29:おつかいGO!
おつかいおつかい! 今日は、メメメスに大勝利をした私のために、博士がスペシャルな夕飯を作ってくれてます。だから私は、パンを買いにきました!
「お、ソドムちゃんごきげんだね」
「うん! 博士がお祝いしてくれるって」
「あの試合は本当にすごかった。でも、あれから数日経ってお祝いとは……」
「結構ダメージが残ってて、休んでたんだ」
リドルゴさんはその大きな手で、私の頭を撫でる。頭を手のひらでギュッとしてくれたのは、リドルゴさんなりの勝利のお祝いだろうか。(私を戦士と認めてくれた感じ?)
「あれ? このドーナツは買ってないよ?」
「俺からのお祝いだよ、帰り道で食べるといい! うまいぞ? 俺の新作だぞ?」
チョコレートのかかったドーナツは三つ。これ多分、博士のが一つ、博士と一緒に食べる私のが一つ、あともう一つは……うひひ! リドルゴさん超考えてくれてる!
「ありがとう!」
「気をつけて帰りなよ」
優しい、大きな人。はぁ、狂姫さんもこのくらい優しい人だったらな。
「…………」
おいしそう。でも夕飯前だしどうしようおいしそう。うーん、そんな大きくないしドーナツ一個くらい食べても大丈夫かなおいしそう。でも博士が素敵な夕飯作ってくれてるだろうしおいしそう。でもせっかくリドルゴさんが気を利かせてくれたんだしおいしそう。帰り道に一個食べないのは申し訳ないよねおいしそう。
「うひひ、すごくおいしい! 博士と食後に食べよう」
私、ソドム、ドーナツの誘惑に敗北いたしました! チョコが歯にパリッと粉砕され、その真下に現れたサクッと感はドーナツをチョコでコーティングする時、揚げられた表面の食感を破壊しないように気遣われた繊細な技術の結晶が聴かせてくれた、小さな和音。噛みしめると同時に前歯に伝わる抵抗は、ドーナツ内部の密度。うん、これは確かに傑作の予感!
「んんんん!」
チョコのついた面を上にしたまま食べたことにより、私の舌が先に認識したのはドーナツの優しい甘み。その直後襲い来るは、舌の上に落ちたチョコレートのかけらの融解によりもたらされた圧倒的な多幸感!
「ふむっ!」
歯の侵入速度を高めると、ドーナツの中に高温の油で閉じ込められていた香りが噴出し口腔内に広がる。うわぁ、チョコレートの甘みと喧嘩してない! ほのかな甘みと、とろける甘みの共存、そして混ざり合いによる味の変化はまるで螺旋階段!
「はぁあ、すごい」
私は二口目を躊躇したりしない。なぜなら、このドーナツはもったいなさを優先するより欲求を優先すべき構造をしていると私は判断したからだ! 緊張とともに行われた、第一回。それを踏まえた二回目の噛みつきをあえて勢いよく行うことで、初回とは違う味の広がり方を求めるのだ! さあゆけソドム! ドーナツの穴におまえの欲望を詰め込むのだ!
「ぎっ!」
それはまるで電撃! 舌に激痛を走らせ、意識を破壊し視界を明滅させる高圧の…………え?




