59:世界を終わらせたいという意思
世界を終わらせたいという意思の数が、生存したいという意思の数を上回った時この世界は終わるのかもしれない。そんな事を言ったのは、夢の中の誰だっけ? 私にとって最大の暴力は私自身だって、鏡に向かって言ってたのは一回目覚めてもう一回見た夢のほうだっけ?
「…………だる」
メメメスはまだ寝てる。はぁ、なんか寝つき悪かったのはあのなんとかジョニーとかいう人に会ったせいかも……。
「…………ひま」
ボーッとして。横になって、目をつむって静かに深呼吸。うう、残念ながら私の目は完全に覚めている。
「ラヴちゃん、起きてるかな?」
部屋を出てしばらくして後悔。この家、広すぎて迷子。
「…………困った」
いや、本当に困った。なんでこんなことしちゃったんだろ……。いや広いといっても街になってるわけじゃないから、階段のぼって廊下を歩いて戻ればなんとなくわかる気がするんだけど……。
「おんなじドアばっか……まぁそうだよね……いちいち変えないよね」
ひたすら並ぶ同じ見た目のドア。はぁ、これはラヴちゃんの研究室があった地下に向かったほうが良さそう。(というか、確実にわかる部屋がそこしかない。)
「四階建て……に地下室かぁ……」
この家に屋上はあるのだろうか。
「…………」
暗い廊下。ただ、真っ暗じゃない。ロウソク……夜の間に燃え尽きてしまったりしないのだろうか。
「…………博士」
何度も何度も博士が私の頭をよぎるのは、仕方がないこと。だって――――。
「はぁ」
一階は広い。エントランスホールっていうのかなこういうの。玄関のドアの大きさなんて非常識。(そして出入りに使うのは、隣りにある普通のサイズのドアという無駄さ……。)
「えっと地下室は……」
家、というよりお屋敷。ラヴちゃんは相当お金持ちなのだろう。
「うわ、これは嫌だな」
地下室に続く階段は真っ暗。底の方にぼんやり灯りが見えるだけ。足元は全然見えない。これ、下手したら踏み外すよね。
「うーん」
降りるのはやめてここで朝まで待っていようか。でも今何時だろ、朝まで何時間だろ。でもまぁ、これ降りるのすごく嫌だし、部屋探して間違ったドア開けちゃうのも嫌だし……仕方ないか。
コツコツコツと聞こえる、大きな時計の音。うーん、嫌な雰囲気……だ……な……。
「ん……あえ?」
はぁ、こんなところで寝ちゃうなんて。(絨毯がふかふかなのが悪い。)
「喉、乾いたな」
白い無地の上品なポット。寝ている間に角度が変わり窓から差し込んだ月明かりに浮かび上がるティーカップに、その中身を注ぐ。
「ん……」
赤くて酸っぱい感じ。花の混じった紅茶だろうか。
「美味しい……のかなこれ」
ごくごく飲んでしまったせいで、味がよくわからない。もう一杯注いで…………味わってみよう。
「月、綺麗だな」
高い位置にある窓に月が見える。今日は月が一個の日かな。
「ん、やっぱり酸っぱいや」
こういう癖がある紅茶、苦手なんだよね――――ていうか、なんでこんなところに紅茶あるんだろ。そもそもここ床だし、そもそもここエントランスホールだし。
「お口に合いませんでしたか?」
「!」
いつのまにか後ろに立っていたのは、メイド服姿の――――私?




