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考えること

 入ってきたのは二人の武装していない黒服と、その護衛らしいマシンガンのようなもので武装した三人の黒服だった。人々は入り口から一番離れた壁に張り付いて、遅れて壁にやってきた人たちを押し返し始めた。

(…連れ去りに来たのか?)

 長井は恐る恐る黒服を見つめながら思った。黒服は押し返された一人を連れて行く。

「うわああああ!助けてくれえ!」

 連れて行かれる人が大声で叫んで暴れたが、銃で撃たれてがっくりとうなだれた。撃たれた首筋に耳栓が付いているのを三人とも見た。三人は壁と最前列から三列目くらいにいた。

(…ここなら、大丈夫か?おい?)

「俺を連れて行けええ!」

 一人が壁に張り付いている集団から前に出てきて叫んだ。

(おいおい、何考えてるんだよ?)

 出てきた男は黙って首筋に耳栓を撃たれて連れて行かれた。

グググ…

 後ろから押す力が急に強くなった。

「うっ!」

 一歩前に出てしまったが、ぐっと足に力を込めて耐える。長井は一瞬だけ振り向いた。

(…周りのみんなが考えてることは分かる。俺が行けってことだよな…。一番歳いってる俺が行くべき…それでみんな少しは生き延びれる…何か脱出の機会が来るかもしれない…。)

 長井はふと今までの人生を思い出した。

(俺は…今まで何をしてこれたんだろう…。ずっと恋人も友人もいなかった。親は俺が30のとき亡くなって、兄弟もいない。親戚とも疎遠。俺がいなくなって悲しむ人がどこにいる?会社で働いて貢献した?俺の代わりなんていくらでもいる。定年後もテレビ見て過ごしていただけ…健康でも死ぬまでそういう生活を送るんだろう。ここにいるのはただの好奇心のせいで生きて帰っても同じ生活に戻るだけ…。)

 長井は息を吸い込んだ。

(ここで前に出れば、少しくらい俺の人生に意味ができるんじゃないか…?)

 もう一度さっとだけ後ろを見る。

(俺を押してないやつも、みんな心の中で言ってるんだろうな…。お前が行けと…。)

 長井は力を抜こうとしていた足にまた力を込めた。

(…悪いか?ここで立ち止まったら?俺の人生、何もしなくて、役に立たなくて何が悪い?…生き延びてやるよ!別の人を犠牲にすることになっても、生きて帰ってまたぼーっとテレビばっかり見ながらくたばってやる!それが俺の人生だ!)

 

 未央は考えていた。

(力の弱い自分じゃ、いつかここからはじかれる…。誰か自分から出てくれればいいのに!)

 黒服はだんだん近づいてくる。

(ここなら、連れて行かれるのは前の何人かですむ…あと少し頑張れば…。)

 未央は頭を振った。

(違う!木村さんが連れて行かれたときも、私、誰かが助けないことに苛立ってた。行くべきなのは、私…。やる気の無い長井さんにいらいらしてたけど、私だって…私の仕事の代わりなんてたくさんいる…あいつらの暗号解くなんて、時間があれば誰でも…。)

 大きく息を吸い込んだ。

(前に…私に少しだけ勇気を…。)


 大山は、未央と長井を見て考えていた。

(未央も、長井さんも、自分が前に行くかどうかで悩んでるみたいだ…木村さんもそうだった。今は違うんだ…。やつらに連れて行かれるかどうかより、やつらを倒してここから逃げなくては!)

 大山はずっと黒服たちの動きを注視していた。

(一瞬だけ、一瞬だけでいいんだ…。黒服全員に隙ができるときがあれば…。さっき話せていれば、二人にも協力してもらえたんだけど…一人で行くしかないか…。)

 大山は周囲に違和感を感じた。

(未央!まだだ!)

 未央が一歩前に出ていた。

(あの銃を撃たれたら終わりだ、行くしかない!)

 大山は未央の首に銃を撃とうとしている黒服に目標を絞って突っ込んで行こうとしたが、前にいた人たちをすり抜けるのに手間取り、前に出たときには、黒服三人が銃を構えて大山に狙いを絞っていた。

(ぐっ…。どうせ撃たれるなら、突っ込め!)

 大山は歯を食いしばって走り出した。

「来ちゃダメ!」

(無視だ!ただの時間稼ぎでは意味は無いんだ!)

ヒュン、ヒュン

 二発耳栓が発射されたが、両方とも当たらなかった。

(間に合った!)

 未央に一番近い黒服の両腕を掴んでそのまま黒服とともに床に倒れこんだ。

「うおおおお!」

 気が付くと閉じ込められていた人たちが大声を上げて黒服たちに立ち向かい、部屋は乱闘状態になっていた。大山は黒服の銃を掴んでいる腕を地面にぶつけて銃を落とさせようとした。

ガツ

(ぐわっ)

 黒服は頭を大山にぶつけた。黒服は大山の緩んだ手を振り払って顔面を殴った。

「ぐあっ!」

 大山は思わず後ろに下がった。

ガッ、ガッ、ガッ

「このっこのっこのっ!」

「未央…。」

 未央が黒服の顔面を連続で踏みつけていた。黒服は急に踏まれて何が起こったのか分からない様子だった。

(銃だ!)

 大山は急いで黒服の手から銃を引き剥がして、撃った。黒服はあっけなく動かなくなった。

「大丈夫か、未央!」

「大丈夫…。」

 未央は黒服を踏んで疲れたのか、息を切らしていた。


(ひええ…。大騒ぎになった。)

 長井は乱戦状態の部屋の中で、逃げ回っていた。大声が飛び交い、耳栓の撃ちあいになっていた。平らな床の上で隠れる場所も盾にするものもなく、四十人近く人がいる中で自由に動き回ることもできないため、ばたばたと人が倒れていった。

(早く、早く終わってくれ…。)

 長井はただうずくまって、耳栓をしのいでいた。しばらくすると、声がしなくなってあたりは静かになり、長井は顔を上げて周囲を見渡した。人がたくさん倒れている。八人ほど、息を切らした人たちが座り込んでいたり、立ち尽くしていた。

(…。)

 長井はしばらく頭の中でも絶句していた。

(俺が…。出て行けばよかったのか…?)

「長井さん!大丈夫ですか!」

 大山の声が聞こえて、はっと我に返った。

「あ、はい、大丈夫で…す。」

「扉が開いています。行きましょう。」

 生き残った八人が部屋を出た。通路には何かの機械なのかスクラップが積んであった。

「この弾丸は長井さんが持ってきたものとも、集会を襲ってきたやつらと同じものですね…。」

 大山が長井に話しかけた。

「ええ…渡辺がノートに書いていた弾丸とも同じものだと思います。渡辺さんの言ってることが本当なら…黒服は宇宙人なんでしょうか…。」

「?…ああ、あのノートですか…。私はずっと渡辺さんの作り話かなにかだと思っていましたが…本当なのかもしれませんね…。」

「来るぞ!」

 突然、誰かが叫んだ。大山は長井と未央を引っ張ってスクラップの後ろに隠れた。他の人達も同じように隠れていた。

ヒュン、ヒュン、ヒュン

 銃を奪ってきた大山と他二人が飛んでくる耳栓の隙をうかがって撃ち返すが、五、六人の黒服に対してこちらで銃を持っているのは三人、黒服はスクラップの後ろを辿って徐々に距離をつめてくる。部屋を出た八人はもと来た道をじりじりと後ろに下がってしまった。

(ダメだ。いつか捕まってしまう…。)

「おおおお!」

 スクラップの裏から銃を持っていない誰かが飛び出して、黒服に飛び掛っていった。それを合図に長井を除く銃を持っているものも含めて全員が飛び掛っていった。

(俺には、やっぱり無理だ!みんなごめん!)

 突然飛び掛られて動揺している黒服はほとんど抵抗できず、あっという間に倒すことができた。

「全員銃を持ったな!行くぞ!」

 次の扉の前に八人はいた。

ガチュッ

 扉が開いた。全員あと少しで撃ってしまうところだった。

「阿波野さん?!」

 大山が声を上げた。そこには、両手を挙げた阿波野がいた。

「俺は味方だ。撃たないでくれ。…みんなすまなかった。俺のせいでみんなを犠牲にしてしまった。…他に生き残っている人は?」

「…この八人だけです。」

「……。そう…か。こっちに、来てくれ…。」

 阿波野が歩き出した。八人もそれに続いた。

「こっちに脱出できそうな乗り物があったんだ…。」

 辿り着いたのは、巨大な卵状の形をしたさびた鉄のような色をした金属の塊だった。

「…さあ、乗ってくれ…。」

 八人は言われたとおり卵状のものに乗った。

「阿波野さんは?」

 誰かが聞いた。

「外から射出する必要があるんだ、これは…。それに、私はここに残ってやつらと戦わなくてはならない。生き残れたらまた会おう。」

「私も残って戦います。」

 大山が卵状の機械から出ようとした。

「いや…。君達は生き残ってくれ…。」

 そう言うと阿波野は大山を機械に押し込んだ。

バシュン…

 機械の扉がしまった。

「あははははは!」

 大声で阿波野が笑い出した。

「おとなしく銃で撃たれていたほうが楽に死ねたのになあ!」

グイイン

(暑い?)

 徐々に機械内の温度が上がりだし、長井と七人は状況が分かってきた。


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