集会
未央は反対気味だったが、結局他に行く場所のない長井は組織と行動を共にすることになった。長井が目を覚ました場所と同じマンションの一室に、長井、大山、未央、木村が集まって大山の話を聞いていた。
「まずは、長井さんが渡してくれた耳栓のようなものについて、支援していただいている企業に渡して分析してもらいました。今後も分析を続けるそうですが、今のところどのような物質か分からないということでした。」
(なんだ…。分からないのか。これも政府の新兵器なのかな?)
と、長井が考えていると、大山は次の話を始めた。
「…久しぶりに本部から連絡がありまして、全国の集会が開催されます。みなさん全員出席していただきます。…まあ、全国に散らばった組織の現状、生き残っているかどうか、問題を抱えていないかどうかを確認する程度だと思いますが。場所は…。」
(…変な儀式とかじゃないよな…。)
大山が話している間、長井は不安になった。
(また?みんな集まって?生きてるかどうか確認して?政府が何をしたか今更報告し合って?いつになったら…動き出すの?)
と、未央はいらいらしていた。未央よりは長い目で考えているとはいえ、大山、木村も同じような思いを持っていて、長井以外の3人の気持ちは暗かった。
数日後、ある工場の地下にある集会場に組織の人間数百名が集まった。
(ああ、薄暗いなあ。全員で呪文でも唱えそうな雰囲気じゃないか…。)
会場に入った長井は、なんだかぴりぴりしている未央にばれないように小さくため息をついて、周囲を見渡した。
(何か変な儀式でもやらされるなら、さっさとここを出られるように、逃げ道を考えておかなきゃな…。逃げれそうなのは、ここに降りてきた階段か。壇上にある扉はどこに続いているんだ?ん?)
長井は自分の足元にふたがあるのに気づいた。
(これは、下水道のふたか?)
パチパチパチパチ…
周りの人たちが拍手をし始め、長井は周りの人が向いている先を見てみた。
「彼が、組織の創始者で代表の阿波野 兼行さんです。」
長井の隣にいた大山が小声で説明した。
「若い人なんですね…。」
「ええ。ですが、彼がいなければ組織は政府に潰されていたでしょう。慎重過ぎる行動に不満もありますが仕方ないのかもしれません。」
マイクを使うわけにはいかないのか、阿波野の話は聞こえにくく、会場は静まり返っていた。
バタバタバタ
「見つかったぞ!警察に取り囲まれてる!」
突然男の大声が会場に響いた。ざわざわと会場がどよめきだした。
何を話しているのか分からなかったが、壇上の阿波野は周りの幹部らしき人を呼び寄せて話をし、支持を受けた幹部が壇上の扉を指して大声で叫んだ。
「みんな、落ち着け!こっちだ!」
幹部が混乱し始めた会場を沈めようとするが、捕まるかも知れないのに落ち着けるわけもなく、我先へと壇上の扉に殺到した。もちろん長井も壇上に向かって移動しようとした。
どてっ
転んだ。転んだ長井を迷惑そうにどんどん後ろにいた人がよけて出口に向かっていった。
(な、な、何やっているんだ。)
起き上がって周りを見ると北山も未央も木村もいなかったが、幸い周りにはまだまだ人がいた。とにかく走り出した。
ドサッ
長井の前を走っている人が倒れた。
(転んだのか?)
しかし、気がつくと周りの人が何人も倒れていた。後ろを振り向くと、黒い服を着た集団がいて、何かを構えていた。
(北山さんを撃った連中だ…!)
見渡すと、倒れた人の背中には例の耳栓が刺さっていた。
(早く逃げないと!)
わあああ!
今度は前方からも叫び声が聞こえてきて、長井の目の前を走っている人が倒れた。走り抜けながら振り向いてみると、腹部に耳栓が刺さっていた。
(前から?)
前からも人が逃げてきて後ろからも人が逃げて来てますます混乱してきた。
(出口が見つかった?さっきのところしかない!どこだ?)
人が入り乱れてどこがどこだか分からなくなった。
(…しまった。)
耳栓が飛び交い、人がバタバタと倒れていった。
「長井さん!」
「ああ!大山さん!ど、どこかにマンホールの蓋みたいなものがあって、げ、げ、下水に続いているかも!」
「どこですか!?」
「こ、ここらへんのどこかに!」
2人で蓋を探し続け、倒れた人をひっくり返して探し続けた。
ドン、ドン
「え?」
銃声がして、長井はあたりを見渡し、銃を構えている大山を見つけた。
「え?」
「時間を稼ぎます!長井さんは探してください!」
長井は動転した気持ちを建て直して、倒れた人をひっくり返して探し続けた。
「あああ、あ、あった!」
何人目か分からない倒れた人をひっくり返すと、ここに入ってきたときに見つけたマンホールの蓋が見つかった。
「長井さん!」
「え?」
大山の声がして振り返った長井の視界には黒い服がいっぱいに映り、覆いかぶさってきた。
「うわああ!あ?」
覆いかぶさってきた黒服は力なく重みをかけてくるだけだった。冷静になった長井は黒服をよけ、大山の方を見た。
「大丈夫ですか!?」
(そうか、こっちに向かってきた敵を撃ってくれたのか。)
しかし、大山の声はしても、逃げ惑う人と黒服で姿は見えなかった。
「大丈夫です。蓋が見つかりました!早くこっちへ!」
「先に行ってください!後から行きます!」
大山は後から来れそうな状況には見えなかったが、長井にはどうしようもなかった。
(無事でいてくれ…。)
長井は蓋を開けた。下に続く梯子が見えたが、その行く先は真っ暗で何も見えず、流れの速い水の音が聞こえるだけだった。
(うっ…。)
そして悪臭がした。
(降りよう…。贅沢は言ってられない…。)
梯子を下まで降りた先は、汚水が流れており左右に細い道が続いていた。
(とりあえず、進もう…。)
壁に沿って歩き始めた時、両手にべったりとついているものに気がついた。
(何だ?)
暗くて分からないが、どろっとしたものがついていた。臭いを嗅いでも、汚水の臭いなのか手についたものの臭いなのか分からなかった。
(気持ち悪い…。梯子についていたのか?)
30分ほど歩き続けたとき、物音が聞こえた。
(大山さんたちか?)
しばらく待っていると、何人かが走っているようだった。
(追っ手か…?大山さんたちだったらそのうち会えるだろうし、逃げておこう。)
長井は長い距離を走れるように、軽く走り出した。
うわあああ…。ドドドドド…。
悲鳴と、足音だった。
(逃げてる人と、追っ手だ!)
長井は全力で走りだした。しかし、地面は泥か何かでぬめりがあって足が滑り、地面を全力で蹴って進めない。そして、走り出して20秒後。
ぜえ、ぜえ…。
(もう駄目だ…。ん…?)
遠くにぼんやりと光が見えた。
(もう少しだ!たぶん。)
遠くに見えた光は近づいてみると、上から光が射しており、光に向かって梯子が伸びていた。上を見上げてみると蓋がずれているらしく、月のように弓形に明かりが見えた。
コロコロ…。
足元に何かが転がってきた。
(あの耳栓だ!急がないと!)
あわてて梯子を掴んで登った。
ぎご…。
梯子を登り切って石の蓋をずらし、手をかけて力を振り絞って体を持ち上げて外に出た。
ぜえ、ぜえ…。
(ああ、疲れた…。早く逃げないと…。)
足をもつれさせながらまた走ろうとする。
がやがや、ざわざわ…。
気がつくと大都市の歩道で、たくさんの人が行き交っていて、何人かが長井を奇異の目で見ながら通り過ぎていった。
(ふうう、助かった…。人に紛れてしまおう…。)
長井はなるべく涼しい顔を作って歩き出した。
(とりあえず、タクシーでも拾って帰るか。)
長井はタクシーに乗り込んだ。
(そういえば…。)
両手を見てみた。べったりと緑色のどろが乾いたようなものがついていた。
(気持ち悪い…。早く手を洗いたい…。)
ファンファンファン…
(パトカーのサイレンだ。何だ?事件でもあったのか?)
「そこのタクシー!止まりなさい!」
パトカーのスピーカーから声が聞こえてきた。
ギギギギギ!!
「おっととお!」
タクシーが急ブレーキをかけて、前につんのめる、しかしすぐに体勢を立て直して、無理やりドアを開けてタクシーを飛び出し、道路に走り出た。




