89:暴力
一瞬の勝利に会場は静まり返り、その後しばらくして阿鼻叫喚の地獄となった。
「きゃはははは! おっもしろいのだ!」
突然現れた小さな女の子。私も小さいけど……私なんかよりもずっと小さい……なのに、この圧力は…………!
「Sリーグ選手のリューリーちゃんなのだ! 以後お見知りおきをー!」
やっぱりSリーグ選手……なんで? なんで、こんなとこに……。
「今日はSリーグ開催じゃないから安心するのだ! リューリーちゃんはSリーグ入りする二人をお祝いに来ただけなのだ!」
そんなこと言いながら今、何人殺したの? 観客をその小さな手で簡単に壊して……あれ、観客だけじゃない? 武器持って向かってた人たちまで簡単に……うう、ヤバイ、頭が動かない! なんであんなに簡単に分け隔てなく殺せるの? 相手の強さとか関係ないくらいに強いの? まさか、スカーレットより……。
「おい、ソドム……やべぇぜ! 逃げるぞ!」
「あ……うん。うん、そうだよね」
ありがとうメメメス、声かけてくれて。メメメスはやっぱり強いね。
「あー逃げていいのか? Sリーグ選手になればリドルゴとかいうやつは生き返るのに! お願いすればそんなこと簡単なのに! もったいないのだー!」
「え……」
「たーだーしー! Sリーグに行けるのは二人のうち一人なのだ! なぜならおまえら二人でタイマンはって負けたほうをリューリーちゃんがぶっ殺しちゃうからなのだ! さぁ! 戦うのだ! 戦わないと二人ともぶっ殺すのだ!」
メメメス……。そんな目で私を見ない……いや、見るよね。だってリドルゴさんが生き返るんだもんね。
「ソドム、すまねぇ」
「うん、いいよ。だってさ、大切な人でしょ?」
今あまり語ったらダメだ。ダメなんだ。
「すまねぇ、ソドム、すまねぇ」
そっとメメメスの新しい手が私の喉に触れた。金属製だから、冷たいね。
「うひひ、メメメス。そんなゆっくりじゃ、いくら腕なしの私だからって蹴飛ばせちゃうよ?」
「すまねぇ……」
「お願いメメメス、私を倒したらラヴちゃんたちと一緒に……博士を助ける方法を探して」
「今こんな事言うと綺麗事になっちまうが、私は、おまえが博士を救った後は……おまえをSリーグに出場させないでくれと願うつもりだったんだ」
それ、返事になってないよ。ほら、落ち着いて。
「うん、ありがとうメメメス。でも気にしないで。今、ここを二人で切り抜ける方法はない。逆らえば二人とも殺される。だから、だから、悔しくて悲しいけど私達の想いをつなげるには、この方法しかないんだよ。だから私に勝って、博士を助ける方法を探すって約束して」
「…………………………………………わかった」
泣かないでよ、メメメス。
「きゃはー! きゃはー! これは面白いのだ! 二人ともキメキメすぎなのだ! ドラマチックなのだー!」
Sリーグ選手はコード404で守られている。だから私達ではどうしようもできない。下手に逆らって二人とも殺されるより……。
「ソドム、負けを宣言してくれ……」
「だめなのだ! ちゃんと勝者は敗者を殺すのだ! リューリーちゃんはそれが見たいのだ!」
さっきは負けたほうをぶっ殺すって言ってたくせに、めちゃくちゃだ。はぁ……。
「いいよ、メメメスお願い」
「できねぇ……」
「いいから! あんなやつに殺されるよりよっぽど――!」
「できねぇよ……そんな簡単に、死を受け入れるなよ」
だってねメメメス、私が生き残れば博士だけが助かる。でもメメメスが、メメメスが生き残ればリドルゴさんも助かって、博士が助かる可能性……は少し……だけ……少しだけでも残るでしょ? ラヴちゃんもいる、狂姫さんもいる。だから、なんとかなるって、自信をもってよ!
「メメメス」
「無理だ……お前を殺すなん――――」
「私を殺してよメメメス! 私は怖くないから」
「怖くないなんて……おまえ全然そんな顔してねぇじゃねぇか!」
お願い、私が生きたいと、生きたいと叫ぶ前に! お願い! こんな覚悟なんて、決まっちゃったときしか決めれないんだから! はやく……。はやく…………ねぇ、博士……どうしたらいいの?




