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「お久しゅうございます、旦那様、奥様。

 足腰の弱った(わたくし)めのために、遠路はるばるお越しくださいましたこと、心より御礼申し上げます」


 目的地に着いた私とエヴァンジェリン嬢を迎えてくれたのは、今世で初めてあった時より若返って見える前世のメイド長と、彼女を支える孫娘だった。


「久しいな、ジェーン。まだまだ元気そうでなによりだよ。

 それから、私も彼女も、生まれ変わった身だ。前世の名で呼ばないようにお願いしたい。

 ………あと、言っておかなければいけないことがある。彼女には、例の夜までの記憶しかないんだ。だから、尚更『夫人』や『奥様』などの言葉で呼ばないでほしい」


 私がそう言うと、ジェーンは一瞬悲痛な表情になったが、すぐに取り繕い、


「かしこまりました。それでは、仰せのままにいたします。

 …メアリー、お2人を中にお通しして。私はお茶とお茶菓子を持ってくるわ」


 と言って一礼し、家の中に入って行った。


「はい、お祖母様。

 …それでは、ご案内させていただきます」


 ジェーンの孫娘であるメアリーは、祖母から教わったであろう綺麗な一礼を見せて、ジェーンの後を追うように中へと入って行く。


「それでは、エヴァンジェリン嬢、エスコートさせていただけますでしょうか?」


「……ええ、お願いしますわ」


 私の問いに、逡巡して彼女はそう答えてくれた。


「ありがとうございます。では、行きましょう」


 私の差し出した腕に、彼女の手が絡まる。

 懐かしさを感じる温もりに緩んでしまいそうな涙腺を必死に押さえ込んで、案内されるままに応接間へと進んだ。




 しばらくして、お茶もお茶菓子も揃ったテーブルの椅子に、ジェーンが腰を下ろす。


 懐かしい味をひと口堪能して、隣で瞳を輝かせるエヴァンジェリン嬢を盗み見た。

 確か前世でも、ジェーンの紅茶を初めて飲んだ時、そんな風に瞳を輝かせていたな、と思い、勝手に口角が上がる。


 そんな私たちを、ジェーンは眩しそうに目を細めて見つめていた。




「それでは、改めまして自己紹介を。

 私はエヴァンジェリン・リカードと申します。一応、デイヴィッド様の婚約者で、エヴリン・フェルトンの生まれ変わりです。記憶は、夜会の後に自室から飛び降りたところで止まっています。

 本日は、前世の私の、失った記憶についてお話を聞きたくて参りました」


 随分紅茶が気に入ったのか、そのほとんどを飲み干してから、厳かな声でエヴァンジェリン嬢が切り出した。


「デイン・ステイプルズ様の死後1年までメイド長を務めておりました、ジェーン・フロストと申します。

 エヴァンジェリン様の前世でステイプルズ家にお住まいの間、専属メイドとして務めさせていただいておりました。

 ……それから、エヴリン様が自殺未遂をなさった日、デイン様にスパイとしての活動報告をしておりました」


「それについては、既にデイヴィッド様から聞いております。

 …早速ですが、私の失った記憶について、伺ってもよろしいですか?」


 すっかり飲み干してしまったらしいカップを自身から遠ざけ、エヴァンジェリン嬢は手を組みながら俯き気味に言った。その視線は、名残惜しげにカップを向いているように見えた。


「そうですね……。

 では、(わたくし)がデイン・ステイプルズ様との逢瀬を装ってまで行わなければならなかった報告の内容と、そうしなければいけなくなった原因から、お話させていただきます」


 ゆったりした口調で話しながら、ジェーンはエヴァンジェリン嬢のカップに紅茶のおかわりを注いでいた。そのカップを受け取ったエヴァンジェリン嬢の瞳は、キラキラと輝いている。記憶が無くとも、人生の半分以上を共にしていただけあるのだろう。

 ……流石に、嫉妬なんてしていない。流石に。




ありがとうございました。

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