42:開催二日前
街は怯えていた。Sリーグ開催の知らせ、唐突に突きつけられたSリーグの真実に。
「メメメスはどうするの?」
「私はリドルゴと巻き込まれないように逃げるぜ、自分の試合でもねぇのに死んでたまるかよ」
「Sリーグ選手って……私達とぜんぜん違うんだね」
私達ゴモラシティの住人は昨晩の追加放送で、スカーレットの今までのSリーグ選手としての試合(あれは本当に試合、なのかな……)を見せられた。殴る蹴る私達とは全く違う戦いを。体の外に炎を渦巻かせて操る、まるでおとぎ話の怪物かのような異常な戦い方を。
「狂姫さんのかたきか……」
「うん」
スカーレットの炎は狂姫さんの全てを奪ったと、博士から聞いた。家族、友達、そして元々の自分の姿。狂姫さんはそれからずっと、ゴモラシティを渡り歩きSリーグ選手を殺してきた。(体は治っても心は焼け焦げたままだ、と。)
「全くとんでもねぇ話だぜ。私達はなんだったんだろうな」
「なんなんだろうね」
「お、おい……なんだあれ」
「え、あれってリドルゴさんのパン屋さ……」
私にできたことは、飛びかかろうとするメメメスを必死に抱きしめることだけだった。
「離せ! 離せソドム! あいつを! あいつを殺してやる!」
「だめだよ! Sリーグチャンピオンにはコード404が出るんだよ! メメメスなにもできずに死んじゃうよ!」
燃え盛るパン屋さんからよろよろと出てきて、焼け崩れた大きな体。そしてその後ろから現れたのは炎をまとった赤髪の――――スカーレット。
「頼む! 離してくれ! 離してくれ! 死んでもいい! 殺させてくれ!」
「だめだよ! 死んじゃうよ! うわっ! メメメス! だめぇえええ!」
「まったく。死んでもいいだの死んじゃうよだの、騒がしい子たちですわね」
「きょ……狂姫さん」
私の腕から抜け出てしまったメメメスを軽々と地面に押さえつけたのは、狂姫さんだった。
「離してくださいっす……お願いっすよ! お願いっすよ、離してください、離してください、離してください……離せよぉおお! 離せ、離せよ狂姫!」
「だめですわ。これ以上わたくしの友人を死なせたくないですもの」
「うう……うあぁあああああああああああああああああああああ!」
スカーレットは炎の中に姿を消し、メメメスは泣いた。
「あと四十九時間待てばわたくしのコード404が解除されますわ。わたくしね、仇討ちなんて何も報われないことはわかっていますのよ。だからメメメス、約束してくださいまし。わたくしがスカーレットに勝ったら、生きると」
「うう、ううう。必ず、必ずっ……殺してほしいっす」
「ええ、もちろんですわ。必ず、わたくしが」
狂姫さんが何度も「わたくし」と言ったのは、なぜだろう。狂姫さん……勝って、必ず、生き残ってください。
「狂姫、準備ができた。私の家に来い。おまえにあれに勝つための武器を与えてやる」
「ラヴクライン。感謝しますわ」
私と博士の家も、燃やされてしまうのだろうか。博士の大切なカメラも、私の……猫の絵のついたマグカップも。




