に従いますわ」
そう答えると、父は平坦な声で、
「そうか」
とだけ言って、私に退室を促した。
翌日、顔合わせも無く、私とデイヴィッド・イェーガー伯爵令息の婚約が結ばれた。
それから私のデビュタントまでのおよそ1年間、定番そのものな贈り物や義務的な手紙のやりとりはあれど、顔を合わせることはなかった。それが幸せな事だったのか、不幸な事だったのか、今となっては私には分からない。
今日は、私のデビュタント。エスコートは、婚約者のデイヴィッド伯爵令息だ。
「エ、エヴィ……!」
「………!」
顔を合わせた途端、婚約者らしき男性に抱きすくめられる。が、私はそれ以上に混乱していた。
婚約者は、まさかのアレだった。
私と同じように、前世と目の色や髪の色を除いて基本的な顔の作りは同じだったから、直ぐに気づいた。
でも、私と同じように記憶を持って生まれ変わったらしいアレは、前世の記憶通りなら私を抱きしめたりしない。
……何故、ここにアレがいるの?
何故、アレは前世の私の、エヴリンの愛称で私を呼ぶの?せめて妹の、マデリンの愛称の『マディ』ではなくて?
疑問符が頭の中を飛び交い、抱きしめられている腕の強さと困惑が相まって意識が薄れていく。が、そう簡単に気絶はさせてもらえないようだった。
「あ、ああ!エヴィ、ごめん!ごめんね!!君に会えたのが嬉しすぎて、力を加減できなかった!
苦しかったよね……本当にごめん」
私の意識が危うくなっていたことに気づいたアレが、今にも泣きそうな顔で私に謝っている。
意識を失いきれなかった私は、憎々しげにアレを睨みつける。
私の視線を見たアレは、ますます腰を低くして謝り倒す。
そんな混沌とした空気をぶった斬ってくれたのは、私の父だった。
「ゴホン。…2人とも、もうすぐ陛下のご挨拶が始まってしまう。いいかげん会場に移動するぞ」
それと、デイビッド君、娘と距離が近すぎる。もう少し離れなさい。そう言い残して、父は母を伴って、先に会場へ移動してしまった。
残されたのは、気まずい雰囲気の私たちだけ。
「……じゃあ、移動しよっか」
先にアレがそう声をかけ、私たちは会場へと移動した。
その後も、デビュタントが終了するまで、私たちの間に会話はなかった。何度かアレは口を開こうとしたが、その度に私は父や母に声をかけて回避した。
解散のタイミングでも、アレは何か言いそうにしていたが、結局は何も言わなかった。
前世での不幸の象徴とも言えるアレと、また婚約を結んでしまっただなんて。
本当に私はツイてない。
ありがとうございました。