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「………」


「………」


「……ねえ、デイヴィッド様、顔色が悪いようですけれど、大丈夫ですか?」


 王都にいるというメイドを訪ねるため、私とデイヴィッド様は同じ馬車に乗っていた。

 そして、今日会ったその瞬間からずっと、彼の顔色は悪いもま。こちらと絶対に顔を合わせないようにしているから話しかけるのは大分躊躇われたが、さすがに我慢できなかった。それに、このまま放置していていきなり吐かれるのも困る。


「い、いえ、大丈夫です」


「……流石に、それは嘘でしょう?その顔色で『大丈夫』だなんて、誰も信じませんよ」


 そのまま見つめ合うこと数十秒。根負けしたらしい彼は、


「……あの、笑わないでくださいね…………?」


 と、頑なに私から視線を逸らしながら言った。






ーーーーー






デイヴィッドside



 話し合いから一週間経った今日、私はガチガチに緊張しながら、エヴァンジェリン嬢と同じ馬車に乗っている。


 今朝は、一週間振りに会える、と思うだけで踊りだしそうな自分を必死に律し、手袋をした手でエヴァンジェリン嬢をエスコートした。


 気を抜けば茹だってしまいそうな顔を誤魔化すために、延々とエヴァンジェリン嬢から絶縁を切り出される想像をする。鏡が無くとも自覚できるほどに顔色が悪くなっているが、常に真っ赤よりはマシだろう、と自分に言い聞かせる。

 そうやってゆっくり進む時間に耐えていると、


「……ねえ、デイヴィッド様、顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」


 と、エヴァンジェリン嬢から話しかけられる。

 多少抵抗は試みたものの、大丈夫だ、と言い張って誤魔化されてくれるような人でもないので、全てを洗いざらい話した。


「……あらまあ」


 目を丸くさせ、口元に手を当てて驚く彼女。

 すっかり引かれてしまった、と分かりやすく肩を落とす私に、エヴァンジェリン嬢は面白そうに笑う。


「ふふふ、そこまで顔を真っ青にしてる理由が、それなんですか?想像でそれなら、本当に言われた日にはどうなってしまうことやら、ですわね」


「なっ、そ、それはつまり、絶縁を切り出すつもりだと、そういう事なのですか……!?」


 悪戯な笑みに見惚れそうになる一方で、彼女の口から紡がれた内容に、気持ちがどん底まで落とされる。絶望を体現したような私の表情に、彼女は更に笑みを深めた。

 ああ、その悪戯な笑顔に心が鷲掴みにされるようだ。ネモフィラのような可憐な笑顔も当然愛おしいが、バラのような艶やかな笑みもまた魅力的すぎる。


「いえ、前世の私が貴方と結婚しようと思った理由に行き着いて、それに納得できるまで、その予定はございませんわ。少なくとも、今日明日のことではないでしょう。

 ……それにしても、そこまでの反応を見せられると、揶揄いたくなってしまいますわね」


「わ、私の心臓が持ちませんので、できる限り控えていただきたいですね、それは。……あの、見蕩れてしまうのと恐ろしいのとで感情の起伏が忙しくなってしまうため、その妖艶な笑みも、今だけは隠していただけると助かるんですが………」


 真っ赤になっているであろう私を見て、やはり面白そうに笑うエヴァンジェリン嬢。

 これ以上見ないようにしよう、と思いはするが、思いを寄せる女性の美しい笑顔から視線を逸らせる男がこの世に何人いることか。少なくとも、私には無理だった。



 始めはとても気まずい空気の流れる馬車の中だったが、一連のやり取りから目的地までの十数分、とても和やかな雰囲気だった、とだけ言っておこう。

 その間の私の醜態は、さすがに割愛させていただく。




ありがとうございました。

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