79:私って愛されてたんだという認識は唐突に、それともずっと
博士が人間判定を通っていながら、人間の作った工業製品の名前を口にしなかったこと。あんなにカメラが好きなのに、その名前を一切口にしなかったこと。きっと……言葉にしたかったはず……これはどこのものでなんていう製品なのか語りたかったはず。でも、でも言わなかったのは――――。
「私って愛されてたんだ」
メメメスの試合は終わった。ラヴちゃんの言う通り勝利で。そして私はメメメスの帰りを待つ。ラヴちゃんと、部屋で。(エッちゃんが迎えに行ってる。)
「私もぉ、意外とカメラ好きなんですぅ」
「そうなの? そんな話一回も……」
「一応、遠慮してたんですよぉ。思い出しちゃうかなって」
ラヴちゃんは手にカメラを一台(博士のものではない)持って、触りながら私と話す。
「ただぁ私はカメラを集めることに興味はありません。私は撮影が好きなんですぅ、だから必要な機材があればそれで」
「うわ!」
「ストロボって眩しいですよねぇ」
今、私の写真を撮った……?
「カメラとのつきあい方も人それぞれですねぇ。でもカメラをたくさん集めてるからって一個一個に対する愛が薄いわけでもないことは、ソドム-Yはよく知ってますよねぇ?」
確かに、博士はたくさんカメラを持ってたけど……一台一台凄く大切にしていた。本当に、すごく大切に……。
「私みたいに、必要なものだけあればよいと言いつつ撮影が上手くない場合もある。そうそう、私写真下手なんですよぉ。そしてそんなこと言いながら、本当は必要なものを知らないだけの可能性もある。でも新しい機材を知ったことで写真の撮り方が迷うこともある。ま、いわゆる人それぞれってものは、人という要素以外でも左右されるということですぅ」
「うん……。簡単に決められないんだね、いろんなことって」
「はい。いろんなこともそうですし、一個のことも簡単に決まらないことは多々ありますねぇ。でもそれは、決して悪いことではない。でも悪いことになることもある。大事なのは点で決まる時も面で決まる時も……ん?」
ラヴちゃんはそこまで言って首を傾げた。
「いやぁ、私の説明って分かりにくいなぁと思いましてぇ」
「…………」
「まぁ、私が理解できることってソドム-Yみたいなお馬鹿さんでは理解できないことが多いですからねぇ。でも、私もソドム-Yを全て理解できない。まぁ、そういうのって悪くないですぅ。それってまるで――」
「友達?」
思わずそう言ったあと、すごく恥ずかしくなった。
「ええ、そうですねぇ。友達。友達。ええ、ええ。きっとそうですねぇ」
ラヴちゃんはいつもより、落ち着いたような、ちょっとゆっくりしたような声でそう言った。




