86:レギュレーション
ラヴちゃんは研究室に一人だった。
「あーちょうどいいタイミングでしたぁ」
椅子代わりの便器から立ち上がり、ズボンをあげる。なにがちょうどいいタイミングだったんだろう……。
「レギュレーション違反にならない程度の改造、難しいですねぇ」
「違反にならないようにするのが難しいの?」
「いいえ、今度の試合はレギュレーション違反だと思われたら反則負けにされちゃうんですけどね、困ったことにレギュレーションは発表されてないんですよぉ。まったく、悪趣味ですねぇ」
つまりラヴちゃんはこれから予測で、私を改造――――。
「相手も改造してくるでしょうからねぇ、違反を気にして改造しすぎないのも問題。でも改造しすぎると反則負けになる」
いつになく、真剣な表情。
「ま、全力で考えますかぁ。もし私のせいで負けになったら、私を殺していいですよぉ?」
「ありがとう」
私はありがとうと言うしかなかった。それだけの自信を見せてくれたラヴちゃんに対して。
「大丈夫ですよぉ、私は天才ですからぁ」
「うん、よろしくね」
ベッドに上がり、天井を見る。ああ、博士もこうやって私の体を……作ってくれたのかな。
目がさめた時、ラヴちゃんはいなかった。代わりにエッちゃんが紅茶を差し出してくれた。
「麻酔、ずいぶんと効いてましたね、夢は見ました?」
「ううん、見なかった」
ぐっすり、本当にぐっすり眠った。なんだか疲れが全部取れた気がする。
「改造については当日、試合直前に教えるそうです。そのほうが、性格的に上手く使えるかと」
「……うん、よくわかんないけどそれで大丈夫だよ」
「ラヴちゃんを信頼してくれてありがとうございます。ソドム-Y」
そっか、私にとって博士が大切な人であることと同じように――――――。
「では、勉強しましょう」
「なんの?」
「相手に勝つ方法です。決勝戦ですから、相当な戦いになると覚悟してください」
そっか、確かにそうだよね。むしろ私、今までなんで相手を研究しなかったんだろう。
「決勝戦の相手は、双子のラリアとルリアです。交代のタイミングも完璧、そして個々での戦闘力も抜群。決勝戦まですべての相手を殺害して上がってきています」
「全部……」
「はい、全て。ダウンを狙うのではなく殺害を目的とした攻撃が主体ですから、ソドム-Y、この戦いは多分あなたにかかってます」
どういう、ことだろう?
「こんな事言いたくありませんが、メメメスは殺すべき相手を殺せる人物です。ただあなたは、感情的に相手を殺してしまうことはあっても、殺すという判断を冷静に選択できません」
「……言われてみると、そうだね」
「加えて精神汚染の影響で、ナノマシンの動作が不安定。攻撃力が高まっていますが、治癒力が落ちています」
つまり今までのような戦いはできないってこと?
「考えて戦わないとね……」
「はい。と言いたいところですが、あなたはそこまで戦闘知能指数が高くありません。それに付け焼き刃では結果は出ないでしょう」
「う……」
たしかに私、力任せというか強引な所あるもんなぁ……。
「だから……こんなものを見せるのは気が引けますが……今一度あなたが戦わなければならない理由を思い出してください」
え、私が戦うのは博士のためだよ? ってなに? ビデオ?




