非日常よさようなら
「では、ご登場いただきましょう!!!どうぞっ!!!」
大きな声はその場を支配し、俺の心臓がいつもより早く動き出す。後悔と秋山の顔が浮かび苛立ちすら覚えるが、幕が上がればそんな俺の気持ちなど関係なかった。
目映い光が目の奥を鋭く突き刺すようで今まで23年間生きてきた中でここまで体感したことのない高揚に包まれた。
泡が弾けるような無数の拍手に知らない眼光が一斉に俺の方を向く。
「では、お所とお名前はっ?」
左隣にいる先ほどの声の主、いつもは画面の向こうでバラエティ番組で良く見る司会者がマイクを差し出す。
頭の中で現実と非現実が交互に来たからなのか元来のあがり症なのか小声で …っあ とつまづいた。
「えーっと成島県から来ました、鈴木、涼です。」
なんの事でもないただの自己紹介だ、これまで何十回とやってきたことなのに息があがった。
「今日はだれの物真似を披露してくれるんですか?」
男は目を煌めかせにこやかに期待していた。
「は、はい!俳優の佐田 きよしです。」
「おぉ!!!それではどうぞっ!」
リハーサルでなんども聞いた音が ダンダンダンっ!と鳴った
俺はこの瞬間大きく息を吸って緊張を落ち着けよう、もう清水から飛び降りる覚悟を決めた。
ーーそう、俺は地元の幼馴染秋山から突然の電話で今ここにいる。たしかあれは一月前の事だった。
仕事を終え、車に乗り込んだときスマホから久方ぶりの電話が来ていた。嬉しさもあったが久方ぶりの連絡は不安もあった
いつもあいつは面倒なことを相談してくるからだ。
一秒ほど画面を見つめ、通話ボタンをスワイプした。
「おう!久しぶり!」
「久しぶり、元気だったか?」
秋山とは実に五年ぶりだった、幼い頃から兄弟のように遊んでいたあいつの声は少し大人の声のようで疲れているようでもあった。
「俺の方は元気…とは言えないな、実のところ仕事がうまく行ってなくてな」
「あぁそういやおばさんとこの前話してたけどお前正月も盆も帰ってきてないって言ってたぞ?」
「んーまぁテレビ局ってさ、おもくっそブラックだからよ。
なかなか地元に帰れないんだよ、まぁでも月1くらいで連絡はしてるから心配すんなよ」
とは言ってるものの画面の向こうの秋山がどんな姿かを想像すると昔は思わなかった心配が胸に溢れた。
「てか、秋山から電話するって何かあったのか?」
「あぁ、そうそう!俺実は次の企画でものまね王座決定戦ってやつやることになってさ」
「へえ、小さい頃から画面越しでみてた番組をお前がやるなんて凄いじゃん、おばさんも喜ぶんじゃないか?」
「だな、」苦笑いしてるのが電話越しに伝わった。
「んで涼にお願いなんだけど」
過去この言葉でろくなことはなかった。
幼稚園からずっと一緒だった
「」
「」