83:シンプルな選択
ごめんね――――ごめんね、博士。なにか助ける方法探すから。ごめんね。
『ソドム-Yがリングにあがるかぁああああ! 反則負けを覚悟して友のために! 友を! 友を救うのかぁああああ!』
きっとこの実況をしてる人は、友達がなにかわかってない。
「今助けに行くよ!」
「ソドムっ……この、馬鹿野郎!」
切れ味。うん、リバティの剣はとても切れ味が良いんだね。だからメメメスは、自分から動いて、その剣から逃れることができた――――。
「…………!」
誰も声をあげない。あげれない。リバティを思いっきり蹴飛ばして体を動かして、お腹が裂けて剣から脱出したメメメスの姿に。
「ソドム! タッチだ!」
リバティですら、驚いてリングに突き刺した剣を抜けない。そしてメメメスは、こぼれるお腹の中身をおさえる前に……切り落とされた自分の腕を拾い私に投げた。ニヤリと私に笑いかけながら。
「たのん……だぜ」
「まかせて!」
パンッ。私のつながっている金属の手と、つながってないメメメスの手のタッチ。行け、私。メメメスを死なせないためには私が勝つしかない!
「ああああああああああああああああああああああああ!」
大声で叫びリバティに飛びかかった時、私の世界はモノクロから戻りカラーになった。でも拳に込められた力は……いつもより。
「ぐっううううう……こんなの痛くなんかないんだからぁ!」
お腹を刺されるって痛いね。でも私は治るから大丈夫。
『剣を避ける気はないのかソドム-Yっ! 腹にぶっ刺されたままリバティの口に拳をぶちこん……あっ……そのまま顎を引きちぎったぁああああああああああああああああああああ!』
敵意、恨み。そういうのじゃない。なんだかおかしな話だけど、私達はここに戦うために立ってるから。酷いことになっちゃう時もあるのは仕方ないから。だからこの選択に、悪意はない。ただ、早く、確実に相手を倒すため。メメメスを助けるため。そのためのシンプルな選択。
『ソドム-Yっ腹がえぐれてるぞぉ! 中身が見えてるぞぉ!』
そりゃそうだよ。刺されたままの距離で殴ってるんだから。リバティさんだって暴れるし。それに……お腹はメメメスのほうが大変なことになってるでしょ?
『暴力! まさに暴力の化身! ソドム-Yは痛みを感じないのかぁぁああああああ! そしてっ! そしてドクターストップ! ソドム-Y! メメメス! 両者内臓をはみ出させての異常なっ、異常なっ……な、なんだこれ……なんなんだこれは……急げ……急げ! この二人を死なせちゃいけねぇええええ! 早く! 早く!』
はは、なにそれ。まさかこんなのがいい試合だったとでも言うつもりなの? こんな試合が? でもさ、一応、リバティさんいれて三人を死なせちゃいけないって言ってあげれば? あなたは公平な実況者なんだからさ。
「殺してやる……!」
その時聞こえた声は、リバティさんの相方の声。私は知らなかった…………この時気がつける状態じゃなかった……今、リバティさんが死んだと判断されたこと。




