53:一人、二人。
私とメメメスに与えられた一室には、ベッドが一つだけ。
「ラヴさん変な人だね」
「おいソドム、おまえよく簡単に名前呼べる……いや、すまねぇ」
メメメスはやっぱり優しい子だ。私よりずっと。
「同じベッドでいいか?」
「うん。私は別に」
私達はまだベッドに入っていない。渡されたコンピュータで、タッグマッチのルールを確認しているから。(私はコンピュータの操作は苦手だから、メメメスにお任せだけど。)
「愛を込めて金を放り投げる一分間とかないんだな」
「うん、純粋な力比べって感じだね」
この街の暴力的地下遊戯はタッグマッチしか存在しない。私達の街では暴力的地下遊戯とタッグマッチは別物だったから、ちょっと変な感じ。
ルールはシンプル。リングに上がれるのは一人で交代するときは手をタッチ。どっちか一人が戦闘不能になったら負け。つまり二人同時に戦うのは、反則。なんかこのルールなら、二人でやらせる意味……ない気がするけど……。
「で、その前にテストマッチがあるわけだな」
「うん、私は明日だね」
「私は明後日だぜ」
参加資格を得るためには、テストマッチと呼ばれる戦いに勝たなければならない。それはなぜか一人で戦う。でも登録はペア。つまり、私が負けてもメメメスが負けてもダメだということ。
「かならず勝つぜ」
「うん、必ず」
私達はこの街でSリーグを目指す。だから絶対に負けられない。負けたらすべての意味を失うから。
「正直明日はあいつ……ラヴさ……ん……には会いたくねぇな。あの人の話聞いてると頭おかしくなりそうでよ……」
「話聞かなければ良いんだよ」
「そ、そっか」
その時私の心によぎったのは「メメメス負けないで」という感情。それはあの日の狂姫さんに向けたものとは全く違う、もっと身勝手な負けないで。
それからしばらくして私達は布団に入る。一つしかないベッドの、ひとつしかない布団に。
「なぁ、ソドム。くっついていいか?」
「いいよ」
正直、体温が鬱陶しかった。でもメメメスを支えれられることは嬉しかった。
「チッ情けねぇな。私は自分の意志で来てるんだぜ……しっかりしろよメメメス」
今のメメメスのつぶやきは自問自答なのだろうか?(私の耳に入っているから、自問自答ではないかもしれない。)
「おい、どうしたソドム」
あれ、私……泣いてる? なんで?
「まぁ私も泣きそうだけどな」
それから私達はたくさん泣いた。大きな声を出して、頭を使わず馬鹿みたいに、お互いをきつく抱きしめて。
「おまえの腕、冷たくて気持ちがいいな」
「うん、足もだよ?」
きっと私達の泣き声は、ドアの外まで聞こえていたはず。もしかしたら窓の外までも。(それを恥ずかしいとは思わない。つまりこの街は私にとって、ただの他人だということ。)




