56:この街で一番
話が違う! と言った後で、別に違うことなんてなにもないと気がついた。
「そんなにすぐ戦いたいんですかぁ? いいですよぉ、ちょうどいい仕事の話がありますからぁ」
メメメスと受けたテストマッチは、この街の暴力的地下遊戯に出るため。そしてこの街の暴力的地下遊戯はタッグマッチで、トーナメント制。そして、そして、そして、そのトーナメントの開催は一ヶ月も後。それをただ、私は見落としていたってだけ。ラヴちゃんは開催日の話なんて、一度もしていない。(ここでなんで教えてくれなかったのと怒るのは、おかしなことだ。)
「ご、ごめんなソドム。私が説明し忘れた」
「め、メメメスは悪くないって。私も条件とか一緒に見てたわけだし」
メメメスが気をつかってしまうほどの顔……してたかな私。
「まぁそれまでトレーニングしようぜ。私達タッグマッチははじめてだしよ」
「そうだね、そうしよう――――」
「聞いてましたぁ私の話? 戦いたいならぁ、いい仕事ありますよぉ! グッドタイミング!」
「そういうのいらねぇから」
露骨に嫌な顔をしたメメメスが、私とラヴちゃんの間に割って入る。
「あっそうですかぁ。ならごはんもお風呂もいらないですねぇ」
「はぁ?」
「働かざる者食すべからずですぅ! まさか二人とも私に養ってもらえると思ってたんですかぁ? 外から来たくせに? 私の話を聞いて自ら来たいと言い出したくせに? それはさすがに甘すぎませんかぁ?」
ごもっとも。さすがに私もそう思った。
「わかった、仕事するよ」
「お、おいソドム。内容も聞かずに……」
どうせろくでもない仕事だと、わかりきっているからどうでもいい。
「はいはいはい、じゃあよろしくお願いしますぅ。あ、そのまえに、これ! できたんでぇ、あげますぅ」
「なにこれ」
「あなたのぉ、セカンドステージをギリギリまで発動させてキープする装置ですぅ! 孤独な夢に計算させて作りましたぁ! 大丈夫ですよぉ! 痛いだけ痛いだけ。慣れてますよね? 痛いのには――」
「メメメス!」
メメメスがラヴちゃんに殴りかかる。ああ、きっと「慣れてる」ってので頭にきちゃったんだね。私のことなのに、メメメスは優しいな……え?
「メメーメースちゃーん? 私にぃ喧嘩を売ってるんですかぁ?」
「お、おい……なんだよ、その力」
コード404が出てない?
「私が人間判定を通ってるとでも思ったんですかぁ? ははは! そんなわけないじゃないですかぁ。これだけむちゃくちゃやってるのにぃ。多分私、この街で一番強いですよぉ?」
「ラヴちゃん、メメメスを離して」
今、ラヴちゃんは受け止めたメメメスの拳を握りつぶそうとしていた。間違いなく。
「ちっ、化物が」
「あなたたちだってぇ、相手が相手なら化物ですぅ。さてさて、お仕事の内容ですがぁ! 素晴らしい! 守るお仕事ですよぉ! 優しいあなた達にぴったり!」
メメメスの拳は震えていた。それは怖かったからなのか、強く握られすぎて一時的に手がおかしくなっているせいなのか。




