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侵略開始

 ある企業の本社の地下室に、この国の表裏含めて中枢にいる20人ほどが集まり、人一人分くらいの距離を置いて2列に並んだ長テーブルの、入り口から見て左側に並んで座っていた。テーブルのもう片方にもイスが並んでいるが誰も座っていない。数人はペンでテーブルを突いたり、腕時計をにらんだりしていた。

ガチャ…

「お待たせしました。人間様。」

 ドアを開けて入って来た15人ほども見た目は人間のようだった。始めにいた20人と向かい合うように右側に座った。

「……では始めましょう。」

 始めから座っていた20人の内の1人がムッとした顔をうかべながら言った。

「我々の指定した場所以外に着陸しないでいただきたい!」

 いきなり左側に座っている体格の良い男が怒鳴った。

「まあまあ、落ち着いて…。我々も努力しておりますが天候の関係もありますし…。」

 右側に並んだ中心に座っている男が笑顔を浮かべながら言った。その笑顔が余計に怒鳴った男をいらいらさせる。

「定期的に着陸していると見られる場所が200箇所以上見つかっているんですよ。」

 そう言いながらバサッと、指定した場所以外の着陸箇所を並べた資料を反対側のテーブルに置いたが、誰も資料を手に取ろうとはしなかった。さらに怒っている男を両側に座っている男が目で諫め、しぶしぶ怒っている男は黙ることにした。司会者の男が話が一段落したと見て話し出した。

「……それでは、本題に入りましょう。今日の会合は『星雲の旅人達』の提案です。まずお話を伺いましょう。」

 右側に座っている『星雲の旅人達』は話を始める前に、笑顔を不適なものに変えた。

「実は提供していただいている我々の複製施設、あれはもう必要なくなりました。」

「はぁ?」

 左側に座っている人間側がざわざわとざわめきだしたが、無視して『星雲の旅人達』は話を続けた。

「ですから、真に申し上げにくいのですが、あなた方にお貸ししている流星兵器をお返しいただきたいと思うのですが…いかがでしょうか?」

 人間側はざわめきを通り越して絶句していた。沈黙を破ったのは先ほど怒りを顕にした男だった。

「そんな要求は飲めない!流星兵器はこちらの管理下にある!」

 『星雲の旅人達』はさらに笑顔になった。

「いえいえ…。お手間はおかけしませんよ。すでに我々は流星兵器の使用権限を移しておりまし」

「ふっ、ふざけるな!!」

 話を遮って男がまた怒鳴った。声は上ずって情けない声になっていた。『星雲の旅人達』の顔から笑顔が無くなってきた。

「どうか誤解しないでいただきたいのは我々としても争いを望んでいるわけではないということです。あくまで共存共栄ですよ、我々の望みは…。」

 会議は一時中断し、双方が別々の控え室に入った。

バタン

 ドアが開いて、若い男が入ってきた。

「…間違いありません…。流星兵器の使用権限は『旅人達』に移っています。」

「…やはりはったりではなかったか…。」

 もしかしたら、と僅かな希望を持っていた20人は絶句した。

「複製施設のほうは?」

「変わらず稼動はしていますが、『旅人達』は急に引き上げたと…。」

 控え室に重苦しい雰囲気が漂った。まず口を開いたのは、怒鳴った男だった。

「だから、私は反対だったんです!始めからあんな得体の知れないものを信じるべきでなかった!」

 それに対して、年老いた男が反論というよりは言い訳をした。

「…そう言いますがね。宇宙人どもの『提案』を飲まなければ最初からこうなっていたんですよ…。関わらずに済む方法があったのだったらお教え願いたいもんですな。」

 次々と口を開いていった。

「提案を呑んでからが問題なんですよ。各国の紛争に首をつっこんだから、流星兵器が無くなったら困るんです。流星兵器は使うべきでなかった…。」

「首をつっこんだという言い方はどうですか。我々は紛争を解決し、これらの国に自由と平和をもたらした、今までのこの国にこんなことができましたか?」

 また沈黙。

バタン

 また人が入ってきた。主に宇宙人との連絡係を務めている女性だった。

「やつらが、紛争地帯で睨み合っている軍隊に、援護するから総攻撃を開始させろと…。」

「…我々を兵隊にして、この星を支配する気なんだ…。」

「国政に介入してくるのも時間の問題か…。」

 空気は、重苦しいというよりは冷めたものに変わっていた。


 長井は農家の建物に隠れて上空から降りてきた巨大なスクラップを眺めていた。スクラップは地面近くで停止し、底の部分が開いて階段が現れて地面につながり、ぞろぞろと白くて平たい物が降りてきて走り去って行った。

(宇宙船…なのかこれは?)

 しばらくの間長井はそのまま宇宙船らしきものを眺めていた。

ヒュンヒュンヒュン…

 飛んできた物が壁に刺さっていた。

(あの耳栓だ!)

 慌てて走って逃げる。黒い服の集団がこちらに向かって耳栓を撃ちながら走ってきている。長井は周りを見渡した。農家と広い農地だけしかない。

(走っても、歳をとった俺の脚じゃ追いつかれるに決まってる…。)

 とりあえず農家の倉庫の中に走りこみ、農作業の機械の裏に隠れて様子を窺った。

(来るな…。)

 来た。4人黒服が歩いて入ってきて長井を探し始めた。

(……どうする…もっと奥に隠れるか?…!)

 長井が見たのは入ってきた倉庫の入り口だった。スクラップの入り口が見えた。

(…3、2、1、行け!)

 長井はスクラップの入り口まで走りだす。視界のすぐ脇を耳栓が通り過ぎていく。スクラップに近づいていくと、カツカツカツとスクラップに耳栓がぶつかった。

(走れ走れ!!)

 スクラップの入り口にたどり着いて階段を駆け上がり、内部に入った。

(…変な内装だ…。)

 内部はまぶしいほど明るく、壁や床は真っ黒で天井は真っ白だった。

「ぐっ!。」

 内装に気を取られている間に、耳栓が足に命中した。

(…終わった…。)

 目の前が徐々に薄暗くなっていき、周囲の音は弱くなっていく。手足の先から体がなくなっていくように感覚が消えていく。

(…死ぬってこういうことなのか…?)

 目の前は完全に真っ暗になり、音は聞こえず、何も感じない。

(…おいおい、このままずっと続くんじゃないよな…。死ぬってこういうことじゃないよな、どっか行くか完全に消えるかするよな…。)

 状況は変わらない。

(……。勘弁してくれって!退屈なんてもんじゃないぞこれ!)

 さらに30分ほどが経過した。

(……誰か、助けてくれ!誰か!誰か!)

「助けてくれえー!」

 長井の声が周囲に響いた。

「うるせえぞ…静かにしろよな…。」

(声が聞こえる?)

 気が付くと、全ての感覚はもとに戻っていた。

(助かったんだー!俺は生きてるぞ!)

 喜んだのは一瞬だった。周りの状況が分かってくると助かったわけではないことに気づいた。

(ひょっとして、ここって地獄?)

 薄暗い広い部屋の中で、40人以上はいる人たちはほとんど会話を交わさず、部屋の入り口らしい真っ黒な扉から離れて座っていてただうつむいている。

(俺より若い人多いな…。当たり前か…。)

 壁や床は真っ黒で天井は真っ白だった。

(スクラップの中で…そうか、捕まったんだ。そういえば、あの集会で見たことがある人もいるな…。)

 周りの人に話しかけようと思っても、みんなどんより沈んでいて話しかけられない。

(…。そんなにひどいところなのかここは…。)

「…長井さん…。」

 かすかに声が聞こえ、長井は周囲を見渡し、小さく手を上げている大山を見つけた。

(!よかった、生きてたんだ!)

 長井は大山の近くまで行って座った。大山のそばには林未央もいた。

「無事だったんですね!よかった…。…木村さんは?」

 長井は喜んで話しかけた。大山と、未央は一気に暗い顔になった。大山はぼそぼそと話し始めた。

「…木村さんは…私たちと同じくこの部屋に連れて来られて、私たちのために…やつらに連れて行かれました。やつらは…数時間おきにこの部屋から数人ずつ連れて行くんです…。」

「…なんとか、助けに…。」

「…木村さんは例の、やつらが使っていた弾丸で…撃たれてしまいました。おそらくは…。」

「でも…ひょっとしたら生きてるかも…。」

「ええ………助けに行きましょう。ただ…入り口の黒い扉は開きそうにありませんから…機会を伺っているんです。」

「何か、作戦が?」

「…作戦ってほどでもないですが、未央も聞いて」

 ずっとうつむいていた未央がこちらを向きかけたとき、扉が開いた。

がっしゅん

「…。…、……。」

「…、…。……………。」

 黒い扉を開けて、入ってきて何かを話している黒服の男たちをじっと見ながら大山は黙った。

「大山さん?」

「しっ…。」

 話かけた長井を大山は止めた。大山の顔は『しまった』という顔だった。


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