31:一方的な暴力
メメメスは生きてる。博士が外したから。でもきっと、弾を当てなかったのはわざと。
「さぞかし気分がいいだろうな! 上から目線で自分の都合を優先した理屈をふりまき無抵抗なものを弄んで!」
「何を言っているのだ。それはおまえがソドムにやろうとしたことだろう。しかしこの状況でよくもまぁそれだけ言葉を選べるものだ。優秀なやつだなおまえは」
「いつだってそうだ! おまえみたいに自分に恵まれたやつは弱者に良い顔しか見せな――がっ」
痛みに対する声が小さいのは、博士が撃つんじゃなく蹴飛ばしたから。
「そうだ、よくわかっているじゃないか。おまえは私より弱いのだよ。おい、リドルゴ、でかい図体で隠れていないで私の家にこいつを運べ」
「どういうつもりだ! リドルゴは関係ないだろ」
「メメメス、私の茶番はこれで終わりだ。それともまだ、おまえに嫌がらせをしたいがためにでっち上げた宗教の話を続けてほしいのかね?」
博士はまた撃つ。そしてまたわざと外した。
「うるせぇぞ! リドルゴ、出てくるんじゃねぇ!」
「おいリドルゴ、今日の私は短気になることも可能な気分だぞ? はぁ、ポジティブは肉体労働だって知っているだろう。疲れるからそろそろやめにしようじゃないか」
暗がりから、リドルゴさん。あれ、あのドーナッツ……ってリドルゴさんがくれた……あ! ちょっとリドルゴさん! なんてことしてくれたの!
「お、俺は」
「馬鹿は口を開くなリドルゴ。そんな小娘に心を去勢されてしまったやつはパンだけ焼いていろ。それに、私はソドムを運ばなければいかん、大切なものは自分で運ぶべきだからな。そうだろう、リドルゴ」
博士の腕……。温かい。
「博士……私多分、もう少ししたら歩けるよ」
「そうかソドム。おまえが望むなら歩いても構わんし歩けぬふりをして甘えてもいい。だが私は、おまえを運んでやりたい気分だ」
「博士……」
泣いちゃダメだ。メメメスに見られたら嫌だし。
「私を、どうするつもりだ」
「なんだメメメス、そんなこともわからんのかね? 私の復讐は終わった、だから救ってやる」
「ふざけるな!」
メメメスが地面にぶつけるみたいに大きな声を出したのは、悔しいから。私にはなんとなくそれがわかった。
「おまえは大切なもの奪われ、暴力で復讐した。その結果大切なものを傷つけられた私も暴力で復讐した。もう充分だろう」
「おまえは絶対に抵抗できない私を撃っただろう!」
「それは暴れることを防止するためだ。コード404があるとはいえ、駄々をこねるやつを治療することなどできんからな。というかなんだその理屈は、おまえはソドムを電流で動けなくした、私はコード404。確かにおまえのほうが少し努力しているが、一方的な暴力であることに変わりはないだろう」
「私とおまえは対等ではない! 同じ目線で語るな!」
耳が熱い、博士のついた大きなため息がかかったから。
「おまえは私に本音で話させる気かね? せっかく気を使って思ってもないことだけで対応してやったのに」
「言いたいことがるならはっきり言え!」
「なら言わせてもらおうメメメス――――――やかましいぞ、黙れ」
はじめて博士を怖いと思ってしまった。(博士に気がつかれてないかな……ビクッとならないようにはしたつもりだけど。)
「メメメス、もう一度だけ聞く。私にはおまえの顔を元通りにしてやる技術がある。その雑に治されたせいで以前と同じように動かすことのできない足も含め今なら格安で施術してやるが……どうだね?」
「格安……そんなこと言って払えない金額を言うつもりだろう」
「おいおい、卑屈すぎだぞメメメス。私がそんな悪人に見えるか? おいリドルゴ、こいつを治したらおまえはこれから私とソドムに無料でパンをよこせ。期限は死ぬまで、それでおまえもついでに許してやる」
「リドルゴは関係ないと言っただろ! 金なら私に要求し――むぐ!」
リドルゴさんがメメメスの口をふさいでうなずいた。
「ソドム、どう思うこの二人? 私にはこれが共依存か恋愛か区別がつかなくてね」
「……恋愛かな?」
私の答えを聞いて、メメメスは顔を赤くしたと思う。いや、包帯ぐるぐる巻きだから私の勝手な勘なんだけど。
はぁ、なんだか大変だったけど……うまく収まったみたいだし、ま、いっか。




