3:ゴモラシティ
輸入市の日が近くなると、博士はソワソワしだす。どんなカメラが売りに出されるかが気になって、ソワソワしちゃうから。
「資金が足りないと困るな。すまないが、その右手の試験も兼ねて――――」
「うん! やるやる!」
私といえば、超々ご機嫌! 博士が右腕をつけてくれたからね! 博士がくれた右腕、博士がくれた左腕。二つはとてもそっくりだけど、鏡に写したみたいに指の順番が違う。うひひ、これ本当に右腕だ!
「うひひ」
「おまえは本当に嬉しい時はすぐわかる」
「え? なんで?」
「変な笑い方をするからだ」
変じゃないよ! と言い返そうか悩んだけど、博士がなんだか嬉しそうだったのでそれはやめ。
「そうだ、わかっていると思うが殺害同意ボタンだけは押すなよ」
「うん、わかってるよ。ありがとう」
博士がくれた右腕は、まるでずっとあった右手かのように自由に動かすことができた。
その日の晩、私の対戦相手が決まった。試合は三日後、それまでに右腕と私のリンク精度をあげると言って、博士は私の体をいじりはじめてくれた。
「今回は対戦相手が直前までわからん。ヤバイと思ったら棄権しろ」
「お金は良いの?」
「お前が壊されるほうが私にとっては、よほどマイナスだと思わないかね?」
接続部に突っ込まれた検査器具からピリピリと身体の中に電気が流れるのは、痛いような気持ち良いような感じで――わりと嫌いじゃない。私は「電流が私に命を与えていく」という妄想をしながら、右手の指先を静かに伸ばす。
「でも棄権すると人気が……」
「金も人気も大事だが、その集め方はもっと大事だ」
博士は作業の手を止め、私の頭を優しく撫でてくれた。
それから三回目の夜がきて、私と博士はゴモラシティの中心部にある闘技場へと向かう。
「今日は静かだね」
「ああ、今日はクローン観客席のある試合は一つもないらしい」
「強い人のエントリーがないんだね」
「お前だって強いさ。人間よりかはね」
控室に向かうためのIDカードを見せるゲート、博士とは一旦ここでお別れだ。
「無理して勝たなくても良い。壊れない程度にやれ」
「うん、わかったよ」
私達がお金を得る手段は、ここで戦うか、博士が時折頼まれるいろいろなものの修理だけ。博士は結構稼いでいるから私の稼ぎなんてあんまり役に立ってなさそうなんだけど……私達の街は囲われているから、外からお金を得るほうが相対的に見ると効率がいいと博士は私を褒めてくれる。(正直そのへんの話は難しくてよくわからないから、何を褒められているのかわからないのだけど。)
「ソドムちゃんじゃないか」
「リドルゴさん!」
控室には、近所でパン屋さんをやっているリドルゴさんがいた。いつ見ても太い腕、掴まれたら逃げられなそう。
「おや、それは新しい腕かい?」
「うん!」
「片腕でもあれだけ強かったのに、どうなっちまうんだ?」
リドルゴさんが大声で笑うと、他の人達もみんな私の方を見た。こんなに見られちゃうと、ちょっと緊張するな。(本当は全員一列に並ばせて、マジマジと右腕を見せつけたい。)