60:X
ソドム-X。その子は丁寧なお辞儀をしながらそう名乗った。
「あなたがきたせいで、私は選手からメイドに格下げになりました。不本意です」
「そ、そう」
謝ったらダメだ。本能がそう告げる。
「あなたは私より、強いですか?」
「どうだろうね。でも、夜中だしやめようよ」
背筋が凍る。嫌な感じ、多分この子、強い。
「最初に教えておきますね。私の暴力は、性欲です」
「ぐぁ!」
ちょっ! 腕を狙ってきた……なんで!
「あなたの腕、別のゴモラシティのラヴクラインが作ったらしいですね。私のラヴクラインの作った腕とどちらが優秀でしょうか?」
「……ちょっと、ちょっと、ねぇやめよって……!」
金属がぶつかる派手な音。この人の腕も……金属!
「反撃、反撃しましたね? 悪くないですね。たぎります」
ダメだこの人、いろいろダメなタイプだ。さすがラヴちゃんの……はぁ、やるしかないか。
「え」
広い吹き抜けをぐるりと囲む、二階、三階、四階の廊下。その手すりの間を埋めるようにずらりと並ぶのは……私と同じ顔、顔、顔、顔、顔。
「お……多すぎない?」
「よそみしましたね」
え? この人、強すぎない? 倒されたことに気がつけなかったんだけど。
「ソドム-Y、あなたは私から戦いを奪いました」
「いや、そんなつもりはないけど」
「だからあなたこそ私の戦いなのです!」
マウントとりながら超理論!
「うがっ!」
「再生が追いつかないくらい壊してあげま――――!」
「はぁっ、はぁっ、なめないでほしいな。私これでも、結構戦ってきたんだから」
「躊躇せず肋骨を折りにきましたね? いいですね、気持ちいいです! さて、そういうヤンチャなタイプには……」
えー、ちょっとまってソドム-Xさん。どうしてそんなに後ろ下がっちゃったの? っていうかなんでいきなりケーキ食べてるの? ていうかポケットからケーキ出すってどういうことなの……。(うわぁ、ぐちゃぐちゃだよ……。)
「絶望しなさい。不思議の国のアリス症候群」
「え、え、えええええええええええええええええええ!」
なになになになに! ソドム-Xがどんどん大きく……。 え、ええええ頭四階にあるよ! 巨人! あっという間に巨人! ケーキの栄養価高すぎでしょ!
「うわぁあああ!」
踏みつけられたら潰れる! 潰れる!
「あ……」
速っ……蹴られ……た……。
「あ、ああ、あ……あ」
やばい視界がモノクロ……動けない。体の中がグチャグチャだ。
「うぐうううううっ!」
痛みに耐えて起き上がれ私、死にたくなければ起き上がれ! 起き上がれ! 起き上がれ私! よしっ! いける、私ならいける!
「し~ぶ~と~い~で~す~ね~」
デカイからって太い声で喋るな! お腹の中がビリビリするよ!
「ま~て~」
うわうわうわ! お屋敷壊れてるって! 壊される前に、壊される前に階段を駆け上がれ私! ああ、もうなんなのこの命がけのアトラクション! 寝起きにやることじゃないよ!
「はぁっ! はぁっ! うわっ! 反則だって!」
手デカ! っていうか一撃強っ! 廊下壊れ……あああ! とにかく、とにかく走れ! 走れ私!
「に~げ~る~な~」
「ああ! もう!」
一か八か。
「あああああああああああああああ!」
うおおおとか、かっこよく叫んでいられない。だって今私は、巨大なソドム-Xの腕の上に飛び乗って全力で駆け上がってるんだよ? 顔面めがけて。
「こ~の~は~え~が~」
「あああああああああああああああああああああ――――――あっ!」
ヤバイ……やられ……た……。




