2度目の襲撃
長井が朝を迎えた時、市川は電話を受けていた。
『周囲に聞き込みした結果、長井は電車に乗ったそうで、どうやら終点まで行ったようです。』
「どこの駅だ?…分かった。」
市川は車を走らせ、長井の降りた駅に到着した。
(寂れたところだな。ホテルも見当たらない、長井には親しくしている友人もいない、社交的でもないらしいから知らない人間に泊めてくれと言うこともないだろう。)
市川は自分が長井になったことを考えて、双眼鏡で辺りを見渡した。
(民家、山…。小屋?行ってみるか。)
長井はまだ山小屋にいた。
(やっぱり、大きい街に出て食事をしてちゃんとした宿に泊まろう…。ここに住むわけにいかないし。一度くらい街に出ても大丈夫だろ…。)
ガサ…ガサ…
(!誰か来る…。この部屋の人か?)
長井はそっとドアを少し開けて外を見たが、そこには誰もいなかった。
(風のせいか?)
そう思って長井はドアを閉めようとしたが閉まらない、逆にドアが開け放たれた。
(!!)
目の前にはスーツを着た男が立っていた。呆然とする長井に、そのスーツの男は警察手帳をこちらに見せて言った。
「長井 勉さんですね。私は市川というものです。あなたのアパートで私の同僚の佐間の遺体が発見されました。…殺人の容疑であなたを逮捕します。」
(見つかった…。いや、佐間が先に俺を殺そうとしたんだ。どうにかそれが証明されれば…ああ、逃げないで警察に行けばよかったんだよ…。これから手錠かけられて連れてかれてか…。)
しかし、長井の目の前にあったのは小さな拳銃を構えている市川だった。
「え?」
(警察っていきなり銃を出すのか?いきなり死刑?…そうだ、耳栓!)
「い、市川さん、どういうことですか?」
そう言いながら長井はポケットに手を入れ、例の耳栓を右手に隠し持った。
「何を持っている?」
「い、いえ…。」
パシュ
市川が引き金を引き、長井の足に玉が当たった。
「うぐううああ!」
長井は声を上げ、足を押さえてうずくまった。
「どこでそれを手に入れた?」
市川は、今度は長井の額に銃を押し当てた。
「お、お、お、…」
(北山さんに刺さったものだって言えよ!なんでこんな時に口が回らないんだよ!)
市川が引き金にかかった指に力を込めた。
「お、おひょおお…。」
声が裏返り始めた。
「…答えないなら撃つ。」
長井は目を瞑った。
バシュ
(…終わった、死んじまった。)
バシュ、バシュ、バシュ、パン、パン
(ああ、どんどん撃たれてくよ…え?)
長井は恐る恐る目を開けて銃口を当てられていた額を触ると、当然のことながら頭に穴は開いていなかった。
(よかっ、ぐぼっ。)
突然蹴飛ばされて吹っ飛んで小屋の壁にぶつかった。
(何があった…?)
ぼやけた視界の中で、市川は銃を構えて外を向いていた。
長井は目を覚ました。
(痛っ…)
長井は起き上がろうとしたが足に激痛を感じて再び倒れこんだ。
(足撃たれたんだった。)
撃たれた足をそっとさわってみた。包帯が巻かれているらしく、ざらざらとした布の感触があった。
(ここはどこだ?)
ベットに寝ていた。ベットは高級そうでもなく、ボロでもない、一般的なものだった。周りを見渡すと、そこは6畳ほどの部屋で、ドアが一つついており、壁の上の方にはエアコンがあり、やや小さめの窓には厚手のカーテンがかかっていた。
(どこかの家かマンションかホテルの一室だな…。あれからどうなったんだ?)
ガチャリ
部屋のドアが開いて、白衣を着た白髪の老人が入ってきた。
「おはようございます。」
意外にさわやかに老人は挨拶した。
「…どなたですか?」
「ここに勤めている医者で、木村といいます。」
「…ここはどこですか?」
「うーん…。教えていいのでしょうか…。」
木村は考え込んで長井はしゃべらず、部屋は静かになった。
「ここは、政府に対抗してる組織が借りてる部屋です。」
大山が部屋に入ってきた。
(…誰だ?)
「教えてよいのですか?」
木村が振り向きながら質問した。
「彼は、襲撃を2度も受けています。説明する必要があるでしょう。」
「ま、待ってくれ、ください。わ、私はこのまま。」
大山の説明を長井は遮った。
(助けてもらってなんだけど、そんな変な団体の話は聞きたくない。また泥沼にはまってしまう。)
動揺する長井に対して、大山は冷静だった。
「長井さん…。残念ですが、もうあなたは関わってしまったんです。もう、通常の社会にあなたの居場所はないんです。我々とともに行動しましょう。」
(なんでだ?俺は何も知らないのに…。)
「北山さんからどの程度まで話を聞いているんですか?」
「北山さんが何か危険なことに関わっていると。他には、何も…聞いてません。」
「?北山さんは政府に見つけられそうになり自分の家を燃やしました。一刻も早く組織に合流すべきところを、危険を冒してあなたに会ったんです。…。何も聞いていないんですか?」
途中で長井の好奇心が尽きたために、北山が組織ことを話す直前でやめたことを大山は知らない。
「はい。……何も。」
「……。そうですか。では、始めから説明しましょう。」
大山の話では、政府は流星兵器を使って各国の紛争に強引に介入し、その土地の資源を奪っている。流星兵器の機密を守るため近年政府は機密に関わった疑いのあるものを秘密裏に、あるいは濡れ衣を着せて合法的に抹殺している。この組織は政府から逃れたものが集まって作られ、その目的は政府がしてきたことを公にし、流星兵器の使用をやめさせるというもの。組織は数人の小さな集まりが各地に分散しており、定期的に、また緊急事態が起こったとき全員が一箇所に集まる。北山が亡くなった今、長井が助けられた組織には大山、林、木村の3人が所属している。組織には政府に隠れて資金や武器を供給する企業や団体が複数ある。その他細かい話は聞いてすぐに長井は忘れてしまった。
「だいだい、こんなところです。何か質問はありますか?」
「…。私はなぜ追われてるのです?」
(変な質問してるんだろうな、俺…。)
「北村さんは組織の重要人物でした…。最後に会ったのが長井さんです。おそらく、組織の機密事項を受け渡されたと考えられてしまったのでしょう。…長井さん。あなたは何をなさっていたのですか?」
(やっぱり聞かれた…。正直に話すしかないよなあ…。暇だから本を買ったら刑事もので、まねしてみた。でも途中で恐ろしくなって止めた。これだけだ…。)
長井はしばらく黙った後、正直に話した。
「……そ、そうだったんですか。でも、勘違いでも、もう政府の標的になってしまったことは事実です。我々はある程度政府の動きもつかんでいますし、長井さんにとっても我々と行動したほうが安全です。一緒に行動しましょう。」
大山は呆れた顔で話した。真剣に戦っている大山にとっては、面倒な人が来たが、追い返すわけにも行かないから連れて行くというのが正直なところだった。
(よかった。なんか半分呆れた顔してるけど、大丈夫そうだ。)
長井は安心した。
隣の部屋でこっそり話を聞いていた林 未央に、大山が長井を連れて行くと言った。
「…私は嫌。」
ここは隣の部屋、長井は先ほど大山、木村と話した目を覚ました部屋にいる。
「なあ、あの人をそのままにしておいたら、また襲撃されるぞ。」
未央の反応は大山の予想通りだった。
「…。」
未央はむすっとしたままだ。未央は昔、高校に通う普通の女子だった。幼いころに母親を亡くし、父親と2人で暮らしていた。父親は小さな工場を経営していた。後になって分かったことだが、この工場では流星兵器の部品を製作していたらしい。父親と政府の間にどのような問題が起こったのかは分からないが、いつも通り工場に向かった父親は水死体になって発見された。警察は自殺と判断したが、未央にも未央の母にも信じられなかった。未央は母親には内緒で一人で父の死について調べ、工場に注文を出していた企業を調べ始めた。しかし、数日後に警察が現れ父親殺害の容疑で、未央は連行されてしまった。その途中で抵抗組織に拾われ、政府が自分の敵であることを知り、父親の復讐を誓い、現在に至る。長井が巻き込まれ逃げようとしているのに対し、未央は今むしろ積極的であるため、長井の中途半端な態度に対して怒りを覚えていた。
大山は黙って立ち去った。




