52:ソドム・パラノイア
ラヴさん……でいいのかな。
ラヴさんの家は、私と博士の家とは全然違った。とても大きくて把握しきれないくらいたくさん部屋がある、とてもとても豪華なつくりの家。
「おい、なんだよそれ……」
まず案内されたラヴさんの研究室、たくさんのモニターのついた一番大きな机の前にある、椅子代わりのそれ。
「え、トイレですけど? ああ、椅子だとできないじゃないですか、私研究するときは集中したいのでこうしてますぅ。それだけがんばってがんばってぇ、妄想の中にだけある現実とのリンクをカットしたんですよぉ! 私ってがんばりやさんなんですぅ!」
「なんだよソドム・パラノイアって。わけのわからねぇことばかり言いやがって」
「え、もしかしてお気づきじゃないんですかぁ? これだけ話して、これだけ聞いて」
「てめぇ!」
メメメスを止める。まぁ、メメメスもコード404をくらう気はないだろうけど、一応。(今の質問をしてくれたのは、ソドムって名前が入っていたからだと思うし。)
「妄想の中にだけある現実。自身のクローンを大量生産、それぞれ独立稼働させその情報を全て収集。昔の科学者が自分が二人いたらいいなぁって発想から作ったものの発展形ですねぇ。私も、ほら見てください!」
わざとらしく棚にかけられていたカーテンをめくると、そこにはガラス(なのかな?)容器に浮かぶ脳と、それにつながったコンピュータがあった。
「……!」
「これは孤独な夢。私はぁ、こうやって自分に限定した計算をさせているだけなんですけどねぇ、オリジナルは一体何体のラヴクラインに自由思考させているんでしょうねぇ、ゾクゾクしますねぇ」
「気持ち悪ぃ話だぜ」
「自分で聞いといて草ぁ! まぁいいですわぁ、あなたたちは馬鹿なんですからぁ、ただひたすらにSリーグを目指してくださぁい!」
この街のゲェムは、タッグマッチ。今までとルールも違うらしい。そうだ、私達はそこで勝つ方法を考えないと。
「うわっ」
「どうしたんですぅ?」
「いや、勝手にドアがひらい――――え?」
私は驚いているメメメスより先に、視線を落としていた。
「ラヴ……ちゃん、ご飯でき……ました……」
部屋の扉をあけて呼びに来たのは私にそっくりな顔、金色の髪、青い瞳、そして首から下は――――。
「あらー、ソドム-Aもうご飯ですかぁ? あれぇ……今日は盛大にいけるようにってお話しましたよねぇ。あ! もしかして盛大な夕飯をこれだけ短時間で! 優秀ですよぉ! 優秀ですよぉソドム-A!」
「はぁっ……はぁっ……」
「メメメス?」
「あらららら、過呼吸ですかぁ? 意外とメンタル弱いですねぇ。それにひきかえソドム-Yは全く動じないなんて、大丈夫ですぅ? 心」
確かに私は、壊れているのかもしれない。だって、自分にそっくりな首の下が車輪のついた金属の箱であることに、全く、全く、全く驚くことができなかったのだから。その箱についている、多分手の代わりに取りつけられた、折りたたみ式の六本のアームが虫のようにカチャカチャ動いていてることも、金属の箱がそんなに大きくないせいで、私とよく似た顔が膝くらいの高さにあることも、本当にどうでもいいことに感じてしまったから。
「新しいソドムの歓迎会ですよぉ! 準備はいいですかぁ、ソドム!」
コロコロと進む、箱の上の生首についていった先は豪華な食卓のある部屋。そこにいた全てが「ソドム」と呼ばれこちらを向いた。




