脱出ポッド
(騙された?)
長井は呆然と立ち尽くしていた。
「阿波野さん!どういうことですか!?」
大山が声を張り上げた。阿波野はにやにやと笑いながら話し始めた。
「抵抗組織は立派な政府の機関だったのさ。さすがに誰も政府の異変に気づかないわけがないから、氾濫分子は出てくる。そこで政府は抵抗組織を作り、まとめて始末することにしたのさ。そのほうが楽だしなあ。」
「…。そんな…。」
「俺は政府の命令を受けて組織を作り、十分大きなものになったから、集会を開いてやつらを呼び寄せて、お前たちを始末してもらうことにしたのさ。そして、お前たちはやつらが食料にするためにここに連れてきて、今無事に焼かれようとしている。分かったか?今の状況が。」
(食料?焼く?)
八人は阿波野の言葉で、徐々に暑くなっていく部屋の意味が分かった。
「じゃあ、俺はこれで…。」
スタスタと阿波野は去っていった。阿波野が見えなくなると、一人が大声を上げた。
「ふざけるな!冗談じゃない!」
(さて、俺の仕事は終わった…。…さっさと地球に帰してもらおう…。)
阿波野は操舵室に入った。
「何の冗談です?」
自分に向けられた銃口を見て、阿波野は驚いた。
「冗談ではない。」
阿波野はぞっとした。
「い、今までみなさんの…ために働いてきました。これからも」
「もう必要ない。抵抗する人間は我々で処理する。」
「あ、あああ!」
阿波野は振り向いて走り出そうとした。振り向くと皮のジャンパーを着た男が立っていた。
「ああああ!」
阿波野はその男の顔面を殴って、ひるんだ隙に走り出した。
(あの八人を解放するんだ。一緒に逃げられれば…。!)
阿波野は自分の腹から血が出ていることに気づいた。
(終わった…。殴ったときに刺されたんだ…。やつらのナイフで刺されたら、もう傷は広がっていくだけで塞がらない…。)
走りながら、阿波野は混乱していた。
(走ったからってどうなる?逃げ切って非常用の脱出ポッドに乗っても、もう俺は終わりなんだぞ?このまま血を流し続けて頭がくらくらになって倒れていくだけなんだぞ?…なんで俺がこんな目に遭う?天罰?抵抗組織の人達を騙した?他に俺のような能の無い人間が政府内で生き残っていく道があったか?)
阿波野が向かった先は八人を閉じ込めた機械だった。
(…自分たちで人間を集めるから、俺が必要ないだと?分かってたさ、そんなこと!やつらだけじゃない、誰だって俺を必要となんかしてないってことぐらいな!)
ガシュン…
機械の扉が開いた。
(た、助かったのか?)
長井は額の汗を拭きながら、他の七人と一緒に外に出た。
(涼しい…。まだ真夏ぐらいの暑さまでしか温度が上がってなくてよかった。)
ふと、長井が未央を見ると、明らかにいらいらした顔をしていた。
(若い女の娘だしな…。)
「阿波野さん!?」
大山が叫んだので、驚いて長井も前を見た。そこには、血を滴らせながら、うずくまっている阿波野がいた。
「ハ、ハハハ…。」
阿波野は口だけで、笑い顔を作っていた。
「しっかりしてください!」
大山は阿波野の方をつかんで体を起こした。
「すまな…かった…。」
阿波野は苦しそう、というよりは意識を保つのに精一杯という状態だった。
「今、止血を…。」
大山の手を阿波野は遮った。
「無理だ…。やつらのナイフで斬られると…もう傷が治ることはないんだ…。もともと俺なんかじゃ…やつらと渡り合えるわけないのに…俺は…。」
「やつら…?」
「…宇宙人…だ…。十数年前に地球にやって来て…詳しい経緯はしらないが、この国の政府と結びついた…見た目は人間とそう変わらないが…人を支配することしか考えてないんだ…。」
聞いている8人はこの状況だから、宇宙人がどう、と言われても信じることができた。
「…この先に…本物の脱出ポッドがある…乗れば、自動で地球に行くはずだ…。」
「…分かりました。脱出する前に…連れて行かれた人達はどこにいるんですか?」
「…もう、やつらに…。」
「……そうです…か…。」
全員の顔が暗くなった。
「早く…。行くんだ…。」
「阿波野さんも…。」
「俺はもう助からない…ここで、別れよう…。」
8人は阿波野に教えられた脱出ポッドを目指して走っていた。
(…。傷が塞がらなくなるナイフ…。渡辺が書いていたものだ…。)
長井は阿波野の言葉を思い返した。
(おっと。)
前を歩いている人達が突然止まり、考えていた長井前の人にぶつかった。前を見ると、皮のジャンパーを着た大柄な男が立っていた。男はにたりと笑った。
ヒュンヒュンヒュン…。
銃を取り出すのが遅れた長井を除いた残り7人が耳栓の銃を撃った。皮のジャンパーを着た男はとっさに両腕で頭を防いだが、体に数発の耳栓が刺さって倒れた。
カチャン。
皮のジャンパーを着た男の銃が床に落ちた。
「びっくりさせるなよな…。」
8人のうちの若い男が言った。全員が倒れた皮のジャンパーの男に背を向けて歩き出した。
チャリ…
振り向いた全員が見たのは、立ち上がっている皮のジャンパーを着た男、そして頭に耳栓が刺さって倒れる皮のジャンパーを着た男、銃を構えている息を切らした長井だった。
じゃららら…。
皮のジャンパーを着た男の袖から、ナイフがちょうど8本こぼれ落ちた。
「はあ、はあ…。」
「長井さん…。すごい早撃ち…。」
未央が始めて長井を尊敬の眼差しで見た。他の人たちも驚いていた。長井はただ笑顔だけ作って返した。
(ありがとうな…。渡辺…。)
8人は脱出ポッドの前に着いた。卵のような形をした一人乗りのものが8台並んでいて、中には操縦するものが見当たらず、どうやら阿波野が言ったとおり、自動操縦らしかった。
「みんな…。弾は残っていますか?」
大山がポツリと言った。
「どういうこと?」
未央が返す。全員が大山を見つめた。
「この乗り物を奪うんです…。」
「もう、脱出は目の前なんですよ?なんで…。」
冷静な大山に長井が言い返した。大山は無視して話を続けた。
「どうやら、阿波野さんの話の感じだと、宇宙人たちの乗り物は複数あると思うんです。それに、私たちがここから逃げれたとして、帰ったところも宇宙人とつながったところなんです。この乗り物を奪って、本当に抵抗組織として反撃を始めましょう!」
「賛成!」
真っ先に未央が小さい声ながら力強く言った。長井以外の全員がうなずいた。
(…俺には無理だ…。情けないけど…格好悪いけど…。それが俺なんだ…。こうやって生きてきたんだから…このまま生きてやる…。)
「…。大山さん…。やっぱり私…は……逃げます…。」
長井は恥ずかしそうに、それでも必死に言った。
「分かりました。逃げてください…。いつか、全てもとに戻ったら会いましょう。」
大山は笑顔で返した。
「すい…ま…せん…。」
長井一人だけが脱出ポッドに乗り込んで、ポッドが発射された。大山だけが笑顔、未央はやや不満そうに、他の人たちの中にはうらやましそうな人も、見下したような顔をした人もいた。
「…行きましょう!」
大山が力をこめて言った。
宇宙船の操舵室。3人の宇宙人が船を操作している。ふいに部屋の扉が開いて耳栓が飛んでくる。不意を突かれて応戦する間もなく倒れる宇宙人たち。異変に気づいて操舵室に入ってきた宇宙人たちもあっけなく倒される。宇宙船は地球に帰還し、7人の戦いが始まった。




