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オルフェウスの戦士と死の筺の秘密〜VRMMOトップランカーの俺はオトナたちの戦争に巻き込まれたので世界を救う戦士になります〜  作者: 鈴木 桜
第4章 帰りたい場所

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第21話 最後の仕事


『これで最後です!』


 解除コードを守るファイア・ウォール、その最後の一枚。それを前にしても、真っ赤な背中の勢いが止まることはなかった。屋内野球場ほどの広さのある空間を半分に割るようにそびえ立つ壁に、真っ向から突っ込んだ。


「うおぉぉ!」


 真っ赤な拳が、壁に当たる。


 ──バシンッ!


 そのまま穿(つらぬ)けると思ったが、予想に反して【RED(レッド)】の拳の方が跳ね返されてしまった。


「堅いな!」


 【RED(レッド)】の拳から煙が上がっている。ダメージを受けているのだ。


「〈回復(リカバリー)〉」


 私の回復魔法で傷はすぐに消えたが、彼は数歩後ろに下がった。後衛の二人も同じように下がる。

 次の瞬間、目の前の壁がバキバキと音を立てて形を変え始めた。


「何!?」


 【リボンナイト】が叫ぶ間にも、壁の形が目まぐるしく変わっていく。壁がボコリボコリと盛り上がり、そしてさらに形を変えて……。


「ドラゴン!?」


 壁の中央に、巨大なドラゴンの胸像が現れた。その口がバキバキと音を立てながら開かれる頃には、その隣にもう1体、2体、3体……壁一面に無数のドラゴンが顔を出す。


「うわぁ、趣味わる……」


 【リボンナイト】が顔をしかめた。巨大な壁一面に並ぶドラゴンの胸像は、確かに見た目の良いものとはいえない。


「ま、『竜殺しのR』が挑むラスボスに相応しいってことだ」


 【RED(レッド)】がニヤリと笑った。


「今、2人しかいないけど」


 【リボンナイト】が茶化すと、【RED(レッド)】が大きな拳を敵に向かって掲げた。


「馬鹿言うな。……今も一緒に戦ってるだろ、【蘭丸】も、【Rabbit(ラビット)】も」

「【RED(レッド)】さんのそういうとこ、好き」


 【リボンナイト】が嬉しそうに笑う。


「来るぞ!」


 ドラゴンの顔が、一斉に私たちの方を向いた。


 ──ゴォォォ!!

 ──ドォォォォォ!!!!


 全てのドラゴンが、一斉に攻撃を開始した。青や赤に光る弾丸が私たちを襲う。もはや数を数えることなど不可能。


「伏せろ!」


 【RED(レッド)】が叫んで、拳を地面に叩きつけた。地面から火柱が立ち上り、炎の盾が形成される。


 ──ガガガガガガ!


 激しい衝撃にふらついた身体は、【リボンナイト】に支えられた。


「攻撃が緩んだら、即座に遠距離で敵のガードを割る! 一点集中よ!」


 爆音の中、叫ぶ【リボンナイト】に頷いた。


「その次は、突っ込む【RED(レッド)】さんの防御に徹する。いいわね!」

「はい!」


 敵の攻撃の勢いが、わずかに落ちる。その隙を【リボンナイト】は見逃さなかった。


「今!」


 叫ぶと同時に、【リボンナイト】が弓を引く。目にも留まらぬ速さで連射された矢は、寸分のズレもなく壁の中央に次々と命中していく。


「〈ゼウスの雷霆〉!」


 私の掌の中で、雷が生まれた。最初は小さかったそれは、バチバチと音を立てながら細長い槍のような形に成長していく。ギリシャ神話の最高神ゼウスの武器である雷霆は、その凄まじい閃光とともに世界を一撃で滅ぼしたと言い伝えられている。今の私が使える、最も攻撃力の高い魔法だ。


「撃て!」


 【RED(レッド)】の合図で、雷霆を投げた。


 ──バチィ!


(当たった!)


 【リボンナイト】が開けた僅かな穴に、命中した。


 ──バキバキ!


 壁のグラフィックに、大きな穴が空く。


 ──ギャアアァァァ!!

 

 数匹のドラゴンが断末魔の叫びを上げながら崩れていく。さらにバチバチと音を立てながら、壁にノイズが広がっていった。


「よぉし! 〈ヘパイストスの加護〉!」


 【RED(レッド)】が最後の最後に追加したバフは、炎の神であるヘパイストスの炎。永遠に燃え盛る神の炎を身に纏った【RED】の身体が、真っ赤に燃え上がった。そして、地面を焼きながら壁に向かって駆けていく。敵の攻撃も再開されるが、私と【リボンナイト】で彼に襲いかかる攻撃を撃ち落としていった。


「うおぉぉぉぉ!」


 【RED(レッド)】の雄叫びと同時に、その拳が壁に突き刺さる。


 ──バキバキバキィ!!


 今度こそ、壁を穿いた。直後、轟音と共に壁が崩壊する。ドラゴンの胸像は物言わぬ骸となり、そして消えた。


 崩れ落ちた壁の向こうに、それはあった。ガラスのケースに囲まれた大仰な台の中に収められている、一枚のメモリディスク。私が触れると、ガラスのケースはすぐに消えた。


「これが?」

「【筐体(きょうたい)】の、解除コード……!」


 【RED(レッド)】と【リボンナイト】がほっと息を吐いたが、安心するのはまだ早い。


「吉澤」

『確認します』


 すぐさま端子をつないで、データを吉澤に送信する。


『……確認できました。間違いありません。【筐体(きょうたい)】の解除コードです。いま、【Rabbit(ラビット)】さんの【筐体(きょうたい)】を……。開きました! 【Rabbit(ラビット)】さんの【筐体(きょうたい)】が、開きました!』


 音声通信の向こうから、歓声が上がる。


「よかった!」

「それじゃあ、俺たちも……」


 ──ジジジジジジ!


 【RED】の言葉は、通信に混じったノイズに遮られた。


「何!?」

「吉澤さん?」


 【リボンナイト】が呼ぶが、返事がない。


「回線が切断された?」


(来た)


 覚悟していたものが、今、来たのだ。


「何が起こってるんだ!」


 【RED(レッド)】も焦っている。


「逆探知されたのよ」


 言いながら、ポケットから『端子』を取り出した。


「逆探知?」

「私達が回線を強くしたから、ハッキングの接続元を探られたのよ」

「それってまずいんじゃ……」

「踏み台をいくつも経由しているから、本部まで到達されることはないわ。逆探知されてすぐに回線を切断したしね」


 だから通信が途切れているのだ。


「で、私達は? ログアウトはまだ?」

「回線が切れている状態では、解除コードは使えないわ」

「え!?」


 【リボンナイト】がぎょっとして【エウリュディケ】の肩を掴んだ。


「それじゃあ、私達は帰れないの!?」

「大丈夫よ。これを」


 2人に『端子』を渡す。切断されたなら、繋ぎ直せばいいだけだ。


「回線が切れたら、3分後にその『端子』を使って新たな回線を繋ぐ手はずになっているの」

「よかった……」


 【リボンナイト】が胸をなでおろす。


「【蘭丸】は?」

「拘束したとき、ポケットにその端子を入れておいた。彼も間もなく新しい回線がつながるわ」

「よかったぁ!」


 安堵した【リボンナイト】の笑顔に、私も嬉しくなった。同時に、切なさが胸を襲う。


「そういえば、さっき、【蘭丸】も【Rabbit(ラビット)】も一緒に戦ってるって言ってましたよね」


 戦いの最中、【RED(レッド)】がそう言っていたことを思い出したのだ。


「そりゃあ、そうだろう。俺たちだけで、ここまで来たわけじゃない」


 【RED(レッド)】が言うと、【リボンナイト】も頷いた。


「あの2人がいなかったら、私たちはここまで辿り着けなかった。今は一緒にいないけど、私たちはずっと一緒に戦ってるのよ」


 【RED(レッド)】が、私の肩を小突く。


「お前だって、もう俺たちの仲間だ」

「あ、でも【RED(レッド)】さん!」

「なんだよ」

「【エウリュディケ】の頭文字、Rじゃない!」

「いや、それはたまたま集まったメンバーの頭文字がRだったから【チームR】って名乗ってただけで」

「それじゃあ、新しい名前考えないと!」

「おお、そうだな。何がいい?」


 わいわいとチーム名を考え始めた2人を見ていると、胸が温かくなるのが分かった。


(これが仲間、か)


 ──ピッ。


 セットしてあったタイマーが、小さな音を立てた。2人に気づかれないように小さく画面を開くと、そこには『30』の文字。再接続まで、30秒を切った。


「……ありがとうございました」

「え?」


 お礼を言った私に、【リボンナイト】と【RED(レッド)】が首を傾げる。


「一緒に戦うことができて、嬉しかったです」

「何言ってるの? 一緒に帰るんでしょ?」

「俺達は、どうせ札付きだ。これからは、テロリストに飯食わしてもらうしかないからなぁ」

「そうよ。これからも一緒でしょ?」


 言い募る二人に、なんと言っていいのか分からない。

 巻き込んで、仕方なく協力してくれているだけだと思っていたのに。彼らは、私のことを仲間だと言ってくれた。嬉しかった。

 だから、()()()()()()だと、どうしても言い出せない。


「おい……」


 シュン。

 【RED(レッド)】が何かを言いかけると同時に、音を立てて二人のPCが消えた。彼らは、無事に現実世界に戻っていったのだ。

 ポケットから、もう一つの『端子』を取り出す。


『トモミ!』


 繋がった通信回線から声をかけてきたのは、吉澤ではない。


「そっちの状況は?」

『もって10分ってところだ』

「じゃあ、10分頑張って」

『無茶言うぜ』

「10分で、こっちもやりきるから」

『……よし。やろう』

「うん」


 私には、まだここでやらなければならない仕事が残っている。






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