つちのこうやのラブコメ (それぞれ別々にお読みいただけます)
ひそかに僕と付き合っているクラスの美少女が、イケメンから告白されて思わず「ごめん! 私、綾人(僕)と付き合ってるからだめっ」と言っちゃったんだけど、イケメンがめちゃくちゃ驚いてて草
僕は不安だった。
なぜ不安なのかといえば、ひそかに付き合っている僕の彼女の夏実が、クラスの中でもイケメンキャラとして生きている、直輝に呼び出されたからである。
これはおそらく告白なのではないか。
夏実が……直輝に告白されたら、いやなんか心配だぞ。
僕は基本自信がないのだ。
自信がないからこそ、地味なことばかりしているわけだけど、そんな中、この前の文化祭で遅くまでコツコツクラスの出し物の準備をしていたら、一緒にコツコツ作業していた文化祭委員の夏実に告白されてしまった。
そういうわけで、地味なことをすることで自信を持ってもいいんだな、とは思えるようになったものの、流石に直輝と比べると……自信はない。
だってやはりイケメンだし、謙虚で、いい人なのだ。文化祭はサッカー部の試合が近くてあまり作業出来なかったってだけで、基本的に真面目でコツコツやるタイプだ。
あ、これ改めて思うけど、やばい気がする。
僕は夏実についていくことにした。
なんかすんげー小さな心の彼氏でダサいけど、でもそうしてしまう。だって心配なんだから。
ついて行ったらたどり着いたのは、校内で一番売れない自動販売機の横。
人が少なく、告白によく使われるスポットだ。
そこで直輝は、夏実と向かいあった。
うん。これは間違いなく……告白するに違いないぞ。
僕はとことん覚悟した。
「俺、夏実のこと、好きです」
ほら。やはり。
僕が予想できてたんだから、夏実も予想できてたはず。
だけど夏実は、とても驚いたようにふるまっていた。
そして、
「あ、ごめん! 私、綾人と付き合ってるからだめっ」
と返す。
いや……これは僕が驚くわ。
夏実は僕と付き合ってることを、あんまり周りに言ってないからだ。僕も言ってない。
なのに普通に言っちゃってるじゃん。
だけど僕よりダントツ驚いているのは、直輝だった。まあそれはそう。
だってクラスでの僕の立場は、夏実と一年に一回くらいは話すのかな? っていう立場。
「え、え、なんか俺を断るための嘘とかじゃなくて……ほんとに綾人と付き合ってるの?」
「……うん」
「そうなのか……」
驚きすぎて、脚が軟体動物みたいになってるよ直輝。脚に骨入ってないみたいに見える。
いやでも無理はないよなあ。ショックというかね。なのに謙虚で最高なイケメンな直輝は、
「なら仕方ないな。ごめんな。呼び出して」
そう言って去って行った。
潔すぎる。
しかしなんというか、ほっとしてしまった。
自信がないくせにわがままだなあと思う。
そんな僕は、夏実にバレないように、教室に戻った。
その日の放課後。夏実はあわあわしながら僕の家に来た。
「やばい。直輝くんに、綾人と付き合ってること言っちゃった」
「おお」
知ってるけど初耳のふりをしようとする僕。とりあえず「おお」しか言えなかった。
「あーなんか噂されたりしたらやだなあ」
「そういうの苦手だもんな」
「うん。なんかね、色々とうわさされるのほんとに苦手。だけど私結構色々とうわさされてるし、告白とかもされてるの。あ、告白はもちろん全部すぐに断ってるよ」
「そうなのか」
告白も今回だけではないんだな。さすがモテるなあ。
「なんで私注目されるのかなあ。しっかりしてて文化祭委員してるからとか、可愛いとか、あと胸が大きいとか、そこら辺なのかね」
「まあそこらへん全部な気がするね……」
「まあそうだよねー」
そう言って伸びをする夏実。
あれだ。根本的に僕と違う。
「夏実って結構自信あるよな」
「あ、そう? あ、それは自分のこと可愛いとか思ってるところらへん?」
「まあ、そうだね」
余裕そうな夏実なんだけど、ちょっと笑って、目をほそめてきた。
僕はわかる。こういう時、なんかちょっとして欲しいことがあるんだ、夏実は。
「どうした?」
「あのさ、綾人っていっつも割と自信なさげじゃん」
「そうかも。でも最近、夏実が褒めてくれるから、ちょっと自信出てきた」
「それ、それのことよ」
「それ?」
ああ。つまり、夏実が自信があるのは……僕が何か言ってるから……なわけないか。だってあんまり言ってないんだもん。
そうだよな。つまり。
「大丈夫。僕はね、夏実がすごく可愛いと、思ってる」
「あ、ありがとう……」
当たりだ。当たりだから、夏実は嬉しそうだ。
にこにこしてさらに可愛くなってしまっている。
「あのね、綾人から言われるといちばん嬉しくなっちゃうの」
そう照れながら言う夏実を見て、僕は、自信を心から持てるくらいの彼氏になんなきゃな、と思う。
そしてそれで夏実にも、改めてかっこいいって言ってもらうんだ。
でもその前に、
「よし、可愛い夏実と一緒に宿題片付けないとな」
「また可愛いって言われたよお……ばかばか。大盤振る舞いすぎだってば〜」
もっと嬉しそうな顔をして、脚だけでなくて腕も軟体動物化している夏実。
その夏実の手を引いて、僕はリビングに向かった。
僕の家のリビングは、二人でいつも宿題をやる場所なのである。
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