49:アリスの穴
アリスは穴に落ちて、不思議な世界に行った。だから不思議の国のアリス。そしてアリスは愛されて(人気者になった。)
みんな可愛いアリスを真似した。みんな真似して可愛くなろうとした。だから私は、アリスかもしれない。(そんなはずはない。)
「うひひ、そんなことないよね」
「ないわ、あなたはアリスじゃないわ」
「うん、私ソドムだもん」
「そうね。あなたはソドムね。私はアリス、よろしくね」
はぁ、これが本物か。すごく可愛いな。でも、強いのかな?
「私は大きくなれるけど、あなたを踏んだりしないわ」
「そっか、優しいんだね」
「ええ、私はアリスだもの!」
「うん……」
「あら、元気ないわね」
んんん……どうして私アリスと喋ってるんだろ? 私、もしかして死んじゃったのかな。
「ほら、あの穴が出口」
「え、あれ登るの?」
行き先の見えない、空から降りているはしご。(はしごの先が見えないのはそこがブラックホールだからとアリスは説明したが、実際はアリスもよくわかっていなかった。なぜならそれは、三月ウサギから聞いた話だから。)
「この腕なら長い長いはしごも大丈夫だわ、ほら返してあげるからこれで登りなさい」
「これ博士の……」
「それともあなた、腕なしアリスもどきのままでいいの? あなたはあなた、ソドムでしょ?」
うん、私はソド――――。
「ソドム、ようやく目覚めましたわね」
「狂姫さん……私……」
「調子はどうですの?」
ガリ。ガキ。布団の中から金属的な音がする。(とても小さい音だけど。)
「びっくりするんじゃありませんわよ。これがあなたの今の体ですわ」
「……綺麗」
「あなたらしいリアクションですわね」
そっか、私、右足とお腹をスカーレットにぐちゃぐちゃにされたから、博士が作ってくれたんだね。
「わたくしの足はくっつきましたけどね、さすがにあなたのは無理だったみたいですわよ」
狂姫さんはもう黒くなかった。青い瞳、金色の髪。それはまるで――――。
「博士……博士は?」
「ソドム、覚悟して聞きなさい」
それは覚悟してもなんの意味もない、話だった。
私が、スカーレットに勝ったということ。
お腹の下らへんと右足が、綺麗な金色の金属製になったこと。
この街はもう、Sリーグの舞台にされないってこと。
狂姫さんも、メメメスも無事だったってこと。
そして…………博士がゾンビになりかけてるってこと。




