37:ヘヴィメタル
翌日、私と狂姫さんは二人きり。そう、本当に二人っきりでした。はい。
「あの、これって……」
「そうですわ、暴力的地下遊戯の会場。ご安心下さいまし、今日は実況も中継もなし、わたくしとあなただけですわよ」
「はい……」
メメメスと戦ったあの会場。モニターは消えてるし、メイドさんもいない。まさか! ここで私、狂姫さんと戦うとか? ええええ、嫌だよ。
「あなた、ナノマシンの特性は理解してまして?」
「えっと傷の修復ですよね?」
「ええ。ファーストステージは」
「は?」
なんだかとても嫌な予感がする。
「ナノマシンのセカンドステージ、防御本能の過剰反応による回復力と戦闘力の増加。副作用は視界からの色彩消失をはじめとする……まぁ、そんなかんじなどなどですわね」
「適当ですね……。それってなんていうか、パワーアップみたいなやつですか……あ!」
「そう、あなたがメメメスの顔を正確に打ちぬけたのはそのおかげですの」
まさか、あれを使いこなせってこと? ええ、嫌! あんなに殴られるのはもう嫌!
「そしてその先にあるサードステージ」
「え、それヤバいやつじゃないです?」
「ええ、ヤバイどころかエクヤバですわね。副作用は激痛、そして精神汚染などなど! ね? なかなかエクいと思いませんこと?」
…………?
「エクいってなんです?」
「エクセレント」
うわぁ、確かにエクい。
「そのエグエクい負荷のかわりに得るのは、圧倒的な戦闘力と回復力ですわ。もう本当にエクいレベルの」
「圧倒的……」
「ええ、圧倒的エクさ。圧エク」
いや、そんな急にエクいを推されても…………。
「そんなに……エク……いんですか?」
「あなたよりも旧型のナノマシンを搭載し、常にサードステージを発動させているわたくしを簡単に倒せるくらいに圧倒的ですわ」
「へぇ……って、ええっ! 狂姫さんもナノマシンを! って誰ですかこれ?」
いきなり見せられたのは、おとなしそうな……金髪で青い瞳をもつ少女の写っている写真だった。え、本当に誰?
「わたくしですわ。いつ見ても可愛いですわね。ガチで可愛い」
「えええっ! 色どころか顔つきもちがうじゃないですか!」
そんな馬鹿な! この可憐な少女が真っ黒すぎる狂姫さんなわけ……。(ねぇ、狂姫さん。エクいはどこ行ったんです?)
「わたくしの場合は精神汚染がない代わりに、戦闘力と回復力があなたの型には劣りますわね。それでも、あの化け物じみたチャンピオンと打ち合いできるほどですけど……。ただまぁ、そのおかげで痛みはがんばればギリギリ耐えれる程度なんですのよ」
「えっと……」
「わたくしの味わう激痛は、簡単に言うと気が狂う程度のレベルですわ」
変な人だけど、気が狂っているようには見えないですけど……。
「まったく、あなたは理解力が低いですわね」
「え? 何いきなり脱いでるんですか?」
タイツに手袋と、身につけているものが多いせいで、時間をかけて全裸になった狂姫さんの隠されていた肌、そこには無数の傷と、妙な機械がたくさんとりつけられている。これ、もう少し勢いよく脱いで見せられたら結構びっくりしたかも。(さすがに脱いだものを一つ一つ丁寧にたたみながら全裸になる過程を見ていたら、驚きようがない。いや、別の意味で驚いてるけど。)
「それ……」
「激痛機械。苦痛に苦痛を重ねることで意識が狂わないようにするための装置ですわよ、これでわかりまして? わたくしの体はね、ヘヴィメタルですの!」
意味がわからなかった。私の脳が理解を拒んでいる。でも、この人は……こんなわけのわからないことをさらりと言っちゃうこの人は、本当に気が狂っているのかもしれないって、思う。




