90:ジェノサイド
メメメスが両目をぎゅっと閉じて、金属の鋭い爪をもつ手を振り上げた。ああ、最後くらい私のこと見てほしかったな……いや、やっぱりいいや。だってそんなこと私もできないから。いいよ、閉じたままで。
「あらぁソドム、そんなに簡単に死を選んじゃうなんてぇ、精神汚染進みすぎですねぇ。メメメスもそんなのにつきあったらダメですよぉ」
「ラヴちゃん!」
「人は大きな力の前では、仕方ないって安易に決断しちゃいますからねぇ。まるで逃げるように」
ラヴちゃん、まさか私達を助けに! でも、相手は――――。
「嗜虐の天使リューリーですかぁ。白髪に赤目、そのアルビノチックな見た目も、ロリチックなスタイルも全部作り物ですよねぇ!」
「おまえはなんだ! リューリーちゃんの何を知ってる!」
「ラヴちゃん危ないよ! そいつはSリーグ――――」
「あははは、二人とも勉強不足ですねぇ。ゴモラ69のラヴクラインはSリーグ選手だって、知らないんですかぁ?」
ゴモラ69のラヴクラ……え、ラ、ラヴちゃんが?
「殴り合いしますかぁ? 私は強いですよぉ?」
「お、おまえもしかして……」
「はい、私がぁ虐殺の愛ラヴクライン69ですぅ! あはは、だっさい二つ名ですねぇ! もうちょっとマシなのつけてほしいですぅ!」
じわじわと距離を詰めていく二人。はぁ……だめだ、もう…………立ってられない。
「ソドム!」
「ありがと、メメメス」
「……こちらこそ、ありがとう」
私が倒れきらなかったのは、メメメスが抱きとめてくれたから。
「はぁ、なんか素に戻るな……強すぎてエグいぜ」
「うん、ラヴちゃんヤバイね……」
幼いリューリーを殴る蹴る。為す術もない相手を壁に叩きつけ、踏みつけ、投げ飛ばす。そんな一方的すぎる戦いを見ているのは私達だけ。そりゃそうだよね、こんなのみんな逃げてくにきまってる。叩きつけた壁とか……壊れすぎだもん。ラヴちゃんの強さは異常だよ。(あれだけされて立ち上がるリューリーも異常だけど。)
「リューリーさぁん、死にたくなければ渡してくださいよぉ。二人分」
「うう……もうやめてほしいのだ」
リューリーが出した小さな機械二つ。きっとあれはSリーグ選手になる時にとりつけられるなにかだ……なぜかそう確信した。
「じゃあ、オリジナルによろしくですぅ」
「おぼえてろなのだ!」
白い髪を血に染めて逃げていくリューリー……やられっぱなしだったけど、多分あの子もえげつないくらい強いんだろうなぁ。
「さて、残念なお知らせと良いお知らせがありますぅ」
ラヴちゃんはほとんど傷を負っていなかった。
「えっと……」
「じゃあ残念なお知らせから! メメメス、リドルゴは生き返りませんよぉ。ゴモラ67の一般市民はバックアップもなにもないただの市民。死んだら終わりですぅ」
「そっか……」
メメメスは悲しそうで安心した顔をした。
「そしてぇ、二人はSリーグに上がらなくて大丈夫ですぅ! これができましたからぁ!」
ラヴちゃんが私に渡そうとしたのは真っ赤な液体の入った――――なんか科学的な見た目の小さな瓶。(両腕がないから受け取れない。)




