36:双眼鏡にカメラは搭載できるのか?
その後、私は狂姫さんに少し怒られた。でも、狂姫さんは私に謝ってもくれた。
「はぁ、まったく。ハンターに遭遇するなんて運、悪すぎですわ」
ガスマスクを外したハンターの顔は……うわ……。
「ゾンビ化が進行していますわ。まぁ、ゾンビになる自分に嘆いて娯楽性の高い自殺でもしに来たのでしょうね」
「よくあることなんすか?」
「ええ。本当に、本当によくあることですわ。そのための装備を提供する業者があるくらいですから。いい商売ですわね、人間じゃなくなる事が確定している相手ならぶんどりやすいですもの」
狂姫さんが唐突に双眼鏡を取り出し、その腐りかけた顔を見る。え? なんでこんな近くで双眼鏡を使うの? え! カシャッってなった! もしかして、それカメラなの? カメラなの?
「イカスっすねそれ……」
「ええ、近くも見える仕様の双眼鏡をベースにしたカメラ。わたくし特性の改造品ですわ。まぁ双眼鏡カメラ自体はわたくしの発想じゃないですけどね」
「双眼鏡カメラは自分も持ってるっす!」
「あら、いい趣味してるわね」
やっぱりカメラなんだ。
「さてソドム、帰りますわよ」
「う、うん」
「どうしたんですのソドム? そんな微妙な顔して」
「メメメス、大丈夫かなって。療養中だったわけだし……私のせいで」
こんなこと言うとまた、ぶりっ子って言われちゃうかな。
「ああ、私なら大丈夫だぜ! というか気にすんな。私がリドルゴにさせたこと忘れたのかよ。私のほうがよっぽどエグいぜ……ってうおお! 顔! 顔から血! 血!」
「心配しなくていいですわ、ラヴクラインがソドムを助けてくれたお礼に、もう一回治してくれるそうですわよ」
「よ……よかったっす」
「ご、ごめんねメメメス」
顔は表情を含むものだから、美しく仕上げるのは本当に難しいもの。博士は私にそう言っていた。そんな事も忘れて私は、走り出してしまったのか……。
「ソドム。落ち込むのはそこまでですわ。あなたは明日修行しないといけないですからね」
「え?」
「ナノマシンの使い方を、私が徹底的に教えてあげますの。徹底的にね」
「は、はい……」
狂姫さん、その笑顔怖いです。
「さて、ソドム。あなたは走って帰りなさい。ラヴクラインが、あなたを放置しすぎたと落ち込んでいましたわよ」
「は、博士が! はい! じゃあ私お先に!」
「ああ、ソドムちょっと」
「なんです?」
「謙虚な神を勧めるやつは傲慢である。この意味、わかりまして?」
えっと……。
「まぁ、今考えることではないですわね。さ、ラヴクラインのもとへ帰りなさい」
「うひひ、はい!」
狂姫さんは今、何を伝えたかったのか。少し考えてみたい気がした。




