275:乾いたメリークリスマス
私は写真を手渡してもらった。また(知らぬ間に)いつの間にか私の手元からなくなっていた、博士の写真を。(今度はどこでなくしたんだっけ?)もうなくさないようにしよう。これは、博士と私のつながりなんだから。
「コヨーテのところに行ってくるね」
「全部、思い出したのですわね」
「うん。コヨーテがバベル派なら、伝えたいんだ。私がバベルを崩しに行くって」
「あなたらしいですわ。まぁでも、それは正解ですわね。コヨーテは今、バベルの入り口の番人、つまりあなたは避けて通れない」
そうなんだね。コヨーテ、久しぶりに私に会ったらどんな顔をするだろうか?
「恋、してたんですの?」
「うーん、してないと思うよ」
思い返してもそんなことはない。じゃあ何故私は、コヨーテに会おうとしたのか。ああそっか、私は今、誰かに言い訳をしたいんだ。私の判断一つで世界がめちゃくちゃになるかもしれないから。つまり、言い訳さえできれば、相手は誰でもいいということか。
「まぁ、心配しなくていいですわ。むこうはあなたのことを覚えていない」
「そっか。なら戦うことになっちゃうね」
「ええ、気分は悪いでしょうけど」
「そっか」
犠牲はつきもの。そういう言葉で片付けて良いのだろうか?
「そういえば今日はクリスマスですわね」
「そうなんだ」
「メリークリスマス、ソドム。そしてハッピーバースデー」
「……?」
私の誕生日ってクリスマスだっけ?
「じゃあ行くね狂姫さん」
「ええ、さようなら」
「うん、さようなら」
別れの挨拶は「また会いましょう」ではない。それはなんとなく、わかっていた。
道中、砂漠の風に吹かれながら己に問う。「殺すのは怖いこと?」だと。そして私は口に出して答える。
「殺してしまう自分でいることが怖いこと」
あやふやで、意味のわからない答えを。きっと今私はこの世界の主役で、他の人は脇役だ。コヨーテは重要な役目を持った脇役。私に殺される役。そしてきっとこんな状況を作り出したのは、バベル。だってあまりにも意図的すぎるでしょう?
「殺さない選択を」
そうだ、コヨーテを殺すのはやめよう。私は強いんだからそれくらいできるはず。無力化して、私の道からどいてもらう。だってさ、わざわざ気分悪くなる必要はないはずでしょ?
「私は本当に世界を救うのかな」
バベル派がいるということは、感情を失いたい人達がいるということ。ああ、ようやく理解した。やっぱり私はコヨーテに会いたいんじゃない、コヨーテから、何故感情を失いたいのか聞き出したいんだ。私には、ちょっぴりその気持が理解できる気がしてしまうから。




