2:晴れ時々爆撃
私がシャワーを浴びて出てきた時、博士は部屋にいなかった。でもいる場所はわかる、二階と屋根裏を通り抜けていった上! 屋根の上! 絶対いるよ、だって銃の音がするもん。
「博士、またゾンビが出たの?」
「ああ、あまり近くで死なれると蟲が集まって困るのでな」
とてもいい天気。太陽の光が気持ちいいを通り越して熱い屋上で、博士が私に手渡したのは望遠鏡……ではなく、太くて大きいレンズのついたカメラ。
「300mmf2.8のレンズだ。フィルム時代のレンズだがセンサーとの相性もいいぞ。ほら、ファインダーを覗いてみろ、このファインダーは視野率100%のペンタプリズムを使用しているから――」
「んーえっとうん、なんかぼやけてる……どうすればいいんだっけ?」
「シャッターボタンを半押しだ。そんなことも覚えてないのか?」
そう、そうそう! 半押しだ! 忘れてた……えっとなんだっけこれ、そうオートサーカス!(その日の夜、私は博士に「オートフォーカス」だって教わり直すことになる。)
「うわー五人、あれ七人もいる?」
「そうだな」
パンと乾いた音。博士は遠くを撃つのがとても得意だ。
「シャッターをきらないのか?」
「ゾンビが倒れるところなんて撮っても……」
「何を撮るかも大事だが、どう撮るかも大事だ――おい、とりあえず髪を乾かしてこい、おまえの髪は長いんだ。ちゃんと手入れしないとすぐ痛む」
私はカメラを博士に手渡すと、短いはしごをおりて、それからいろいろ置いてある屋根裏を抜けて、さらにはしごをおりて二階におりて階段をおりて、一階にあるソファーに座ろうとして、濡れた髪が背もたれにつきそうだからやっぱりやめて、食卓の椅子に座った。(どうしてこんなに自分の行動を細かく意識してしまったのだろう。)
「えっと、ドライヤードライヤー」
もう一度椅子からおりて、コンセントにドライヤーのコンセントをつないで……あれ? コンセントってさすほうとさされる方どっちの名前?
「見ろ、ソドム! すごいのが撮れたぞ!」
博士がさっきのレンズより、もっと大きなレンズをつけたカメラをもっておりてくる。まるで銀色の大砲みたいなレンズを両手で抱えて、落とさないように気を使って運ぶ博士はちょっと可愛いかも。
「どうだ。素晴らしいと思わないかね?」
博士がテーブルの上にカメラを置いたのは、レンズが長くて重くて、持ったまま撮れた写真を見せるのがつらいからだと思う。だが安心したまえ、このカメラはモニターがフレキシブルに可動し様々な方向に向けられるから、机の上に置いたままでも写真の確認がしやすいのだよ――って話は、今日はしないのかな?(博士はこのカメラのモニターを絶賛しているから、よく同じ話をする。)
「飛行機だ。ひさしぶりだね!」
カメラの後ろのモニターには、地上に爆弾を落とす黒いエイみたいな飛行機が大きく映っていた。
「ああ、ビル山の向こうからこいつが突然出てきたからな、すばやくこのレンズにつけかえて撮ったんだぞ? 600mmをさらにクロップしてだ。戦闘機ではないとはいえ、この長さのレンズにすばやく交換して高速爆撃機を捉えるなんて凄いことだと思わないかね?」
興奮気味に話す博士は多分、この写真を撮るのはなかなか難しいってことをいいたいんだと思う。こういう遠くを撮るレンズは振り回すのが大変な上に、ヒシャタイがすぐに写真の外に出てしまうって、この前も言ってた気が……。
「もう一枚はこれだ。風景を入れたくてな、もう少し引きで撮るために250mmに合わせてバチっと撮ったんだ! 我ながらこれだけの巨砲を手持ちで使いこなすなんて実に素晴らしい――――」
このレンズは、確かすごくすごく高いお金を払って買ったって言ってたやつだよね。250-600って書いてあるやつ。はぁ、このレンズが出てきたってことは……もうしばらく話は終わらないんだろうな。
「これはかなりの人数が死んだな。ふむ、やはり人間を減少させる兵器は絵になるな」
「博士も人間じゃなかったっけ?」
「ああ、ひとでなしと言われた人間だ」
それから私は、博士からトビモノを撮る難しさを延々と聞かされた。うーん、今日の話も全然わかんないや。