80:戦士の血液
リングの上に立つまでの記憶が曖昧なのは、私の調子のせいか。それとも――――。
バキン、バキンと私の肋骨が(多分)二本折れ、ゴキンと相手の顎の骨を私の拳が砕い――いや、砕ききれてない!
『凄まじい猛攻だぁあああ! 三回戦に一人出場した相棒に代わり、準々決勝に一人で臨んだソドム-Y! 一歩も引かないファイトスタイルに会場大興奮だぁああああああああああ!』
ソドム-Y!
ソドム-Y!
ソドム-Y!
ソドム-Y!
ソドム-Y!
ソドム-Y!
ソドム-Y!
ソドム-Y!
みんなが私の名前を呼ぶ。でもごめん、それどっちでもいいや……私はもっと強い応援をもらってるから!
「メメメス……! 私、必ず勝つから!」
メメメスは前回、一人で戦った。そのせいで今日は戦えない状態になった。ラヴちゃんが「大丈夫」と言っているのは信じてる。だからきっと、メメメスが何度も何度も吐いて頭痛に苦しんでいるのは大丈夫の範囲内なはず。でも、メメメスは――そうなることをわかって、一人で、一人で行った! だから今日私は負けない! 絶対に!
「痛くなんてない!」
殴られた時は、一歩前に出ろ。拳がぶつかる前に、一歩前に出ろ。怖がらず、一歩前に出ろ! そうすればダメージも減る! 相手も怯……はぁ、さすが準決勝まで来た選手、その程度じゃ怯まないね。
『おおっと! ここで交代だぁ! 二人を一人で相手にするソドム-Yの体力は大丈夫かぁ!』
実況で私の名前がこんなに呼ばれることって、今までなかったな。声援だって、こんなになかった……。
「来た!」
視界がモノクロになる。来た、ナノマシンのセカンドステージ。ようやく……。(なかなかこうなれなかったのは、なぜ? ナノマシンが不安定? それとも私の心が不安定だから?)
「ああ! 消えろ!」
消えろ、私の中の雑念。行け、限界をこえて!
『高い位置の顔面にクリーンヒットォ! ソドム-Yが小さな拳でっ! 交代後一撃も打たせずっ! 大きな相手をマットに沈めたぁあああああああ!』
「はぁっ! はぁっ!」
体の中がビリビリする。血が、沸騰してるみたいだ。
『そして……沈黙! 完全に沈黙! ソドム-Y大勝利! 準決勝進出決定だぁああああああああああああああああああああああああああ!』
あ、そっか。今日は準決勝じゃなくて準々決勝か……。あと、あと二回? 二回かな? 戦う……のは……。




