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ジェーンside



 前提として、デイン様は、デビュタントを済まされた直後から大旦那様の指示で政敵の貴族に探りを入れておられました。

 情報を集める方法の全てを任され、デイン様が思いつかれたのが放蕩息子を装ってしまうことでした。そして、その情報の伝達を任されたのが、私を始めとしたメイド教育を済ませた女性諜報員だったのです。

 その作戦は幾度も成功を収め、同時に、デイン様の名声は地に落ちていきました。



 そうして、デイン様が情報収集を目的に夜会に参加された、ある日のことでした。

 大旦那様と別れ、逢瀬を装ってから情報を受け取り終えた時、デイン様は1人のご令嬢を見かけました。報告の為に人気のない所におられたデイン様は、そんな場所にうら若いご令嬢がたったお1人で歩かれていることに疑問を抱き、様子を伺ったのだそうです。

 近づいて見れば、ご令嬢の装いはお世辞にも流行を押さえているとは言えず、髪型もアクセサリーも簡素で、経済的に恵まれていらっしゃらないように見えたそうです。

 それでも、月光に照らされた榛色の瞳が美しく輝いていて、その日の夜会の会場にいる、着飾った令嬢の誰よりも綺麗だった、と後にデイン様から聞いたことがあります。

 ご令嬢は、間もなくご家族に呼ばれて会場内に戻ってしまわれましたが、その時にお名前を知ることができました。


 そしてそれが、デイン様にとってのエヴリン様との出会いでした。




 それからのデイン様は、極たまに見かけるエヴリン様をやり甲斐になさって情報収集に勤しんでおられました。

 デイン様の一方的な出会いから、およそ半年以上が経過した頃でしょうか、そろそろ身を固めてはどうか、と大旦那様から婚約話をもちかけられました。

 初めは難色を示されたデイン様でしたが、大旦那様から押し付けられた、婚約者候補をまとめた書類の中に『エヴリン・フロスト』の名を見つけたそうです。

 それから、先程までの婚約を渋っていた態度が嘘のような順調さで、デイン様とエヴリン様のご婚約が成立しました。


「社交界で美しいと噂される、マデリン嬢の方が良いのでは無いか?エヴリン嬢は、普段からタウンハウスに籠り切りで、あまり社交界に顔を出さないと聞くが」


 などと大旦那様から聞かれたデイン様が、怒り心頭といった様子で言い返す様を、大旦那様は大層面白がっていらっしゃったと記憶しております。




 そういった経緯でお2人のご婚約は成立しましたが、未だに政敵の決定的な証拠を掴むことはできておりませんでした。デイン様が情報収集を止めるわけにもいかず、かと言って、一途な様子を周囲に見せる事で、変わらず続けている放蕩息子そのものな素行に違和感を抱かれてはいけません。デイン様は、断腸の思いでエヴリン様への思慕を胸の内に秘めることを決意されました。

 もちろん、エヴリン様に事情を話しておくこともできました。しかし、デイン様はエヴリン様が面倒事に巻き込まれるような事態だけはあってはならないと考えられ、我々使用人達に改めて箝口令を敷かれました。


 当時は、それが最善だったと、我々を始めとした多くの者が信じておりました。……今となっては、エヴリン様に事情を話さなかった事に後悔しかございません。




 そうして、あの事件が起きた夜会の日を迎えました。



 その日、私はデイン様に、決定的な悪行の証拠を渡しておりました。その最中、人の気配を察知して、いつものように逢瀬を装ったやり取りをしました。その気配の主が、エヴリン様だと気付かずに。


 証拠の書類を改められたデイン様は、これでようやくエヴリン様に全てを話せる、と大層喜んでいらっしゃった事を、今でもはっきりと思い出せます。




 ここから先のあの日のでき事は、人伝に聞いたことになりますので、多少の脚色が含まれているかもしれません。




 報告と証拠の受け渡しを終え、デイン様が夜会会場に戻ろうとした時、たまたま同じ夜会に参加されていた、全ての事情を知るデイン様の従兄弟の方が、デイン様に話しかけたそうです。


「大分前のことだが、エヴリン嬢がとても思い詰めた表情で会場を後にしていたんだ。…何かあったのか?」


 といった風に。


 それを聞いたデイン様は、大慌てでエヴリン様の後を追って会場を後にされました。この様子は、私も遠くから拝見しております。



 フェルトン家のタウンハウスに到着した時、丁度エヴリン様が窓から身を乗り出したタイミングだったようで、デイン様は大声でエヴリン様の名前を呼び、落下地点であろう薔薇の生垣まで駆け寄ったそうです。


 デイン様の必死の呼びかけも虚しく、身投げを止める事はできませんでした。けれど、落下地点の薔薇がクッションの役割を果たしたのか、エヴリン様は辛うじて息をしておりました。


 それを確認したデイン様は、乗ってきた馬車にエヴリン様を抱えるようにして乗せて、近くの診療所まで向かわれました。そこで応急処置をしている間に、ステイプルズ侯爵家の主治医を呼び出し、エヴリン様の治療を命じたそうです。



 しかし、神はその奇跡を出し惜しみなさったのか、エヴリン様の右腕と右足に、それぞれ後遺症が残ってしまわれました。


 後遺症の程度としては、利き腕である右腕は、ある程度動かせはするけれど、物を持つことは難しく、繊細な動きができない、というものでした。右足は、杖を使わなければ1人で歩けない程度だったそうです。



 主治医よりそれらを聞いたデイン様は、酷く取り乱されました。


「飛び降りたきっかけは自分にある。全部自分のせいだ」と。




ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
政敵倒した後、息子夫婦のフォローをどうするつもりだったんだろうか。 というか、政敵が倒せなかった場合の社会的な影響を踏まえると、最悪息子夫婦共々切り捨てって感じにするしかない状態になる事を考えられなか…
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