84:I HATE ぶっ壊せ
また会ったわね。と、私に言ったのは、アリス。そして、それを聞いたのは、私。ああ、これは……夢か。(だってアリスを夢で見るのは初めてじゃないから。)
「あなたはもう目覚めないわ」
「え……」
確か私は、お腹を派手にやられて……そうだ――!
「メメメスは? メメメスは大丈夫なの?」
「知らないわ。あの子は赤ずきんの世界にでも行ってるのじゃないかしら?」
「…………」
私はそこで目覚めた。もう目覚めないと言われたのに。
「痛たた……」
「あらぁ、おはようございますぅ!」
「ラヴちゃん……メメメスは?」
「うーん」
まさか……。
「ああ、大丈夫ですよぉ! 私と適合したのでぇ、私の交換用の内臓をあてましたぁ! まぁ動けるようになるまでは少し時間かかりそうですがぁ!」
「そっか……よかった……」
「あなたは自動で治っちゃうのでぇ、私のじゃなくて元のままですぅ」
まだ痛むお腹。でも私達は、生き残った。
「……ラヴちゃん……メメメスが……目覚めました……」
「あらぁ、早かったですねぇ! いいですねぇ! さすが私の処置ですねぇ!」
コロコロ車輪の音。ベッドに横になったままだと姿が見えないから……ソドム-Aかな。
「ああ、まだ寝ててくださいねぇ。あなたもメメメスももう少し安静にする必要がありますのでぇ。鎮痛麻酔もまだ残ってるから眠いと思いますしぃ」
「うん……ありがとう……」
確かに眠い――――。
「あら?また会ったわね」
「アリス? あれ、また夢見てるの私?」
「あなた、アリスの穴が本当に夢の世界だと思っているの?」
んんん……確かそういうお話じゃなかったっけ。
「それにしてもこれ、リボンにするには最低だわ」
「な……なにそれ」
「あなたの腸よ」
え……。
「うあああ!」
「腕を切断されて足を無くし、それなのにこんなことでびっくりするのかしら?」
私のお腹から……腸が出て――でも痛くない。もしかして……夢だから?
「まぁ、その先にあるのは自分の消失かもしれないものね。ねぇソドム、あなたの戦う意志は本物かしら?」
「本物だよ」
私は立ち上がり、腸を引きちぎる。ほら、やっぱり痛くない。
「そう。なら壊れそうになったら、自分の戦う意志を信じればいいわ。少なくともあなたはそこであれば生きていられる」
「…………」
あれ、腸は落ちてるのにお腹の傷がふさがってる。(これが夢の世界なのかな。不思議だな、あ、腸が蛇になってどっか行った……。不思議だな。)
「ねぇアリス」
「なにかしら?」
「戦わないですむ人たちっているのかな」
「いるわよ。人は平等ではないもの。それに、戦わなきゃ生きていけないなんていうのは、戦わないと生きていけない人たちの勝手な理屈だわ」
そっか。世界ってそういうものなのか。
「うひひ。なんかさ、どうでもいいね。そんなこと」
うん、どうでもいい。だって私は世界なんて変えられないし、世界には私と会わない人のほうが多い。そんなこと考える暇あったら私は――――。
「鈍感なる強者は愚者になりうる。だがそれでも、おまえが進むことを望むのなら――――私のところに帰ってきたまえ」
「え」
アリスの口から、博士の声が聞こえた。




