87:クロイキョウキ
私が見せられた映像は、今起きていることなのか、それとも少し前のものなのか。ただ確実にわかるのは、これは、私があの街を出た後のこと――――。
「ゴモラ67ではSリーグ開催後、人間判定通過者に対する恨みが爆発、このようなことになりました。完全な逆恨みですね」
「なんで! 博士も狂姫さんも街を守ったじゃない!」
「それが逆恨みです」
ボロボロになった博士と私の家。そして壁を背に守られるように眠っている博士と……家よりボロボロな姿で立つ真っ黒な髪の狂姫さん。周りに倒れている人数は多い……これだけの人数を一人で……。
「決勝戦が延期になったことを含めると……ラヴちゃんの計算では、ギリギリもつだろうとのことです」
「そんな……私のせいで」
私が怪我しなければ。いや、そんなことじゃない。延期になった時点で、どうして私は二人のことを心配しなかったのか!
「私、勝つ……殺してでも」
「はい、お願いします」
泣いても、喚いてもダメだ。気持ちを研ぎ澄まして、勝つんだ。
「狂姫さん……私、勝って帰るから。あと少し、お願いします」
狂姫さんは、次の敵に備えているのだろうか。(映像の中に動いている人は見当たらないけど、全く気を抜いていない。)
「では、今度はこちらの映像を」
「これは……」
「同じ人物が数日前、複数の人間に襲撃された時の映像です。決勝戦の相手は双子、リングに上がってくるのが一人だとしても、参考になるでしょう」
「二人を相手にするつもりで戦えってことだね」
「はい」
狂姫さんの戦い方は、とても丁寧だった。ダメージを最小限に抑え、博士を守る。
「あ!」
「今のは、一人なら喰らわなくて済んだ攻撃ですね。タッグマッチは相棒を尊重しようとした結果、負けることもある。よく覚えておいてください」
「…………」
こみ上げる感情、だめだ。今私は感情的になったらいけない。参考に、参考にするんだ。狂姫さんの戦い方を。
「博士……」
博士が目覚め、銃を取り出して撃つ。手が震えてる……だいぶつらそう……。(博士はもっと軽々と銃を撃つはず。)
「参考になりますか?」
「うん……うん」
涙でくもらないように、すぐ拭え私。これは博士と狂姫さんが命がけで私に、戦い方を教えてくれているのだから。
「この話を後出しするのはちょっと意地が悪い気もしますが……先日ゴモラ67にソドム-B、C、F、Jが救援に向かいました。それなりの手練なので、延命くらいはできるでしょう」
「え……」
「ああ、誰がB、C、F、Jなのかわからないことは気にしないでください。ソドム-Y、今あなたこそがこの街のソドムなのですから」
もう泣くのはやめにしよう。決勝戦まで、強い心をしっかり持とう。




