68:揺れながら立つ
『ルアンダウン! メメメスの痛烈カウンターが見事に決まったぁあああああああああ!』
観客達が立ち上がる。そしてメメメスが私の方に戻ってきて……あれ? か……勝った?
「メメメス……」
「ったく、少しは信じてくれよ。今回の試合はな、おまえに負けた試合を参考にしてダメージくらってるふりを……」
「そうじゃなくて……」
「ん? ああ、しぶといやつだな」
揺れながら立ちあがるルアンに、メメメスは一気に近づいて――――。
『メメメス、ふらつくルアンに容赦ない一撃ぃいいいい! ルアンガードできずうううううう!』
ガードもできない相手に叩き込む、拳。マットに叩きつけられた、ルアン。
『……これは、これは……アウトか! ルアン、アウトか!』
急いでリングにあがる、白衣の人。ルアンの瞳を指で開いて見て両手をバツにする。
『ルアンダウン! 完全ダウン! 勝者メメメス! 勝者DEATH・GIRL・DEATHだぁああああああ!』
か、勝った……。
『さぁ、勝利の言葉を聞かせてくれ!』
マイクを受け取ったメメメスは、大きく深呼吸をした。
「初戦からこんなこと言うのはちょっと湿っぽいかもしれねぇけどよ……失った傷ってのは目に見える場所についてるとは限らねぇんだ。どれだけ形のあるもので補ったって、心の中はどうしようもねぇ。もし、傷ついたぶん人が強くなる生き物なのなら、おまえらが負けた理由は傷を自慢して、痛みを忘れちまったからだぜ」
会場を包む拍手。そして私は――――また泣いた。
控室。
私はメメメスに何度もごめんねと言う。メメメスが「気にしてない、大丈夫だ」と言い続けているのに。
「いててて、あいつわりと強かったぜ。でも私のほうが強かっただろ?」
「うん……うん」
きっとルアンたちが笑っていたのは、メメメスのことなんて何も考えず、ただただ代われと喚いていた私の醜い姿だ。
「ううあああ、ごめんねメメメス、ごえんえ」
ああ情けない、なんでこんな赤ちゃんみたいに泣いちゃうんだ私。(赤ちゃんの時のことなんて覚えてないけれど。)
「大丈夫だ、大丈夫だソドム」
「そうですよぉ大丈夫ですぅ。あれ? あれあれあれ? 早速掲示板に『最高に熱い選手メメメスちゃんの相方が最低で草wwwwww』とか書かれてますねぇ!」
控室にはラヴちゃんもいるのに、私は大泣きだ。
「ラヴちゃん、あんまりソドムをいじめないでくれよ」
「あら、メメメス言いますねぇ! 強くなりましたねぇ! 頼りがいがありますぅ」
博士は一回も控室に入れてもらえなかったのに、ラヴちゃんは入れる。(やっぱりここは、私達の街じゃないってこと。)
「でもぉ、次の試合はメメメスちゃんおやすみでぇ」
「なんでだよ」
「あなたのクロックアップは強すぎて、使いすぎると脳を痛める危険がありますから。全く誰がこんなことしたんでしょうねぇ、いくらなんでもやりすぎですねぇ」
「博士だよ! あの時私達はスカーレットと戦った――だから!」
あれ、私なんでラヴちゃんに殴りかかっちゃったんだろ。ああ、博士のことを悪く言われたから……か……。
「ソドム-Y、私は強いって言いましたよねぇ?」
「……うん」
「今もこうしてあなたの拳を受け止めてる。まぁあなたのこれはとても良い金属なんで、握りつぶすまではできないですがぁ。でも、おしおきはちゃんと、しますよぉ。この、狂犬っ!」
「あぐぁ」
なにこれ……重い……。
「脇腹パーンチ! あーあ。せっかくメメメスががんばってくれたおかげで殴られずに終われたのに残念でしたねぇ。さてメメメス、ソドムちゃんを抱っこしてあげてください? 帰りますよぉ」
私の視界はまた、モノクロになっていた。




